松風天馬君に恋する私   作:伊つき

93 / 122
92

 

アンリミテッド・シャイニングとの合同練習3日間。

その全てが終わった。

アスカとサエは化身が使えるようになり、アスカはトラップが驚くように改善。

それどころかドリブルまで人並みにできるようになっていて目を疑ったわ。

白竜くんに聞いたら「時間が余った。別に鍛えて損をすることはないだろう」と淡々と返された。

3日間しかないのに時間が余るなんてさすがね……。

サッカープレイヤーとしての格が違いすぎるわ。

 

「他の皆はあんま変化ないね」

「できない事が多すぎるのよ。基礎が備わってないから特訓よりもまずは練習をすべきだったわね」

 

アスカとサエとチェンナイ以外は基本すらまだままならない。

そんな状態で彼らの時間を奪い、手を煩わせるなんて失礼だったかもしれないわ。

とはいえ、アスカとサエの成長は大手柄。

これだけでも頼んで良かったと思えるわね。

 

「ところで次の指令は出てないのか?ドラゴンリンクとの戦いでかなりサボっちまったからな。その間に仕事が溜まってるだろ」

「そうね。月山国光と幻影学園いうチームの処刑が決まっているわ」

「相変わらず知らねえ名前だ。まあ相手がどこでも同じだがな」

 

アリアは靴紐を結びながら適当に言う。

けど、どこでも同じという言葉はおそらく薄情だったり冷徹な感情から出てるわけじゃない。

どこが相手でも、残酷に手を下さなければいけない。

その悲哀さを嘆いたマイナスの開き直りだ。

私も、思うところがありながらまた端末に視線を落とす。

 

「……?」

「どうした」

 

端末を見て私が訝しんだのを、アリアは目敏く気づいて尋ねた。

私はそんな彼女を一瞥しながら端末を何度も確かめるように操作する。

けれど、何度確認してもさっきまで見ていたデータが消えていた。

スケジュールから月山国光と幻影学園の試合がなくなっている。

ページが真っ白になり、処刑が無効になった。

謎のバグに私が困惑していると……瞬きの後、次もまたバグのような字体で新しいスケジュールが挿入された。

その文字列は―――ただの学校名なのに、なぜか"不気味"に思えた。

 

 

【練習試合 聖堂山中学】

 

 

私達はまだ知らない。

聖帝イシド・シュウジの思惑を。

彼の、介入を。

フィフスセクター最高峰の5つのチームのうち、4つ。

組織の根幹と戦うことになることを―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━ 聖堂山篇 新章開幕━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

アンリミテッド・シャイニングの処刑が失敗に終わった。

妨害したのは、ヴァルキリアのプレイヤー。

長門 未来。

陸奥 滴。

アリア・オイゲン。

 

「いかんな。実に良くない結果だ」

 

ドラゴンリンクの帰還を迎え、ゴッドエデン内の監視カメラによる試合映像を眺め、足を組み肘をついて頭を預けるフィフスセクター創設者。

千宮司大悟は顔を顰めた。

彼が熱視線を送るのは3人のシード。

それも全て女だ。

 

「イシドさん。貴方の提案を呑んだのは私だ。ドラゴンリンクを跳ね返すことが出来れば、彼らもまだ捨てたものではない。処刑を見送るとな」

「……受理頂きありがとうございます。妨害が入ったとはいえ、彼らは勝利した。また、コストを考えても彼らは存命させるべきかと」

 

イシドの進言を取り入れた千宮司。

彼の言葉に千宮司は冷たい目を向ける。

 

「確かに君の言うことは正しい。私も少々先走りすぎたようだ。だが、もう1つの問題は放置できない。そうは思わないかね?」

「……と、言いますと」

「とぼけるでない。彼女達だ。シードの分際で勝手な行動に出て、フィフスセクターの決定に抗った。この蛮行は良くないな」

 

千宮司は溜息をつく。

こういった行動を見過ごすといずれ、大きな波紋を呼ぶ。

リスクを未然に防ぐのも経営者の務めだ。

 

「彼女たちのような自由意志を我が物のように振るう連中は、管理の名に相応しくない。反乱分子となる前に処分しておくべきだ」

「彼女達を……。また処刑なさるおつもりですか?」

「いや。まだ私の管轄ではない。最初はドラゴンリンクにやらせるつもりだったが……目に余る行動があるならともかく今の段階では手を出せん」

 

その先を彼は言わない。

そもそも君の責任だろうと、千宮司がイシドを睨む。

なるほど。

彼の言いたいことをイシドは察した。

 

「確かに。彼女達の直属は牙山ですが、責任者は私です。いかようにお望みでしょうか」

「内容は君に任せる。大事になる前に予防したまえ。もし、それでも上手くいかんようなら……その時は私が決定を下す」

「かしこまりました」

 

イシドが頭を下げて、承諾する。

仕事を請け負った。

聖帝として、シードの在り方は何たるべきか、フィフスの信条を今一度彼女達に叩き込む。

千宮司は椅子を反転させて、口角を上げイシドに尋ねる。

 

「任せたぞ、イシドくん。君のやり方を……見せてもらおう」

「ハッ。必ずや彼女達を優秀な駒として使い続けられるように致します。

「期待しているぞ」

「はい。牙山に沿って敢えて流儀に従います。言わば、彼女達に施すのは"教育"です」

「ほう。それは素晴らしい」

 

千宮司が背を向け、また姿勢を戻し、ゴッドエデンを見下ろした。

イシドはそんな彼に頭を下げてその場を後にする。

そして、長く薄暗い廊下の途中、イシドを待つサッカープレイヤーがいた。

 

「お呼びでしょうか、聖帝」

「あぁ。これより君たち聖堂山にはとある仕事を頼みたい」

「仕事……ですか?」

 

訝しむのは聖堂山中サッカー部キャプテン。

黒裂真命。

 

「このゴッドエデンに君達を連れてきたのは他でもない。ここに君達の標的がいるからだ」

「標的……一体どのような……」

「彼女達は全員女性のシードで構成されたフィフスセクターのチーム。名は、"ヴァルキリア"」

 

廊下を共に歩いていた2人。

しかし、イシドが足を止め、黒裂が振り返る。

 

「黒裂。ヴァルキリアを―――"潰せ"」

「なっ……!同じフィフスセクターのチームを!?」

 

思わぬ命令に黒裂は耳を疑う。

真面目に鍛錬を積み、聖帝イシドシュウジの名の元に強さと秩序のみを求めてきたのが聖堂山。

無論、フィフスセクター最高峰の5つのうち、一角を担うだけあり並大抵の過程を歩んできた訳ではない。

その称号に相応しい他を寄せ付けない凄みはある。

しかし、彼らは五皇の中では正統でありすぎて逆に異質となっている。

他の4チームと違い、そこが聖堂山のいい所でもあり他4チームに劣っている欠点。

 

それは、"潔癖"すぎるということ。

 

「我々が……仲間を……」

「勘違いしてはならない。同志ではあれども仲間ではない。私の理想とするサッカーを体現する。それが君達聖堂山イレブンだ」

 

イシドの言葉にたじろぐ黒裂。

その反応を前に、やはり彼には荷が重かったかとイシドは眉をひそめる。

聖堂山イレブンは聖帝直属のチーム。

最高権力お抱えのチームが組織に圧力をかけられることはまずない。

つまり、彼らは汚れ仕事というものを一切したことがない。

そんな彼らに同じフィフスの仲間を倒すことなどできない。

 

「黒裂。聖堂山とはなんだ?」

「ハッ。聖帝の意思のままに、貴方の理想のサッカーを体現するのが我らの存在意義。清く正しく完壁な統制こそが聖堂山です」

「その通りだ。君達のそのサッカーを是非とも彼女達に伝えて欲しい。彼女達は今、本来辿るべき道から逸脱しているのだ」

「そういうことでしたか……。ならば、お任せを。我らが必ずや、その女性達を聖帝の理想のサッカーへと導いてみせます」

「頼んだぞ」

 

イシドが頷き、黒裂も深く頷き返した。

聖帝は、顔を上げる。

 

「お前達が対戦する前に私はやるべき事がある。私自ら、彼女達に聖帝としての理念を叩き込む」

「聖帝自ら……。わかりました。いつでも出られるよう皆と共に準備しておきます。御用の時はお声掛けを」

「あぁ」

 

黒裂が膝をつき、召使いの如く頭を垂れる。

イシドは彼に端末を渡す。

 

「ヴァルキリアのデータだ。目を通しておけ」

「ありがとうございます」

 

有難く受け取り、イシドは去っていく。

その背中を見送り、黒裂は視線を落として端末を操作する。

しかし、その手はすぐに止まり、彼は静かに驚いた。

ヴァルキリアの中にいる1人の女性の名を目にして。

 

「長門 未来……馬鹿な。まさか、彼女が」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。