「……マジで言ってる?」
「どういう風の吹き回しだ。負けなきゃいかなかったんじゃなかったのか」
「真逆の指示来てんじゃねえか……」
「恐らく、フィフスセクターの威厳を示しておきたくなったんでしょうね」
「と、言うと?」
「フィフスセクター直属のチームが負けては、雪村くんが組織に加入するメリットに疑問を覚える。そんなところでしょう」
「それ、最初から気付かなかったのかなぁ……」
至極真っ当な意見ね。
まったく。
面倒な上層部だわ。
「でも、あと5分でしょ?余裕でしょ。だって、アリアいるし!」
「……」
全員がチェンファの発言に微妙な顔をする。
アリアだけが「そうだな。余裕だ」と同意してる。
これ以上アリアには頼りたくないのだけれど、そんなことも言ってられないかしら……。
私は、顔を見合わせるアスカとサエに気づかなかった。
「ねえ。私達も一応攻撃参加していい?アリアが決めるにせよ、勝たなきゃいけないならオフェンスは全員攻撃前提っしょ」
「え、えぇ。もちろん。助かるわ。出番は……ないかもしれないけど」
「やってみなきゃわかんねえだろ。って相手から得た教訓だな」
「えっ?」
サエが何を言ってるのか理解できず、彼女を見ると、アスカと何やら手首を合わせていた。
なぜ気合を入れてるのかしら。
やたら張り切ってるように見える気がするのだけれど。
理由を探る時間はないわね。
「とにかく作戦を立ててる時間はないわ。リアルタイムで王者のタクトを飛ばすから従ってちょうだい」
「私は自由に突っ込んでいいか?もう奴らのディフェンスは大体わかった。もはや相手にならん」
「わかったわよ。好きになさい」
「よっしゃ」
アリアが柔軟した。
自信満々なのが今は嫌になるわ。
普段は頼もしいのに。
「王者のタクト!」
「おっ。私から?ほっ!」
「……?」
アスカのトラップを見て私は違和感を覚える。
そういえばこの試合、彼女のトラップを見たのは今のが初めて。
前半はタクティクスに参加して他は何もしてなかったし、パスを受け取ってたのはミクだから。
心なしか、アスカのトラップ技術が僅かに向上しているように思う。
気のせいかしら。
「サエ!」
「おうよ!」
アスカの近くにいたサエに繋ぐ。
そういえば、サエがこの時間までバテてないのは初めてじゃないかしら。
試合内容に関わっていなくても、いつも走ってるだけで疲労困憊なのに。
今日はまだ余裕があるように見える。
終盤まで私のゲームメイクについてこれる。
この子達、まさか……。
「サエ!アスカ!サエ!」
「何?」
「シズク……?」
アリアとミクが違和感を覚えて私を見る。
私はアスカとサエにだけ指示を飛ばし続けた。
2人しか動かしていないのに、恐ろしいほどパスが通るしボールを運べる。
これには白恋も。
「コイツら……!」
「特別早いわけでも、速いわけでもないのに……!」
「なんで止められないんだ!」
「ライン下げろ!入り込まれるぞ!」
大混乱。
サエはパスが早いし、アスカは足が速い。
でも、交互にやり取りするとそのスキルが隠れる。
2人だけで攻めてるからそのような効果が生まれる。
そして、この連携はここまできて初めての攻撃パターン。
まさかのラスト5分で初見の動きを見極めることは、白恋には困難……!
「いける。いけるよ、サエ!」
「よっしゃあ!このままいくぜ!」
「あいつら……!こっちはあそこから追いついたのに、この土壇場でなんでここまでのパフォーマンスが発揮できるんだ……!」
後から追いかける雪村くんが焦る。
彼女達の勢いは、止まらない……!!
「ゴール前まで来た!やった!凄い!」
「アスカ!」
「うん。ヴァルキリー・アタックはまだ習得してないし。アレやるよ、サエ……!」
「"アレ"……?」
二人の間でだけ通じてる。
アレとは。
私は、知らない。
いえ。
アリアを見ても、ミクを見ても他を見ても知らない。
ミクは首を振っている。
誰も知らない。
あの子たち、やっぱり……!
「王者のタクト。決めなさい、2人とも……!」
「……!さっすがー!」
「ハッ。バレバレかよ。適わねぇ、な!!」
そのまま決めろと指示を出すとサエがシュートを撃った。
いえ、シュートではない。
前方にはアスカが。
既にペナルティエリア手前に。
これはパス。
それをアスカは……後方に、蹴り戻す!
「サエに戻すのか!」
「いえ、違うわ」
「そそっ。これは……"私から私への"パス!」
「なっ……」
白咲くんが絶句する。
アスカは常人離れの行動を取った。
自分で放ったシュートに回り込んでまたシュートを放つ。
コントロールが悪いから明後日の方向に飛ぶけど、それにも回り込んでまた適当な方向に全力で蹴る。
それを繰り返す。
何度もシュートを撃ち込まれるボールには、エネルギーが蓄積する。
なるほど、私のジャッジメントブレイクから着想を得たのね。
そして、あれを平面でやっている……!
「でりゃ!でりゃ!でりゃでりゃでりゃでりゃでりゃ!!」
『"覇王・ザ・ブレイク"!!』
サエが最初に闇のエネルギーを込めて、アスカが時間をかけて光エネルギーを打ち込み続けてサエのエネルギーも増幅させる。
その作業が終わったら間髪開けずにアスカが描いてた円の中にサエが飛び込んで、二人で同時に巨大エネルギーを完璧にミートし、ゴールへのコントロールを実現する。
2人技の必殺シュートは白恋ゴールへと、真っ直ぐ向かい……そして!
「待て、話が違う!雪村が覚醒したらお前たちはわざと負けるんじゃ……!」
「あっ。伝えるの忘れてたわ。ごめんなさい」
「クリスタルバリア!ぐっ……ぐあああ!?」
「よっしゃーーーーーー!!」
「しゃあっ!!」
2人してゴールに背を向けてガッツポーズを振り下ろし、吠える。
同時にホイッスルが鳴り、試合終了。
結果は。
白恋中 4 - 5 ヴァルキリア
私たちの勝利!
それもアリアに頼らずに、決勝点を決めた!
「アリアも、シズクも、ミクの力も要らない!私達は、自分の力で生きていく……!自分の力で生き残るんだ!!」
「気持ちいいぜ、"自己成長"……!!」
ハイタッチする2人。
その後ろには―――"化身の兆候"!!
「あいつら……!」
「……!……」
アリアとミクと、私が気づいた。
才能の開花。
祝福されるべきこと。
でも、私は……一瞬感じた興奮がすぐに冷めた。
視線を落とした。
化身を発現させるのは、彼女達の生存率を上げるから喜ばしいことではあるけれど、同時に……フィフスセクターやゴッドエデンに更なる試練を強いられることになるから。
そんなこと当然当人達は露ほども知らず。
興奮した駆け足で戻ってきて、チェンファの隣を通過する。
「……いいな。私も……あんなふうに……」
チェンファは自分と同じ立場だった彼女達の躍動に、静かに胸を踊らせていた。