「さてと、負けた方はサッカー辞めるんだっけか?」
「……やめなさい。もう」
アリアが冗談を言って、シズクが冗談にならないと小突く。
言われて嫌なことはやり返さない。
けど、残念ながらアリアは信条が異なる。
彼女はさらに煽る。
「ちゃんと観光して帰れよ。うっかり途中で死なねえようにな。温室育ちにはちょっと厳しいか?」
「こいつ……っ!」
「よせ」
アリアに食いかかろうとした護巻くんを制止したのは千宮司くん。
彼が止めると、誰も反論しない。
千宮司くんはアリアを睨む。
「この借りは必ず返す。必ずだ!絶対に忘れるなよ」
「いや、もう忘れた。何の話だっけか。気をつけて帰れよ」
相変わらず雑で適当。
向こうの凄みなんてなんのその。
アリアは背中を向けて、手をヒラヒラと返した。
さすが大物というか……なんというか、物は言いようって感じ。
「約束通り、私達が勝利した暁にはアンリミテッド・シャイニングの処分決定は無効。ミクや私達も処刑を免れるということで、いいわよね?」
「あぁ。二言は無い。……あの男に感謝するんだな」
千宮司くんが吐き捨てて、ドラゴンリンクは全員帰っていく。
そんな彼らを見送り、後にしたドラゴンリンクとはこれでお別れ。
あとはヴァルキリアとアンリミテッド・シャイニングだ。
シズクが白竜くんと目を合わせる。
「次は貴方達よ。貴方達、やたらミクに感謝してるみたいだけど……だったら、多少の恩返しは期待していいのかしら?」
「目敏いやつだ。恩を着せるつもりか。……まあいい。何か望みがあるのか」
「そうね。貴方達に借りを作れるチャンスなんて滅多にないし、ヴァルキリアの育成でも手伝ってもらおうかしら」
「奴らの……?」
「えぇ。この前見てもらった通り、弱いシードが多いの。練習、付き合ってくれるわよね?」
「……別にいいが、俺は厳しいぞ。見るに堪えんやつは見捨てる」
「それでいいわ」
シズクがちゃっかり契約を結んだ。
商魂逞しいというか、物は言いようって感じ。
「じゃあ帰るか」
「そうね」
アリアに言われて、シズクが続く。
2人は私を見た。
私も……。
最後に皆とちゃんとお別れしておきたい。
「皆、じゃあね」
『……!』
私が力なくボロボロの手を振ると、別れを実感して瞠目する帆田くん。
目を伏せる蛇野くん。
サムズアップしてくれる銀座くんと笹山くん。
反応はそれぞれだった。
でも、青胴くんは。
「どこ行くの。長門はアンリミテッド・シャイニングのモノだから、残るに決まってる」
「青胴くん……」
彼は真顔で大真面目に言っている。
帆田くんが驚いて見ていた。
多分彼は本気で一言一句口にしたことを事実として認識してる。
彼の中で私がいることが当たり前になってくれてるのは、嬉しい。
それでも、私は……アンリミテッド・シャイニングじゃない。
「ダメだよ。簡単に絆されちゃ。究極のサッカーチームになるんでしょ。だったら究極を目指してないプレイヤーは認めるべきじゃない」
「長門こそ何言ってんの?長門は究極だよ。それにほら、ユニフォーム着てるじゃん」
「あら。だったら私も着てるわね。仲間に入れてくれるのかしら?素敵な話ね」
「いや、お前はなんか怖いからいい」
「怖っ……は?」
シズクがダメージを受けて、思わず固まってる。
そんな彼女の様子にすら笑いを起こさないアリア。
私とアンリミテッド・シャイニングのやり取りを、彼女は厳格な目つきで眺めている。
「とにかく、長門は渡さないから」
「もういい。やめるんだ」
『……!』
現実を曲解して暴走する青胴くんを、制止したのは白竜くん。
彼がキャプテンなのだから役目としては正しい。
だが、私は意外だった。
彼も私に多少は未練を抱いてくれてると、自惚れていたから。
「……長門はヴァルキリアだ。俺達の友ではあるが、仲間ではない」
いや、情は確かにある。
彼は青胴くんの腕を掴み、彼を納得させて下ろさせると。
儚い視線を落とし、物思いに耽る白竜くん。
彼を映し揺れる私の瞳から、私の気持ちを読み取ってくれた。
そして、共感を示してくれる。
「無理やり引き入れたりなどしない。だが、その気があるのなら……俺達はいつでもお前を歓迎する」
「白竜くん……」
きっとそれが今言える精一杯だ。
凄く嬉しい。
その気持ちを受け取りたいし、胸の内が温かくなる。
けど、これから先もおそらく私が頷くことはない。
白竜くんも、皆も本当はわかってる。
ただ伝えておくことに意味があるんだ。
「私は、ヴァルキリアにいる」
「……そうか」
返事をしても、白竜くんが驚く様子はない。
やはりか、とでも言うようにフッと小さく笑って俯いた。
私も寂しいけど少し笑みを作る。
「私は、ヴァルキリアにいる。だから、いつでも逢いに来てよ」
「……!」
私が告げると、白竜くんは顔を上げ今度は目を見開く。
そうだ。
私達は、繋がっている。
サッカーを通じて。
そして、このゴッドエデンに2つのチームは存在している。
いつだって会える。
だから、私は戻る。
私はあの場所を求めてるし、シズクも私を必要だって言ってくれたから。
「忘れないで。私も忘れない。今日だけは、私はアンリミテッド・シャイニングだったって。そんな1日があったこと」
「……!あぁ。勿論だ」
口元を緩める白竜くん。
私達は、硬い握手を交わした。
Aランク棟の日々を思い出す。
あの頃から命をかけて、理不尽を乗り越えてきた。
今回も死にそうになるその瞬間まで、私達はゴッドエデンのシードとして最後まで戦えた。
生きる為に、最後まで。
元気かなぁ。
剣城くん。
「ロスト・エンジェル!!」
「ラッキーダイス!!」
勝負師ダイスマンの化身技を、剣聖ランスロットが打ち破る。
剣で突き進み、相手の化身を真っ二つに切り裂く。
「なに!?」
ゴールが破られ、幻影学園の真帆が驚愕する。
『ゴォール!剣城が決めたぁ!雷門、遂に逆転!!』
「やったな、剣城!逆転だ!」
「やったやった!凄いよ、剣城!」
「……新米キーパーが頑張ってるんだ。これくらいしないとな」
私はまだ、知らなかった。
彼が、剣城くんが―――敵になったことを。