「イシドさん。なんだね、あのチームは」
「……?我がフィフスセクターが誇る究極のアンリミテッド・シャイニング、そして処刑人のヴァルキリアですが」
とぼけた顔をする聖帝イシドシュウジ。
シラを切る彼を一瞥して、千宮路大悟は溜息をついた。
「私はあんなものを認めていない。一体誰だね、あんなチームを作ったのは」
「……今後、管理サッカーを展開していく上で女子のシードも必要になってきます。彼女達もいずれ、シードとして良い働きを」
「そうではない。私も女子のシードは賛成だ。少年サッカー界の管理化が磐石になれば、次は青年・女子と手がけるのは自然の流れ」
「では、何がご不満で」
「彼女達が女子であることが気に食わないのではない。彼女達だから気に食わないのだ」
「……と、言いますと」
「まだ分からないか。君は女子サッカーに乗り出した時、あの程度の質のシードを派遣するつもりか?」
「……!」
イシドは千宮路に睨まれた後、彼が見下ろすのと同時に視線を落とす。
その先に映るのは"ヴァルキリア"。
確かに弱いシードが多くを占めるチームだ。
キャプテンである陸奥滴が保護しなければ7割方はとっくに処分されていただろう。
「しかし、彼女達の中にも目を見張る者はいます。特にあのアリア・オイゲンは本日私も初めて目にしたのですが、驚きました」
「あぁ。彼女は良いな。私も感動したよ。女の中にいては埋もれてしまう。あれを発掘したのはまさしくフィフスセクターの理念の賜物だ」
「あとは長門未来。彼女も面白いものを持っています」
「そうか?私はあまり心が踊らなかったが……話を逸らすな、イシドくん。私が言及したいのは主要3人以外のヴァルキリアだ」
「……!」
さすがに誤魔化し切れなかった。
千宮司は冷たい目つきになる。
「実に度し難い。あんな低レベルなシードで構成されるチームとは」
溜息混じりの千宮司。
彼にはもっと気に食わないことがある。
「しかし、それよりも度しがたいのはそれにすら負けてしまうアンリミテッド・シャイニングだ。一体どうしたものかね、牙山さん」
「……っ!!」
頭を垂れていた牙山が滝汗を流す。
千宮司は鋭い目で彼を見下した。
「オ、オイゲンにやられただけです!奴さえいなければこんなことには……!」
「彼女の有無で勝敗が変わるなら、彼女を究極のプレイヤーとして扱うべきではないかな?」
「それは私も同意だ。君はオイゲンをブレイカーの地位から下ろしたと聞いたが、私は理解に苦しむ」
「ほう。そんなことが……。何故かね、牙山くん」
「そ、それは!奴は我々、いえフィフスセクターへの反乱の傾向が見られましたので……摘み取ったまでです!」
急な矛先と糾弾に必死に弁明する牙山。
一瞬納得した千宮司だが、イシドに何やら耳打ちされると目の色を変える。
彼は牙山に軽蔑の眼差しすら向けるようになる。
「地位から下ろすだけでなく、殺処分の決定まで?彼女程のプレイヤーがなぜ?懸命な判断とは思えんな」
「イッ……!?い、いやぁ……それは、その……」
「……!まさか」
急に狼狽えた牙山の態度を見て嫌な予想が浮かぶ。
千宮司は表情を一層険しくした。
「牙山道山。君はまさか、彼女が"女性"だから手を下そうとしたのか。実に愚かな。良くないな。―――"差別"。それは私が最も嫌う言葉の一つだ」
「ひっ……!ち、違っ……!お、お許しを!!決してそのような意図は……!」
土下座をする牙山に千宮司はイラつきを隠せず、舌打ちをしたあとため息を着く。
「フィフスセクターの精神は"平等"。差別など決してあってはならない」
「ハ、ハッ……!」
「今後、彼女の処分を禁ずることとする。そもそも君にそんな権限はない。いいね?」
「えっ……いや、そんな……!」
牙山が毎朝2時間かけてキメる髪型がヘタリと崩れ落ちた。
鼻水も垂らし、唖然としている。
イシドは特にここでは加担しなかった。
千宮司が誤っているからだ。
ゴッドエデンのシードの教育は公的に牙山に委ねられており、その権限は有している。
だから、彼にはオイゲンを処分する権利は実はある。
だが、今虫の居所が悪い千宮司にそのことを指摘するのは得策ではない。
「彼女のことはもういい。話を戻そう。アンリミテッド・シャイニングの処分の話だ」
「……っ!お待ちください!彼らをまさか……!」
「……!?」
これにはイシドも取り乱す。
牙山も聞き捨てならない言葉に顔を上げた。
それは、あってはならない早計すぎる処分だからだ。
「私は何も間違っていない。フィフスセクターが誇る直属のチーム。それは全て完璧な平等の元に見出された才覚の集合体、最高峰でなければならない」
彼は語る。
全員がシードで、尚且つ全員がトップシークレット扱いの秘匿性。
フィフスセクターが有する財産。
最高戦力。
それが、対外露出の少ないフィフスセクター五皇。
その全てに求める理想的な姿は。
「ゴッドエデンのアンリミテッド・シャイニング、エンシャント・ダーク。私のドラゴンリンク。そして、イシドさんの聖堂山と新雲学園。この全てが完璧に完成されたチームである必要がある」
椅子に座り、足を組む千宮司が見下ろす先にはその内の2つのチーム。
その偉大なる5つに、彼らも含まれていることが誠に遺憾でならない。
ゴッドエデンの目的は少し特異。
この島にいるシードの育成だけはフィフスセクターの管理サッカーによる平等精神の理念とは趣旨が異なる。
理由はゴッドエデンが支援者Xからの依頼を達成するための施設だからだ。
だから、アンリミテッド・シャイニングが平等なサッカーや管理サッカーの方式で選手が発掘される必要はない。
だというのにこの体たらく。
セカンドステージチルドレンに至れるサッカープレイヤーなど生まれそうにない。
副事業にゴッドエデン施設を建設するほどの費用を賭けたというのにこれでは納得がいかない。
「成果が得られんようでは意味がない。現状のアンリミテッド・シャイニングは解体。白竜くんは切れ。処分の仕方は任せる」
「なっ……!?は、白竜を!?」
「そうだ。牙山道山。貴方に、可能性の高いオイゲンを中心とした新生アンリミテッド・シャイニングの再構築をお願いしたい」
突飛な命令に牙山は唖然とする。
だが、ハッと我に戻ってさすがに食い下がる。
「お、お待ちください!確かに今回はオイゲンに負けましたが、白竜は間違いなく究極のプレイヤーです!奴を発掘し育成するのにどれだけの時間と労力、予算を割いてきたか……!」
「ふむ。あのアリア・オイゲンという少女と同じくらいのレベルのシードはいないのですか?」
「……っ……ぁ」
絶句。
オイゲンと同じくらいのレベル?
簡単に言ってくれる。
そんなシードが1チームを作れるほどいれば苦労はしない。
そもそもオイゲンを発掘するのにも白竜とさほど変わらない労力と費用がかかっている。
つまりこれは、"無理難題"というやつだ。
「とにかく。アンリミテッド・シャイニングは1度解体。あのヴァルキリアというチームも見るに堪えない。その次に解体する」
「……!一体どのように……」
イシドの呟きに千宮司はニヤリと口角を上げる。
「私のドラゴンリンクを派遣する。フィフスセクターを代表とするチームがいかなるものか、身をもって味わってもらおう」
「親父。この下にいる誰をやればいい?」
「そうだな。標的は白いほう。アンリミテッド・シャイニング。特定人物は白竜だ」
「ドラゴン狩りか。面白い!」
ドラゴンリンク。
千宮司がその名を呟いたと同時に影から姿を現したのは、千宮司大悟の息子、千宮司大和。
大悟の指示に、大和は拳を手のひらへぶつけた。
彼は自身と肩を並べる最上級シード達を……"見下ろす"。
「ドラゴンリンクが竜を狩る。待っていろ、アンリミテッド・シャイニング」
彼が宣言すると、11人の狩人達がゴッドエデンという下界に降り、放たれた。