松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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化身包囲網!弱者を守る戦士の背中

 

「あ?やべ、迷子になっちまったな」

 

ったくゴッドエデンは迷路かよ。

しかも真っ直ぐ歩いてるだけなのに下ってる気がしたり登ってる気がしたり、変なギミックがあって下の階層に落とされたり。

アスレチックかっつーの。

あたしは元いた階層に戻りたいだけなんだがな……。

 

「お……?」

 

適当に歩いてたらなんか知らねえフロアについた。

誰もいねえ。

司令官室みたいな場所ででけぇガラス張りの窓が180度広がってら。

下も見下ろせる……けど底が見えねえな。

一体何が目的の場所なんだよ、ここ。

 

「なんだこれ」

 

適当に室内を練り歩いてたらエレベーターみたいなのを見つけたが、弄ってもうんともすんとも言わねえ。

んだよ、壊れてんのかよ。

 

「つまんね。飽きた。さっさと帰るか」

「……帰るか、じゃない。こんなところまで迷い込んだのか」

「げっ。なんでついてきてんだよ……」

 

嫌いな奴が出口を塞いで顔を顰める。

クソ金髪女だ。

嫌いすぎて距離を取ろうと、後ずさりした。

 

―――それがいけなかった。

 

カチッと、何かを踏んだ音がした。

 

「あ?なんだ今の―――うおおおお!?」

「おい!サエ!!」

 

足場に急にポッカリ大きな穴が空いてあたしは体勢を崩した。

穴が空いて足場が無くなった。

んで、体勢を崩した。

……てことは?

 

「うおおおお!?なんだ!?落ちる!!」

「サエ!!」

 

あたしが穴に吸い込まれていって、金髪女が手を伸ばすが遅い。

あいつの手は空を掴んで、あたしは落ちた。

 

「はああああ!?なんだよこれぇぇーー!!」

 

長い滑り台のような空間を重力に従って勢いよく降下していくのが体感でわかる。

そのまま数十分、あたしは滑り落ちた。

んで、急に出口が現れて地面に放り出される。

 

「うお!?イテッ!痛って!痛てぇよ!んだよこれ。何が起きたんだよ!」

 

あたしは転げ落ちた先でぶつけた箇所を抑えながらなんとか半身を起こす。

そして、辺りを見渡すと……。

 

「なんだ?誰か落ちてきたぞ」

「俺達と同じフィフスセクターから処分を言い渡されたシードだったりして」

「いや。こいつはサッカー部のユニフォームを着てない。つまりここのシードだ」

「ここの……ってことはゴッドエデンのシードじゃねえか。こんな地獄でまだピンピンしてやがる。しかも女だ。ひょっして化け物なんじゃ……」

 

あ?誰が化け物だ。

失礼な奴らだぜ。

てかなんだよ、こいつら。

シードが4人。

なんでゴッドエデンのこんな深いところにいるんだ?

 

「サエ!大丈夫か!」

「げっ」

 

本日2度目かよ。

てかあのクソ長特大滑り台こいつも滑ってきたのかよ。

どんだけついてくんだ。

ストーカーかっての。

 

「わーい!滑り台だー!楽しかったー!」

「えー!全然楽しくないよぉ~!怖かったよぉ」

「しかも痛ーい!うえーん!」

「ここどこー?」

「チビ共まで……」

 

さっきは気づかなかったが、上の部屋で金髪女の後ろにいたのか。

チビ×4と金髪女。

んであたしと、4人のシード。

 

―――役者が揃った。

 

突如、あたし達は照明に照らされる。

 

「なんだ!?」

「眩しいー!」

「……っ!これは……ここは……!」

「知ってんのか?」

 

あたしが尋ねると目元を覆うチビ共を庇いながら金髪女は頷いた。

 

「ここはゴッドエデン最下層……"最終処理場"だ!!」

「なっ……」

 

おいおい、んだよその嫌なワード!

しかも金髪女のくせに妙に焦ってやがる

こいつがこんな焦燥するなんて相当ヤバい場所ってことだ。

そんだけこいつが強いのはあたしは身に染みてわかってる。

一体なんなんだよここは……!

 

「フィフスセクターの命令を達成できなかったシードが、見限られて最後に送り込まれる場所がここだ。フィフスセクターはこのゴッドエデン最下層で任務に失敗した役に立たないシードを処分するんだ……!」

『……っ!』

 

金髪女の言葉にあたし達は瞠目する。

いや、あたし達だけじゃない。

話が耳に入った4人のシードも反応した。

 

「役に立たないシードだと?この俺たちが……!」

「許すまじ。女の分際で!」

「それに俺達がフィフスセクターに処分されるだって?有り得ない!俺たちは化身使いなんだぞ!」

「そうだそうだ!」

『……!』

 

やべぇ、なんかアイツらに火つけちまったぞ!

ていうか今化身使いって言わなかったか?

おい、まさかこいつ全員か……!?

 

「……学校の名前を書いた服を着てやがる。ユニフォームってやつか。てことはこいつら、外の世界から来たサッカー部のシード!」

「外の世界……?」

 

金髪女の言葉にあたしもあいつらのユニフォームを見る。

確かに名前が書いてある。

あれ、学校だったのか。

なんて読むんだ?

てんが……わら?天河原か。

あとの3人は万能坂。

こいつらはその2校のサッカー部に派遣されたシード。

そんな奴らがなんでゴッドエデンにいるのか知らねえが、金髪女の説明が本当ならなんかやらかしてフィフスセクターに処分される奴らってわけか。

 

「こいつらはなんなんだよ。どうする?磯崎」

「フィフスセクターは俺たちを処分するためにこの地獄に呼んだ……まさか!こいつらが俺たちに手を下すのか!」

「なっ……よりによって女かよ。フィフスセクターの処刑人ってこと?」

「ふざけるな!万能坂はともかくなんで俺まで……シードが3人もいて負ける奴らの方が罪は重いだろ!」

「なんだと貴様!俺達より先に負けた低級シードのくせに何様のつもりだ!」

「はははっ!そもそも天河原が最初に負けたせいで奴らは調子に乗り始めたんじゃないか……!」

「俺達の時は奴らの反乱の意思は確かなものじゃなかった!天河原は不意を突かれただけだ!」

「この期に及んで言い訳かよ。情けないな、天河原は」

「くっ……!……ふんっ、俺達の時は反乱していたのは4人だった。それが11人全員になったらしいじゃないか。奴らを勢いづけたのはお前達だ!」

「黙れ!」

「おいおい、なんか仲間割れし始めたぞ……」

「いや。多分奴らは仲間じゃない。3人と1人にチームが分かれてるんだ」

 

金髪女が否定する。

確かにこいつの言う通りかもな。

なんて、呑気なことを思ってる場合じゃなかった。

 

―――万能坂の1人だけ違うユニフォームを着たゴールキーパーがボソリと口にしたせいで。

 

「ていうか、あいつらが処刑人ならあいつらを倒しちまえばいいんじゃねえの?」

『……!!』

 

場に衝撃が走る。

さっきまで揉めたシードがあたし達を視線を集中した。

 

「待て!私達は違う!たまたまここに来ただけだ!」

「ハッ!信用できるか!違うなら違うっ証拠を見せてみろ!」

「……つ」

 

金髪女が否定するも相手も意地になってやがる。

照明がついたこと以外進展がねえし、その照明もあたし達が現れてからついたから向こうは完全に決めつけにきてる。

処分されるっていう追い込まれた立場と、動きのねえ状況にまともな判断ができなくなってやがるんだ。

クソ!

 

「お前ら!こいつらを取り囲め!足を狙う!潰してやる!」

『おう!』

 

万能坂の3人があたし達を囲う。

逃げ場がなくなった!

どうすんだ!

 

「くっ……!クソ……。やるしか……ないのか」

 

金髪女が一度俯いてから顔を上げる。

こいつ、サッカーボールを隠し持ってやがった。

取り出して、リーダー格の1人に狙いを定める。

 

「こいつらはやらせない。その為に……お前たちをやる!」

「何!?」

 

金髪女がシュートを撃つ。

あの時の、あたしの仲間を蹂躙したシュートだ!

 

「うおっ!?危ねぇ!」

「……!?外した……!?わ、私が……」

 

金髪女が動揺する。

めちゃくちゃ外してんじゃねえかよ!

味方になったらスペックダウンか?

頼りにならねえ奴だ!

 

「躊躇ってるのか……前の私なら迷いなく撃てたのに……!」

 

金髪女が自分に問いかける。

その間、隙だらけだが相手は仕掛けてこねえ。

それどころか距離を取ったままだ。

まあ理由はわかる。

 

「な、なんだ今のシュート……」

「凄い威力だったぞ!」

「外したが、あれを食らったら一瞬でお釈迦だ……!」

 

狼狽えてる奴と怯えてるやつ。

そりゃそんな反応になる。

目の前の女は今、ゴッドエデンで1番強いサッカープレイヤーらしいからな。

どうなら外から来たシードから見ても別格らしい。

奴らが脅えてるが、これでも金髪女はスランプみたいだぜ?

 

「くっ……次は当てる!」

 

壁に当たって高く上がり、自分の足元に戻ってきたボールを再びセットする金髪女。

壁に返球させるとかこいつどんだけコントロールいいんだよ。

化け物はこいつだろ……。

 

「いくぜ!」

『……!』

 

金髪女がもう一度狙いを定めたその瞬間、頭上から大量のサッカーボールが降ってきやがった!

その光景を金髪女は唖然と見上げる。

 

「なっ……」

「なんだ!?」

 

大量に転がるボール。

……それは、磯崎って呼ばれてたやつの足元にも渡る。

 

「ハッ。おい、見ろよ。どうやら俺達は正しかったらしいぜ。上は俺達にも最後のチャンスをくれるようだ。処刑人のお前達を倒せればまた這い上がれるってさ!」

「そうか、奴らはシズクの目利きを信じてチーム作りを任せた。それをシズクが利用して弱いシードを集めたからここで潰し合わせようって魂胆か!」

「ゴチャゴチャと何を言っている!お前はただ!ここで俺たちに倒されればいいんだ……!」

「……っ!」

 

磯崎がやり返す!

金髪女……じゃなくてちび共に向かって放ちやがった!

 

「伏せろ!」

「きゃあっ!」

「……やはりそうだ。あの女はガキ供を守ってる。あんなガキが処刑人とは思えん。処刑人はあのヤバい女だけだ!天河原!お前も手伝え!」

「なっ……指図するな!」

「黙れ!お前はこんなところで終わりたいのか!!」

「……っ!!」

 

ヤバい。

ヤバいヤバいヤバい!

金髪女がチビを庇ってシュートをカットしたのを見て、磯崎がこっちの弱点を見抜きやがった!

しかも天河原中の隼ってやつも加わる。

4人に囲まれるあたし達。

おい、これどうすんだよ!

 

「……大丈夫だ。お前たちは、私が守る」

「……っ!お前……!」

 

金髪女があたし達を庇うように前に出て全方向を警戒する。

―――それを合図に、始まった。

 

「くらえっ!」

「……っ!」

 

まずは隼のシュート。

金髪女はあたし達の周りを駆け、正反対のところに走り込んであたし達への直撃を防ぐ。

 

「次はこっちだ!」

「させるか!」

「うわ!」

 

今度はあたし達を飛び越えて真反対の磯崎のシュートをカット。

 

「クソ!今度はこっちだ!」

「俺も!」

「連続シュートだ!畳み掛けろ!」

「……っ!」

 

金髪女があたし達の周りを駆け回る。

磯崎のシュートをカットして着地したと同時に地面を蹴り、前へ跳んで光良のシュートもカット。

その後前のめりに着地したが、横に転がることで受身を取ってすぐに身を起こし、隼のシュートを利き足を振り抜いて相手の後方に飛ばし、篠山のシュートは横っ飛びで移動してパンチングで防いだ。

すげぇ運動量だ!

でも、まだまだ波状攻撃は続く。

 

「こいつ……!」

「怯むな!もうわかった。上手いのは所詮こいつ1人だ!数で圧せる!」

 

磯崎の言う通り、このやり方を続けりゃ金髪女はいつかバテる。

……そのいつかが途方もなく遠いほどこいつの体力がバケモンという点を除けば。

 

「くそっ!いい加減に!」

「……らぁ!」

 

もう30本目くらいのシュートも金髪女は防ぐ。

とうとう周りにボールがなくなってきた。

遠くに飛んだやつを取りに行けば包囲網は解ける。

ってことは向こうはあと数える程しかねえ足元のボールだけであたし達を倒さなきゃいけねえ。

これ、切り抜けられっぞ……!

 

「……っ!……っ!クソ、このまま処分なんてされてたまるか!」

「……っ。おい!いい加減に聞け。私達にそんなつもりはない!」

「それだけのスペックを持ってて何を言う!」

「……っ!」

 

金髪女が顔を顰める。

実力示したのが仇になりやがった!

 

「俺達は役立たずのシードなんかじゃない!それを今、ここで証明してやる……!」

「……!」

 

磯崎が光良を見る。

おい、アイツまさか……!

 

「クソ。くるか!」

「はっはっはっはっ!さぁ来い、俺の化身!奇術魔ピューリム!!」

 

出やがった!化身!

4本腕のピエロがあたし達を見下ろす。

 

「おい、お前もそんだけ強いなら化身の1つや2つくらい持ってんだろ!」

「2つは持ってないが……」

「そこはいいんだよ!あるなら出せよ!化身相手じゃさすがに出し惜しみできねえだろ!」

「……」

 

金髪女が渋い表情で視線を落とす。

なんだ?

なんで出し渋ってんだよ。

 

「……悪い。この間ミクに化身パワーを与えた影響でまだ完全に回復してないんだ。使える時間はいつもより限られてる。だから、出すならこいつら全員の化身を引き出してからだ」

「なっ……」

 

言葉を失った。

んな事言ったって、化身なしで化身に対抗できんのかよ……!

 

「してみせるさ。伊達にお前の仲間を……多くのシードを傷つけてきたわけしゃない。それができるくらいの力でお前たちを守る。少しは役に立ってみせるさ」

「……っ」

 

金髪女が化身と向き合う。

何言われてもやっぱ無茶にしか見えない……!

 

「化身があるのに出さない?舐めるな!」

「分からせてやれ、光良!」

「おう!ははは!くらえっ!マジシャンズボックス!!はぁぁぁーー!!」

 

迫り来る化身シュート。

それに対して、金髪女は飛ぶ。

 

「何!?」

「フェアリーショット!」

 

妖精の羽が生えた金髪女が必殺シュートで対抗した!

顔を顰め、競り合うが……。

 

「ぐっ……!ぁぁぁ……!……っ!あ……がっ……!……!うああああ!でらぁぁ!!」

「は!?馬鹿な!俺の化身シュートを!」

「ただの必殺シュートで蹴り返しただと!?」

「……っ!……!……ふん」

 

着地する金髪女と、遠くへ蹴り返された化身シュートを見て愕然とする相手。

すげぇ!

嘘じゃなかったぜ!

 

「おいおい。結構いけんじゃねえの!?」

「……っ!」

「……!あ!アリア、もしかして―――」

「言うな!!黙ってろ!!」

「ひっ!」

 

あ?なんだ?

攻勢になったのに、チビの1人が何か焦りだした。

金髪女はそんなチビを睨んで怯ませて黙らせた。

……そういやシュートを蹴り返した時に一瞬顔色が悪くなったな。

……そういえば、着地してからというものの、金髪女の奴は片膝をついたまま立ち上がらない。

よく見たら、あいつ右足全体が膨れ上がってめちゃくちゃ腫れてんじゃねえか!!

 

「おい、なんだその足は?今怪我したわけじゃないな。俺達と戦う前からそんな大怪我を背負ってたのか」

「そんな状態で戦おうとしてたなんて、馬鹿じゃないか!」

「思わぬ弱点を見つけたな……!」

「くそ、バレたか……」

 

金髪女が足を摩る。

見るからにやべぇ状態の足じゃねえか。

お、おい。

これやべぇんじゃねえの……?

 

「こいつがいくら強くとも、お荷物と怪我を抱えてりゃ化身で押し切れる!光良!篠山!」

「そうか……!化身シュートを複数ぶつければ……!」

「いくらこいつでも今ならいける!」

「……っ!」

 

マズイ!

 

「奇術魔ピューリム!」

「機械兵ガレウス!」

 

化身が、2体……!

 

「そういう事なら俺も乗らせてもらおう」

「……!」

 

1人、違う学校の天河原中の隼がよりによってこのタイミングで満開能坂のヤツらと肩を並べた。

……ってことは。

嫌な予感がするぜ!

 

「はぁぁぁーー!鳥人ファルコ!!」

 

3体目の化身!

化身に囲まれちまったぞ!

 

「さ、3体……」

 

金髪女がギリッと歯を食いしばる。

その後、深く息を吐く。

こいつ……マジでやる気だ!

 

「ま、待てよ!やっぱり無理だろ!化身3体いくらお前でもその足じゃ……!」

「……だったら諦めるか?それでチビ共はどうなる?」

「……っ!」

 

あたしはハッとして後ろを向く。

いつの間にかチビ共はあたしの背中にガッチリ捕まって怯えていた。

そうか。

このチビ共、あたしを頼りにするくらい弱いんだ。

あたしなんて大したプレイヤーじゃねえってのに。

ここで諦めるのは簡単だ。

相手は化身3体にシードが4人。

金髪女は万全じゃない。

勝てるわけがない。

挑めば確実に負ける。

それでも。

負けると分かっていても、こいつは―――アリアは!

このチビ共を守るために自分の身を省みずに戦おうとしてんだ。

いや、チビだけじゃない。

きっとこいつは、いやこいつならあたしのことも守ろうとしてる。

間違いねえ、絶対にそうだ。

こいつはそういう奴なんだ。

 

「あ、あぁ……くそ。じゃあ全部あたしのせいじゃねえか。あたしが勝手にほっつき歩かなきゃ、チビ共を危険に晒さずに済んだ。それだけじゃねえ。お前も、そんな身体で無理してあたしなんかを守らなくてよかったんじゃねえか……」

 

そうだ。

全部あたしの失態だ。

愕然と俯くあたしを瞠目して見つめるアリア。

私怨だけでアリアを責めたが、今回に関してはあたしが勝手にミスしてこいつらを巻き込んだ。

あたしが足を踏み外さなきゃ、こいつらはこんな目に合ってなかったんだ……!

 

「いや、サエは悪くない。誰も悪くなんかない」

「……!」

 

あたしは顔を上げる。

アリアはもうあたしに背を向けて、どんな表情をしてるのかはわからねえ。

でも、もうこいつの人となりはわかった。

そうだ、こいつはこういうことを言うやつだ。

 

「いや、元といえば巡り巡って私が悪いな。全部辿れば私だ。私が悪い。だから、サエ。お前は何も気にしなくていい」

「……っ!アリア……!」

 

アリアは背中で語る。

こいつが今、どんな顔をしてるのか見えなくてもわかる。

自責だ。

 

「……せめてお前たちを守る。せめて、これから先逃げずに向き合って、もう道を間違えないように生きていく。私に残された道はそれだけだ。これ以外、私に選択肢なんてない」

 

きっとアリアは曇ってる。

自分の罪が取り返しのつかないものだってのはもうこいつには充分わかってる。

だから、噛み締めるしかない。

噛み締めて決意してるんだ。

これからはシードを守るって……!

 

「ハッ!守るだと?足元もおぼつかない。そんな状態で何を守るってんだ……!」

「……っ!」

 

磯崎に指摘され、顔を顰めるアリア。

どんなに啖呵切っても事実としてもうアリアは限界が近い。

それでも化身を3体出されるまで戦えた。

だが、それももう限界だ……!

 

「……っ」

「……!」

 

アリアがやっと振り返る。

あたしと目が合った。

アリアは、あたしの後ろに隠れて身を震わせてるチビ共と3体の化身を交互に見て、さらに顔を険しくし……張り詰めた表情を一瞬浮かべた後、覚悟を決めた表情で顔を上げる。

 

「はははー!終わりだ!いけっ!奇術魔ピューリム!!」

「機械兵ガレウス!」

「鳥人ファルコ!」

 

「~~~っ!来い……!魔神アガレス!!」

 

アリアの化身も出現する。

でも、なんかブレてやがる!

やっぱり不安定なんだ……!

 

「トドメを刺してやる!マジシャンズボックス!!はぁぁぁーー!!」

「くたばれ、女!ファルコンウイングッッ!!」

「ガレウス!!」

 

三方向から飛んでくる化身シュート!

アリア……!

 

「……っ!ーーーーーーっっ!!」

 

アリアの声にならない雄叫び。

アガレスと共に天に向かって咆哮し、力を振り絞る。

その時、目に映ったのは―――。

 

「―――アリア!」

「……っ!ぁ……ぁぁ……」

 

ミク!

ミクとシズクが上から降ってきやがった!

んでアリアがミクを見て安心したのか、こと切れてアガレスも消滅する。

アリアがふらついて倒れそうになってんぞ!

 

「アリア!」

「ミク!貴女は相手のシュートを防ぎなさい!アリアは私が介抱するわ……!」

「……っ!そうだ!そっか、そうだよね。頼んだ!シズク!」

 

シズクがアリアの元に降り立ち、アリアを支える。

その間にも迫り来る化身シュートが三本。

それを―――。

 

「牙狼咆哮!!うらぁ……!!」

『なっ……!?』

 

ミクが化身技のシュートで"空振り"ッッ!!

その風圧で相手の化身シュート三本を無力化しやがった……!!

すげぇ!

 

「馬鹿な……!」

「3人の化身シュートを一振りの素振りでだと……!?」

「な、なんだこいつ!」

「牙狼咆哮!!」

『……!』

 

勢いを殺した相手のボールを1つ、トラップしたあとミクは化身シュートを放った。

でも、そのシュートは4人のシードを間を縫っていく。

狙いはあいつらじゃない!

 

『~~~~~~!!』

 

ドガン!と凄まじい音が鳴って、土埃が舞い、あたし達は全員顔を覆う。

ミクのシュートは壁にぶつかって……穴が空いた!

しかも光が差し込み、景色が見える。

外だ!!

 

「処刑されたくないから、この子達を倒そうとしたんでしょ?だったらそこから逃げてよ。そしたら処刑されないじゃん。これで、この子達にも用無しでしょ」

『……!』

 

空いた穴を驚いた顔で見ていた4人のシードがミクの声にまた振りかえる。

その表情は狼狽。

状況に困惑してんのと、ミクのシュートの威力にビビってやかんだ。

いや……てかあたしも愕然としてるぜ。

ミクのやつ、鉄骨の壁をぶち破るくらいパワーがあんのか。

なんでやつだ……!こいつ、アリアより強ぇのか!?

 

「ふざけるな!逃げろだと?俺達はフィフスセクターの指示でここにいるんだぞ。フィフスセクターに逆らえるか!?」

「その指示っていうのがここで命かけろって話でしょ?それと逃げることで立場ってそんなに変わる?一緒じゃない?」

『……っ!』

 

ミクの言葉に4人のシードが面食らって、一瞬俯いたあと、顔を見合わせる。

正論すぎるからな。

 

「逃げなよ。私達も無闇に攻撃したくないし、ここで私達が争うこと自体大人の手のひらの上なんだよきっと」

 

ミクは、だから、と続ける。

 

「私達が傷つけ合わなくていい選択肢を取ろうよ。私達が争う必要なんて本当にあるの?私達は……きっと敵じゃない」

『……っ!』

 

ミクの眼差しは真剣だ。

その瞳に捉えられた磯崎たちが動揺する。

そして……ミクの提案を静かに受け入れた。

 

「……行くぞ」

「い、いいのか!?磯崎!」

「フィフスセクターを裏切るのか……!?」

「……っ!」

 

磯崎が顔を顰める。

 

「仕方ないだろ!どの道、あんな化け物に勝てるか!!」

「おい……!」

 

出口に向かっていく磯崎に戸惑いながら他の奴らもついていく。

処刑場には、私たちだけが残った。

 

「……戻りましょう、私達は。アリアも気を失ってるみたいだし」

「そうだ!アリア……!」

 

あたしが慌てて振り返ったらアリアのやつ、シズクに肩を預けて目を瞑っていた。

どっかで負傷してたみてぇだし、何より万全じゃない状態であたし達を守るのに神経すり減らしたんだろうってシズクは予想した。

あたしは……意識なく項垂れるアリアを見る。

 

「サエ。貴女はこれからどうするの?……別にヴァルキリアに入ることを強要するつもりはないのだけれど」

「―――いや」

 

あたしは首を横に振るう。

 

「入るさ。あたしみてぇな下手くそがチームに入って何が出来るかわかんねえけどな。……ただ、そいつに借りができた。まずはそれを返してぇ」

「……そう。わかったわ」

 

サエは、シズクの手を取って立ち上がった。

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