「僕はキーパーでありながら、ストライカーだ。君もキーパーでありながら、ストライカーだ」
「いや。ストライカーが本業でキーパーがサブなんだが……」
思わず突っ込む。
「僕なら君の両方の側面を育てられる」
無視された。
「君はなぜ、最強のストライカーと対戦しないんだい?」
「あ?何言ってんだ」
ロココと対峙し、問い掛けられたアリア。
彼女が思ったことは"は?何言ってんだこいつ"だ。
そう、つまり一言一句全て口に出した。
この女は脳と口が直結している。
「ゴッドエデン最強も、フィフスセクター最強も相手にしてきたぜ。どっちも倒した。お?つまり私が最強だ。道理で対戦できないわけだ」
「答えに辿り着いてるのか辿り着いてないのか微妙なボケ止めてくれないか。やりづらいな、君」
未だかつて、ロココを困らせた人物がいただろうか。
天然ボケバトルはアリアが圧勝している。
ロココは咳払いして仕切り直す。
「そうだ。最強のストライカーもキーパーも君。君は君と対戦すべきなんだ。それが1番成長を得られる」
「ほう。中々鋭いこと言うじゃねえか。しかし、残念なことに世界一スーパー最強なこのアリア様は世界に1人しかいない」
「そう。だから、対戦できない」
何か含みがあるように口角を上げるロココに、アリアがようやく真剣な顔で警戒する。
彼には考えがある。
「君はまだ限界を知らない。1番強い奴を相手にしてないから。君のライバルは君なんだ。ゴールに立って。まずはキーパーの君を育てよう」
なんだぁ?と思いながらアリアは言われるがままに、いつものようにゴールを守る。
「あっ。違う違う。守るんじゃない、攻める方。ゴールポストと向き合って」
「は?……まあいいが」
なんとなく追求しても無駄な気がしてアリアは従う。
どうせいいからやれって言われるに決まってるし。
とぼとぼとゴールポストの直線上に立ち、足元に転がってきたボールを踏みつける。
「じゃあポストに向かってシュート撃って」
「なんでやねん」
「いいから」
突っ込まないでおこうと思ったのに失敗した。
顔を顰めながらシュート体勢に入る。
「撃つのは1番強いやつ!」
「わ、わかってるよ!クソ……サラマンディーネ・ドロップ!!」
アイリーンの負荷を減らしつつパワーは再現したいと思い、作った限定版の必殺技。
ただし、威力以外が大幅に劣化してしまい結局失敗扱いで封印していたが。
それでもノーリスクで撃てる技の中で1番のパワーだ。
それがゴールポストに当たって―――"跳ね返ってくる"。
「なっ……!?うおおおぉぉぉぉ!!」
ロココは口角を上げた。
アリアは迫り来るシュートに焦燥して叫びを上げ、急いで構えて気合を入れた。
彼女は驚愕している。
自身のシュートが返ってきたからではない。
いや、ロココの意図には驚いたが、それ以上に自身のシュートが相手目線だとこんなに恐ろしい超威力だと思っていなかったからだ!!
「アヴァロン・ウォール!!」
「駄目駄目。そんな技じゃ、アリア・オイゲンのシュートなんて防げるわけがない」
「ぐああああ!?」
ロココの言った通り、アリアが生成した光の壁はシュートが触れた途端に紙切れのように割れた。
そして、目を見開いたのも遅い。
アリアの顔面を弾丸がぶち抜いて、彼女は吹き飛ぶ。
ロココは案の定だなと思い、気を失い白目を向きながら仰向けになってる彼女に近付き、彼女の体を足で小突く。
「ほら、起きた起きた。まだ始まったばかりだろ?」
「うっ……ぐっ……!」
アリアが身を起こすも、身体が痺れて震える。
中々完全には起きられない。
同時に認識した。
自身の力の凄さに。
「今まで対戦してきたキーパーはみんなこんなもん受けてたのか……」
「そうさ。これを続けよう。そしたらキーパーの君が成長する。まずはキーパーの君をストライカーの君くらいにする」
「なるほどな。確かに力を拮抗させねえと2足のわらじは続かねえな。起用がどっちかに偏る」
「さすが理解が早い。いや、君ほどのプレイヤーなら当たり前か」
ようやく痺れが回復したアリアは立ち上がり、拳に力を込め気合を入れる。
「よっしゃ。必ず止めてやるぜ」
手のひらに拳を打ちつけて、アリアの特訓が始まる。
やることは単純。
そして、繰り返し。
「サラマンディーネ・ドロップ!」
シュートを撃つ。
ポストに弾かれて返ってくる。
それを。
「アヴァロン・ウォール!!」
キーパー技で防ぐ!
しかし。
「ぐあっ!?ちくしょう……!もう1回だ!」
何度でもチャレンジする。
それでも。
「うわああ!?」
何度やっても破られる。
地面を殴り、震える。
「クソ。クソ……!止められないシュートがまだ存在するだと……!そんなこと……!」
許せない。
例えそれが自分が相手でも。
アリア・オイゲンの守るゴールは決して破られてはならないからだ。
「私が破られたらチームが負ける!チームが負けたらあいつらが殺処分されるんだ……!」
再び立ち上がるアリア。
気持ちが入ってきた。
滾る。
焦燥と逆鱗。
覚悟を持って、責任を背負っている。
鬼の形相で目の前を睨みつける。
彼女はアリア・オイゲン。
ヴァルキリア最強のプレイヤーにして、最年長。
私は、負けちゃいけないんだ。
私が、あいつらを引っ張っていかなくちゃいけないんだ。
私が、最初にして最後の砦なんだ。
最強が負けたら、残ったヤツらが勝てる道理はないだろうが……!
「だから、破れないゴールも、止められないシュートも、なんてあっちゃいけねえんだよ!!」
「……っ!」
「―――――――――っ!!」
声にならない声で叫ぶアリア。
白目を剥いている。
彼女の理性が飛んだ。
すなわちそれは、力の解放の合図。
彼女の化身が出現する。
魔神アガレス。
「これが……!噂に聞く化身か!」
エネルギーの余波を受けて、吹き荒れる中、ロココは顔を覆い耐える。
彼が薄い目で捉える視界にその化身は存在を主張する。
しかし。
アガレスはその姿を、保てなくなる。
「……!」
ロココが目を見開く。
しかし、消えかかっているわけではない。
そういう様子ではない。
化身に対する知識が薄いロココでもわかる。
これは―――"変容"だ。
アガレスは今、変わろうとしている。
その力の奥に新たな力が生まれ、垣間見えている。
ロココの瞳にはそれが見える。
この変容。
現象の名は、"進化"だ。
「ァァァァァ……!!サラマンディーネ・ドロップ G2!!」
「進化した!?必殺技も……!」
吹き飛ばされないように踏ん張りながら、ロココは目を見張る。
さっきとは比べ物にならない威力のシュートがゴールポストに当たって、跳ね返る。
その弾丸はそのままアリアへと向かう。
しかし、さっきと全然違う!
危ない!
あれはまだ今の彼女じゃ止められない上に、身体も耐えられない!
受けたら死んでしまう!!
「マズイ……!」
ロココが駆ける。
彼女に当たる前に僕が止める!
走りながらゴッドハンドXのエネルギーを溜める。
しかし、彼の出番はない。
「――――――っ!!」
「なっ……!?」
ロココが急ブレーキをかけて、見上げる。
アリアは進化した化身を出し、シュートを止めた。
しかし、意識は失っている。
限界を超えたシュートを撃って、飛んで、飛んだままキーパーとしても限界を超えた。
意味がわからない!!
「な、なんだ……この生物は……」
「……っぁ!」
止めたと思ったら、ボールをポトリと落としてフラフラし出すアリア。
彼女の生態にロココは呆然とした。
こんな生き物は見たことがない。
でも、このサッカーは見た事がある。
ロココは、想起する。
それは、FFI決勝。
雷門中とリトルギガント。
特にロココと円堂守は進化に進化で対抗し、試合の中で有り得ないくらいレベルアップした。
それを。
このアリア・オイゲンという少女は。
まだ子供なのに。
1人で進化して、その自分の進化に対抗して、さらに進化した。
彼女は、切磋琢磨という言葉を一人で表現している。
「……っ!」
「いけない!」
アリアが倒れそうになって、ロココが滑り込む。
彼女の体を受け止めることが出来た。
ロココの腕の中で彼女はスヤスヤと眠る。
彼は知らない。
彼女がこんなに無防備に人に見を委ねるのは、ゴッドエデンでは初の光景だということを。
「は、はは。ははは……っ」
凄すぎる後継の誕生にもはや乾いた笑いしか出ない。
彼は、見上げる。
「ごめん、守。ライバルがもう1人増えそうだ」
そう言って、ロココは微笑んだ。