『聖堂山……?』
名前を聞かせて最初の反応はこれ。
まあ帝国も知らない皆のことを考えれば、予想できたことだけれど。
ただ白恋などとは違って両方ともフィフスセクター内のチーム。
思い当たる節がある人もいた。
「聖堂山……そうか。遂に来たか」
「アリア。やはり貴女、知ってたのね」
「あぁ」
ミクがアンリミテッド・シャイニングを知っていたように。
アリアが呟く。
フィフスセクターの五大トップチーム。
特に聖堂山のことを彼女は認知していると私も睨んでいた。
なぜならアリアは、トップ層に君臨し、上澄みを景色を見てきたから。
そんな彼女がフィフスセクターの最高権力チームと形はなんであれ出会う機会がないとは思えない。
名前くらいは聞かされてると思っていたわ。
けど、彼女曰く、それ以上に認知しているらしい。
「聖堂山は聖帝お抱えのチーム。つまり、フィフスセクターの頂点に君臨するチームと私達上澄みのシードはよく聞かされる」
「……そう」
「ま、今思えば表向きは奴らがトップって話だったみたいだけどな」
ドラゴンリンクの存在を知った今、聖帝が実質的なトップでないことと聖堂山も然りということは発覚している。
アリアの言い方に含みがあるのも無理はない。
私もドラゴンリンクを想起しながら視線を落とし、すぐに話題を戻す。
「立ち位置もそうだけど、聖帝イシドシュウジの管轄というのが大きいでしょうね」
「あぁ。思想が強い組織なら教祖のことは直属の下っ端のことまで教養として叩き込まれるからな」
「じゃあ貴女は聖堂山について教わったことがあるの?」
「いや……そもそも私もそのメンバーリストに載ってたことがある」
『……!?』
全員が瞠目してアリアに注目する。
私もさすがに驚いたわね。
でも、確かイシドシュウジとアリアって直接の面識はなかったわよね……?
「イシドシュウジはアリアを知ってたのかしら?」
「いや。今は知らないが、少なくとも当時は認知されてない筈だ。私をスカウトしたのも確か虎丸……とかいう名前の奴だった」
「なるほど。いくら監督が聖帝といっても全てを管轄してる訳ではないということね」
確かに彼なら重宝している部下、つまりは秘書的立ち位置の信頼できる者を傍において居ても不思議ではない。
これだけ巨大な組織の聖帝業務をやりながらチーム運営まで手が回るとも思えない。
人事を始めとして、ある程度は側近に委ねているのでしょうね。
ではなぜアリアが聖帝に認知されていなかったということが断言できるかというと、本人に聞くところによると1次選考の橋にも棒にもかからなかったらしい。
当時ゴッドエデンのトップだったアリアが落選するほどの選考……という訳ではなく、シンプルに求めていた人材じゃなかったとのこと。
その理由について尋ねると。
「協調性がない。らしい」
『あー……』
察し。
全員が納得したように微妙な顔をした。
正直アリアの当時の格を考えると私達如きがそんな反応をするのは失礼に値するけれど。
本人もまあそうなるよな、みたいな私達の反応も含め納得してるようなので片手で皆を注意しようとした私を制して許してくれた。
「ま、今も大概だが当時の私は個人プレイに走ってたからな」
「そもそも1人で活動してたから当たり前とも言えるけど……聖帝直属のチームの選考においては妥当な厳しさね」
「だな。仕方ない。別に私も特別興味があった訳じゃないからな。結果を聞かされても『そうか』としか思わなかった」
そうね。
アリアからすれば突然話を持って来られて、しかも殆ど進捗もなく落選となったのだから興味薄いわよね。
「聖堂山は統率の取れた完全調和がテーマのチームだ。ただ強いだけの奴なんて必要としなかった徹底ぶりも考えると……」
「厄介ね。単純に強いより相性が悪いかもしれないわ」
「あぁ。強くて、連携や戦術に優れた優等生チーム。そういう品と質みたいなのが1番タチが悪い」
「ウチみたいな荒いチームは分からされるでしょうね」
生き残るとなるとアンリミテッド・シャイニングやドラゴンリンクの方が厳しいけど、あくまで私とミクとアリアに限った話なら条件を揃えれば勝利という目的のためにやりようはある。
言っちゃ悪いけどアンリミテッド・シャイニングとドラゴンリンクはゴリ押し気味で、パラメータは高いけど丁寧なサッカーをしてるわけじゃない。
だからこそ、私たちみたいな雑魚でも私とミクとアリアがいれば工夫で勝てた。
けど、聖堂山はキツいわね。
ゴリ押しや多少の工夫でどうにかなる相手じゃない。
向こうは超正攻法で丁寧に畳み掛けてくる。
1番厄介。
優等生のサッカーをやられたら技術が荒い私達じゃぶが悪い。
私達みたいな不良は一瞬で片付けられるでしょうね。
そんなのと試合をするなんて……今から頭が痛いわ。
「でも、練習試合なんだろ?んな気負う必要なくねーか」
「そうそう。負けてもいいんだし」
「……」
サエとアスカが発言する。
彼女達が楽観視するのも無理はない。
けど、違う。
「果たしてどうかしらね……練習試合だからって負けてもいいとは限らないわよ」
「アンリミテッド・シャイニングの時は個人のシードが暴走して決まったことだろ。ルールも奴が決めた。ありゃノーカンだ」
「ドラゴンリンクも標的は私達じゃなかった。それだけの話よ」
「つまり練習試合なら負けても殺処分にならないという保証はない。最初から今まで特別事例が続いただけだ」
アリアに現実を言い渡されて皆はそんな……と暗い顔をする。
1人だけ。
ミクだけは前向きだった。
ボクサー座りで前のめりになり、鼻下に手を当てて目線だけこちらに向けて真剣に尋ねる。
「で、勝算あるの?聖堂山相手に」
「……まあ、ないわけではないわ」
「もう向こうのデータには目を通したのか?」
「えぇ」
私は頷き、端末を見下ろす。
なぜかバグが起きて試合が組まれてから、相手のデータも転送されてきた。
何か陰謀を感じるけど、貰えるもんは貰える主義だから有難く目を通させてもらったわ。
それでわかったのは。
聖堂山はFWからDFまで全員がストライカーだということ。
厳密に言えば全員に得点能力のある攻撃全振りのスタイル。
かといって守備力がないわけではない。
かなり幅広く組み合わせも無数にあるシフトやフォーメーションを駆使してメカニカルに戦術が用意されてる。
個々に高い守備能力がないのなら、作戦でカバーしようという算段ね。
相当考えて、訓練も積まれてる。
1on1で負けることはまずないでしょうけど、そんなシンプルなシチュエーションは試合中1度もないと思っておいた方がいいわね。
ここまでくると守備も弱点ではない……とでも言うと思った?
私は鼻を鳴らす。
「戦いようならあるわ。ウチが苦手なタイプのチームでも、相手のやり方によってはね」
例え守備シフトの徹底で守備力を完璧にカバーしていても、能力の低さが消えるわけじゃない。
それに、戦術による対策を選択したのは対ヴァルキリアにとって誤りだったわね。
こっちはそんな高尚な盤面で戦うほどできちゃいないのよ。
土俵にすら立ってないんだから、相手する必要もないでしょう。
既に更地なんだからこれからチームを対聖堂山特化に手を加えさせてもらうわ。
というかもう既にやってる取り組みが特攻になるわね。
「向こうは優等生だけど、強豪のやり方つまりは総合重視を採用していない。これはラッキーだわ」
「敢えて、同じ土俵で戦うってわけか。相当な殴り合いになるが……向こうの得意で勝てるのか?」
「あら。こっちは不良よ?本気で競うならともかく同じ土俵で暴れ回ってるだけならあっちも困るはずよ」
「……具体的な作戦をまだ聞いてないが、また嫌な予感がするな」
アリアが嫌な顔をする。
知ったこっちゃないわね。
勝つしかないこの環境で四の五の言ってられない。
やるしかないのよ。
「さぁ。ミーティングはここまでよ。聖堂山戦に向けた練習に取り組むから、皆覚悟しておきな―――」
端末を操作しながら告げようとした。
けれど、みんなが「えー……」と不満を垂れる中、私は聖堂山戦までの間にまた新たに挿入された予定に驚いた。
アリアが私の様子に気づく。
「なんだ。また何かあったのか」
「……えぇ」
私はアリアが画面を覗き込むと同時に端末を暗転させて、至近距離の彼女と目を合わせる。
「な、なんだよ」
「新しい命令が入ったわ」
「あ?」
アリアが顔を顰める。
みんなも「また?」とでも言えような嫌な表情をした。
けど、今回はヴァルキリアに対する指令じゃない。
関係があるのは……ミクとアリアだけ。
「ミク。アリア。貴女達はこの指定の場所へ行きなさい。そして、そこで―――聖帝イシドシュウジの訓練を受けなさい」
「は?」
「えっ」
アリアもミクも唖然とする。