「……っ」
目が覚めると、使い古された管制室のような場所だった。
起き上がると身体が硬すぎるし身体中痛いしでキツかったけど。
今度は一発で起きれた。
見渡すと……皆が私を見てる。
「私、どのくらい寝てた?」
「開口一番がそれか。体調はどうだ。視界はハッキリしてるか」
「あぁ、うん。多分」
目眩は収まったし、吐き気もない。
というか全体的にだいぶ回復してる。
1ミリも動きたくなかった時と比べるともう今は平常運転と誤認するレベル。
実際は今の状態でもボロボロなんだけどね。
まだ試合はできそうにないし。
とにかく死んだ方がマシみたいなキツイ状態からは脱却した。
「ここは?」
「ゴッドエデンは以前まで拡張工事を繰り返していた。この辺りはもう使われていない場所になるだろう」
「あー……あったね、そんなこと。そっか。その辺だったら時間稼げるかもね」
「……」
白竜くんが無言で私を見た。
言いたいことは分かる。
私が指摘したのは"時間稼ぎにしかならない"ということ。
この場所に逃げ込んだことがバレるのも時間の問題どころか多分かなり早く見つかると思う。
彼らがここに逃げ込むのが1番と考えたということは、逆説的にこの施設のことを知っていればそういう発想に至りやすいということ。
だったら上もそれを予測しやすい。
ただ、そんなこと100も承知で選んだんだろうね。
理由は1つ。
広いところで私の回復に専念したいから。
「ごめん。私のせいで」
「いや。もう既に言ったが、お前に尽くすのはメリットがあるからだ。優しさではない」
「優しいよ、白竜くんは」
「……」
膝をついて私と目線を合わせていた白竜くんが目を逸らす。
照れてるとかじゃなくて、視線を落としてるから自戒だと思う。
やっぱり彼は誇り高いし、プライドもあるから、利害や利益の為に人を助けることに思うところもあるのだろう。
それこそが優しさじゃない証拠だと思ってるんだろうけど……。
だとしても、そもそも私を助けたいと考えなければメリットにまで思考が回らない。
つまり視野を広く持ててるのは無自覚に私を見捨てられないっていう気持ちがあったんだと思う……多分。
私は充分、優しいと思うけどな。
まあでも普段あんな感じでツンケンしてプライド高め故に吐き捨てるから、他の人はわかりづらいかも?
「……くだらん事を考えてるな」
「あははっ。なんやかんや長い付き合いだもんね」
「ふん」
私の元気が戻ったのを確認できたから彼は立ち上がって少し離れた。
背を向ける白竜くんは置いてといて、皆にもお礼言わないと。
「皆もありがと。私を助けること、賛同してくれて」
「……先に助けたのはそっちのくせに」
青銅くんがボヤく。
他のみんなから返事がないけど、顔は動かしてる。
大丈夫、私には伝わってる。
「これからどうするの?どういうプラン?」
「まずはここから去る。お前の回復を待つ為だけに留まっていただけだ」
「そうなんだ。次はどこに移動するの?もう行こうか」
「いや。ここには救急箱がある。まずは手当をしてから行く。次は……後で話す」
「了解」
私は頷いて立ち上がる。
青銅くんがはい、って私に救急箱を渡してくれた。
ありがたい。
正直救急箱でどうにかなる外傷だけじゃないけど仕方ない。
贅沢は言えない状況だし、どのみち見えないところの方が状態が酷い。
だから、今は外傷だけ完治するのと応急処置と大差はない。
「……?あれ?」
私は違和感を覚える。
受け取った救急箱が重かったから。
顔を上げて青銅くんを見る。
「これ、誰か使った?」
「使ってない。これしか見つからなくて物が限られてるから、重症の長門から使った方がいいって白―――」
「余計なことは言わんでいい!」
ビックリした。
急に白竜くんが大声出すから。
なんか青銅くんが珍しくニヤついてるし、白竜くんは向こう向いちゃって耳真っ赤だし。
……まあでも、せっかくの気遣いは受け取っておこうかな。
「ありがとう。じゃあ有難く使うね。……あの、皆も向こう向いてくれると嬉しいなぁって思うんだけど」
そう言ったら全員全力でそっぽを向いた。
さすがに服脱がなきゃ手当できないくらいの重症だしね。
包帯とか巻けないし。
……いや、脱いだら凄いな。
ちょっとグロテスクすぎてモザイクかかるくらいやばいわ。
うわっ、胸の下青くなってるし血色悪ぅ……。
ってことは私、頭とか顔とかも酷い有様だろうなぁ。
鏡ないからわかんないけど。
……ていうか。
「ご、ごめん。気まづいだろうけど白竜くんと青銅くんにお願いしてもいい?ちょっと届かないところあって……」
「……いいだ、いいのか?」
「うん。仕方ない。状況が状況だし。不可抗力でしょ」
協力してくれないと応急処置もできないから多少色々見られても文句は言わないよ。
やってくれなきゃ命にもかかわるし。
外傷の度合い的に傷で死ぬ訳じゃないんだけど、手当して多少は傷を治さないと次の戦いで弱くて死ぬ。
指名したのは……なんとなく、せめてよく知ってる人がいいなと思って。
信頼度って大切。
「うわっ。グロ」
「だよね」
恐る恐る振り返った青銅くんの第一声、それなと思った。
私は苦笑いして彼に寄ってきてもらう。
……白竜くんは、まだ遠くにいて背中を向けてる。
「ごめん。嫌かもしれないけど白竜くんも協力してよ。私、まだ腕上がらなくて……あっ、でも無理強いはよくないか。もう1人、誰でも―――」
「振り返る前に、先に謝っておきたいことがある」
「えっ?」
背中で語る白竜くんに、私は困惑して同じく疑問に思った青銅くんと顔を見合わせる。
二人で白竜くんの背中を見つめる。
「……お前を抱える時、女1人などと見下した発言をしたことを謝罪する。お前は強い。プレイヤーとしても。そして、何より……精神的に」
見えないけど、彼が長いまつ毛の下で視線を落としているのがわかる。
きっと彼の美貌なら儚げであろうその姿は……背中が小さいせいでらしくなく映る。
白竜くんが私を褒めるなんて、もしかしたら凄く精神的に追い詰められてるのかもしれない。
そりゃそうだ。
究極のアンリミテッド・シャイニングが完膚無きまでに蹂躙されるなんて……私も信じたくない。
「プレイヤーとしてもってことはないでしょ。長門だよ?」
「青銅くん?ちょっと黙ってられる?」
「それもそうか」
「おい」
冗談だ、と白竜くんは少し笑った。
でも、笑みほんとに小っっっさい。
ホント、相当参ってるんだろうなぁ……。
「お前はプレイヤーとしてもかなり成長した。奴らとあそこまで渡り合えるんだ。誇っていい」
「それは白竜くん達が戦った後だからだよ。奴ら、皆消耗してたし……全快だったらわからない」
「そうか。だとしてもあそこに飛び込んでくるのは大した度胸だ。お前は男になど助けてもらわなくとも、生きていける。強い女だ」
「あはは、白竜くんに褒めてもらうってこんな嬉しいんだ。初知り。私、前より結構良い女になったでしょ?」
「いや。良い女ではない」
「ないんかい」
フッと口角を上げて、やっと振り返った白竜くん。
私の身体を見て一瞬悲しそうにしたけど……近寄ってきてくれた。
「あとさっき言ってたこと、気にしなくていいよ。私も言われるまで気づなかったし」
「なに?気にならんのか」
「価値観に縛られすきじゃない?そんなもんだよ」
駄べりながら白竜くんの介抱を受ける。
縫わなきゃいけない傷とかはどうしようもないけど、擦り傷とか青タンくらいは処置した。
2人とも、手当してる時の表情が凄い複雑そうだったけど、私が選んだ道だから本当に気にしなくていいんだよ。
女の子の身体だからってそんなこと思われる方がさっき白竜くんが言ったことより嫌かな。
私だって、ゴッドエデンのシードつもりだし。
「……うん。大体いけたと思う。サッカーするにはもう少し休みたいけど、とりあえず動けはするからここから逃げよっか」
「もう少しここにいてもいいんじゃない?」
「いやいや。ね?白竜くん」
「あぁ。ここはすぐに追っ手がくる。長門が最低限動けるなら移動する」
「そうだけど……」
「なになに?それとも青銅くんは私の裸に夢中で動けなくなっちゃったのかにゃ?」
「裸?……あぁ。裸か」
「いや、本気で忘れてたみたいな反応やめて」
結構恥ずかしいボケだったのに、皆の痛い視線がキツイんですけど?
まあ青銅くんの思い遣りは嬉しいけどね。
少なくとも私の腕が上がるようになるくらいまでは待ってあげようって思ってくれてたんでしょ。
嬉しいね。
でも、ここに長居はできない。
服を着て、布団にしてたボロいカーテンで身体を包んで傷を隠した。
そうして私達はボロボロの身体で、まるでネズミのようにゴッドエデンの中をコソコソと移動する。