松風天馬君に恋する私   作:伊つき

62 / 87
VS白恋中⑥ 雪村覚醒

 

「ク、クソ……!あの女。あの女……!まんまとやられた……!」

「落ち着け銀仁朗」

「落ち着いていられるか!利用された!しかも今のでトドメだ。俺達に勝ちはない。それどころか、あんな化け物に勝てるものか……!」

「……!銀仁朗……」

 

怒り心頭の真狩くんは聞く耳を持たない。

そして、雪村くんもすぐに引き下がる。

彼が正しいと思ったから。

さっきのアリアによる理不尽プレーで白恋を遂に絶望に追い込んだ。

あんなものを目の当たりにしたら牙は抜かれて当然。

希望なんて見えやしない。

白恋は、タクティクスだけでなくディフェンスも破られた。

つまりそれは―――彼らにとって、"完全敗北"だ。

 

「……っ!こうなったら、俺がなんとかする!俺が、化身で……!」

「無理だ」

「……!?」

 

意気込む雪村くんの背に声をかけたのはアリア。

彼は振り返って彼女を認識すると、驚愕して目を見開いた。

だが、すぐに食いかかる。

 

「なんだとっ!やってみなきゃわからないだろ!」

「いや、もう分かった。完全に理解した。白恋のディフェンスも。もう分かった。もうあとはいくらでも決められる。終わりだ、お前達は」

「なっ……ふさげるな!!」

「……っ!」

 

雪村くんの叫びに真狩くんが驚いて顔を上げる。

彼だけが闘志を剥き出しに、まだ消沈していなかった。

果敢にアリアに挑む。

 

「白恋の力はこんなものじゃない!お前はまだ知らないだけだ!」

「そうか。ハッタリじゃなけりゃいいがな」

「ハッタリじゃない!今、証明してやる……!」

「お、おい」

「白恋は勝つ!俺がお前達を倒してやる……!」

 

雪村くんが言い放つと、静寂が流れた。

それでも彼は動揺せずに凛とした目でアリアを見上げている。

アリアはそんな彼の瞳を見て、背を向ける。

 

「いいだろう。やれるもんならやってみな」

「あぁ。やってやる」

 

雪村くんも背を向けた。

これであとはホイッスルが鳴れば、衝突するのみ。

 

「うおおおお!!」

「魔神 アガレス!」

 

開始早々ドリブルで突っ込んでくる雪村くんにアリアが迎え撃った。

化身を使って。

彼を煽った時にちょっとどういうつもりかと思ったけど、雪村くんが反論したのを見て私はアリアを止めなかった。

彼女は目的を見失ってないと気づいたから。

全て、雪村くんを焚き付けるためにやったこと。

 

「化身……!俺だって……!」

「……」

 

雪村くんが化身を出そうとしたところで、アリアが後ろを振り返る。

私を一瞥した。

わかってるわよ。

アリア1人の化身では雪村くんの共鳴現象を呼び起こせないのは実践済み。

ならば。

 

「虚無魔神 ベリアル……!」

「えっ!?に、2体目だと……!」

 

雪村くんが動揺する。

ここで気持ちが折れたら終わり。

けれど。

今の彼なら。

 

「……!だから、なんだ!俺は、お前達を倒すんだ……!うおおおおおおおおおおお!!」

 

魂の叫び!

雪村くんの背中から天へ伸びる。

この圧力、いけるわね……!

 

「これが俺の化身―――"豪雪の サイア"だ!!」

 

ついに雪村くんの化身が発現!

これで目的は果たしたわね。

じゃああとは、演技力を見せるとしましょうか。

 

「アイシクル・ロォォォーーーード!!」

「ぐっ……!……。ぐあっ!?」

 

雪村くんの化身技。

アリアが真っ先にブロックに入って破られる。

途中で緩めたわね。

つまりあれはわざと。

彼女は倒れると同時に私に視線を送った。

わかってるわよ。

 

「……!」

「うっ……!」

 

私は目の前を通過するシュートをまるで反応できないとでもいような迫真の表情を作ってただ見送って、ゴールキーパーのチェンナイは動けずゴールが決まる。

チェンナイは多分演技じゃないわね。

まあシュートが来ても止めにいかなくていいし、なんなら避けなさいと伝えてあるからどの道そうなっていたけれど。

 

「ゆ、雪村……!」

「よし……!」

 

ゴールを決めて雪村くんはガッツポーズを作る。

化身も引っ込めた。

まだ肩で息をしてるわね。

この段階じゃ本番で使えても1回のみになるから少し使用を促して慣らしておきましょうか。

慣れさえすれば彼の体力なら2~3回は使えるようになるでしょう。

再現性も身につけさせないといけないし、尚更。

 

「アリア、スタートは……」

「アイスグランド!エターナル・ブリザード!!」

「は?」

 

ホイッスルが鳴ると同時にアリアに指示を飛ばそうとしたら雪村くんが速攻でアリアからボールを奪い、ロングシュートを放った。

今度は本当に反応できなかった。

シュートとはそのままネットへ突き刺さる。

 

「やった!これで2点目!」

「凄いぞ、雪村……!」

「……」

 

私はジト目でアリアを見る。

彼女は首を傾げた。

まったく……。

化身を使わせたいといった傍から想定とは違うことが起きたわ。

その後も。

 

「パンサーブリザード!」

「ムム。速い!」

 

今度はゴール前まで運ばれて雪村くんが決めた。

雪村くんが覚醒してから白恋も息を吹き返し、オフェンスにキレが生まれた。

私が疲れてきたのもあるけど、アリアが死ぬほど手を抜いてるからガンガン相手のパスが通るわね。

そろそろ怪しまれるから手加減を緩めたいのだけれど……。

 

「豪雪のサイア!」

「魔狼アモン!」

 

ミクだけが私の意図を読み取って雪村くんだけをマークして彼を追いかけ、ゴール前で化身を消しかけた。

雪村くんに化身を出させて化身バトルが始まる。

結果はもちろん雪村くんの勝ち。

けど。

 

「魔狼アモン!」

「……!?こいつ、今倒したのに……!サイア!」

 

ミクはやられてすぐ立ち上がり、回り込んで雪村くんの前に再度立ち塞がる。

化身を出して、雪村くんも1度引っ込めた化身を再度出した。

2回も出させた。

ミク、偉いわ!

 

「うわああ!」

「よし……!」

 

雪村くんがミクを突破して、彼はそのまま。

 

「アイシクル・ロード!」

「……っ!」

 

ゴールを決める。

これで。

 

 

白恋中 4 - 4 ヴァルキリア

 

 

同点。

……演出しては十分でしょう。

雪村くんが急激に強くなったわけだし、違和感もない。

役目は果たしたわ。

あとは試合終了まで5分。

雪村くんに決めさせて終わりにしましょう。

 

そう、思っていたのに。

 

「……は?」

 

私は端末に通知が来ていたから、タイムがかかってる間にベンチに戻って確認した。

すると、そこには新たな指令。

 

『勝利せよ』

 

「……冗談でしょう?」

 

あと5分。

攻めれられる回数は1回が限度。

私達は、勝たなければいなくなった。

果たせなければ、死ぬ。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。