松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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「なるほど。確かに化身の兆候が見える。素質はあるようだな」

「あっ。はい。左様でございますようで……」

 

白竜くんの前でなぜか正座をしているアスカ。

大量の汗を浮かべながら自分でも何を言ってるのかわかってないのか、首を傾げている。

 

「何語だよ。何緊張してんだ」

「いや、するでしょ!え?本当にアンリミテッド・シャイニング様が私の指導してくださるわけ……?」

「冗談だと思ってたの?」

「思ってたよ!話聞いた時は、からかってんのかって思ったよ!」

 

ふむ。

……確かに先日のドラゴンリンクの一件から帰ってきた時、アスカとミクの感動の再会の最中、「あ、ついでに言っておくとアンリミテッド・シャイニングとの合同練習が決まったわ。特に意欲的なアスカには化身を使えるように特訓してもらうわよ」と伝えた時は「はい?……あ、そうなんだ。へぇ」って適当な答えが返ってきたわね。

あれ、真に受けてなかったのね。

 

「わ、私マジで白竜……様から教わりになれるのでして?」

「だから、言葉遣いバグってんぞお前」

 

アスカは雑魚のシード。

それは散々自他ともに評価を決定づけていて、自己肯定感にも繋がっているからまさか自分がこんな大物に指導してもらえるなんて夢にも思っていなかったのでしょう。

彼女は未だに頬をつねり、現実か確かめ「マジで……?」と目を丸くしてる。

 

「貴様はやる気があると聞いた。向上心と根性があるのならば鍛えてやらんこともない。光栄に思え」

「この態度で本当に光栄なことってあるんだ……。マジで教われるなら正直お願いしたいかも」

「ほう」

 

今度は白竜くんが目を丸くする。

おずおずと自信なさげな態度の割に、アスカの意欲的な姿勢は前評判通りだった。

化身の素質もあり、何より努力した暁も身体の傷を見ればわかる。

その精神は彼の好むもののはず。

 

「いいだろう。ただし、俺は厳しいなんてものじゃないぞ」

「そりゃそうでしょ。そんくらいじゃなきゃ、私みたいな才能なし強くなれないっての」

「……見上げた根性だ。悪くない」

 

どうやらお気に召したみたいね。

青銅くんもうんうんと深く頷きながら混じる。

 

「いいじゃん。ミクより顔可愛いし、教えてあげる」

「青銅くぅ~ん?」

 

ミクが青筋を立てながら笑みを向ける。

青銅くんはなんのその。

というか満足げ。

きっとスキンシップの一貫だと思ってるのでしょうね。

年頃ね。

 

「私白竜くんがいい。ミクの悪口言うやつ嫌い」

「えっ」

「そうか。なら俺が担当しよう」

 

急に刺された青銅くんが固まる。

彼の幼さも、アスカの素直さも全部察したサエは、苦笑いしながら手を挙げる。

 

「じゃあ、あたしに教えてくれよ。化身の使い方」

「……ブスじゃん」

「お前、モテねえぞ~」

 

生意気さも躱すサエ。

まるで大人ね。

本人曰く、周りが幼いと俯瞰になるタイプらしい。

そういえばサエは「あ、あたしはいいや。あいつらに特訓つけてもらうんだろ?ヤバそうな感じがするぜ。死にそうだからあたしは遠慮しとく」と言っていた。

つまり化身を身につける気はなかったはずだけど……青銅くんへのフォローを優先したようね。

かくして、アンリミテッド・シャイニングとヴァルキリアの合同練習が始まった。

期間は3日間。

本当はもっと長期間じっくり面倒を見てもらいたかったのだけれど、ミクの乱入がなければドラゴンリンクに負けていたアンリミテッド・シャイニングとしては再び究極を見つめ直す為の鍛錬が必要になる。

つまり彼らは忙しい。

他人に構ってる場合など、本来はない。

そんな中、私達に時間を割いてくれている。

それも全て、"長門未来への恩義の為に"。

有難い話ね。

彼らも、ミクにも。

 

「なんと。何から教えたものか……」

「ま、そうなるよな」

 

アスカの面倒は白竜くんが、サエの特訓は青銅くんが付き合う。

余ったアンリミテッド・シャイニングの化身を使えないメンバーは他のヴァルキリアのメンバーを見てくれることになった。

けれど、皆の技術を確認した蛇野くんが後頭部をかき、頭を悩ましている。

アリアも仕方ないと彼を擁護した。

それ程までに彼ら究極のチームから見れば、ヴァルキリアの個々の能力はあまりに低すぎる。

 

「時間がないところ申し訳ないけれど、1人でも多く戦力になるように仕立てあげて欲しいわね。知識を与えるだけでもいいわ」

「そう言われてもな……善処する」

「恩に着るわ」

 

困った注文をつけている自覚はある。

正直、たった3日でなんとかなるのはアスカとサエの化身くらいでしょうね。

あまりに皆のレベルが低すぎて応用はまだ早いし、基礎は私達が教えているとはいえそれも足りない。

身体能力も低いし、どこから手をつけたらいいものか悩むのは至極当然の反応だと思うわ。

 

「どうした!そんなものか!」

「まだまだぁ!」

 

そうこうしているうちに白竜くんとアスカの特訓はかなり進行している。

やり方はゴッドエデン流。

要するに追い込んで、化身を出させようという算段。

そこに白竜くんの性格によるアレンジが無意識に加えられている。

 

「長門に追いつきたいのではなかったのか?戦力になりたいのではなかったのか?」

「うるさい!今、それを目指してるんだ!」

「くだらん。そんな理由では強くなれん。何の為に化身を出す。他人の為か?憧憬か。自己の為に成長を目指せん奴に成功はない!」

「……っ!」

 

ハッとする。

最初にアスカが口にしていた目標に誘導しておいてからの、解答の指摘。

白竜くんが強くなったのは、自身が究極となる為。

まさしく究極の自己満足だ。

だが、それこそが成長の本質。

モチベーションを他人に委ねる者に、持続性はない。

私欲が自己啓発へと繋がるのよ。

 

「シャイニング・ドラゴン……!」

「……っぁ!」

 

アスカが見上げる。

この特訓はずっと、化身による共鳴現象を引き出す為に白竜くんは化身をアスカにぶつけていた。

けど、今のアスカは満身創痍。

その限界状態で前にする巨体に圧倒されている。

彼女の気概もここまで。

腰が引けたら終わりだ。

 

「せぇぇや!」

「うわあああ!?」

 

アスカが化身シュートをマトモにくらって吹き飛ぶ。

地面に倒れ伏せた。

さっきまで震えながらもすぐに起き上がろうとしていた彼女が、今度はピクリともしない。

限界ね。

白竜くんが彼女に背を向ける。

 

「今日の特訓は終了とする。奴が気絶から覚めたら少し―――」

「何もう帰ろうとしてるわけ?」

「……!」

 

瞠目して振り返る白竜くん。

そこには足元がおぼつかないながらも、傷ついた腕を抑えて立ち上がるアスカの姿。

彼女は肩で息をして、白竜くんに鋭い目を向ける。

 

「待ってよ。ほら、続きやろうよ」

「いや、初日だ。そう焦る必要はない。俺が終わりと言ったら終わりなんだ」

「ハッ。何?怖いの?私が女だから?ヤワそうだから?これ以上は死にそうでやりたくないってわけ?」

「……冗談ではない。死ぬことになる。煽るな」

「いーや、煽るね。ゴッドエデン最強のプレイヤーなんでしょ?私みたいな能無しでも化身使いにできるって証明してよ」

 

白竜くんが顔を顰める。

私を一瞥した。

ごめんなさい、嫌な役割を任せてしまって。

でも、やってもらいたい。

ここで彼の要望を飲むことは私にはできない。

彼もそれはわかってる。

 

「……覚悟はいいか」

「ちょうど今朝済ませたとこなんだよね。そっちこそ、私を殺す気でやる覚悟ある?」

「面白い。本気でいく!」

「上等!」

 

アスカが構える。

白竜くんは飛び上がった。

あれは……!

 

「ダメ!白竜くん、やり過ぎ!」

「いや、それでいい。やれ!」

「くらうがいい!ホワイト・ブレス!!せぇぇぇや!!」

 

ミクとアリア、真逆のことを言って2人とも走り出す。

アスカに迫るのは、才能組3人がかりでも止められなかった威力のシュート!

 

「……っ!」

 

息を飲むアスカ。

しかし、瞬きの間に覚悟を決める。

次の瞬間。

 

「私は、強くなるんだ!誰の為でもない。私が生き残る為に……!!うわああああぁぁぁぁ……!!」

 

アスカが叫び、気合を入れると同時に彼女の背中から出現する巨体。

だけど、それが完全に発現するよりホワイトブレスの直撃の方が早い!

 

「魔狼アモン!!」

「魔神アガレス……!」

「"突撃の バルバトス"……!!」

 

3体の化身がホワイトブレスを受け止める。

そして、全員が吹き飛んだ。

 

「うわぁぁ!?」

「……っ!アスカ……!大丈夫!?」

 

ミクが即座に体を起こして1番後方にいたアスカの心配をする。

アスカが僅かに動いたのを確認して、彼女は次に隣のアリアに視線を移した。

 

「ありがとう、アリア。助けようとしてたんだね……」

「それよりもさっきもう1体化身がいなかったか?」

「えっ」

 

片膝を立ててそこに腕を置くアリアに指摘され、ミクが座ったまま1…2…と指を折って数える。

出現した化身は、まず魔狼アモン。

次に魔神アガレス。

そして……いた。

確かにいた!

3体目の化身!!

 

「アスカ!」

 

ミクがアスカに駆け寄ると、彼女は半身を起こして自身の両腕を見下ろし唖然としていた。

 

「私、今化身出した……?」

「出た!」

「やっぱり出てたよね!?やった!よっしゃぁ……!」

 

ガッツポーズを掲げるアスカ。

その光景に白竜くんはフッと微笑む。

 

「助かったわ。本当にありがとう」

「まだ2日ある。何か他に鍛えておくことはあるか?」

「あら、いいの?じゃあお言葉に甘えてお願いしようかしら。彼女、最近トラップを鍛えてるようなの」

「ほう。自己分析もよく出来ている。いいだろう。俺が教える」

 

白竜くんがそう言って彼女に近づく。

なんだか、とても丸くなったわね。

今の方が素敵よ、白竜くん。

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