幻の一点を直ぐに取り返した!
凄い。
シズクが加わるだけで、チームの動きが全然違う。
でも、シズクのゲームメイクって確かアンリミテッド・シャイニングとの戦いでは手詰まりになるくらいそこまで得意分野ではなかったはず。
それが最強のチームから得点できるまでの指揮を取れるって、一体何があったんだろう。
「……簡単な話よ。さっき上手くいったのは、優秀なのは私じゃないというだけ」
「どういうこと?」
なんか上手くはぐらかされて理解できなかった。
すると、白竜くんがシズクの奥から現れる。
「長門をぶつけ続けて俺の消耗を狙う女が、優れたゲームメイカーであるものか。今回は俺達が優秀だった。だから、程度の低いゲームメイクの理想を追求できた。それだけの話だ」
「……貴方、本当に口が悪いわね。少しは感謝の念とかないのかしら?」
ボロクソに酷評されて、頬をひくつかせながら白竜くんを見るシズク。
白竜くんはそんなシズクを一瞥して、少し遠くを見ながらどこか清々しい表情を見せる。
「感謝はしている。お前が来なければ、俺達は終わっていた。リスクを犯し、来てくれた。おかげで処分対象だったが助かるかもしれん」
「……貴方」
シズクが訝しんだ。
気付いたんだ。
あのプライドの塊みたいな白竜くんが、弱ってるって。
「とにかく攻戦一方よ。こっちは勝たなきゃいけないし、勝つ為には点を取らなきゃいけない。命がかかってるんだから、何点でも取りに行くわ」
「分かっている。だが、次はディフェンスだ。どうする?」
「作戦はあるわ。安心しなさい」
次はドラゴンリンクからのスタート。
またシズクが指揮を執る。
「王者のタクト……!」
「精鋭兵ポーン!」
相変わらず開始と同時にフォワード全員が化身を出すドラゴンリンク。
化身のドリブルで突き進んでくるのに対して、シズクが正面で待ち構える。
彼女は化身を出そうとして、すぐに引っ込めた。
「なに!?」
「甘い!」
「……っ!」
シズクが化身で対抗するかと思えば、白竜くんが死角から超スピードでカットする。
零れた球を青銅くんが拾って、シズクがしたり顔。
化身を匂わせることでドラゴンリンク特有の化身シュート性のパス回しを封じ、化身バトルの意識にして突っ込ませる。
その上、これは初見のみの策だが、シズクが化身を使わないことで動揺を誘い白竜くんの持ち前のスピードでボールを奪う。
化身をほぼ使わず、アンリミテッド・シャイニングの身体能力の高さも活かした。
完璧なディフェンスだ……!
「王者のタクト……!」
「クソ!戻れ!」
ボールさえ奪えば、さっきの流れが来る。
今度は攻撃のタクトでフィールドを大きく使い、右へ左へサイドからサイドへ相手の交錯を誘って高速パスを繋いでいく。
シズクの作戦の攻略法は相手が化身の数を自ら減らすこと。
でも。
「できないわ。だって、貴方達は化身に絶対的な信頼を持ち、"依存"してるもの」
「おい!邪魔だ、どけ!」
「それはお前だろう!」
化身で向上した身体能力。
それによる連携の食い違い。
またしても味方同士衝突しそうになったミッドフィールダーとディフェンダーが互いを罵り合う。
彼らが化身を捨てない限り、永遠にその溝は深くなり、墓穴を掘る。
でも、できない。
彼らは全員が化身使いということがアイデンティティだから。
化身を捨てるのが怖いんだ。
「じゃあ、いつまでも弄ばれるままね。こっちは貴方達のその心理をじゃんじゃん利用させてもらうわ」
「―――"くだらん"」
「……!」
最後のパスを放ったシズクが、前方の千宮司くんの呟きを拾って笑みから真剣な表情に切り替わる。
千宮司くんは静かに憤り、構えを取り、シュートを待ち構えていた。
怒りの矛先は私達じゃない。
不甲斐ないチームメイトに対して、否、化身の力を引き出しきれず化身の力で無敵と化していないチームそのものに向けて。
そして、チーム作りが足りなかった己の育成の怠慢にイラついている。
「貴様達の作戦は、ボール運びに活かされるもの。つまり、キーパーである俺には関係がない……!」
「ホワイトブレス!せぇぇぇや!!」
シズクがボールを渡したフィニッシャーは当然白竜くん。
彼が化身技のシュートを放って、千宮司くんが待ち受ける。
さっきとは違い、気迫が増している。
激情を力に変えて、キング・バーンが構える。
「そう何度も決めさせるか。キングッッッ!!ファイアッッッ!!」
「なに!?馬鹿な……!」
千宮司くんに止められて、白竜くんが瞠目する。
悔しがると同時に、片膝をついた。
「ふん!」
「くっ……!」
ボールを手に不敵に笑う千宮司くん。
顔を顰める白竜くん。
彼は肩で息をしている。
間違いない。
ガス欠だ。
白竜くんは疲労と、前回のダメージが溜まってパワーダウンしている。
まだスピードは落ちてないからドリブルやブロックは機能してるけど、シュートの威力がガタ落ちしてる……!
「……っ!シュートチェインを……入れるべきだったわね」
「いや、お前は正しい。逆の立場なら俺も同じ判断をする」
シズクが近寄り手を差し伸べながら判断ミスを謝り、白竜くんは素直にその手を借りながら立ち上がる。
確かに白竜くんの言う通り、シズクの判断は間違ってない。
シズクの化身は出力が高くて、しかも本人の体力が少ない。
まだ後半が始まって10分も経ってないのに、チャンスの度にバンバン化身を使ってたら、シズクが持たない。
化身で削られる体力は並大抵じゃない。
化身でバテたら、シズクの他の能力、つまりゲームメイクもままならなくなる。
シズクが白竜くんの体力を見誤ったのはミスだけど、それもお互いをあまり知らないし仕方ない。
とにかく今は、シズクが最後までゲームメイクを続行することが優先事項だ。
結果、化身を使うべきだったとなるのは……結果論。
「正しいが、最適解が結果に結びつかんということは実力が足りんという事だ!」
「……!」
煽る千宮司くんに、シズクがキッ……!と睨む。
そんなことはわかってる。
余計なお世話だからだ。
わかってることを千宮司くんもわかってる。
だから、敢えて重ねる。
「お前達は俺達には勝てない。勝つべきでもない。それが今の結果だ。そう、示されたのだ……!」
「それを覆すから試合はゲームと呼ばれるのよ。理屈じゃない。イレギュラーを含めたあらゆる条件が重なり、それが勝利を呼び込むのよ!」
つまり、さっき入れておくべきだった点を逃しても、この先がさらに過酷でも諦めないと。
シズクは告げている。
だが、相手は当然そんな感情論は嘲笑する。
「くだらん。どの道、パスが繋がったところで最後にシュートが決まらなければ意味がない……!」
「あら。シュートの機会が増えているだけでも大改善でしょう。それに、こっちが攻め続けてるのだから数打ちゃ当たるわよ……!」
「このドラゴンリンクがいつまでも野放しにするか。チャンスなどもうない。ドラゴンリンクを舐めるな!」
そう言って、ボールを足元に落とした千宮司くんが……シズクに向けて強襲の化身シュートを放つ!
「……っ!!」
慌てて化身を出して、トラップするもシズクがボールを弾く!
「……っ!みんな、戻って!!」
「貰った!」
ディフェンダーがそれを拾い、番人の塔ルークを出すよりも早く、体勢を崩しながら指示を飛ばすシズク。
その判断は早かったが、向こうの化身シュートによるパス回しはもっと速くて強い!
「精鋭兵ポーン!」
「精鋭兵ポーン!」
急いで戻った青銅くんが化身を出して強引でディフェンスに入る。
相手もポーンを出し衝突。
化身シュートのパスをゼロ距離でキックで迎え撃った。
しかし、ボールにはディフェンダーからミッドフィールダーまで化身シュートのエネルギーが溜め込まれている。
青銅くん1人じゃ……!
「貴様如きに我々ドラゴンリンクのパワーを込めたこのボールが止められるものか……!」
「ぐああっ!?」
「青銅くん……!」
青銅くんが吹き飛ばされ、そのシュートの先にまた新たな化身使いが待ち受ける。
ゴール前にも既に1人の化身使いが待機している。
一気に繋ぐつもりだ……!
でも、青銅くんのおかげでちょっとパスの速度は落ちてる!
これなら。
「させるかよ!」
「なに!?」
戻ってきてくれた帆田くんがボールをカットして方向は変えることができた。
だけど、それだけじゃ化身使いは逸れた先に追いつく。
だから、銀座くんと鬼塚くんがマークについて受け手の動きを制限した。
おかげでボールはラインを出る。
「あ、危なかった……」
「さすがにこっちがミスすると流れを一気に持ってかれるわね」
「奴らのレベルは高い。俺達ですら一切気が抜けんチームだ」
「そうね。ちょっと引きしめてやりましょうか」
白竜くんの言葉にシズクが頷いてシャツで汗を拭う。
反撃を止めてくれた4人を褒めて、礼を言ってからシズクはポジションに着いた。
まだ向こうにはチャンスがある。
スローイングからの攻撃に備えないと……。