松風天馬君に恋する私   作:伊つき

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「円堂くん。ゴッドエデン第4区画に侵入できた。この先にある管制室で不正の証拠を見つけてみせるよ」

 

ゴッドエデン施設内。

吉良財閥の吉良ヒロトは潜入捜査していた。

全ては管理サッカーを打ち砕き、サッカー界を救うため。

彼はレジスタンスに協力し、不正の暴露とフィフスセクターの極秘データの調査を担当している。

後者は目金が手動だが、財閥を有するヒロトにしかできない調査もあるのだ。

 

「確かこの先に……」

 

目金がハッキングしたデータからゴッドエデンの内部構造は図面で起こせている。

あとは緑川と手分けして不正の証拠を暴くだけ。

 

「……っ!これは……サッカーの音?」

 

ヒロトが途中で止まる。

目的の管制室は目前で、この時間は誰も利用していないことも調査済み。

そして、その猶予は数時間しかない。

だが、サッカーの音に反応してしまった。

ここはゴッドエデン。

多くのシードが幽閉され、無理やり過酷な訓練を受けさせられている。

サッカーの音がするのは当たり前だが、ヒロトはまだこの地獄の実態を知らない。

サッカーは楽しいもののはずなのに、苦しめられている子供たちがこの施設には沢山いる。

ヒロトは……その現実を直視したいと思ってしまった。

脳裏には父親の願いの為に摩訶不思議な石に頼り、愚かにも無垢純粋に残酷な現実を受け入れる子供達が浮かぶ。

 

「……っ」

 

ルートから少し外れると、グランドがあった。

そこには。

1人の大人と、少女が対峙している。

 

「うああああああ……っ!!」

「なっ……!」

 

少女が雄叫びを上げ、ヒロトが圧倒され後退さる。

彼女は飛び上がり、必殺技のシュートを繰り出す。

 

「Xブラストッッ!!V2ーーーーー!!」

「あれは……!ロココの……!」

 

想起するのはFFI決勝。

最終決戦の相手リトルギガントのキーパーにして、日本の前に立ちはだかった最強のプレイヤー。

ロココ・ウルパ。

彼が使用していた技を、金髪ロングの少女が放った。

そのシュートが向かう先……ゴールも見る。

すると、ヒロトはさらに驚いた。

そのゴールを守るのは……ロココ・ウルパ本人だったからだ。

大人になって容姿が少し変わったが、間違いない。

彼は腕をクロスさせる。、

 

「神ゴッドハンドエーーーーーックス!!」

「ゴッドハンドX……!やはり彼はロココ……!」

 

ヒロトが愕然とする。

確かリトルギガントにはもう1人ゴッドハンドXを使える者がいたが、あれは間違いなくロココ・ウルパだ。

ロココはゴッドハンドXを使ってシュートを完璧に止めた。

昔見たゴッドハンドXとは精度がまるで違う。

比べ物にならない。

 

「ちく、しょう……っ」

「あっ……!」

 

少女は、着地するとフラフラと揺れてそのまま気絶して倒れてしまった。

ヒロトはその様子にショックを受ける。

彼女はボロボロなんてものじゃない。

もう必殺技なんてとっくに打てなくなってるのは、肌が青白くなっていることから看破できる。

つまりエネルギーが欠乏状態になっても尚、必殺技を絞り出したんだ。

そんなことをしたらサッカープレイヤーは死んでしまう。

彼女も限界を迎え、意識を保ってなくなったようだ。

そんな彼女にロココが歩み寄る。

 

「……今日の訓練は終わりだ。けど、明日も今日みたいに倒れたら……その時はわかってるよね?」

「……」

 

ロココが尋ねるが、返事はない。

彼は鼻を鳴らして、彼女を置き去りにし、その場を後にし奥の廊下へと暗闇の中へ消えていった。

その様子と、彼の気配が消えたのを確認してヒロトは周囲を警戒しながら彼女に駆け寄る。

そして、屈んで身を揺らす。

 

「おい。おい!大丈夫か!?君……!」

「……」

 

返事がない。

触れると冷たかった。

まさか……!

 

「死……っ!」

「んでねえよ。勝手に殺すな」

「……!?」

 

少女が起き上がった。

ヒロトは目を疑う。

信じられない。

あの状態で意識が戻ってきて、立ち上がるなんて。

 

「クソ。まだだ。まだやれる。おい、早くゴールに戻れ。私はまだ……あ?」

「……っ」

 

少女が初めて目の前にいるのはロココではなくヒロトだと気づく。

彼女はまだ視界がぼやけるのか「ん……?」とヒロトの顔に近寄り、目を凝らしながら何度もその顔を確認する。

やかて、彼女は目をハッキリと開けた。

 

「おい。誰だ、お前。知らねえ顔だな」

「あっ、いや俺は……」

「誰だか知らねえが邪魔するな。あいつ、どこ行きやがった。まだ勝負は終わってねえぞ」

「……っ!?待て……!」

「あ?」

 

フラフラと歩き始め、ロココが消えた方向へ歩み始める少女。

ヒロトはまさかと思い、彼女を制止する。

だが、当の本人は眉間にシワを寄せてなぜ止められたのか理解していない。

 

「まさかその状態でまた彼に挑む気か?無茶だ!」

「いや、無茶かどうかは私が決める。……さっきからなんだお前。誰だよ」

「無理だ!君はもう少しで死ぬところだった。すぐ意識を取り戻したのが異常なんだ。これ以上は本当に……!」

「ハッ」

「……っ!」

 

ヒロトの訴えがまるで響いていない。

耳をほじくる彼女の様子を見て、ヒロトは途中で言葉を止めた。

彼女は鼻で笑い、明らかに顔色が悪いのに意志を変えない。

ヒロトを睨みつける。

 

「今テメェが言ったじゃねえか。私は異常なんだ。だから無茶も無理もねえ。そういうことだ。じゃあな」

「待て!待つんだ!」

「なんだよ。しつけーな」

「……っ!いや……えっと、そうだ。これならどうだ!」

 

ヒロトは閃く。

このまま行かせれば見殺しだ。

どうにか彼女の足を止めたい。

そこで考えたのは。

 

「今の君じゃ何度やってもロココには勝てない。それでも行くのか!」

「……なんだと?今、なんつった?」

 

煽った。

そして、簡単に引っかかった。

彼女は足を止め、振り返り鬼の形相でヒロトを睨みつける。

 

「俺は……ロココと戦ったことがある。そして、彼を単独で破ったことがあるのはこの俺だけだ。だから、わかる!」

「なっ……!?」

 

少女が愕然とする。

今、目の前にいる謎の男が世界最強のキーパーを打ち破った唯一のストライカーだという。

にわかに信じられないが……。

 

「……なるほど。あながち嘘って訳でもなさそうだな」

「……っ。わかるのか?」

 

少女がヒロトの肉付きを足の先から頭のてっぺんまで見て、信用した。

一流のプレイヤーは相手の肉体を確認しただけで相手の実力を計れる。

だが。

 

「あんた、引退してからかなり経つだろ?見りゃわかる。奴を破ったってのもいつの話だ。昔の選手じゃ情報が古いぜ」

「そんなことまでわかるのか……。でも、信じてくれ。本当に今の君じゃ彼には太刀打ちできないんだ」

「……ふん」

 

少女は腕を組んで考える。

ヒロトのことは信用出来ないが、彼女自身の中に通用しないという悩みは元からあった。

だから、冷静になれば考え直すことが出来る。

 

「……確かに、奴は強い。今の私じゃアイリーン無しで奴を超えることはできない」

「そうだ。考え直してくれるか!?」

「あぁ。だが、否定するだけなら誰でもできる。私の意思を覆したいなら、代案を出せ」

「それは……」

 

子供の理屈だが、跳ね返すにはめんどくさいタイプの理論だ。

ヒロトは言葉に詰まる。

暫く考えて……彼はハッと顔を上げた。

 

「そうだ。君に俺の技を授ける。それならどうだ!」

「お前の技を……?」

「あぁ。ロココの……ゴッドハンドXを突破したシュートだ。気にならないかい?」

「……っ!」

 

誘惑の強すぎる言葉。

少女は、瞠目し瞳を揺らす。

彼女の中で気持ちが動く。

彼女は死にかけた。

今、酸素も足りてない。

思考に供給が足りてない。

ロココの厳しすぎる特訓と絶望的な強さを前に気持ちも弱っている。

彼女は悩み……やがて、珍しく折れた。

 

「……頼む。教えてくれ。その必殺シュートを」

「勿論だ、君ならきっとできる!」

「初対面なのになんでそんな全面的に私の実力を信頼してるんだよ……」

「ロココとの対戦を見ていた。1度見れば、君の力はわかる。それ程君は凄いんだ!」

「ふーん。あんた、名前は?」

「俺か?俺は……"基山ヒロト"だ」

「……!」

 

話すか悩んで言い淀んだ男。

その名を聞いて少女は、目を見開く。

そして思い出す。

確かに、世界最強のキーパーであるロココ・ウルパを単独で破ったプレイヤーがいたという話は聞いたことがある。

ロココ・ウルパがまだ自分と同じ歳の頃の話。

故に、記録は残ってるが掘り起こされることも少なく、ほぼないと言って他ならない。

しかし、その映像だけは擦られ続け、唯一鮮明に現存されている。

現世界一のゴールキーパーを単独で破ったたった1人のサッカープレイヤー。

確かその名が、そんな名前だった気がする。

 

そうだ。

 

"ヒロト・キヤマ"だ。

 

「俺も名乗ったんだ。君も教えてくれ」

「……アリア・オイゲンだ。ヒロト・キヤマがなぜこんなところにいる?」

「さすが。賢いね。ここには潜入している。だから、できれば俺と会ったことは秘密にしておいて欲しい」

「ハッ。馬鹿か?敵にみすみす姿を晒して何がしたいんだ」

「敵じゃないさ。君は。シードは被害者の子供だ」

「そうか。哀れんでくれてありがとさん。優しい大人だな」

「そうかな?ありがとう」

「……皮肉で言ったんだが」

 

どうも調子の狂う男だ。

アリアは後頭部をかく。

 

「とにかくささっと教えてくれ」

「あぁ!」

 

やりづらくて催促するアリア。

ヒロトは二つ返事で快諾した。

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