後半が始まる。
白恋ボールから早速アリアが奪った。
「絶対障壁!」
「ランス・オブ・ブリュンヒルデ!!」
真狩くんがなんとか根気を振り絞って障壁を完成させるもそれを超えるアスカ。
だが、着地に失敗する。
「やば!」
ホイッスルが鳴る。
ボールがラインを出た。
幸いなことに追跡がなかったから零したボールを奪われることはなかった。
絶対障壁の機動力が格段に落ちている。
「向こうのタクティクスの精度が落ちてるが、こっちのも質が落ちてきた。気づいてるか?」
「えぇ。アスカへの負荷が大きいタクティクスだからさすがに成功率が下がってきたわね」
「絶対障壁抜きでも相手のディフェンスは固い。私も簡単には決められない。どうする?」
「そうね……」
アリアに尋ねられて頭を悩ませる。
こっちはもう3点取ってるし、点数は充分なのだけれど白恋に絶望を与えられているか、追い込めているかと言われると微妙。
どうも3点決めても勢いを感じない。
理由はおそらく、相手と同じようにこちらも攻め手に欠けるから。
それと、私たちが全員女だから。
「とにかく向こうは絶対障壁の使用頻度が減るはずよ。使ったとしても前ほどの機動力はないわ」
「だったら未完成のダブルウィングでもいけそうだな」
「そうね。でも、まずはウチのスローイングよ。できればそこから1点繋げたいわね」
「了解」
別にアリアに頼んだわけじゃないのだけれど、彼女はすぐに姿が小さくなった。
損は無いからそのままにしておきましょうか……いえ、これは!
「……!」
「そうだ。1番を囲え……!奴らの攻撃力は奴に依存している」
「だったらこいつを抑えれば……!」
「相手のオフェンスを無力化できる!」
やられた……!
白恋はDFをアリアのマークにつけた。
それも3人。
その上で真狩くんも彼女からそう遠くない位置に陣取っている。
いつでも対応できるように……!
これではいくらアリアでも!
「アスカ!アリアはダメよ、私かミクに寄越しなさい!」
「……マジ?」
スローイングのアスカが困惑する。
それもそのはず。
私とミクも決してマークは緩くない。
だから、ビビるのは仕方ないけどこっちに投げて欲しいわね。
私達なら多少厳しくてもなんとかできる。
"多少"で済んでいるのは相手がアリアに人数を割いてくれたおかげだし、尚更利用したい。
でも。
「うえ~……えっと、んー!やっぱ無理!」
なんとなくアスカの表情から読み取れたけど彼女は安全なルートを選んだ。
フリーのチェンファに。
「え、私!?」
「だってフリーじゃん!パス頼んだ!」
「そんな……!無理だよ!」
チェンファは反射的にトラップして受け取ったけどとても不満そう。
イラつきも見れる。
そして、ボールを持った彼女がパスルートを探してそこに留まってしまった。
その隙を見逃す敵はいない。
「プレッシャーをかけろ!」
「了解!」
「うえ!?」
MFが自分に向かってくるのを見たチェンファは気が動転する。
そのまま周りを見渡すも、私もミクもマークを振り切れなくて簡単にはパスを通せない。
余計に迷うチェンファ。
その間にも迫る敵。
チェンファの中で焦燥が大きくなり、やがて、追い込まれて判断力を失う。
相手MFが目前まで迫ったところで、動転していた彼女が選んだ選択は。
必死にパスルートを求めて視線を左右に動かし続ける彼女の視界に、信頼できるエースストライカーが映る。
「ア、アリア……!」
「は!?」
「なっ……!」
「バカ!死ぬほどマークついてんだろ!どこに目ェつけてんだ!!」
「ひっ……!だ、だってぇ……!」
サエに恫喝されるもポジショニングもあり、距離も離れてることからチェンファも腰が引けながら言い訳を返す。
状況は、そんな喧嘩をしている場合じゃない。
ボールは今、山なりに弧を描き、アリアの頭上へと向かっていく。
アリアも、彼女についたDFも見上げる。
「……!」
「無駄だ!奴には取れん!」
真狩くんがチェンファを嘲笑う。
しかし。
「なっ……!?こ、こいつ……!」
「なんで……!」
「ふん!」
「……!?」
アリアは早めに跳んで最高到達点に来る前に足を伸ばして空中のボールを拾った。
というよりぶん捕って自身に引き寄せた。
アリアの跳躍を見てから飛んだ白恋DFはもう間に合わない。
ボールはアリアのトラップから胸元まで完全にホールドされて奪えない。
DFは表情を険しくて信じられないものを見るような目でアリアを見ることしか出来ない。
そのまま全員着地する。
「降りたのは間違いだ。囲まれた状態からパスもシュートもできない……!」
「そうでもないさ」
真狩くんの言葉を否定してアリアが突然マークを引き付けながら真狩くんへ向かって走り出す。
このままでは彼を巻き込む。
つまり4対1になる……!
「なっ……!?何を考えてる!正気か!?」
「そのセリフは聞き飽きた。まあ見てろ」
真狩くんの前まで行って急ブレーキ。
4人に囲まれるアリア。
彼女は右サイドを一瞥する。
それに真狩くんも気づく。
「……」
「……!」
アリアの視線の先にはミク。
ミクにもマークがついてるし、4人に囲まれた状態から彼女にパスを出すのは至難の技。
でも、真狩くんは考えた。
"この女のスペックなら、もしかしたら"って―――。
それが、いけなかった。
「右サイド、固めろ!マーク、右カット!パスを出させ―――」
「見つけたぜ。シュートコース」
「―――は?」
アリアの呟きは聞き取れるギリギリだった。
真狩くんは右サイドに向けていた視線を前に戻そうとした。
だが、その前に自身の目の前、数ミリの距離感でボールが顔を横切る。
「ひっ……!」
真狩くんの顔面が蒼白になる。
アリアは、真狩くんの視線を誘導することで彼の意識をズラし、実質DFを1枚減らした。
真狩くんの体が、人の体があるから彼のいる場所は他のDFがカバーできない。
しかもチームメイトは真狩くんのディフェンスを1番に信頼している。
彼がいれば、そこはもう大丈夫だと思い込み、守りが薄くなる。
そこを突いた。
彼の顔の真横、それがアリアが開拓したシュートコース!
「なっ……ぁ……!?」
「……っ!えっ、はっ……!?」
白咲くんも反応できなかった。
雪村くんも何が起きたのか理解できなかった。
ただ、ネットに突き刺さったボールだけが静寂のフィールドの中で、転がる音を立てる。
「は、入った!入った!」
「マジかよ……嘘だろ……」
アスカの歓喜でやっとみんなが我に返る。
サエはもはや慄いていた。
それ程までに、異次元の超人が今このフィールドにいる。
「こ、こいつ……!イカれてる!」
「ハッ。頭のネジが正常で最強が務まるかよ」
動揺する真狩くんに、アリアは吐き捨てて背を向ける。
これで。
白恋中 0 - 4 ヴァルキリア
「……やっぱり、アリアに繋げばなんとかしてくれるんだ!アリアがいれば誰にも負けないんだ!!」
チェンファはひとり興奮する。
私はそんな彼女を顔を顰めて見る。
その視線をアリアへ動かして睨みつけたままため息をついた。
本当にやってくれたわね、決めてしまうアリアもアリアよ。
嫌な成功体験を与えてしまったわ。
この依存を解決するのは……より骨が折れるようになったわよ。