今日はみんなに習得してもらいたい必殺技の説明をする。
「技の名前は、"ヴァルキリー・アタック"。3人技よ」
「へぇ。3人で撃つんだ」
「ま、全員で覚えるって聞いた時からなんとなく単体ではねえだろとは思ってたけどな」
「して、如何様な技で?詳細プリーズ」
そう急かすんじゃないわよ。
概要は簡単よ。
「3人で同時に撃つのよ」
「……」
「……」
「え、終わり!?」
「えぇ。以上よ」
全員がポカンとする。
おおかた優秀なシードの私が教える技だから、さぞかし凄い必殺技を伝授して貰えると漠然なイメージを抱いていたんでしょう。
現実は着実に、身の丈にあったものから手を出していくものよ。
「マジか。なんつーか、拍子抜けっつーか……」
「大層な名前がついてる割にシンプルな技だな。名前の由来はなんだよ」
「……ヴァルキリアのプレイヤーが3人で撃つから、ヴァルキリー・アタックよ」
「安直だったのかよ……。もうちょい捻れよ」
うるさいわね。
今回はわかりやすい方がいいのよ。
……と、思ったけど皆不服そうね。
字面だけ見れば洒落た名前っぽいんだからいいじゃないと言いたいところだけど、それをご褒美にモチベーションを上げた方がよかったかしら?
名前がかっこよければ覚えたくなると言うなら考える余地はありね。
「シンプルなのは難易度を合わせるため?」
「そうね」
ミクも私の意図を理解し始めてる。
私が頷くと、アスカが納得した。
「なるほどね。私達でも覚えられるように、って感じ?」
「えぇ。でも、威力はそこそこよ」
「ふーん。ま、あたしら特技以外の武器ねえしな。無いよりマシか」
「マシどころじゃないぞ。全員が少しでも一定以上の決定力を持つようになるんだ。これはデカイ」
「確かに!すご。よく考えてるなぁ」
「まさしく攻撃力のかさ増しってか」
「そうだ。攻撃パターンの選択肢を増やす意味でシズクはこの技を考えたんだ」
解説役がいつの間にかアリアになっているけれど、彼女はさすがね。
私の発案に対する理解度、解釈、言語化が上手い。
本当に共感者がいるって助かるわ。
「比較的簡単な技ではあるけど、3人の息がピッタリ合わないと力が分散するから一夕一朝でできるわけでもないわ」
「寧ろその方が安心したかも」
「簡単すぎたら通用するか不安だもんなぁ。わかるぜ」
「便乗。やりがいありのちょうどいいお仕事の模様」
乗り気なのは3人。
逆に微妙に思ってるのは残り5人。
1人は怠そうで、子供達も辛い練習は嫌い。
優先順位はハッキリしたわね。
「ちなみにこの技白恋戦までの2週間で身につけられそ?」
「……モチベーションが高ければ計算上は可能よ」
含みのある言い方にアリアが目敏く視線を私から5人に移す。
とにかく必要な3人は揃ってる。
これだけでも大きな進歩だわ。
「で、ヴァルキリー・アタックはいいとしてタクティクスの方はどうなんだ」
「そうね。まずは"絶対障壁"の方を説明するわ」
私はホワイトボードに概要を記して解決した。
絶対障壁。
それは白恋中が使う全国最強のディフェンスタクティクス。
ディフェンダーのリーダーである真狩くんを中心とした6人がかりのフォーメーション。
雪の山の形で麓の広がった方を相手陣営に向けている。
恐ろしいのはどんなドリブルもシュートも弾き返してしまう防御力……ではなく、それを有しながら動き回り広い範囲に強固で絶対な守りを展開出来る―――
"機動力"。
「機動力?防御力じゃなくて?」
「もちろん恐ろしく硬いのも問題だわ。でも」
「その硬さを有し、デカイ図体のくせに瞬発力・可動域・守備範囲がある。なるほどな、確かに機動力だ」
「まず破ることは不可能な防御性能で縦横無尽に動き回る……厄介極まわりないわ」
「だが、破る時のキーポイントもその機動力だろ」
「よくわかったわね」
「私はお前の発言から連想しただけだ。とっくの前に攻略ポイントを見抜いてるお前の方が凄い」
なんだかむず痒いわね。
褒め合っててもヤラセくさいわ。
「絶対障壁は正面から破ることは不可能。その上、前方後方左右に素早く動けるわ」
「機動力のある要塞ってとこだな。破るのが不可能なら機動力の方を何とかするしかない」
「えぇ。1番は絶対障壁を振り切ることだけど……」
正直それは難しい。
絶対障壁は速い。
しかもセンターラインからペナルティーエリア手前まで両サイドラインを容易にシャトルランできる。
そんなタクティクスを振り切るには両サイドから攻めれるスピード特化のプレイヤーが2人は必要。
さらにどっちがボールを運んでるか見抜けないほどのパスワークも。
スピードならアスカと私、アリアが該当するけど。
パスも含むと私とアリアだけになる。
「両翼から同時に攻める……"ダブルウィング"ってとこか」
「えぇ。けど、かなりの走り込みが必要になるわ。練習もだけど、試合中も」
「絶対障壁の突破を狙う度にやるわけだからな。そうか、体力か。このタクティクスだとシズクはキツイな」
そう、私の体力ではアリアが口にしたダブルウィング(仮)は採用が厳しい。
1回2回破る分には構わないけど、その代わり確実にゴールを決めないと何度もタクティクスを使用するとなればしんどい。
極力避けたい作戦なのよ。
少なくともヴァルキリアにとっては。
だから、ちゃんと私たちに合ったタクティクスを考案した。
それが。
「"ランサー・オブ・ブリュンヒルデ"。このタクティクスは絶対障壁に対する地上での攻略を完全に捨てて、空中から攻めるわ」
「なるほど。平面でのスピードバトルは分が悪い。絶対障壁を飛び越えるわけか」
「そういうことよ」
アリアの言う通り、飛び越えるという表現が正しい。
いかに絶対障壁でも防御し切れていない、カバーできない部分がある。
それが氷山の頂上。
上空。
彼らは高さまでは考慮していない。
「お前のタクティクスは絶対障壁を破る2人組と、最後にパスを貰ったシュートを決めるストライカーがいる」
「そうね」
「だから、"ランサー・オブ・ブリュンヒルデ"ってことか。敵のゴール前……つまり"愛に一直線"ってか?」
「……うるさいわね」
アリアがミクを一瞥しながらニヤニヤと弄ってくる。
私は毒を吐きながら目を逸らした。
……耳が暑いわ。
「手順を説明するわ。必要なのは3人。最初の1人が次の工程の1人を蹴り飛ばして絶対障壁を超え、相手ディフェンスの背後に着地。そこからゴール前に待機していた最後の1人、ストライカーへパスしてゴールを決めるわ」
気を取り直して解説したけど、多分話を聞いた全員が同じことを思ったでしょうね。
皆の顔を見ると"あぁ、やっぱり?"と書いてある。
もうこのタクティクスに必要なメンバーが透けて見えるんでしょう。
だって、私とアリアは内定していて最後に必要なのも"ストライカー"。
ということはつまりこのタクティクスのメンバーは……"イツメン"になるわ。
でも、一応全員に伝える。
作戦が浸透しているのは大事なことだもの。
「最初の1人、つまりジャンプ台の"キッカー"は人を飛ばせるだけのパワーと正確なコントロールが必要よ」
だって明後日の方向に飛んだら困るもの。
絶対障壁はバックもできるから、彼らが後ろに下がっても間に合わないくらい低い軌道で、鋭く速く通過しなければならない面もある。
そうなればパワーも必要。
テクニック&パワー。
その両方を兼ね備えているのは、このチームに1人しかいない。
「私だけだな」
アリアも自己を選択する。
"キッカー"は彼女で決まり。
次に、キッカーに飛ばしてもらう2人目。
通称"ジャンパー"。
「2人目のジャンパーに必要なのは、着地した時にすぐ次の行動に移れる技術と柔軟さよ」
身体能力、テクニック。
アリアのパワーで蹴り飛ばされても空力抵抗に耐えられる体幹と、その間にボールを落とさない器用さ。
パワー以外の全てのパラメータが高水準であることが重要。
そんなプレイヤーもこのチームには1人しかいない。
私で決まりよ。
「あとは私がパスを出して、ミクが決める。以上よ」
「ミクがゴール破るなら私達ってシュート練習する意味あんの?」
「あたしも同じこと思ったぜ。さっきあたし達のシュートは今回の試合にも使うって言ってなかったか?結局ミクが撃つのか?」
「安心しろ、ちゃんと場面はある。フィニッシャーがミクだけじゃ敵の警戒が集中するだろ」
「そう。このタクティクスで絶対障壁を破ったあと、ミクが1人で得点できるのは精々2回が限度よ」
「理解。攻撃の選択肢は多い方がいい。伏線回収。OK」
「そういうことだな」
チェンナイの言葉にアスカとサエも納得して頷いた。
これであとは特訓あるのみね。