松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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アリアが暫く呼吸を慣らした後、なんとか立ち上がる。

……でも、足腰が震えてる。

 

「見ての通り、私はもう使い物にならない。だが、あと3分。私達はもう1点入れる必要がある。厳密にはその時間、ずっと攻めるべきという話だが」

「……?なぜ?この1点を守り切れれば……」

「できるのか?私は無理だと思うがな。私は不能。シズク以外化身パワーが尽きた。けど、向こうは化身を出すくらいならまだ1回は余裕あるぞ。全員な」

 

さすが化身のトレーニングを特別に積んできただけはあるというか。

アリアの見立てではドラゴンリンクはまだあと1回化身を使えるらしい。

とはいえ、1人1人はパスを1回出すのが限界くらいらしいけど。

向こうも消耗はしてる。

アリア曰く、一般論では試合中に彼らの化身パワーを搾り尽くすだけでも上出来の部類とのこと。

それ程までに彼らは化身の"持続時間"に重きを置いて特別な訓練を受けてきた。

逆に言えば、それが一番のアイデンティティだから試合中に失うことがないようにそうしたんだろう。

例え残り3分といえど、ほぼガス欠に持っていけたのは凄いことということだ。

けど、今はそんなことどうでもいい。

 

「問題は山積みだ。あと3分。向こうに一度も攻めさせないこと。んで、こっちは攻め続けることだ」

「じゃあ貴女はなぜ……あのシュートを撃ったの?こんな展開になるなら貴女が機能しないのは問題外でしょう」

「それはあの時点で奴から得点できて、奴らに攻めさせず時間を稼げるのが私しかいなかったからだ。つまり、私達に選択肢はなかった」

 

シズクが目を丸くする。

私もアンリミテッド・シャイニングの皆も耳を傾けながらなるほどと納得した。

結局こっちは最後まで贅沢は言えない立場だったんた。

 

「まだ最後じゃない。まだ終わってない。私の化身パワーはまだ残ってる。これを全て……ミクにやる」

『……!?』

 

皆の視線が私に集まる。

アリアの判断に驚いている。

私も……正直アリアがなんでそんな決断したのかわからない。

私に拘る理由が知りたい。

 

「それ、さっきも言ってたけど……シズクじゃダメなの?」

「言っただろ。向こうは化身をまだ1回使える。"全員"だ。それは、奴も例外じゃない」

 

アリアがドラゴンリンクのゴールを一瞥する。

千宮司くんはまださっきのシュートに一切太刀打ちできなかったことを引きずっている。

ゴールの中でネットを掴み、歯ぎしりを立てていた。

そんな彼の背中を私も確認して、アリアが私に視線を移したのを察知して彼女と目を合わせる。

 

「いいか?奴の化身を敗れるのはお前だけだ。私もあのシュートがなけりゃ無理だし、そいつもチェインなしじゃできなかった」

 

アリアが顎で白竜くんも指摘する。

彼は下を向く。

反論はない。

けど、瞳の奥に熱いものが滾っている。

きっと試合が終わったら想像を絶する命懸けの猛特訓を行うはずだ。

彼にはそれをするほどの熱意がある。

 

「これで分かっただろ。お前しかない。最後に賭けるならミク、お前だ。それに……」

 

アリアは一度目を逸らす。

なんだか言い淀んでいるというか、言いたくなさそうだ。

しかし、伝えるべきだと判断したのか私の瞳を真っ直ぐ捉える。

 

「この試合は、こいつらを助けたいと願ったお前のサッカーが掴み取った第2ラウンドなんだろ?なら最後の1点は、お前が決めるべきだ」

「……っ!」

 

私は目を見開く。

アリアがそんなこと言うなんて、思ってもみなかったから。

……彼女は私が思ってるより優しいのかもしれない。

 

「シズクが来なけりゃお前は死んでた。私が来なけりゃ負けてた。だが、勝てばその勝利はお前の功績。お前の物だ。まあ、尤も……私は別に欲しくない称号だがな」

「本当に素直じゃないわね、貴女は」

 

シズクが笑う。

その表情を見たアリアが少し顔を赤くして「ふん」と鼻を鳴らし、そっぽを向いた。

なんだか、今までで1番絆を感じた瞬間かも。

この3人は、やっぱり特別なんだ。

才能があるからじゃない。

ここまでの縁と関係が、物語っている。

そう感じる。

 

「ほら。私の化身パワーだ。受け取れ」

「うん……!」

 

もう拒否する理由はない。

正直貰ったところで全力のパフォーマンスができるかはわからない。

本当は限界なんて5度くらい超えてるし、身体は言うことを聞かない。

きっと死んでないだけで、状態は悪いなんてものじゃないと思う。

それでも、理屈じゃない。

皆を助ける為に、命をかけて乗り込んだこの試合の。

最後の時間なんだ。

無理をする理由は、それだけで充分だ。

 

「よし……!」

「……っ。あとは、頼んだぞ……!」

 

アリアがよろめき、シズクが肩を貸す。

力を貰った私は身体が軽くなり、身体能力も少し回復した。

化身も多分1回くらいは使える。

 

「アリアをサイドにして、私がフォワードにいく。いいよね?白竜くん」

「……あぁ、いくぞ。奴らとの決着をつける!」

『オウ!』

 

気合いが入るアンリミテッド・シャイニング。

3分。

このラストスパートで全てを終わらせる……!

 

「盛り上がったところで無駄だ」

「所詮最後の悪あがき」

「勝つのは俺達……!」

「ドラゴンリンクだ!!」

 

フォワードが一気に化身を出してきた!

延長狙いなんだ。

こっちにそんな体力はない!

 

「虚無魔神ベリアル……!雷魔神バアル!」

「シズク……!」

 

私達がディフェンスに入る前に、シズクが飛び出した!

4体の精鋭兵ポーンを2体の化身で迎え撃つ!

 

「くっ……!こいつ!」

「邪魔だ!」

「えぇ、最後の大一番だもの。このくらいの無理はするわよ……!」

 

シズクが4体の化身の進軍を抑える。

一気に突撃してきた彼らは出鼻をくじかれ、急に勢いを止められた。

その影響でボールは零し、こっちに転がってきた。

けど、シズクが抑えるポーン達の後ろから更に4体の化身が迫っている……!

 

「シズク!」

「構うな!行きなさい!やるべきことを……!王者の……っ!」

「……っ!」

 

シズクが、抑え込むのに必死になりながら、掴まれた腕を強引に動かす。

 

「ぅぅぅぅあああ……っ!!タクトォ……!!」

「奴の指揮を無為にするな!この指示を実行できない俺達に価値はない!俺達は、究極なんだ……!!」

『……!!』

 

率先して一番に動いた白竜くんの叫びに各々が呼応する。

一気に全員が駆け出した。

総攻撃だ!

 

「青胴!」

「白竜!」

「長門……!!お前が決めろ!!」

 

6体の化身を掻い潜り、高速のパス回しでゴール前に出される。

私の元に渡った。

 

「また貴様か……!しつこい!」

「何度だって抗ってやる!私達は、モルモットじゃない……!」

「くだらん。フィフスセクターの決定に逆らうシードなどそれだけで無価値だ!貴様の余力で何が出来る。シュートを止めたら、もはや貴様らに打つ手はない」

 

彼の言う通り、これがラストチャンス。

決めるしかない……!

 

「止める!そして、すぐに2点入れて絶望に叩き落としてやる……!」

「そんなことできるもんか!」

「できるさ。俺達はフィフスセクター最強のチーム、ドラゴンリンク。創設者直属の最高権力だ。俺達が負けるはずないんだよ……!」

 

彼のその言葉を聞いて、私は口角を上げる。

 

「へぇ。その割に私なんかに手こずってたじゃん。大した最強だな……!」

「貴様ァ!!」

 

私はシュート体勢に入り、千宮司くんも構える。

 

「魔狼 アモン……!」

「賢王 キング・バーン……!」

 

これが最後の対決だ!

 

「牙狼咆哮!!ぇぇぇやぁっ!!」

「キングッッッ!!ファイアッッッ!!」

 

ぶつかり合う火属性と火属性。

異なるのは、"気持ち"の強さだ……!!

 

「クソ……!なぜだ!なぜ、俺が負けるんだ!なぜお前には勝てないんだ!お前は一体……なんだ!?」

「―――チーム・ヴァルキリア。長門 未来だ」

「ぐあああっ!?」

 

私のシュートが千宮司くんを押し込んだ時。

その景色を私は見ていない。

私の視界は天井。

背中から重力に引かれる感覚に襲われる。

 

「"ありがとう"」

「……っ!」

 

私の視界に飛び込む彼の顔。

覗き込む彼が漏らした"らしくない"、きっとこれから先も聞くことのない今回限りの幻の言葉。

その一言に私は泣きそうになった。

口元を思わず両手で覆う。

それでも私が背中を打たなかったのは、彼の腕の中だから。

 

「お前には感謝してもしきれん。長門。長門 未来。俺の友よ」

「言ったでしょ。私は、個人的な理由で戦っただけだよ。だから、その言葉はまだお預けにしといてね」

「あぁ」

 

私の消え入りそうな声に彼は真剣に頷いた。

もう力が入らない。

アリアから貰った化身パワーもあの一瞬で全て使い果たした。

そりゃ千宮司くんだっで倒せるはずだ。

あの1発に全部込めることが出来たんだ。

無意識だけど。

 

「勝ったね」

「あぁ」

 

白竜くんは見上げて、私は目線だけ向ける。

スコアの横にあるタイムが0:00になっていた。

今のが最後の時間だった。

 

「白竜くん」

「……!どうした?」

「また一緒に……サッカーやろうね」

 

私はニッと笑った。

彼は一瞬目を丸くして、でも瞬きの間にその表情は柔らかいものになった。

穏やかに、彼は微笑む。

 

「あぁ。勿論だ」

「やった。えへへ」

 

白竜くんに身を起こしてもらうと、なぜかシズクが全速力でこっちに向かってきてた。

「おかしいわね、救世主のごとく駆けつけた私の好感度は爆上がり最高のイベントが発生してたと思うのだけれど、この見解は間違っていたのかしら何故かしら」と凄い早口で言ってきたけどちょっと何言ってるか分からない。

皆、なんか呆れてるし。

 

「……っ」

 

私はシズクの助けを借りながら歩いて、スコアをもう一度見る。

何度見ても、夢じゃない。

青胴くんも一緒に見上げて、「今日は長門がMVPだよ」と言ってくれた。

白竜くんも今日はお前が1番だ、と。

ならきっと。

この"勝利"は、私のモノだって思うのも……驕りじゃないかも。

だって、究極のサッカープレイヤー達が認めてくれたのだから。

 

 

アンリミテッド・シャイニング 8 - 6 ドラゴンリンク

 

 

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