松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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ミクという女

 

意識が朦朧としてる。

立ってるのがやっとだ。

やっぱり無理そうだ。

 

「よろしかったのですか?奴は貴重なSランクシード。ここで失うのは惜しいのでは……」

「構わん。白竜に芽が出てきた今、真に忠誠を誓っていない奴などもはや不要。あの愚か者は、はなから離反の可能性があった。奴の代わりが出てきたこの機会に、それを見極めたのだ」

 

教官共のやり取りが聞こえる。

それも遠い。

クソ。

子供も守れない。

裏切り者の烙印も押された。

結局、何も得られなかった。

私は愚か者だ。

 

「そんなことないよ」

「……っ!」

 

『グギギ……!』

 

割って入ってきたのはこの前のAランクシード。

確か、長門未来とかいう名前の馬鹿力女だ。

私の足元のボールを駆け抜けざまに蹴って、私よりも強力なシュートで腕を使えなくしたロボの脳天を撃ち抜き、ノックアウトした。

もう奴は動けない。

 

「お前、は……っ!なんで……」

 

「守りたいと思ったから。それだけ」

 

「……!」

 

馬鹿力女はロボ共に背を向けて私を指さして、そう告げた。

それも一瞬。

あいつは敵に向き直る。

 

「……っ!無茶だ!1人で戦うつもりか?私でも負けた相手だぞ!」

「大丈夫よ」

「……!」

 

私が馬鹿力の背中に呼びかけると、私の隣にもう1人の……確か陸奥 滴っていう慈善バカ女が現れた。

彼女は私に向けて少し頬を緩める。

 

「大丈夫。負けないわ。確かにあのマシンは貴女に勝ったかもしれない。でも、実は私達も貴女に勝ったの。だから、条件は対等よ?」

「お前……性格悪いな」

「あら。事実を言っただけよ?」

「そりゃそうだが……っ!」

「……!」

 

私がよろけたところに慈善バカ女が支える。

クソ。

今の私じゃお荷物か。

 

「す、すまん」

「ここでの謝罪は不要よ。貴女に謝って欲しいことは他にあるわ」

「……!」

 

慈善バカ女は至近距離で真剣な顔で告げたが、私が思わず目を見開いて見た時には前を、馬鹿力女の戦闘を見つめていた。

私も馬鹿力女の方に目を向ける。

そのまま少し視線を落として、ポツリと口にした。

 

「……悪い。いや、お前にも謝らなきゃいけないが……それに謝って済む話でもない」

「そうね。貴女が反省するならこれから先、長くなるわ。きっと、凄く長い旅になる」

「……あぁ」

「大丈夫。気長に付き合うわ。だから、ここを生き抜いて必ず貴女の口から謝罪と改めた行動を見せてちょうだい」

「……あぁ」

 

一度目はトーンを落として、二度目は強い瞳で顔を上げた。

慈善バカ女は私の顔を見て満足そうに頷く。

 

「ウルフボルケイノ!」

 

『グギギ』

 

馬鹿力女の必殺シュートが炸裂し、1体仰け反る。

私のシュートは効かなくて、馬鹿力女のシュートは効くのか!

 

「やはりそういうことね」

「何?」

「……あのマシン、最初から貴女を倒すためだけに設計されてるのよ。だから、パワーだけは貴女を上回ってるミクのシュートは通用する」

 

慈善バカ女は私を一瞥する。

なんか気を遣ってるな。

不要だと私が小さく首を横に振るうと、慈善女は「そう……」とだけ口にして一瞬視線を落としてからまた戦場に目を向けた。

 

「おそらく、あのマシンは最初から貴女との対戦を想定していたんだと思うわ」

「……だろうな。端から私の離反を想定……いや、促してたんだろう。そして、上手いこといって私にあいつらをぶつけられたってわけだ」

「貴女、最初からもう見放されてるとわかっていたのね」

「あぁ……だが、そんなことよりもあの鉄くず共が対私を想定されて作られたなら、チビ共を潰すにはオーバースペックだ。あいつら、私が反抗しなかったら……」

「皆殺しだったでしょうね。それも無惨に」

「……!」

 

慈善女を見る。

だが、至って真剣だ。

慈善女が見立てたってことはやっぱり私の嫌な予感は的中してたんだろう。

こいつは頭が良さそうだし。

やっぱり私じゃフィフスセクターにはついていけない。

そこまでは……人の心を捨てられない。

 

 

「ウルフボルケイノ!」

『グギギ……!』

 

馬鹿力女のシュートがまた炸裂する。

だが、必殺シュートじゃ決め手にかける。

だから。

 

「魔狼アモン!」

 

馬鹿力女の化身。

まあ、あのロボをぶっ壊すには化身シュートを出し惜しみしてられないからな。

だが。

 

「……マズイわね」

「あ?何が?」

「あの子、パワーは確かに天性のものがあるのだけれどそれ以外のステータスが極端に低いのよ。特にボールコントロールとミートが致命的なの」

「は?それ―――」

 

マズイだろ、そう口から零れる先に馬鹿力女が早速やらかした。

 

「うわ!シュート外した!!」

「あぁ……なるほどね」

「そ。このザマよ」

 

私は天を見上げる。

なんでシュートが真上に行くんだ。

私の呆れた表情を見て慈愛女も目を伏せて軽く肩をすくめる。

馬鹿力女はシュートを外した。

その後も。

 

「……っ!当たらない!」

『ヘタクソ。ヘタクソ』

「はぁ~!?機械のくせに悪口言ってきたんだけど?この機能いる!?」

「何言ってんだ。真面目にやれ!」

「……っ」

 

馬鹿力女が文句垂れてる間に接近を許してロボにボールを取られそうになった。

慌てて本人がヒールでタッチして後退して奪われずには済んだが。

言わんこっちゃない。

下手くその上に雑念が多く集中力もない。

こいつ……思ってたより弱い!!

 

「危な~!ほんと、機械のくせに生意気!この~!」

 

馬鹿力女が化身を出しながらボールを蹴り、立ち向かっていく。

だが、シュートは当たらずロボは逃げ回るだけ。

あいつら分かってるんだ。

馬鹿力女が最初にシュートを外した時点で、馬鹿力女の攻略法を。

それは……。

 

「あのバカ!どう見ても時間稼ぎだろ!逃げてるのを追いかけましたら後手だ!この勝負、コントロールの悪いあいつが化身を出しっぱにしてる時点で……"持久戦で不利"だ!!」

「……」

 

私の見立てに慈善女は無言で戦況を見る。

こいつが参戦しない理由もわかる。

慈善女はテクニックが売りだ。

私のシュートにシュートを当てられた時点でわかる。

それでいて華奢。

明らかにパワーは苦手にしてる分野。

つまり、パワーがないと倒せないあのマシン相手じゃ慈善女は関節部分を的確に狙うくらいしか有効打を有してない。

それじゃ馬鹿力女のサポート役が関の山だ。

参戦したところで状況は大して変わらない。

なら、この戦況の打開策は……クソ、せめて私が万全なら……!

馬鹿力女と私の組み合わせならあの鉄くずどもを倒せる算段はあるのに!

 

「貴女にできること、まだあるわよ」

「……!?」

 

私に肩を貸してる慈善女が私の思考を読んだようにボソッと口にする。

それでも、私が反応すると分かっていて、こいつの瞳は私と目が合うのを待ち構えていた。

色白で芸術品のように整った淡麗な顔立ちが嫌なくらい真っ直ぐと私を見る。

 

「やるか、やらないか。それは貴女次第。貴女は、ミクを助ける?なんの為に?助けて、その後はどうするの?貴女はこれからどうやって生きていくの」

「……っ。私、は……」

 

慈善女、いやシズクに問われる。

俯いて考え込みたなる課題だが、目を逸らすことをこいつは許さない。

今、選択を迫られている。

ここで今すぐに決めなきゃいけないんだ。

 

「私は……取り返しのつかない事をした」

「そうね」

「本当に、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。私は罪を償っていきたいと思っている」

「それは無理ね」

「え?」

 

目を丸くすると、シズクは目を細めた。

 

「貴女が自分で言ったじゃない、今。取り返しがつかないって。そうよ。一生かけたって償えやしない。過去は変えられない。罪は消えない」

「……」

「でも」

「……!」

 

顔を上げるとシズクは戦場の方を見ていた。

私は、シズクがそっぽを向いてるのがわかっている中で、やっとシズクの横顔を見つめることができる。

シズクは言葉の続きを教えてくれた。

 

「でも、それでも、貴女がこれからどうやって生きていくかは今この瞬間から変えられる」

「……!」

「そう言われて、貴女はどうする?どう思う?贖罪にならないなら意味はないと切り捨てるかしら。それとも、それでもとその行為に意味を見いだせる?」

 

シズクは私を試すように尋ねる。

そんなの、答えはもう決まってる!

 

「言える。意味がないなんて思わないし、せめて今からは正しいことをしたいと言える。それをする意味も理解できる。これ以上間違えないように……これからは正しい選択だけをして生きていきたい」

「そう」

 

シズクはそれだけ返して私に目線を戻してくれた。

私はその目に真剣に向き合う。

 

「頼む、シズク。私の選択が正しいかどうか、これからお前に判断して欲しい。見ていて欲しいんだ。我儘だが……」

「あら。それを言い合えるのが友達の特権でしょう?」

「……!」

 

私は目を見開く。

シズクは優しく微笑んだ。

そうか、こいつの中で私はもう……良い奴だな。

 

「シズク。早速質問がある。今、私があいつの為にしてやれることは何だ?」

 

私はシズクに尋ねる。

シズクは戦場で奮闘するあいつを見て、口を開く。

 

「そうね……貴女、化身ドローイングってできる?」

 

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