―――時は、10分前に遡る。
「魔狼 アモン……!」
化身を出して中央突破を試みる。
パッと見渡した感じ、この処刑は試合方式。
見上げればスコアが付けられてた。
今は。
ドラゴンリンク 3 - 0 アンリミテッド・シャイニング
思ったより点差がない。
多分目的が勝つことじゃなくて白竜くんを傷つけることだから。
点数も勝利のための1点以外はアンリミテッド・シャイニングのメンタルを削るために入れた得点だと思う。
なんでこんな事を分析してるのかっていうと、この状況を打開する為のゴールを模索してるから。
勢いで助けに来たし、最初は無策で挑んじゃったけど。
具体的にどういう結末になったら彼らを救えるのか、まずはそれを解明する。
まず、試合に勝つに越したことはない。
点を入れられてこっちのメンタルが崩れたのなら、逆説的に向こうも負ければ多少は動揺するはず。
だって、それだけ自信があるから"最強"なんて名乗ってるんでしょ?
でもこれは絶対じゃない。
勝つだけじゃ揺さぶりにしかならない。
皆を救えない。
この展開の勝利条件は……
「1人でも多く、無力化すること!」
「……!こちらへ向かってくるだと?ならば……!」
最初は訝しんだけどすぐに切り替えて不敵に笑うフォワード。
多分、聖城くんって子かな。
チーム名はドラゴンリンク。
11人全員が化身使い。
ということはつまり彼も……!
「はぁぁー!精鋭兵 ポーン!」
「勝負だ!」
化身を使ってくるのはわかってた。
だから、こっちもはなから化身を出した。
あとは……打ち勝つのみ!
「……っ!」
「……っ!」
ぶつかり合う化身。
私達の衝突が、また化身パワーのエネルギー波を生みゴッドエデンに繰り広げられる。
私と聖城くんは競り合う。
やってみた感じ……正直、いける!!
「でやぁぁぁーーー!!」
「ぐっ……!こいつ!何だこの馬鹿力は……!」
「……!」
聖城くんが顔を顰めて徐々に圧される。
そうか!
私のパワーは通用するんだ。
これなら……!
「いける!」
「くっ……!……フッ、そいつはどうかな?」
「……!?」
全く対抗できてなかった聖城くんがニヤリと口角を上げた。
その瞬間、背後に気配が3つ。
『精鋭兵 ポーン!!』
「……っ!」
同じ化身が三体出現した!
そうか。
このチーム、フォワード4人もいるんだ……!
しかも当然全員化身使い。
前線で4体を確定で相手しなきゃ行けないチーム。
厄介な……!
「後ろは取らせない!何人がかりでも、負けるもんか……!」
「ハッ。ドラゴンリンクを舐めるなよ……!」
「……!」
聖城くんを後回しにして、3人のフォワードを迎え撃ちにいったけど。
そりゃもちろん自由にした聖城くんも後ろから追いかけてくるよね。
3体と1体による挟み撃ち。
知ったことか!!
私のパワーで3体の方を蹴散らしてから、聖城くんも打ちのめしてやる!!
「数が多い方に突っ込んでくるとは……!」
「愚かな」
「返り討ちにしてやる!」
「……っ!!」
3人のフォワードが一気に私を取り囲み、衝突を狙って突進してくる。
逃げ場はない。
逃げるつもりもない!
全力でぶつかる!
迎撃する!
「いくぞ!でぇぇぇや!!」
「ふん……!はぁぁー!!」
激突!
化身バトル、大合戦!
精鋭兵ポーンがアモンを取り押さえる。
「……っ!」
「ふん。4対1では一溜りも―――」
アモンがポーン4体に覆いかぶさられたのを目にして、さっき言い合った相手のキーパーがガッツポーズを見せた。
彼がキャプテンマークつけてるね。
名前は……千宮司くんだったか。
「ぐっ……!こいつ!」
「余所見だと!余裕見せやがって……!」
「おい!そんなこと言ってる場合か!ちゃんと抑えろ!」
「化身が4体もいてなんで抑えるのに手一杯なんだ!」
なんか私を抑えたフォワード4人が口々に言ってる。
流石に化身4体もいたんじゃ身動きできない。
けど、精一杯抵抗したらグギギ……とアモンが押さえつけられた状態から上体を起こしつつある。
多分、私のパワーを完全には押さえ込めてない。
私がちょっと勝ってるんだ。
その光景を見て千宮司くんも動揺する。
「馬鹿な……!?化身4体だぞ!?」
関係ない!
こんな奴ら……!
「はぁぁぁぁぁーーーーーっ!!」
「ぐあっ!?」
「何!?」
「こいつ……!」
「なんだ!?」
「4体の化身を吹き飛ばしただと!?」
私は自らを開放した。
ポーンを全て振り払い、アモンが吠える。
向こうは驚いてるね。
まあこれ、火事場の馬鹿力とか気持ちが入ってるとかじゃなくて、計算しての攻略なんだけど。
彼らは全員化身使いで、確かにその特性は凶悪。
でも、私が現れるまでに前半まるまるはあった。
それはつまり45分間白竜くんの相手をした後ということ。
彼の化身と戦ったら、いくらフィフスセクター最強のチームでも、化身が11体いてもかなり体力が削られてるはず。
そう睨んだ!
結果は予想通り。
特にフォワードなんかはガタガタ。
下がった出力、耐久力なら4対1でも私のパワーに分があるってわけ……!
「いける!」
「調子に乗るな!魔宰相ビショップ!!」
「鉄騎兵ナイト!!」
「……っ!!」
ミッドフィールダーの2体!!
ドリブルで突き進むけど私の足取りはおぼつかなくて遅い。
余裕を持って2人に進行ルートを阻まれてしまう。
だけど!
「力の限り突破する!それだけだ!でやぁぁぁ!」
「ぐはっ!?」
「……っ!なんてパワーだ、こいつ……!」
2人のミッドフィールダーが顔を顰めて吹き飛び、尻もちをつく。
化身も引っ込んだ。
よし!
タックルしたら突破できた。
やっぱり少なくとも今の状態の彼らなら、私のパワーは通用する!
このままゴールまでいける!
ドリブルで2人を通過する。
しかし。
「魔宰相ビショップ!」
「鉄騎兵ナイト!」
「……っ!あぁ、もう!また!!」
撃破しても撃破しても次々出てくる!
鬱陶しい!
私のパワーでさっきの6人は少しダメージを受けたみたいだから、これを続けて全員行動不能にする。
けど、6人突破してわかった。
いくら相手が疲弊してても化身をこんなに連続で相手にすることなんてない。
めっちゃ消耗する!しんどい!
それでも……!
「このまま攻略するしかない!」
「馬鹿め。そう何度も……!」
「ワンパターンなんだよ、お前!」
「……!」
2人が足を振りかぶった。
まさか……!
「くらえっ!」
「くっ……!うわぁ!?」
化身の素振りキックのエネルギー波、風圧を2人分くらった。
私は堪らず吹き飛んだ。
白竜くんの目の前まで転がる。
「長門……っ!」
「まだまだぁ!!」
「おい……!」
私は制止を聞かず、すぐに体勢を立て直して化身を出す。
そして、また地を蹴り、彼らへと挑む。
「なんだ?こいつ」
「タフネスか。面倒な」
「女にしては珍しい」
「何度立ち上がろうとやることは変わらない」
「叩き潰すのみ……!!」
またしても大量の化身が視界いっぱいに展開される。
怖い。
歯を食いしばる。
唇が震える。
でも、私の足は止まらない。
速度を緩めない!
「でやぁぁぁぁ!」
「化身のパワーをあれだけ受けてここまで元気とは」
「面白い。ならば……!」
「化身アタックを仕掛ける!!」
「おう!」
"化身アタック"……?
何かと思えば、何故かフォワードが左右に広がり、道を開けた。
私が見渡し困惑しながらドリブルで突き進むと、ニヤけるフォワード陣。
待ち構えるのはミッドフィールダー4人。
……そうか!
「しまっ……!」
「今更気付いても遅い!」
「これでお前は我らの包囲網の中」
「袋のネズミだ!」
「朽ち果てろ、要塞女!!」
「……っ!!」
彼らが一斉に飛んだ!
8人で一気に私のボールに目掛けて片足を突き出し突っ込んでくる!!
「うわあああああ!?」
「長門!!」
私はボールと共に空へ投げ打たれた。
白竜くんが叫ぶ。
そして、重力に従って受身など取れずにボールと一緒に地面に叩きつけられる。
そこに……!!
「くらえっ!!」
「うわぁ!?」
横に伏せてるところに腹めがけて全力の化身シュート。
しかもほぼゼロ距離。
ボールと一緒に私も放たれて何度か同じ向きで跳ねて、ドサッと倒れる。
「くっ……!かはっ!?うぅ……!」
「起きろよ、女。まだまだお楽しみはこれからだ……!!」
「うわぁ!?」
今度は蹴り上げられた!
痛い!辛い!息ができない!
涙が止まらない。
感覚が鈍くて重い。
「もう一撃!」
「……っ…………ぁ!」
空中に浮遊してる間、もう1発化身シュートをぶち込まれた。
唾液と声にならない声が掠れたように出る。
耐えきれない、死を感じる限界の衝撃を受けた。
すぐに感覚が戻って痛みと吐き気、血の味が喉の奥で刺すように充満する。
気持ち悪い。
しんどい。
もうやめてほしい。
こんなことなら帰っていつもの冷たい寝床で身体を休めればよかった。
気付かないふりして、そうしていればどれほど幸せだったかな。
「……っ!」
ダメだ。
後悔なんてしてない。
私は私の意思でここにいるんだ。
強い思いを持ってこの選択をしたんだ。
だから……!
こんなことで折れたりなんか―――
「意識は戻ったか?一瞬飛んでいたぞ」
「これからがお楽しみだ。まだ寝るなよ?」
「~~~~~っ!!」
顔を上げたら、私より体ひとつ分高く跳躍していた2人組。
私の頭上にはボールが。
嘘でしょ?
ははっ、と苦笑いが零れる。
すぐに現実味を覚えて絶望に変わるけど。
「やめ……っ!」
「やめるわけがないだろう。馬鹿め!」
「ぐああっ!?」
「おっと。こいつもだ!」
「……っぁ!!」
魔宰相ビショップに上からシュートを叩き込まれて、私の身体に弾かれたボールが鉄騎兵ナイトに渡った。
そして、ナイトも私を下から弾丸を浴びせる。
未だ空中。
そこにどんどん加わる。
「オラッ!」
「ぐあっ!?」
「今度はこっちだ!」
「うわああ!!」
「もっと楽しませろ!女!!」
「かはっ……!?」
さらに3体の化身に連続で嬲られた。
上へ下へ。
最後は高所から地面に急転直下、叩きつけられる。
私の身体は一度大きく跳ねて、そこにもう一人駆け込んでくる。
「くたばれ!モルモットが!!」
「~~~~~~~~~~~っぁ……!?」
最後に腹に食らった青く鋭い直線の弾道。
凄まじい威力。
これ……鉄騎兵のナイトのギャロップバスター!?
「……っ!……っ!うっ……!かはっ!?」
地面を滑るようにアンリミテッド・シャイニングの陣地まで流れてきた。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!
さすがに吐血した。
……っ!痛いよ……っ!!
「ハッ。さすがに立ち上がれ―――ッ!?」
聖城くんが嘲笑を崩して瞠目する。
私が身を起こしたから。
「……っ!」
正直、折れそうって言うかもう心は折れてる。
それでもギブアップって口にしないのは使命があるから。
自分で決めた、成し遂げたいことがあるから。
負けない。
「アンリミテッド・シャイニングはやらせない」
「なぜそこまでする?」
「出しゃばらなければ痛い目を見なくて済んだものを」
「標的はアンリミテッド・シャイニング」
「お前ではない」
そんなの、決まってる。
「部外者じゃない。私だって、ゴッドエデンのシードなんだ……!!」
私の叫びと共に私の背から紫のオーラが天高く伸びた。
目の前に広がる大量の化身使いを前に、存在感を魅せる。
けれど、彼らも化身を出した。
それも全員。
11体の化身。
それを目の当たりにする私。
……私は圧倒された。
「……っ……ぁ!」
嫌な汗が大量に流れて、心が折れる。