「化身、進化してたよ」
「あ?」
起きて水分補給をしていたらロココに告げられた。
しかし、当の本人は頭痛を抑えて渋い顔をする。
「何も覚えてねえ。感覚が残ってりゃいいが……このままじゃ再現性ねえぞ」
「さすがだ。すぐに再開しよう。思い出すかもしれない」
「だな」
二人の意見は一致。
立ち上がって、特訓を再開する。
……だが。
「魔神アガレス!」
「違う違う!アガレスじゃない。全く別の化身だったよ!」
「あ?早く言えよ!」
次も。
「来い!進化した化身!だー!違う、アガレスお前じゃない!」
その次も。
「……っ!ダメだ、全然……っ!わからない……!」
「よし。一旦やめにしよう」
感覚を取り戻せそうにない様子を見て、ロココが特訓を中断させる。
アリア自身もシュートをその身にくらいすぎてボロボロになってきたところだった。
彼女は膝に手を付きながら呼吸を荒くする。
「まだ、私は……っ!新しい化身出してねえぞ!」
「このままやっても埒が明かない。やり方を変えよう」
別の特訓に切り替えようと告げるロココ。
アリアは渋々従う。
「で、次はどうすんだ」
「次はストライカーの君を育てる」
「ゴールキーパーの私と拮抗させるんじゃなかったのかよ。また差が開くぜ」
「いや、ストライカーの君を成長させるつもりはない。というかこれ以上成長できないんじゃないかな」
「なんだと?」
聞き捨てならない。
ストライカーのアリアは今が限界だと言われている。
少なくとも彼女はそう受けとった。
当然カチンとくる。
「私を舐めるな。限界はない」
「あーごめん。語弊があったよ。今、君は自分の力を扱えてないだろ?」
「……っ!」
アリアが瞠目し、口を閉じる。
言い返せない。
アイリーンのことを思い出すからだ。
「力が手に余ってるんだ。なのに、その力をどうやって鍛えるっていうんだい?」
「確かに。一理あるな」
「うん。いいね。まずは今ある力を扱えるようになるのが先決だ」
「そりゃそうだが……これまでやろうとしてできなかったんだぜ。何か対策あるのか」
「君のやり方は力を限定して出力を落とすこと。さっきの技がそうだろ?」
「あぁ。さすがに気づいたか」
「そのやり方も間違いじゃない。実戦で使えるようになるっていうのもそうだけど、力を慣らす意味でも役割を果たす」
「まあ……今のところ上手くいってないがな」
「だろ?だから、やり方を変える必要があるんだ。新しい技覚えよう……!」
「新しい技?」
顔を顰めるアリア。
いまいちピンとこない。
「全く別の技を習得して君の身体能力を向上させ君の潜在能力に追いつかせる」
「おう。おっ……?」
「つまり習得難易度の高い技に挑むことで扱えなかった技を使えるように小手先の技術を磨くんだ」
わかるような、わからないような。
アリアは初めて困惑しながら受け入れる。
百聞は一見にしかず、という言葉を聞いたことがある。
「ま、とりあえずやってみるか。どんな技を覚えりゃいいんだ?」
アリアが尋ねると、ロココが悪戯っぽく笑みを作った。
「君はもう既に散々受けた技だよ。その腹にね」
「……マジか」
ということはつまり。
「Xブラスト。君にはあの技を習得してもらう。そして、キーパーの僕を破るんだ」
「……マジかよ」
嫌な予感的中。
何度も腹にぶち込まれたあの激痛シュートを今度はぶち込む側になるらしい。
んなのできるわけねえだろ、と脳内でアリアは突っ込んだ。
相手は世界最強のキーパーだ。
自分自身以外のプレイヤーへの興味が薄いアリアでも知ってる。
中でもタマシイ・ザ・ハンドなんて出された日には何百回シュートを撃ってもゴールを割れる気がしない。
だが、やるしかない。
強くなりたい。
いや、ならなければいけない。
もしこいつの言う通りにしてアイリーンが使えるようになるなら、無理難題でも何でもやる価値がある。
皆を守らなきゃいけねえんだ……!
「わかった。Xブラストを覚えて世界一のキーパーから点取ればいいんだろ?楽勝だぜ」
「……」
アリアが強がる。
思ってもないくせに。
ロココは内心虚しい気持ちになる。
彼女は弱音を吐くことを許されていない。
それは自分で架してるものでもあり、彼女の置かれてる状況がそうさせている面もある。
背負うものが大きいから。
やるしかない、それがアリア・オイゲンの責任。
だから、強くなれない。
責任で人は成長したりしない。
彼女が本当のサッカーを見失っている間は、歯がゆい思いをし続けるかもしれない。
天井を越えられないかもしれない。
彼女はいいプレイヤーだ。
本当にいいプレイヤーだ。
なのに、惜しい。
「……シュウジ、恨むよ」
「あ?なんか言ったか?」
「いや。なんでもない。じゃあ、始めようか」
ロココが懐からグローブを出す。
それを見てアリアは瞠目した。
実感したのだ。
これから本当に世界最強のキーパーを相手にするのだと。
彼は、ゴールへ向かう。
その途中、何か思い出したように足を止め、振り返る。
「そうだ。名前で呼んでもいい?」
「……んだよ、いきなり。まあいいが、私の名前知らねえだろ」
「聞いてるよ。聖帝様からね」
「チッ」
「あははっ。いいぞ、その調子だ」
ロココが構える。
アリアも……ボールを足元に転がし、覚悟を決めた。
睨み付ける。
そして。
「言っとくが、私は天才だぜ……!」
「……っ!」
アリアがスターティングポーズから跳躍し、回転する。
その動きはそっくりそのままだ。
ロココは見上げて驚く。
「本当に天才だ!見様見真似でここまで完璧に……!」
「Xブラスト……!!」
クロスした足を一気に解放してバックでシュートを放つアリア。
赤いビームが脈打つように一直線にゴールへ向かう。
ロココは口角を上げる。
「神ゴッドハンドエッーーーーーークス!!」
神ゴッドハンドX。
腕をクロスにして一気に解放し、飛び出したと思ったら瞬きの間に赤いハンドが出現する。
しかも最大究極進化済。
アリアのXブラストをいとも簡単に止める。
世界最強は伊達じゃない……!
「ハッ。さすがに硬いな」
「まだだ。決めるまで撃ち続けるんだ」
「いいぜ、ぶち抜いてやる!」
返球を受けて足で受け取るアリア。
何度でもチャレンジする。
「Xブラスト!」
「神ゴッドハンドX!」
「Xブラスト!」
「神ゴッドハンドX!」
「Xブラスト!」
「神ゴッドハンドX!」
「Xブラスト!」
「神ゴッドハンドX!」
「Xブラスト!」
「神ゴッドハンドX!」
「Xブラスト!」
「神ゴッドハンドX!」
何度も撃って、1度も決まらない。
やがて、アリアの方に限界が来た。
「……っ!……っ!」
「何やってる!決まるまで撃つんだ!僕を破るまで、Xブラストが完成したとは言わせない……!」
「~~~~~~っ!」
もう必殺技を撃てるエネルギーがない。
「早く!」
「ふざけんな……っ!これ以上やったら死んじゃうだろうが……!」
「じゃあ所詮君はその程度ってことだ」
「なっ……こいつ……!」
カチンと来た。
こうなったら欠乏状態でも無理やり撃って決めてやる!
「Xブラスト!」
「神ゴッドハンドエーーーーーックス!!」
「……っ!」
完璧に止められた。
つまりまた撃たなければならない。
「ち、ちくしょう……!クソ……ッ!!」
「神ゴッドハンドX!」
またしても止められ、また撃つ羽目になる。
それを何十回と繰り返し。
最後は立ち上がれなくなりうずくまったアリアがそのまま気を失った。