「君達に来てもらったのは他でもない。私の元で特別訓練を受けてもらいたい」
「あ?何言ってんだ。お前」
「いや、口の利き方。えぇ……ヤバすぎ、この子」
アリアの態度にミクが絶句する。
そして、隣でハラハラする。
生きた心地しないんですけど。
「気にするな。態度は目に瞑ろう」
「それ以外は看過してくれないのか?パパ」
イシドが睨む。
アリアは腕を組んで顎で彼を指す。
折れたのはイシド。
ため息をついた。
「君とは初めて話すが、虎丸から聞いていた通りの人柄だな」
「失望したか?期待に応えられなくてそれは残念」
「これ以上煽っても無駄だ。意味はない。そろそろ本題に入ろう」
「そいつは有難い。待ちくたびれたぜ。で?聖帝選挙の時期だろ、今。お忙しい聖帝様がこんな所で油売ってていいのか?」
アリアが指摘すると、イシドが黙り込む。
ミクが「え?そうなの?」とアリアを見る。
イシドが目を伏せる。
それが肯定となり、ミクは驚いた。
本当に私たちに時間を割いてくれてるなんて。
なんで?と。
「私にも事情がある。君達とこうして接触しているのも依頼が入ったからだ」
「なんだ。お仕事かよ。ゴッドエデンを作ったのはあんたなんだろ?私達、あんたの子供みたいなもんだ。もっと構ってくれよ」
イシドが視線を逸らす。
アリアが訝しみ、ミクと目を合わせる。
だが、すぐにイシドが戻ってきて2人も迎え撃つ。
視線の交錯によるバトルは始まっている。
「今はその余裕がない。それに、次期に……いや」
「あ?んだよ、今の間は。まあいい。それより私達を鍛えるらしいが、どういうつもりだ」
「確かに。それは気になるかも。今度、聖堂山と……戦うのに」
「それもあんたが仕組んだ。聖堂山はあんたの愛息子。敵である私達を強化してどうする」
「試合を組んだのは君達をただ処分する為ではない」
「あ?」
「君達も資産だ。できれば聖堂山との戦いを通して、私の思想の為に働くシードとなって欲しい」
「管理サッカーに染まれってか。こんな労働環境で尽くしたがる奴なんているかよ。この地獄を見学していきな」
「残念ながら誰よりも視察している。私が作ったのだからな」
「ハッ。だったら私達に期待するのは無駄ってこともわかってるはずだ」
「皆の殺処分を撤回しないなら、管理サッカーなんてやらない……!」
「そういうことだ。どうする?こんな無駄な訓練辞めるか?それとも聖堂山を見捨てるか?」
「聖堂山は私の計画に必要な大切なチームだ。そんなことはしない。君達も諦めるつもりはない」
「計画?……あくまで私達に賭けるか。えらくご執心だな。娘の温もりが欲しくなってきたか?」
顔を顰めるイシド。
アリアの低俗演出はまだ止まらない。
「私達に乗り換えるなら愛を返すぜ、パパ。タグ付けして投稿してやるよ」
「下品な女だ……虎丸に聞いたより酷い」
ボソリと悪態をつき、顔を逸らし顰めるイシド。
お、今のは本音っぽい。
本音……?
いつもは建前だと思ってる?
と、自身の直感に疑問を覚え、顔を逸らし首を傾げるミク。
そんな彼女を一瞥するも気に止めずアリアはまだ食いかかる。
「ま、貰えるもんは貰ってやる。で?聖帝様は私達にどんなサッカーを教えてくれるんだ?」
「いや。君の講師は私ではない。別に呼んである」
「は?おい。ふざけ―――っ!?」
―――「Xブラスト……!!」
聖帝の背後。
薄暗い廊下。
その奥に煌めく赤い輝き。
アリアがハッとした頃には遅い。
赤いビームが脈を打ちながら、凄まじい早さと威力で一直線にアリアの腹めがけてぶち込まれる。
アリアですら反応できない不意打ちに最強級の必殺技―――かと思いきや!
「アヴァロン・ウォール!!うっ、うおおおおおぉぉぉぉ……!?」
「アリア!!」
ミクが叫んで振り返る。
しかし、アリアはシュートに押し込まれて反対の奥の廊下へと消えていく。
遅れたとはいえ技をギリギリ出せたアリアの超反応。
それでも全く止められないシュート。
アリアが連れていかれた虚空を見つめ、ミクが追いかけようとしたその時。
「君はお呼びじゃないよ。招待したのは彼女だけさ」
「……っ!?」
耳元で聞いた事のない男の声がして、ミクは振り返る。
しかし。
そこには姿がない。
横切った人影はアリアの後を追っていった。
ミクはもう一度そちらを見る。
追いかけるか悩むが。
「……!」
「……」
この男を、聖帝イシドシュウジを放っておくかも悩む。
彼が目の前にいるこの好機を、逃すべきか。
こんな機会はもう二度とない。
ゴッドエデンの元凶が目の前に。
どうする。
「どうする。君が決めるんだ」
「……っ!」
「彼女を助けたいなら追いかけるといい。……強くなりたいなら、私に従え」
「私は……っ!アリアを……!」
「本当にそれでいいのか!管理サッカーを否定しながら、君達は処刑人であることを受け入れている」
「……っ!誰のせいで……!」
「その運命を否定したいのなら、本当に殺処分を無くし自由を齎したいのならば、力を手に入れるしかない」
「ち、力……」
「そうだ。何事にも抗える力。全てを打ち砕く力」
「……!」
「君は無力だ。本気で陸奥滴の思想に協力するのなら力を求めることから始めるんだ」
初めてイシドが凄みを見せて、目付きを鋭くした。
ミクは息を呑む。
正直、強さに対して欲求がない。
努力をしない。
それが長門未来だからだ。
けど。
「……私は」
「……」
構えたまま、視線を落とす。
敵の前で隙だらけだが、イシドもまたそんな彼女を見つめて、待ってくれる。
本当に敵意がなく、本当に訓練を施そうとしている証拠。
何を企んでいるのか、そんなこと考えても答えはわからない。
わからないことは考えない。
それが主義。
今考えることは別にある。
それは、ここで何を選択するか。
シズクなら何を望む?
彼女の意思を叶えたい。
ミクはずっとそうだ。
でも、最近心境の変化があった。
努力をし続ける人たちと時間を共にした。
皆を守るために、それが必要なら。
「やります。教えてください、聖帝のサッカー」
「厳しいぞ。着いてこられるか?」
「はい。それしか得意じゃないんで……!」
ミクが不敵に笑みを浮かべる。
イシドは目を丸くした。
しかし、すぐに思い出した。
長門未来の経歴。
ゴッドエデンの選別を乗り越えたのは、強靭なメンタルが所以。
Aランク棟で大した実績もないのに生き残れたのはそのタフさが故。
"耐えること"。
ことそれに関する耐性で、彼女の右に出るシードは存在しない。