松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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「聖獣シャイニング・ドラゴン!」

「精鋭兵ポーン!」

 

攻め方はもうこれしかない。

白竜くん、青銅くんの化身に先陣を切ってもらって、私と帆田くんが続く。

 

「無駄だ。お前たちの化身は基本2体」

「我々の化身は11体。加えて、化身が使える時間は限られている」

「お前達は次期に限界を迎える」

「一方的な状況になるのも、もはや時間の問題だ」

「くっ……!」

 

ナイトとビショップに囲まれた白竜くんが顔を顰める。

隙を見つけようと周囲を見渡した。

逆にその視線移動が命取りとなる。

白竜くんが見渡すということは、その動きの中で死角が生まれる瞬間がある。

彼が右サイドにキッ……!と目を向けた時、その背後から。

 

「もらった!」

「しまった……!」

 

咄嗟に反応して奪われるのは阻止したが、相手も白竜くんの反射能力は予測済み。

スライディングでカットされて、ボールは転々と右サイドへと流れていく。

その先に。

 

「……!?」

 

ボールは私の元に転がってきた。

白竜くんと青銅くんが中枢まで来たのを確認して、右サイドから前線に上がろうとしていたら、まさかのラッキーボール。

けど、正直有難くない……!

右サイドにはポツリと私だけ。

しかも、ボロボロで動きが硬い身体に、小手先の技術力も低い私。

つまり、ボールを奪うなら私が一番格好の獲物。

そして、それをドラゴンリンクが理解していないわけがない。

ボールの行方を認識した瞬間、ドラゴンリンクの化身使い達が格好の獲物だと言わんばかりにギラつき迫る。

 

「長門……!」

「……っ!」

 

白竜くんが私の名を呼ぶ。

別に君のせいじゃない、仕方ないし君は悪くないって言ってあげたいけどそんな余裕はない。

向かってくる化身は6体。

即座に化身を出して迎え撃つ!

 

「……っ!来い!」

「寄越せ、くたばり損ないが!」

 

ボールを挟んでアモンとポーンがぶつかり合った!

ポーンの後ろからナイトが向かってくる……!

 

「長門の元には行かせん!この俺を振り切れると思うか……!」

「こいつ……!」

 

白竜くんのマークを放棄してこっちに来たミッドフィールダーを。

3体の化身に抑えつけられていたシャイニング・ドラゴンが、ナイトやビショップを引きずりながら腕を伸ばし、アモンを目前としていたナイトを背中から叩きつける。

 

「こいつ……!」

「4人がかり、化身が4体いるというのに……!」

「どこにそんな力が!」

「ぬぅ……!ぬっ……!おおおぉぉぉーーー!!」

 

シャイニング・ドラゴンを止めよう、引き戻そうとする化身達に引っ張られるも白竜くんは引き下がらない。

踏ん張りその場で堪えて、私の元に化身が行かないように決死の思いで踏ん張ってる。

鬼気迫る険しい表情で唸りを上げながら、相手のその先に、私を瞳に映す白竜くん。

シャイニング・ドラゴンも限界を超えているのか、鳴き声を轟かせている。

白竜くん、シャイニング・ドラゴン……!

 

「ならば、俺達が!」

「潰してやる。女!」

「……!」

 

ミッドフィールダーが全員白竜くんにせき止められているから、フォワードが戻ってきた!

精鋭兵ポーンが2体、私を目掛けて後退してくる。

 

その道を、同じく精鋭兵ポーンが阻む!

 

「行かせるか!長門はやらせない!」

「貴様……!」

「邪魔を……!」

 

青銅くん……!

2人が、私の為に身を張って助けてくれている。

化身使いを複数行かせたら、今の私じゃ対応できないとわかっているから。

相手にできないだけじゃない。

それだけの化身のエネルギーをぶつけられたら、私の身がもたない。

おそらく、この命が散る……!

 

「うっ、ぐ……!?」

「……!そうか。お前、もう脆いな?」

「~~~~~っ!」

 

私が対峙してるフォワードが私の様子を見て口角を上げた。

マズイ。

正直もう化身使い1人すらマトモに対抗できなくなってるのが見抜かれてきてる。

同時に、その洞察が正しいと自ら教えるようにアモンが消えかかる。

姿を保てなくなってる……!

 

「その女はもう限界だ!畳み掛ける!」

「……!」

 

ディフェンダーが上がってきた!

ルークとクィーンレディアが私目指して向かってくる。

マズイ、もう3体も相手できない!

 

「長門……!」

「長門!」

「……っ!」

 

私のアモンがポーンに圧され始めて、白竜くんが絞り出すように、青銅くんが顔だけ振り返って叫ぶ。

ダメだ、このままじゃ、ディフェンダーが来る前に……!

 

「フッ」

「……!」

 

私と競り合ってるフォワードが口元を緩めた。

それは確信。

次の瞬間。

 

「うわああ!?」

 

私は弾き飛ばされた。

アモンが消えて、ドサッと音を立てながら倒れ伏せる。

そんな私の姿を見て白竜くんが。

 

「長門……!ぐっ、おおおぉぉぉ……!」

 

『――――――――――――っ!!』

 

シャイニング・ドラゴンが包囲網を無理やり抜けようと身を乗り出すが、飛び出すのは頭部だけ。

千切れそうなその首に、悲痛の叫びを上げるシャイニング・ドラゴン。

その咆哮は、アモンを失い悲哀の表現にも聴こえる。

 

「今だ!トドメを刺してやる……!」

「……っ!魔狼アモン!」

 

ボールを奪ったのに、ポーンが私に迫る。

得点よりも私を潰せるチャンスを優先してるんだ。

目前まで接近して、シュートを零距離から放ってくる。

私もアモンを出して迎え撃ち、キックで対応。

衝突する。

けど。

 

「ぐっ……!」

「どうした。それで化身を出しているつもりか?」

「~~~~~っ!」

 

完全に私が圧されている!

アモンもなんとか顕現したけど、今にも消えそうだ。

何より力が入らない。

ダメだ……!

 

「ふん!」

「うわっ!?」

 

少し力を加えられただけで弾き飛ばされてしまった。

私は尻餅をついて、アモンもまた消滅する。

顔を顰めて、目線を上げると。

 

「おねんねには早いぜ」

「~~~~~っ!」

 

容赦なく距離を詰めるフォワード!

しかもディフェンダーの2人もかなり接近している。

腰を下ろしてなんて、いられない!

 

「魔狼アモン……!」

 

私は化身パワーを絞り出し、アモンを具現化する。

しかし、アモンは出なかった。

慌てて振り返る。

 

「えっ……!?」

「遂にガス欠か!」

「長門の化身パワーが尽きた!ヤバい!」

 

マズイ、マズイマズイマズイ……!

早く出さないと!

 

「魔狼アモン!魔狼アモン!魔ろ……っ!」

 

出ない。

出ない……!

最後にはもう名前を呼んでも、紫のオーラすら出なかった。

無理に出そうとしたからその反動で片膝と片手をつく。

倦怠感が凄い。

完全に化身パワーが空っぽになった……!

 

「馬鹿め、終わりだ!」

「……っ」

 

しんどすぎてもう身を起こすこともできない。

肩で息をしながら、目線だけ上に向けて相手との距離を把握する。

フォワードもディフェンダーももうそこまで来てる。

私は動けない。

無防備で無気力。

今の身体の状態で何の防御もせず化身の攻撃を受けたら、間違いなく……!

 

「このままじゃ長門が殺される!嫌だ!長門!!」

「お前達!邪魔だ、どけ!長門……っ!長門ぉ!!」

「……!」

 

視界に入ってないけど、朦朧としてる意識の中、白竜くんと青銅くんが必死に叫んでくれてるのがわかる。

でも、ごめん。

もう顔を上げることすらできないや。

 

「起きろ!立て……!」

「諦めるな、長門未来……!」

「~~~~~~っ!」

 

帆田くんと蛇野くんも鼓舞してくれてる。

だけど、動かない。

動けない!

皆の気持ちを受け取っても尚、応えられない。

実はとっくに傷は開いてて、ずっとジワジワと前回の試合のダメージが浸透してた。

そして、限界は二度超えた。

もうこれ以上の無理は通らないみたいで、身体が本当に最後の限界を迎えてるのがわかる。

だって、こんなに状態が酷いこと、今までなかったから。

これまでで最もボロボロなんだ。

ここからは這い上がれない。

 

「―――っ」

「……!」

 

見なくても、白竜くんが瞠目し、少し拍子抜けしたのを感じる。

私が脱力したから、私が諦めたのを察して驚愕してる。

彼はきっと最後まで私に期待してたんだろう。

長門はいつだって、崖っぷちのその瞬間まで何かを魅せてくれるって。

化学反応があるって。

でもね、白竜くん。

もう崖からとっくに落ちてるの。

また登ってただけなの。

だから……限界が来たら、落ちるしかない。

 

「さぁ、トドメだ!」

「手こずらせやがって、終わりにしてやる!」

「お前に受けた痛み、返してやろう……!」

 

化身使い3人のシュートが迫る。

それをくらったらきっと死ぬ。

それでも、私は項垂れたまま。

運命を受け入れる準備はできてるから。

これまで、何度も死にそうになった。

私は今までたまたま生き長らえただけ。

きっとここで死ぬのが運命なんだ。

だから、受け入れて―――

 

「うあああああああああ……っ!ウルフボルケイノ!!」

「……!」

 

白竜くんが目を見開く。

私は火事場の馬鹿力で無理やり起き上がって、激痛に耐えながら意思だけで、硬くなった体を動かす。

名前は叫んでるけど、やっとの思いで出せたのはちょっと足を突き出しただけ。

緩い空振り。

ウルフボルケイノが烈火のごとく芝を焦がす炎は、一切表現できていない。

それでも。

まだ諦めたくない。

 

死にたくない……!

 

「無駄だ!もはやお前に、抵抗する力は残っていない!」

「だから、どうした!まだ死にたくない!死ぬのは、嫌だ!」

 

最後まで諦めない。

その瞬間を迎えるまで、抵抗する。

それがゴッドエデンのシード。

私はずっと、1人でそうやってきた。

今度も1人で乗り越えるんだ……!

 

「長門……!」

「……っ!」

 

化身3体によるシュート。

それに立ち向かう。

けど、すぐにわかった。

私の感覚が、告げている。

危険信号が灯っている。

死が、迫っていると―――。

 

「……ぁ!嫌……誰か、助けて……っ」

 

私が急ブレーキをかけて逼迫した表情で恐怖を顔に浮かべると、千宮司くんが嬉しそうに笑い拳に力を入れた。

白竜くんが現実を直視したくなくて、眉間にシワを寄せて目を逸らしている。

青銅くんが泣いて叫んでいる。

 

終わった。

 

私の命が散る。

運命が確定する。

そう、誰もが決めつけたその瞬間。

 

 

―――ライメイが、轟いた。

 

 

「うわっ!?」

「なに……!?」

 

突如、私とシュートに割って入る……

"落雷"っっっ!!!!

シュートの威力は殺され、千宮司くんが瞠目する。

 

「馬鹿な……!?」

 

ようやく厄介な乱入者が消えると、愉悦に浸っていた彼のその願いを、幸福を打ち砕く青い稲妻。

フィールドに電流が駆け巡り、大きな影が放電しているのが見える。

身を起こすそれは、"雷魔神"。

 

「バアル……っ!」

 

私は涙と笑顔を浮かべて、堪らなくなりながらその名を叫ぶ。

その呼び掛けに応えるようにバアルは私を一瞥して頷き。

彼は、剣を振り下ろす。

 

「うわああ!?」

「なっ……!」

 

精鋭兵ポーンを斬りつけた化身、バアル。

彼はすぐに他の標的に目を向ける。

その目標とは、突如現れた化身に目を奪われ唖然としている護巻くんの化身。

さすがはドラゴンリンク、特に護巻くんは狙われてると即座に気付き、一瞬で我に返った。

 

―――それすら、"遅い"。

 

「がはっ……!?なん、だと……!」

「は!?何が……っ!俺が認識できなかっただと!?」

 

やられた本人の護巻くんはもちろん、千宮司くんも瞬く間にやられたクィーンレディアに動揺した。

だが、それすらも過去の事象。

バアルはすぐに次に目を移して、ルークを剣で薙ぎ払う。

 

「ぐああっ!」

 

目の前で3体の化身があっという間に淘汰され、景色が拓けた。

スッキリした視界にただ1体。

残ったのは、雷魔神バアル。

 

「……っ」

『……』

 

白竜くんも揺れる瞳で化身を見上げ、彼はその視線に目を合わせる。

でも、すぐさま顔の向きを戻して、バアルは剣を私の前に突き刺した。

 

「……!」

「……っ!」

 

私も白竜くんもバアルの意図に気づいて目を見開く。

バアルは大きな身体をゆっくりと動かし。

私の身を隠すように。

私に繋がる道において、私以外の全てを前に立ち塞がる。

まるで、私を守るように。

 

「なんだ!?あの化身は……!」

「何者だ?」

 

千宮司くんが突如現れたバアルに瞠目し、護巻くんが身を起こしながら苦痛に顔を顰め、訝しむ。

彼らが視線を向けるバアルの出現元、つまり彼の元を辿ってもその足元は未だ粉塵に隠されたまま。

だけど、僅かに人影が1人分見える。

だというのに煙からもう1体紫のオーラが上空へと伸びた!

 

「……は?」

「……っ!奴か!」

 

もう1体の化身が形作られていく光景に、白竜くんだけが乱入者の正体を看破する。

しかし、白竜くんを取り囲んでいた4人の化身使いは、乱入者は1人だけのはずがもう1体化身が出現しようとしていることに理解が追いつかず、唖然とする。

ただ呆然と見上げる彼らの前に姿を見せるのは……"黒い皇帝"。

漆黒の化身!

 

「―――"虚無魔神 ベリアル"」

『……!』

 

ようやくその化身使いの声が、静かに響く。

彼女の化身・ベリアルはその身体を敵に捕まっているシャイニング・ドラゴンに向ける。

仲間のピンチを救わんとする視線で見つめ、その瞳が煌めき、威圧感を放つ。

 

「なっ……ぁ……!」

「なんなんだ、この化身は!?」

「1人の人間が、化身をに、2体……!?」

 

完全に混乱。

証拠にシャイニング・ドラゴンの拘束も少し緩くなる。

ベリアルはビショップやナイトを怯ませた瞳で、目敏くその隙を捉えた。

 

「お前たち!そいつから離れろ……!!」

「えっ」

 

千宮司くんの叫びにハッとする者、まだ認識できていない者、その全てを。

皇帝は逃がさない。

千宮司くんの声に反応して彼を見たその瞬間!!

 

「ぐあっ!?」

「うわああ!」

「……っ。ナイト!ぐっ……!な、なんだ!?こいつ強―――」

「……!よし!」

 

1体だけ反応できたナイトを含め、ベリアルがシャイニング・ドラゴンにまとわりついていた化身を一掃した。

シャイニング・ドラゴンは解放され、再び自由を得る。

包囲網から抜け出した。

化身はまだ1体いる……!

 

「こいつ……!よくも!いけ、鉄騎兵 ナイト!」

『……』

 

白竜くんのマークから離れ、私を狙ってきたナイト。

それがベリアルに迫る。

けど、ベリアルは微動だにしないどころかナイトに目すら向けない。

 

なぜならナイトの背後に雷を纏った剣が舞い降りるから。

 

「ぐあっ!?バカな、もう1体の……!」

「……っ。同じ意思で2体が動くのか!!」

 

ミッドフィールダーが宙に舞って、一連の動きを見た千宮司くんが2体の化身を使える人間の特質を理解する。

ただ2体使えるというだけではない。

1人の人間がその意思で操れる化身が複数いると、こういうことも出来るのだ。

そして、例え化身を2体有していてもそれを実際に実行に起こせるほどの器用さを持つサッカープレイヤー。

 

そんな人物に該当するシードは、このゴッドエデンにたった1人しかいない!!

 

―――煙が、晴れる。

―――それは、焦がれた人。

―――私の親友。

 

空色の髪に、透明感のある美形。

彼女が、私と千宮司くんに振り返る。

 

「貴様ぁ……!また乱入者か!誰だ!?」

「陸奥雫。所属、ヴァルキリア」

 

シズク……!!

 

「私が来たわ。さぁ、形勢逆転といきましょうか」

 

化身を7体薙ぎ倒した彼女は挑発的に笑みを浮かべ、フィールド全体に宣言する。

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