「よっしゃぁ……!」
「よし!」
私とアリアが同士にガッツポーズした。
けど、直後に私はガクッと脱力して膝と手をつく。
「……っ!」
「ミク……!」
「今のでもう絞りきったか。よくやったぜ、本当にお前は」
私が地面と睨めっこしかできないのをいいことに、アリアが私の頭をポンポンと撫でてくれる。
本当に素直じゃないんだ。
初知り。
「とにかくこれで同点よ。あと1点を取って、勝つわ!」
『オー!』
「……」
シズクの激励に同調するアンリミテッド・シャイニング。
そんな彼らとは異なり何か盛り上がりに欠けるアリア。
まだ勝負は決まってない。
だから、集中している。
……とは別に何か考えてるように見える。
「ミク。お前、化身ドローイングで私の力を分け与えたらまだ戦えるか?」
「えっ。いや……どうだろ。少なくともちょっと休ませて欲しいかも。ごめん……」
「そうか。動けるとしたら、ラスト何分ならいける」
「ど、どうしたの。なんでそんなこと聞くの」
「いいから答えろ」
何故か小声で私に相談してきたアリア。
困惑しつつも、えーと……と考える。
「に、2~3分くらいかな。いや、もっと短いかも……」
「そうか。わかった、3分だな」
最大数だけ聞いて、アリアは去った。
なんだか嫌な予感がする。
アリアの様子がおかしい。
今、何か異常が起きてるようには見えないけど……一体何をしようとしてるんだろう。
「お前達。私にボールを回せ。私が点を入れる」
「貴女1人で……?無茶よ。貴女も言ってたじゃない。1人じゃ彼を敗れないって」
「考えがあるとも言っただろ。いいから寄越せ」
アリアの横暴な物言いにシズクが顔を顰めながら渋々パスを出す。
受け取ったアリアは、視線を落とし、一度肩をゆっくり上げて落とす深呼吸をした後鋭い目つきで顔を上げる。
「鉄騎兵ナイト!」
「魔宰相ビショップ!」
「遅いって言ってんだろ」
「番人の塔ルーク!」
「魔女クィーン・レディア!」
「お前たちもだ」
アリアは得意のスピードで深くドライブし、一気に化身達を抜き去り後にする。
そんな彼女が急ブレーキをかけて、1拍置き仕切り直す程の相手。
千宮司大和が構え、待ち受ける。
「来たか。来い……!」
「あぁ。いくぜ。最強のゴールキーパー」
アリアがボールを足裏で転がし、両者の間に緊張感が走る。
その空間のオーラは凄まじい。
アリアが足を止めた今、ドラゴンリンクのフィールドプレイヤーはいくらでもディフェンスできるが、誰も手出をしない。
1人でゴール前に立つ彼女に、白竜くんは1人で挑むつもりかと問いかけることも出来ない。
誰もが固唾を飲み、その勝負の目撃を待っている。
フィフスセクターの頂点とも言える決戦、ドラゴンリンクとアンリミテッド・シャイニングをもってしても、さらにあの2人は触れることが不可能な領域。
ラスト6分。
誰も見た事のない衝突が、始まる。
「―――"リミッター解除"」
瞬間、アリアの身体がビキビキと痛々しい音を立てて、筋肉質が変化する。
総合力重視で少し細かった彼女の腕や脚が増長し、膨らむ。
溢れんばかりのパワーが彼女の肉体を硬化させ、あまりの筋力に身体を覆って捩りながら天を見上げる。
しかし、その瞳は白目を向いて消えていた。
「……っ!?」
アリアが呟いた言葉と見るからに起きた変貌に、千宮司くんが驚愕する。
なんと、彼女はここまで制限をかけていた。
それが発覚する。
けど、千宮司くんを敵うことのない格上と認めながら力を抑えてたのは矛盾がすぎる。
アリアはそんな怠慢な性格ではない。
彼女が力を抑制するのは、そうする必要のある理由が存在する。
説明などなくとも周りにそう思わせるのが、彼女が今まで示してきた意識の高さ。
瞳孔が戻ってきたアリアが、再び前を向いて、彼女史上最大の敵に告げる。
「あんたの"最強"に敬意を表して……と言いたいところだが。使いたくなかったこの手でしかお前からゴールを奪えない。そう判断して使うことにした」
「貴様……そうか。貴様はもう既に女を超え、男を超え、人を超越している。だが、生まれ持ったその才を使いこなせなかったか」
「違うな。これは生まれた時から持ってる力じゃない。私は意外と努力家でな。ただ……思ってたより"努力が上手すぎた"んだ」
「なに?」
言ってる意味がわからない。
そう、首を傾ける千宮司くんにアリアは肩で息をしながら少し喉を鳴らす。
「どうも要領がよくってね。努力したらした分だけ力が付きすぎちまった。コントロールできないくらいな。だから、普段は抑制してるんだ」
アリアは続ける。
「私の最強シュートは化身技でも
「ほう。そいつは楽しみだ。拝んだことのある人間はいるのか?」
「いや。私とここのおっさん。……プレイヤーはお前だけだ」
アリアのその言葉に、千宮司くんは高揚する。
「魅惑的な誘いだ。面白い。安心しろ、俺はその技を受けるに相応しい。勝負しろ」
「言われなくてもそのつもりだ。だが、こいつは撃つまで時間がかかる。しかも試合中1回の使用が限度、一度撃ったら暫く動けなくなっちまう」
「貴様程の選手がそこまでの負荷を受ける優れ物か!当然のデメリットだ!来い!早く受けさせろ!」
興奮する千宮司くん。
対決の娯楽性に乗せられてるだけじゃない。
止められる絶対的な自信が彼にはある。
だから、挑発する。
けど中々撃たないくらいにエネルギーを溜めなきゃいけないアリアは、口角を上げるしかない。
「まあそう焦るなよ。お前が私の解説を馬鹿正直に聞いてお喋りしてくれたおかげでやっと充填完了だぜ」
アリアも両足と腕を広げ、仁王立ちで構える。
まだアリアは技を隠してた!
しかも最強の技。
そのお披露目が、来る……!
「さぁ、気合を入れろよ。瞬き厳禁だ!こいつは油断してたら止める以前の問題だぞ!」
「来い!俺のキング・バーンが塵にしてくれる!」
化身を出す千宮司くん。
アリアは気迫を絞り出す。
「~~~~~~~~っ!」
力むアリア。
そんな彼女の頭上に神秘的な光が降りてくる。
まるで天界。
ティターニアの時にも垣間見えた光景だ!
「――――――――――――っ!!」
唸りを上げていたアリアの声が、鼓膜を刺激するほどの高音になる。
すると、光はアリアに降り注ぎ、飲み込んだ。
ティターニアの時は妖精女王の力を憑依させて借りていたけど、今度は違う。
アリアの瞳が再び白目になる。
明らかに彼女の体は、彼女の意思とは異なる動きをする。
何かに持ち上げられるように足を振り上げるアリア。
まるで操り糸に吊るされてるようだ。
ティターニアからは力を奪ってたけど、今はアリアが身体を乗っ取られている。
―――これは、天から授かりし力が1人の少女の手には余る様。
―――彼女を利用し、力を与えるのは最上位の妖精。
―――その名は、そのままサッカーボールに込められる。
「"アイリーン"」
光に飲み込まれたアリアが、その中でシュートを放った。
しかし、彼女であって彼女ではない。
千宮司くんの目には微かにその光の中にアリアの身体を利用する"彼女"が視えた。
だが、そんなものに意識を奪われている暇はない。
撃たれたシュートは目を疑う程の威力。
アリアやその女のことなど摩訶不思議な幻想的な情報の優先順位が一瞬で下がるほど、無視できない超火力のシュートが迫り来る。
それはもはや弾丸とは呼べない。
エネルギー砲の形状でもない。
ただの塊。
全てを覆い、食い尽くす光エネルギーの巨大暴力……!!
「キング・ファイアッッッ!!」
慌てて千宮司くんが技を繰り出す。
土壇場の窮地が、彼に実力以上の化学反応を齎した。
進化した彼は今までで1番の火力を放った。
しかし、その業火が焼き尽くしたのはただの空虚。
フィフスセクター最強最古のサッカープレイヤーが史上最高のコンディションで理論値を叩き出したというのに、相手にしたのは虚無。
つまり無意味と終わった。
「……っ!……っ!!」
彼は大量の汗と動揺しすぎた表情でその眼球だけを動かし、横目でゴールネットに静かに突き刺さり地に落ちたボールを確認する。
人間はゾーンにでも入らない限り、100%の力を出すことは出来ない。
千宮司大和は、その100%を出した。
それすらも空を切る程に、相手にさえされなかったというだけの話。
―――アリアの最強技、"アイリーン"。それは、フィフスセクター最強最古の千宮司大和ですら反応できないシュートだった。
アンリミテッド・シャイニング 7 - 6 ドラゴンリンク
「なっ……ぁ……!?」
「……っ!!」
ようやく振り返ったと思ったら、唖然とする千宮司くん。
衝撃を受けている彼とは対象的にアリアは両膝と両手をついて、限界を迎えてしまった。
「アリア……!」
「……っ」
シズクが慌てて駆け寄ると、アリアは身を起こせないまま片手だけ上げて制止する。
「き、気にするな。いつもの……ことだ……」
「貴女……こんな、こんな力……」
「隠してて……悪かった。だが、使い所がないんだ。撃つ度にこのザマじゃな」
「アリア……」
シズクが心配そうに見下ろすと、ハッとする。
顔を覗いた訳じゃないのにそれでも分かるほどにアリアは顔面蒼白だったから。
それに発汗が凄い。
明らかに正常じゃない。
たった1回撃っただけでこの疲弊具合。
確かにさっきのシュートは普通ではない。
「な、なん……っ!馬鹿な……こんな、ことが……。オイゲン、貴様……!」
「気に病むな。あんなのは実力じゃない。手に余る力は自分の物に出来てない証拠だ。あれは私の評価には関係ない」
もう1人特大のショックを受けるライバル、白竜くんを気遣い即フォローを入れるアリア。
別に気持ちをケアしたわけじゃないと思う。
アリアは白竜くんをあんまり好んでないし、何より多分本心で言った言葉だ。
彼女は本当にあのアイリーンという技を、自分の技術とは認めてないんだ。