「皆にはシュートの練習をしてもらうわ」
「え?シュート?」
「ディフェンスの方が良くねえか?」
「シュートはミク。キーパーはアリア。ドリブルはシズク。足りてるよね」
「同意。不足してるポイントを補強すべきでは」
口々に反対意見が飛び出る。
予想通りの反応ね。
「逆よ。付け焼き刃のディフェンスなんて私達が相手するチームには通用しないわ。なら今ある攻撃力にかさ増しした方が有効でしょう」
「一理あるが、ディフェンスも完全には捨てられないぞ」
「なら今回の試合が終わった後にしましょう。とにかく今は守備力がない代わりに攻撃力を上げる方向でいくわ」
アリアの指摘も正しくはある。
私の提案するシュートを習得できたら、その後にならディフェンスの練習を取り入れてもいいでしょう。
とにかく今は私とミクとアリア以外の"戦力化"が急務。
ここまで放置してきたけれど、取り組むわよ。
とにかく皆がデバフ要員にならないことが先決なの。
「……でも、今回もシズクとアリアのタクティクスが切り札なんでしょ?私達の力って本当に必要なの?」
「……!」
細々とボヤくように意見したのは、チェンファ。
彼女の視線はどちらかというとアリアの方に向いている。
ここまで私達は殆どアリアの力で勝ってきた。
海王学園をKOし、転向から短い期間で帝国から新必殺技でゴールを守り、アンリミテッド・シャイニング戦では白竜くんを倒した。
私はずっとアリアの力にだけ頼り続けるといずれ勝てなくなると言ってきたけれど、その実例として挙げていた白竜くんも乗り越えた今、自分たちが成長する必要性を疑うようになる思考。
モチベーションの低下。
他力本願。
アリアに対する……依存。
恐れてた事態の前兆が表れたわね。
「今回の試合は確かに私達のタクティクスが重要だけれど、今後のことも視野に入れての練習よ?」
「これからもアリアならどんな相手にも勝てそうだけどなぁ。ほら、これまでも勝ってきたじゃん」
「……絶対ではないわ。それに念には念をいれておくのは決して損にはならないわよ」
説得するけど、チェンファの反応は渋い。
腑に落ちない様子で「それはそうなんだけど……」とハッキリとしない小声で呟き続けている。
良くないわね。
どうにか考えを変えたいけど……。
「シズクの言う通りだ。確かに私はハットトリックどころか2桁得点を決め、連続30回セーブでゴールを守り、最強の敵にも勝ったがこれからも私1人で勝ち続ける保証はないだろ」
「保証しかなくない?」
「こいつ1人でいいじゃねえか」
「1人でゴール守って1人でシュート打った方が勝率高そうなのは否めないのでは」
「馬鹿な。説得したつもりなのになんでそうなる」
「貴女ちょっと黙っててくれる?」
自信が見え透いてるアリアが口を開いても逆効果すぎるわよ。
ここはやはり私が徹底的に必要性を説いていくしかないかしら。
「うーん。私はシズクの言ってることも理解できるかな。賛成っていうかさ。そうだなーって思うよ」
「……!アスカ……」
思わぬ助け舟。
アスカが意外と乗り気だった。
続いてサエも。
「ま、そうだな。あたしはただ守られるためにこのチームに入ったわけじゃねえし。アリアへの借りを返すために、まずは力をつけねえとな」
「サエ……」
不敵に笑い拳を手のひらに合わせるサエに、アリアが腕を組みながら少し感動する。
アスカも想いがある。
「私もアリアの役に立ちたいし、足引っ張り続けるのもごめんかな。期待されてないと思ってたけどそうじゃないみたいで嬉しかったし」
「おう。アスカは最初に言ってたからな。それに意識の低い奴はあそこで足を出さない」
確かに。
アリアに完全依存していたならば、自分に機会が与えられても行動しない。
守ってもらおう。
怖い。
逃げたい。
そんな思考があるなら、ボールよりも向かってくるアリアと白竜くんに目がいっていたでしょう。
でも、アスカは違った。
"どうにかしなきゃ"。
ボールが迫ってきた時に、その発想があった。
これがあるとないとでは1歩目としてまるで違う。
そして、アリアの言う通りアスカはヴァルキリアに参加する際に自分の成長に繋がるからという動機を上げていた。
つまりアスカには、向上心がある。
「とにかく私はそのシュート?の練習やるよ。早く上達してアリアもそうだけど、私はミクと肩を並べてプレイできるようになりたいんだよね!」
「わ、私……?」
思わぬところで指名されてミクが目を丸くする。
アスカは最初からミクのこと好きよ。
口にも出てたけど、気づいてないの?
「いつかミクくらい上手くなってチームの役にも立つよ!守ってもらった恩返しもしたいし、ミクの助けになりたい!」
「えっ。あぁ……うん。ありがとう、アスカ」
「うん!あー、ミクとサッカーできるようになりたいなぁ……!」
アスカは笑顔で伸びをして立ち上がる。
やる気が増してきたようね。
それは大変素晴らしく、結構なのだけれど……。
「"ミクくらい上手くなって"、ね」
「……」
私はアリアが誰にも聞かれないような小声で呟くのを拾った。
彼女の腑に落ちない感情は理解できる。
私もミクもきっと同じことを思った。
だから、ミクはアスカからの好意は嬉しいけど、煮え切らない返事と苦笑いを返した。
アスカの気持ちはミクも嬉しく思ってるでしょうし、私も彼女が前向きなのは嬉しいし有難い。
けど。
"ミクと同じくらい"。
簡単に言った訳ではないのかもしれないけれど、上澄みの実力を知っている私たちからしたらやはりどこか楽観的には聞こえる。
私とアリアがミクを弄るから勘違いさせてしまったところはある。
だから、アスカを責められはしないけど、彼女が思ってるほどミクは手が届く存在じゃない。
長門未来も、公的に認められた正式なAランクシード。
しかもここまでの高難度の試合で得点も決めている。
私達基準ではまだ荒削りだけれど、全体でいえば……正直、"長門未来は強い"。
今は誰も指摘しない。
アスカのやる気を削ぎたくないし、ここで言わなくてもいずれ。
彼女自身がある程度力を身につけていけば、自然と気付くことだから。