3人技のシュート練習と、タクティクスの特訓が開始。
正直進捗は……あまりよくないわね。
「……おい。マズくないか」
「えぇ。わかってるわ」
言われるまでもない。
アリアも私も少し肩を上下させながら、視線を交わす。
口元を拭うアリアは冷静に言ってるように見えるけど、内心少し焦ってる。
特訓開始から3日は経った。
なのに、タクティクスは一向に上手くいく気配がない。
私とアリアをもってしてここまで完成が見えてこないのは、さすがに計算外ね。
「私達の能力があってなんで出来ないんだ。クソ。あと1歩だってのに」
「……焦ってはダメよ。少し実践は控えて対策を練りましょうか。修正箇所を見つけたいわ」
「だな。闇雲にやってても意味はない」
私達は一度特訓を中止した。
課題はわかってる。
今回のタクティクスは絶対障壁の真上を飛び越えるもの。
しかも軌道は低く、鋭く速くなければならない。
そこが形にできない。
アリアのテクニックで"低く"と"鋭く"はクリア出来ているのだけれど、どうにも"速く"が再現できない。
どうしても着地する頃には落下地点に先回りされて、絶対障壁に掴まってしまう。
絶対障壁の映像データから初速含む時速単位を算出した。
私達は相手ディフェンス中央から6人組のフォーメーション等身大にコーンを配置。
キッカーがジャンパーを蹴り飛ばしたその瞬間からタイムを計り、フォーメーションの中央地点からメーターを相手ゴール前へ向けて伸ばし、絶対障壁の機動力をシミュレーションした。
そして、ジャンパーが着地した時にメーターが間に合ってなければ成功。
それが特訓の内容。
なのだけれど。
何回やっても私が落下する頃にはメーターが先に地点に到達する。
どうしてもメーターより早く動けない。
課題はハッキリしてるのに、原因がわからない。
このタクティクス、思ってたより難しいわ。
「パワーだな」
「えっ?」
休憩中、アリアが徐に告げた。
1人で先に納得したように何度か頷き、ボトルを持ちながら親指で、フィールドの特訓コースを軽く指す。
「私じゃキッカーとしてのパワーが足りないんだ。だから、シズクを正しい所へ飛ばすことはできても、速くは飛ばせない」
「でも……貴女以上のパワーを有しているプレイヤーなんて……」
「あぁ。そうだ」
アリアが私の瞳を真っ直ぐ見た。
彼女はもう心の中で決定している。
このタクティクスに必要なのは……再人選先のミクの元へ私は訪れる。
「ミク。アリアと交代よ」
「……マジで?」
まあそら目を丸くするわよね。
皆のシュート練習を見ていたところでまさかの抜擢だもの。
アリアも後からついてきた。
「お前のパワーじゃないと着地の際に絶対障壁に追いつかれるんだ。だから、このタクティクスにはお前しかいない」
「えっ。でも、確かシズクを正確なところへ飛ばさないといけないんだよね……?人を正確にって、ボールより遥かに難しいんじゃ……」
「その通りよ。かなりの練習が必要になるわ。でも、やらなきゃ勝てない。勝てなきゃ全員殺処分よ」
「……!」
ミクが面食らう。
けど、もう慣れた。
彼女はすぐに決心する。
「……わかった。身につけるまで特訓するよ。タクティクスは、私が完成させる」
「ありがとう。頼もしくなったわね、ミク」
「えっ。そうかな?」
「イチャついてる場合じゃないぞ。時間がない。すぐに取り掛かる」
アリアの言葉に私達は真剣な表情で頷く。
アリアをミクに変えて、特訓再開。
しかし。
「……っ!」
「シズク、大丈夫!?」
ミクの足裏をジャンプ台に蹴り上げてもらった私は、凄まじい勢いでゴールポストに突っ込んだ。
甲高い打撲音が響いて、アリアも慌てて駆け寄ってくる。
「おい!?マジか!無事か!?」
「……大丈夫よ。大丈夫」
私は2人を制止しながら頭を抑えつつフラフラと立ち上がる。
頭部からの出血は酷いし、恐らく腫れも深刻。
ただ、逆に言えばそれで済んでる。
ミクのパワーが強すぎて軌道が伸びすぎた。
結果、ゴールポストへ衝突した。
当たるとわかった時点でゴールから大きく外れようと身体を捻ったけど、捻ったつもりだっただけ。
ミクのパワーは私に空中での身動きを許してくれなかった。
死なずに済んだのは、直前に私が化身パワーを纏ったから。
バアルが守ってくれた。
とはいえ、化身で防ぐのも限度がある。
立ち上がったはいいけれど、すぐに立ちくらみが襲う。
「……っ!」
「おい!」
アリアが滑り込んで私の体を受け止めようするけど、彼女より珍しくミクの方が早く動いた。
私はミクの腕の中に収まる。
「シズク……!」
「ミク……」
私が見上げると、ミクが不安げな表情で私を至近距離で見下ろす。
私はミクに身体を預けた。
2人がへたり込む私を見つめて、顔を合わせる。
「ごめん。シズクの綺麗な顔に傷が……」
「構わないわ。皆が死ぬよりマシよ。それより」
私は負傷した。
アリアを見る。
彼女も頷く。
これでタクティクスのメンバーから私は強制的に外れる。
それに、今回のことでハッキリした。
「シズク。お前をもうこのタクティクスには参加させない。怪我したからじゃない」
「私じゃミクのパワーに耐えられる体幹がなかった。これではミクが狙った場所に飛ばせるようになっても私はきっと着地できない、でしょ?」
「あぁ」
「じゃあ私の改善ができても、シズクじゃ無理ってこと……?」
「そういうことだな。ミクのパワーに振り回される奴じゃ、ジャンパーは無理だ」
つまり、私たちが挙げた問題は柔軟性と体幹の部分。
ミクのパワーに耐えられる強靭な体が必要。
私にはそれがない。
ならどうするか。
他の候補を見つけるしかない。
そんな人はウチのチームにはいない……こともない。
「私はシズクの代わりのジャンパーに1人心当たりがある。お前はどうだ?」
「えぇ、私も同じ人を思い浮かべてるわ」
「だよな。身体が強くて、着地から次の行動に移れる柔軟性と身体能力の持ち主。1人しかいない」
私達は、シュート練習していた彼女の元へ向かう。
ミクと同じくらい無尽蔵の体力を持つタフネスの彼女。
「アスカ。今回のタクティクスは貴女とミクで完成させてもらうわ」
「えっ!?私!?てかシズク大丈夫!?頭ぶつけたの!?めっちゃ腫れてるけど……!」
「そっちの説明忘れてたわ」
私はふらついた後、倒れた。