「くっっっそぉぉぉぉぉぉーーーーー!!」
ゴッドエデンに響き渡るアリア・オイゲンの叫び声。
彼女はシュートを止めようとするも、永遠に後退を強いられている。
フロアをいくつか移動させられた彼女は、行き着いたその先の景色を驚いて見渡す。
「グラウンド……!ぐあっ!?」
ハッして上を向いたその途端、意識が逸れて一気に押し込まれた。
腹にシュートが抉りこんでそのままゴールへ一直線。
「ぐああっ!?」
ゴールネットに身体ごと突き刺さった。
ようやくボールが止まり、アリアの腹から地にポテンと落ちて、軽い音を立てる。
肝心のアリアは膝から崩れ落ち倒れた。
「うっ……ぐっ……!」
倒れ伏せたと思ったら小刻みに震えながら、なんとか身を起こすアリア。
しかし、彼女がやっとの思いで顔を上げて見たものは。
また奥で赤い煌めきが目に映る。
おいおい、嘘だろ!?
「Xブラスト……っ!!」
またしても赤いビーム。
それが今度はまだ半身と肩膝しか起こしていない無防備なアリアの腹にクリティカルヒット!!
「うああああああああ!」
無理やり起こされ、それどころか宙に浮き、またしてもゴールネットに押し込まれる。
「かはっ……!?」
白目を剥いて、唾液を吐き、今度こそノックアウト。
完全に倒れ伏せたまま動かなくなった。
そんな意識を失った彼女に歩みを寄せる人影が1人。
「あれ?もう死んじゃった?意外とあっさりだな」
彼が―――いや、"ロココ"が顔を覗くと、その顔は少し傾いた。
彼女の瞳がギョロっと動き、彼を捉える。
ロココが目を見開く。
だが、もう遅い。
「仕返しだ!魔神アガレス!!」
「ははっ!凄いや。全然元気じゃん。いいね、守以来のドキドキだ」
「こいつ……!」
距離感歩幅にして1歩分。
なのに避けられた。
只者じゃない。
アリアは半身を起こし、片脚を立てて、片腕を庇いながら相手を睨む。
「いいね……その目つき。気に入った」
「お前は……」
立ち上がるアリア。
世界で戦うプレイヤーなら彼女も知ってる。
彼はその中でも"最強のゴールキーパー"だ。
「世界一のGK、"ロココ・ウルパ"……!!」
「知ってるんだ。光栄だな。……サインいる?」
「ちょっと欲しいじゃねえか。クソ」
「はははっ!悪態をつきながら求める人は初めてだ。面白い」
無邪気に笑うロココ。
だが、彼が初めて世の中に認知された頃からかなり月日が経っている。
あの頃は幼さもあり可愛げのあった笑い方も、今はその奥に冷たさがある。
そう洞察し、無言で警戒した目付きで彼を見ていたアリア。
その瞳に、瞬きの間に笑顔が消え、フッ……と不敵に笑う彼が映る。
アリアは目を見開く。
「……っ!」
「さぁ、別にファンサしに来た訳じゃないんだ。君もわかってるだろう?」
「……あぁ。どうやら聖帝サマは早速養育放棄らしいな。まだ反抗期も来てねえぜ」
「君、修也……じゃなくてシュウジと話してた時から思ってたけどそのユーモア―――面白くないよ」
ロココが冷たい表情でにじり寄る。
アリアは徐々に後退りした。
本能が告げている。
こいつはヤバい。
勝てない。
昔、画面で見てた英雄とは違う。
あの頃よりもさらに化け物になってやがる……!!
「ハッ。認識を改めるぜ。こんなビッグゲストをコネで呼んでくれたんだ。箱入り娘冥利に尽きるってもんだ。パ〇活、最高だな……!」
「君、本当に面白くないな。シュウジには任されてない仕事だけど……ちょっと教育も必要だな、これは」
グッ……!と拳に力を入れるアリアと、真剣な表情に移行するロココ。
2人のトレーニングという名の潰し合いが始まる―――。
一方、その頃。
ミクとイシドシュウジは対峙していた。
イシドが彼女を見下ろす。
「長門。君に俺の技を授ける」
「聖帝の!?えっ。選手、だったんですか……?」
「……すぐにわかる。それと、お前の力の使い方を教える」
イシドは簡単には答えない。
あくまで自分で探せという姿勢。
彼はボールを拾い、ミクと向き合う。
「力を身につけろとは言ったが君の場合、力自体は既に身についている。それは自覚あるんじゃないか?」
「……っ!」
確かに。
今から身体能力をアップさせる方向性は無理がある。
なぜなら既にカンストしてるからだ。
長門未来というプレイヤーの悩みは永遠に共通。
それは、力があっても、それを扱えないということ。
「オイゲンの場合は、有り余る力に身体能力がついてこれていない。鍛える余地はある」
「私にはないんですか?」
「そうだ。君に必要なのは小手先の技術。コントロール術。つまり、スキルだ。鍛える必要はない」
「……」
未だこの男を信用できないが、言ってることは的を射ている……気がする。
果たしてこの申し出を受けていいものか、正直まだ判断に困っている。
いつもその決断はシズクかアリアに決めてもらっていた。
彼女達と出会う以前は、自分で選択していつも間違えていた。
でも、今は2人はいない。
つまり受け入れてみるしかない。
「教えてください。私、どうすればいいんですか」
「オイゲンは君に力を抜くように伝えたようだが、それは半分正解で半分不正解だ」
「半分不正解……?」
「そうだ。折角それほどのパワーの才能に恵まれて半分も使わないなど勿体ないとは思わないのか?」
「……!」
ミクは驚く。
脱力を初めてから、自身のリミッターを半分以下に設定してることを誰にも話していない。
恐らくアリアもシズクも、白竜も気づいていない。
なのにこの人は……。
「君のパワーをなるべく活かしつつ、ミートも狂わない。そんな史上最強のシュートを生み出すべきだ」
「史上最強って……」
「過言ではない。君は自分よりパワーのあるプレイヤーを見たことがあるか?俺は君より上を見たことがないが」
「そら、聖帝様は見たことないだろうけど……」
「……そうか。まだ私の実力を示していなかったな」
「えっ」
イシドが手元のボールを落とす。
次の瞬間!!
「ファイアトルネード!!」
烈火のごとく空気を切り裂き、貫いた先に業火を炸裂させ炎が世界を包む。
鋭いのに、広範囲に爆熱する技。
この世のサッカープレイヤーに、彼を知らない者はいない。
長門未来は、戦慄し言葉を失っていた。
彼女の瞳に映るフィールドに降り立つそのプレイヤーは。
「豪炎寺、修也……」
「意外だな。名を轟かせた自覚はあるが、君は興味が無いかと思っていた」
唖然とする未来の元に、彼が近づく。
「光栄だ。君には知っていて欲しいと思っていた」
「私に……?」
「君のパワーは天性の才能だ。間違いなくこれまでもこれからも君が1番だろう」
「そんなに……」
褒めすぎでは、と思うがイシドは至って真剣だ。
ここまで本気で言われるとふざけて肯定することすら恥ずかしい。
それに、断言している人が人だ。
世界最強のストライカー、豪炎寺修也に言われたんじゃ否定もできない。
彼が言うならそれは事実になる。
「そんな君に認知されていたかった。それで、どうかな。俺の見てきた世界は君には小さすぎるかな?」
「そ、そんなわけ……!って、ズルくない!?」
炎のストライカーに視野が狭いだなんて、世界を知らないだけなんて口が裂けても言えるわけない。
誰よりも世界を知ってるのは彼だけだから。
しかし、ここで気付く。
「あれ。ちょ、ちょっと待って!え、聖帝様が豪炎寺修也……?な、なんで?」
「今はその事について説明できない。そして、君もその事を考えすぎない方がいい」
「どういうこと……?」
「君は仲間を救うことよりも、俺の思惑の方が大事なのか?」
「……っ!」
「今、君がやるべきは仲間を守れる力を身につけること。違うか」
「だから、誰のせいだと思って……」
そこまで言ってミクは止まった。
今、ここでこの人に何を言っても靡かない。
そんな気がしたから。
この人は、ゴッドエデンを作った。
しかもここで行われていることを看過している。
つまり加害者だ。
それもきっと自覚している。
その上で何か"思惑"があって、目的を実現するために私達を必要な犠牲だと思っている。
いや、私とアリアを育成しようとしているということは、その見捨てる対象から外そうとしているのかもしれない。
何にせよ、この人は覚悟が決まっている。
シード達を踏みにじって、何かを成し遂げようとする覚悟が。
この狂気は、正論では崩せない。
……言うだけ無駄だと、諦めるしかない。
「諦めたか。賢明だ」
「貴方の言う通り、私も私の目的の事だけ考えるのが合理的かなって思ったから。だから、そうしただけ」
「それでいい。陸奥滴の願いを叶えたければ、強くなるしかない」
頑固なイシドが頷く。
この石頭は叩き崩せない。
もうあとは、特訓のことだけ考えよう。
理屈もそうだが……何となく、この先の特訓は集中しないと危険な気がする。
「俺はパワーにおいて、君が1番だと思っている。その君のパワーを7割……いや、8割は使いたい」
「そ、そんなことしたらコントロールが」
「普通のシュートを撃つから上手くいかない。無駄な動きを無くす最適なフォーム、そして狙いを定められる距離を見極めろ」
「距離……?」
「ゴールとの距離だ」
ピンと来ないミク。
だけど、この口振りで彼の中には既にビジョンが出来ているということはわかった。
豪炎寺は、その技を語る。
「技の名前は"バスターキャノン"。恐らく、神にも通じる最強のシュートになる」