松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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VS白恋中② 壁が崩れる日

 

「必殺タクティクス!ランス・オブ・ブリュンヒルデ!」

 

ミクの叫びにアスカが頷いて前へ出る。

縦1列で走り込んできた2人。

ミクが屈んだかと思えば足を畳んで天へ向ける。

それをジャンプ台にアスカが乗る。

足裏と足裏を合わせたら、あとはミクが思い切り足を伸ばすだけ。

ミクが力んで……放つ!!

 

「いけ!!アスカ……!」

「任せて!」

 

アスカがボールを足でキープしたまま跳んだ。

低く鋭くそれでいて速く。

人が弾丸のように軌道を描く。

上空を通過していくその姿を見上げ、真狩くんは大きく目を見開き驚愕する。

 

「まさか絶対障壁を飛び越えるつもりか……!」

 

御明答ね。

気付いたら次にとる行動も予想通り。

 

「下がれ!飛び越えられてたまるか。奴の着地地点に絶対障壁を用意する!」

「了解!」

 

ディフェンダー全員が頷き、連携する。

絶対障壁は後退。

ゴール前を目ざして移動する。

しかし。

 

「だ、だめだ。間に合わな……っ!」

「私の方が早い!」

 

絶対障壁を視界の端に捉えながら地面が目前に迫ってくるのも確認するアスカ。

彼女は膝を畳み、ボールを腹と足で抱え込み、一回転して着地を試みる。

結果は成功。

回転し終わったと同時に両足を伸ばして地面に着いた。

そのまま蹴って、手をついて足を天に伸ばし、ボールと共にバク宙。

アクロバティックな動きで体勢を整えるが、1つ問題が。

 

「あっ……!」

 

アクロバティック中、ボールが漏れた。

ゴールへ向かって転々と跳ねて転がってしまう。

これには白咲くんも。

 

「む、無理だ!これを決めたら不自然すぎる!悪いが、止めさせてもらおう」

 

子供でも止められるあろう簡単なこぼれ球。

さすがにこれは止めないといけない。

白咲くんがシードで味方でもどうしようもない。

タクティクスは着地したあと体制を立て直し、ストライカーにパスするまでが完成系。

つまり今回は失敗。

絶対障壁を超えたまではいいもののその後がてんでダメ。

アスカの身体能力をもってしてもシュートに繋げることが出来なかった。

 

と、誰もが思っていた。

 

「貸せ。私が決める。これで文句ないだろ」

「なっ……!?」

 

急に視界に飛び込んできた影に白咲くんが瞠目する。

横入りしてきて即、振り抜き閃光。

あまりに早すぎてその足から放たれる弾道に白咲くんは反応できなかった。

ゴールネットの端に無理やりぶち込まれるシュート。

これで。

 

ヴァルキリア 1 - 0 白恋中

 

『なっ……』

 

全国一位のディフェンスを誇る白恋中が開始わずか15分で失点。

決めた後、ゆっくりと上体を起こすアリアは白咲くんに視線を向ける。

 

「悪いな。助かった。1点サンキュー」

「えっ……!あっ。いや、今のは……」

 

白咲くんが事実を述べようとしたが、アリアは一方的に礼を告げると背中を向けて歩き出す。

手だけ振ってその場を後にした。

さっきの失点はわざとじゃない。

白咲くんのその言葉を聞かずに勘違いしたままアリアは自軍へと戻ってくる。

そんな彼女の背を見つめるのは白咲くんだけじゃない。

それも険しい顔。

当然、白恋中のプレイヤー達。

特に絶対障壁を破られた真狩くん。

雪村くんまでもが狼狽している。

 

「馬鹿な……!俺達の絶対障壁が破られただと!?」

「しかも一発で……。なんなんだ、こいつら」

 

真狩くんは悔しさに満ちている。

けど、雪村くんは顔を顰めてアリアを目で追ったあと、絶対障壁を破ったミクとアスカを見て。

 

「これがフィフスセクターか……!やっぱり凄いのか?俺も奴らの力を借りればあんな風に……」

「……」

 

揺れてるわね。

私は彼の後ろを通過してその迷える背中を見つめる。

もう既に彼はフィフスセクターの傘下にあるけれど、気持ちまで完全に切り替えられてるわけじゃない。

雪村くんの中で、まだ"彼"の存在は大きいでしょうし、彼の一言一句で胸に響いたものは未だ美化されているはず。

そう簡単に憎しみには変えられない。

でも、あともう一押しね。

 

「ギリギリだったけど、絶対障壁は攻略したわ。次はガンガン攻めて点取ってくわよ」

「ってことは私はまだフォワードか?」

「そういうことになるわね」

 

ポジションに戻りながら頷く。

一度攻略したからといってまだ彼女を下げる訳にはいかない。

絶対障壁はもちろんのこと、それを抜きにしても白恋のディフェンスはフィフスセクターを含めても屈指。

例え相手が動揺し、混乱していてもアリア抜きで攻められるほど甘くはない。

 

「次もタクティクスで攻めるわよ」

「了解!」

「わかった」

 

アスカとミクが頷く。

ホイッスルが鳴る。

白恋の攻撃。

けど。

 

「確かにディフェンスに対してオフェンスは驚くほど大したことないな」

「クソ……!」

 

アリアが雪村くんからボールを奪う。

白恋の攻撃パターンは単純。

とにかく雪村くんに繋ぐ、以上。

彼以外に攻撃力が全くないというわけではないけど、彼にボールを委ねるのが最も合理的になってしまっている。

それ程までに彼は新星で、依存性が高い。

チーム内で浮いてる存在と聞いていたけど、試合が始まり余裕がなくなるとそのパターンを採用せざるおえないのがこのチームの弱点。

しかも関係性が良くないからボールを渡したら彼を孤立させてワンマンプレイにさせがち。

本人も本人で個人プレイに走るから悪循環。

とはいえ、仮に彼以外がボールを運んでも雪村くん以上にアリアの相手にまるでならないけれど。

 

「クソ……!行かせるものか!」

「いいや、いくぜ。ほら、決めろ!」

 

ドリブルで白恋中軸へあっという間に突破してしまったアリアが前方へパスを出す。

そこからセンタリングで上がるのは2人。

 

「いくよ、アスカ!」

「おっけー!」

 

2人は頷きあって、ミクか足場を作る。

つまり。

 

「またか!」

「そう何度も……!」

「破れるものか、俺達のタクティクスはディフェンス最強なんだ!」

「次こそ止める!」

 

ミクとアスカの動きを見てフォーメーションを作る真狩くんたち。

またしても同じ構図。

2回目の対決。

 

「"絶対障壁"……!!」

「"ランス・オブ・ブリュンヒルデ"!!」

 

アスカが跳んだ。

もうこっちのタクティクスのカラクリは割れてる。

絶対障壁も最初から後退を選んだ。

けれど。

 

「ダメだ!速い!絶対障壁の足じゃ……追いつけない!!」

 

真狩くんが気づいたわね。

そう、わかっていても絶対障壁じゃ間に合わない。

パワー自慢のミクでスピードを出してる意味はここにある。

ミクの力で飛ばされるアスカが捕捉されるわけがない……!

 

「さすがミク!そんで次はシズク……!」

「上出来よ」

 

着地したと同時に不安定な体勢のままアスカが私にパスを出した。

私は針の糸を通すようなトラップでそれを拾い、ゴール前に立つ。

今回のラストキッカーは私。

VS白咲くんね。

まあ、八百長だけど。

 

「……ティアードロップ」

「ぐあっ……!?しまった!」

 

私は必殺シュートを放ち、白咲くんは白々しい演技でゴールを演出する。

前半残り20分。

これで絶対障壁が破られたのは2度。

マグレじゃないと、この再現性を前にすれば彼らも認めざるおえない。

そして、きっと彼は責任感に迫られる。

私はポジションに戻りながらそんな彼の様子を、その表情を一瞥する。

 

「そんな……絶対障壁が2度も破られるなんて……」

「……」

 

この後のセリフも容易に想像できるわね。

一言一句そのまま口にするんじゃないかしら。

事情を知ってると全ての演出がチャチに目に映るわね。

茶番が過ぎるわ。

 

「俺が……!俺が、なんとかしないと……!」

 

雪村くんの発言に私はやっぱりとだけ思った。

彼は顔を顰め、下ろした拳に力を込める。

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