「す、凄い……」
目の前で起きた光景に、青銅くんが唖然とする。
完全にフォワードの相手を忘れてるが、問題ない。
なぜなら彼らもまた新たに現れた2体の化身に驚いて固まっているからだ。
瞬きの間に、フィールドから7体の化身が消えた。
全て1人がやったことだ。
「……奴は前回より2体の化身を上手く扱えるようになっている」
「白竜くん」
事態が急変し、場は混乱。
その流れに乗じて白竜くんがこっそり私の傍に移動してきた。
自由になってすぐ、私を守る為に近くにいくという判断をしたんだ。
とはいえ、彼もボロボロ。
痛めたのか片腕を庇いながら私より少し前に立つ。
「前とは別人と言える。それほどの時間は空いてないだろう。何があった?」
「いや、私にもわかんないけど……でも多分、慣れたんだと思う」
「何?」
白竜くんが訝しむ。
私は、そんな彼の表情を一瞥して、私を守るバアルを見上げる。
「……」
「……」
白竜くんも私の視線を追って、見上げた。
そして、私達は地上に意識を戻して……バアルのその先にいる1人の女の子を、その姿を捉える。
不思議だ。
白竜くんの言う通り、前より頼もしく見える。
以前より……強く見える。
「アンリミテッド・シャイニングと戦った時はまだ二重人格になってから日が浅かったから。多分そのせいかなって」
「そうか。今になって、2体の化身の使い方をマスターしたという訳か」
白竜くんは納得したようにシズクを見る。
確かアリア以外の実力は認めてなかったはず。
シズクだって、白竜くんには評価されてなかった。
でも、今は……目の色が違う。
「奴は……天才かもしれん」
「えっ?なんで?」
珍しい。
白竜くんがそんなこと言うなんて。
しかし、彼は至って真剣だ。
「この短期間で見違えた。勝てるぞ、この試合。あの女は才能の塊だ」
「シズクが……」
正直白竜君にそんなに評価されるなんて、驚いた。
シズクに目を向ける。
あの彼がそこまで言うほどに、本当にシズクは強くなったんだろうか……?
なんか、変わったとは思うけど、そこまででは無いと感じるんだけど……。
「―――ヴァルキリアだと?」
「……っ!」
千宮司くんが口を開いた。
視界から仲間が7体も消えて、キング・バーンの威圧感が増す。
きっとギアを上げたんだ。
でも、多分まだ本気じゃない。
シャイニング・ドラゴンと対峙した時と同じくらいだ。
そんなに対して、虚無魔神ベリアルそして陸奥滴が身体の向きをゴールへ向ける。
シズクの鋭い目つきを正面で捉え、千宮司くんは鼻で笑う。
「知らんな。そんなものは。無名の雑魚チームに所属する女が、この死地に飛び込み何を言い出すかと思えば、逆転するだと?」
「……」
シズクは顔色ひとつ変えず、表情をピクリとも動かさずに強い眼差しで千宮司くんの言葉を一言一句受け続ける。
その態度が気に食わないのか、千宮司くんは嘲笑を消し、彼女を睨みつける。
「図に乗るなよ。女が。ドラゴンリンクに挑んだことを、後悔するがいい」
「ドラゴンリンク……確か、11人全員が化身使い。だったわね」
「そうだ。化身において、俺達の上を行く者はいない。化身を熟知している俺達に、化身を多少使える程度のお前達では到底敵わんのだ!」
「そう。化身博士なのね。―――その割に、化身を2体使える人はいないようけれど?」
「……っ!!」
シズクがバカにしたように笑みを浮かべながら、ドラゴンリンクの面々を見渡した。
千宮司くんを始め、全員が青筋を立てて怒りのあまり声を失った。
もはや屈辱に近い。
彼らは全員同じことを思っただろう。
"この女……!"、と。
「我々はフィフスセクター最強のチーム、ドラゴンリンク!俺達に逆らう者の末路は死、あるのみ!お前もすぐに命乞いすることになるんだぞ!」
「その割に皆ピンピンしてるじゃない。箱入りお坊ちゃんにはその役目、荷が重いんじゃないかしら。私が手取り足取り教えてあげましょうか?」
口角を上げ、嘲笑を返すシズク。
さすが博識だから、苗字を聞いてすぐにピンときたみたい。
千宮司くんがフィフスセクター創設者の息子であることは説明しなくても気付いてる。
……ていうか、組織のデータハッキングするくらいだし、組織図とか好きそう。
絶対熟読してる。
千宮司くんのこと、なんなら顔見ただけで誰か知ってた節あるな。
「調子に乗るな!お前達、やれ……!!」
「……っ!!」
千宮司くんの堪忍袋に限界が来て、筋が切れた彼による指示が飛んだ。
今フィールドにいるドラゴンリンクの化身は4体。
ゴールを守るキング・バーンの他にフォワードのポーンが3体。
その全てが、青銅くんを放置して、シズクに向かう……!
「しまった!」
「シズク……っ!」
「……」
青銅くんが焦り、私が叫ぶ。
けど、当の本人は至って冷静。
迫り来る3体を涼しい顔で待ち受ける。
「化身を2体使えるくらいで調子に乗るな」
「所詮貴様は1人。化身の数の理はこっちにある」
「こちらは3体。お前の負けだ……!」
3体のポーンが並び、上体を捻り振り返るシズク。
それに従いベリアルも体の向きを変える。
「最初の勢いも、ここまでだ……!」
「……!」
ポーンの1体がベリアルに手を伸ばす。
シズクはピクリと反応して、強い眼差しをポーンに向けると。
―――介入するのは、横一閃。雷斬撃。
「ぐあっ!?」
「何!?もう1体の……化身!」
「こいつ……!」
「ミクと白竜くんを相手にしてヘトヘトの貴方達に負けるほど、私の化身は弱くないのよ」
いつの間にか私の前からバアルが、横入りし、すれ違いざまに斬る。
真っ先に特攻したポーンが1体消滅し、使い手は尻もちをついた。
「……!」
シズクはキッ……!と目つきに力を入れて、突然戦闘態勢に移行する。
向かい来るポーンに対して、彼女は跳躍する。
すると、使い手である彼女のその身体に引っ張られるように、後からベリアルとバアルも2本の尾っぽのように上空へ連れてこられた。
そして、これもまた鞭のように2体の化身を扱い、振りかぶったと思えば、シズクが空中で両腕を振り下ろす。
それを合図にベリアルとバアルはうねりを上げてポーンのうち、2体に勢いよく上から襲いかかった!!
「ぐああっ!?」
「なっ……に……!?」
ベリアルとバアルを叩きつけられて、ポーンが2体地面に打ち付けれて消滅する。
ただ化身を物のように振るっただけではない。
ベリアルとバアルは個別の意思を持ち、振り下ろされる際に武器と拳を繰り出した。
つまり通常攻撃に勢いも加わって威力をかさ増ししたんだ。
ポーン2体を地面に打ちのめし、その反動でまたシズクが浮び上がる。
まるで蝶のように、両腕を翼に見立てて広げ、舞っているようだ。
これで……残るはラスイチ。
舞い降りるシズクが、まるで降臨する天使の風格で千宮司くんを見下ろす。
「……」
「貴様……!」
全ての化身を倒し、2体の化身と共にゆっくりと着地する女。
千宮司くんが歯を食いしばり、表情を強ばらせるが。
間違いない。
彼は、内心焦燥している。
そして、それを見抜けない彼女ではない。
「……貴方達は、あの子を沢山傷つけたみたいね」
「なに?」
シズクが千宮司くんからは目を離し、私を一瞥する。
死の直前まで追い詰められ、外も内もズタボロになった私の状態を確認して、再び前方を睨みつける。
あんなに眉間にシワが寄ったシズクは見たことがない。
彼女の視線を追って、シズクの心の内を理解した千宮司くん。
彼は、得体の知れない女が既知の愚か者に変換でき、口角を上げる。
「そうか。貴様、奴の仲間か……!」
「そうよ」
「馬鹿め。奴を、助ける為に乗り込んできたのか」
「えぇ」
シズクが淡々と肯定すると、千宮司くんはニヤつきが増していく。
付け入る隙を見つけた。
冷たい女の激情を見れる。
ここまで相手にしてきた馬鹿共と同じだと、感情を揺さぶるために口撃することにした。
「あの女の為だけに俺達に挑むとは、よほど奴が大切なようだな」
「……そうね」
「そいつはいい。お前の女には随分楽しませてもらったぞ。たっぷりとな!」
「……っ!」
シズクの、目の色が変わった。
形相がさらに険しくなる。
彼女は、ゆっくりと息を吸うとそれを吐かずにわなわなと震えながら力強い眼で千宮司くんを捉える。
「お喋りはもういいわ。もう残る化身使いは貴方だけ。ささっと構えなさい。倒してやるわよ」
「ハッ。倒すだと?この俺をか?お前如きが……!身の程を知れ!お前では、この賢王キング・バーンに勝つことは出来ない……!」
千宮司くんが名を呼ぶと、キング・バーンの瞳が煌めいた。
両者、臨戦態勢。
……って、マズイ!
「シズク!倒すってまさか……。違うよ!ダメ!ブレイクしないで!こいつらは……!」
「……!ブレイク?そうか、奴は……」
「点を決めて、シズク!これは試合なの!勝てばいいっていう約束。だから……!」
いつものシズクと違う。
殺気立ってる。
だから、きっとジャッジメント・ブレイクで千宮司くんをブレイクして壊すつもりだ。
私が叫ぶと、白竜くんもシズクの思惑を見抜いた。
とにかく彼女を止めないと。
千宮司くんをブレイクしたら、彼の立場を考えるときっと大事になる。
なにせ創設者の息子だし。
最高権力が指揮官のお抱えのチームだ。
そんな彼らに必要以上のダメージは寧ろ私たちに危険が及ぶ。
それに、この試合は潰し合いじゃなくなって、勝ち負けで決めるものになってる。
シズクが千宮司くんを再起不能にする意味は、ない……!
それを伝えたくて、訴えた。
しかし。
「シズク……!」
「……」
ダメだ。
聞こえてない。
シズクは、千宮司くんを睨みつけたまま微動だにしない。
相当頭に血が昇ってる。
彼女は、足元でボールを弄ぶと……トラップした。
マズイ。
撃つつもりだ!
「いいだろう。来い!尤も、貴様がミッドフィールダーなのは一目瞭然だ。MFの貴様にドラゴンリンクのゴールを破れるとは思えんがな……!」
「……」
「シズク、ダメ……!やめて!!」
最悪。
千宮司くんが煽る!
シズクも全然聞く耳を持たない。
もう、止められない!
「……だったら、フォワードの私で撃つわ」
「は?」
シズクの発言の意味がわからなくて、千宮司くんが顔を顰める。
だけど、すぐにシズクが行動で示す。
説明するつもりはない。
どうせ知ることになるのだから。
そう、体現するように……彼女はベリアルを引っ込めた。
「なっ……!?」
「……!?」
千宮司くんだけでなく、白竜くんも驚愕する。
せっかく化身を2体同時に使えるのに、自らそのアドバンテージを捨てて、凡人に成り下がった。
正気を疑う光景。
「なんのつもりだ!?なぜ2体の化身を使って、化身2体分のパワーをシュートに込めない?非力な女ならば、より必要なはずだ。俺を侮っているのか……!」
「……」
千宮司くんが訴えても、シズクは愚者でも見るような目だ。
そんな彼女が、バアルを従えて―――力を込める。
「……!」
「……」
千宮司くんも気づいた。
シズクの筋肉素質が変化した。
ゲームメイクやドリブル、オールラウンダーに使用されていた肉体組織が全て、別の目的の為に置き換えられる。
彼女のDNAがストライカーモードに変換される。
「―――"雷斬り"」
「……っ!?キングッッッ!!ファイアッッッ!!」
瞬きの間。
千宮司大悟ですら、いつ放たたれたのか認識できないほどの振り抜きスピード。
ギュイーーーーン!!!!と凄まじい金切り声を立てるエレクトロブラスターが、ビームの如く軌道上の芝を放電で全て逆立ちさせながら、一直線にゴールを狙う。
その現象を起こすに至るまでの所作が早すぎて、千宮司くんは慌ててキング・バーンに司令を出すことになった。
賢王の業火が、ビームを殺そうと炙り続ける。
しかし。
「な、なんだ!?このパワーは!?」
キング・ファイアが圧されている!
放火を切り裂くように、ビームが突き進み続ける。
シュートが纏う弾ける雷撃がまとわりつく炎を払っている。
ビームが押していく度に火炎放射は徐々に裂かれ、分散していく。
千宮司くんは立っていた位置すら、押し込まれ、足で土を掘っていく。
実際に受けるその威力が想定を超えており、千宮司くんは堪えながら驚愕する。
「有り得ん、奴の身体能力でこれほどの威力など……!」
「……っ」
「……!」
ゴールを守りながら、その奥のシズクの姿を千宮司くんは視認する。
シュートを止めることに必死になり、気付いていなかったが。
シズクの様子がおかしい。
シュートを放った利き足が完全に脱力して、自立できていない。
足裏が地面に平行についておらず、宙ぶらりん。
ふにゃふにゃだ。
しかも膝が変な方向に曲がっており、見るからにぶらーんと直立できる力を失っている。
つまり。
「貴様、関節を……!?」
「―――随分ミクを可愛がってくれたと、そう言ってたわね」
千宮司くんの驚愕を置き去りにして、シズクは尋ねる。
彼女は自身の足を持ち上げて、外れた関節を押し込む。
「……っ!~~~~~っ!」
相当痛かったのか、一瞬顔を顰めた。
けど、すぐに何事もなかったように真顔になり、ゴールに背を向ける。
そして、吐き捨てる。
「じゃあ今度は私が遊んであげるわ。……たっぷりと、ね」
「馬鹿な、この俺が負けるだと!?ぐあああああぁぁぁ……!?」
千宮司くんが力負けして、シュートがゴールに突き刺さった!
つまりこれは。
シズクは……!
「……!シズク……!」
「なっ……なんという……女だ」
私が笑い、白竜くんが愕然とした。
シズクは私の笑顔を見て、フッと小さく会釈してくれる。
そのままセンターラインまで戻るシズク。
彼女は、半身だけ振り返り、ドラゴンリンクに向けて片手をかざした。
そして、宣言する。
「私は貴方達に勝って、この手でミクを取り戻す。返してもらうわよ、私のストライカーを」
アンリミテッド・シャイニング 2 - 2 ドラゴンリンク