緑谷出久が無個性のままヒーローを志すだけ   作:fou-kun

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一撃目

「ひ、酷いよかっちゃん…!泣いてるだろ!?こ、これ以上は…ぼ、僕がゆるさにゃいぞ!」

 

僕は、震える手を握りしめてそういった。情けなくも目から涙は止まらない。怖くて足ががくがくしていた。

 

そんな僕の後ろには、目元を泣きはらしてうずくまっている、僕と同い年くらいの子どもが一人。

 

遊びの中で、そういう雰囲気になっていじめられる。小さな子どもの間では、たびたびそういう事が起きるのは当たり前の事で、わざわざ騒ぎ立てるような事でもないのかもしれない。

 

だけれど、だからと言って誰かが泣いているのを無視していいわけじゃない。

 

オールマイトなら、きっとそういう筈なんだ。僕は自分でそう言い聞かせていた。

 

「おいおい、無個性の癖にさぁ…」

 

一人は、手から爆炎を吐き出すつんつんした金髪をした子ども。

 

帽子をかぶった少年は、指を何倍にも長くして、太っちょの少年は、背中に蝙蝠の翼のようなものを生やして空を飛んでいた。

 

どいつも、僕の事を見下した目をしてにやにやと笑っていた。

 

「いっちょ前にヒーローきどりか、デク!」

 

鋭い目が、僕を見据え。

 

次の瞬間には、僕はもうぶん殴られていた。

 

 

 

人は、生まれながらにして平等じゃない。それは、僕が齢4歳にして知った社会の現実。

 

世界総人口の約8割が『個性』と呼ばれる超能力を持って生まれる、この超人社会。個性が無ければ、なりたいものにすらなれない糞みたいな世界だ。

 

これは、そんな世界で、とある無個性の少年が、ヒーローを志す、そんな物語。

 

ただ、それだけの物語。

 

 

 

 

風と一緒になって、地面を蹴る。

 

前へ、前へ、前へ。グングンと視界が流れて、まるで世界そのものを置いていっているような錯覚さえするほど早く。

 

足の筋肉が、腹筋が、二の腕が、全身の筋肉が熱を放ち、空気に撫でられ冷えていく。それと同時に疲労が全身から這い出てきて、筋肉がプチプチと音を立てた。

 

もう慣れたその感覚を、僕は息を吐き出して振り切りながら、流れていく景色に目を研ぎ澄ます。

 

と。

 

「…っ、--、---ぁ!」

 

僕は無理やり地面を蹴とばして、方向転換した。地面を踏み込んだ時の、まるで地面を大きな鉄で叩いたような音を置き去りにして、一直線に路地裏に入る。

 

足を、止めた。

 

「…ぃやっ、お願い、やめて!やめて…!」

「へへへ、おとなしく言う事従ってりゃ優しくしてやるって」

「して、ヤるってか!ははは、そりゃいい!」

「ばぁか、もっと紳士的にふるまえよ、しんしてきに!」

「紳士って面かよお前!」

 

ブヒャヒャヒャヒャと品の無い笑い声をあげて、路地裏の影、丁度死角になるような場所に追いやられた彼女ーーー女子高生程の年齢の、あどけなさの抜けない少女を、男二人で押さえつけていた。

 

僕はそれを見て、すぐにでも飛び出してしまいそうな足を無理やり縫い付けて、落ち着くために息を吐き出した。そして、懐からいつものアレを取り出す。

 

狐を模した、プラスチック製のお面だった。それを顔に付けて、今なお悪行を起こそうとしている奴らの前に、今度こそ姿を現した。

 

「おい」

「あ?」

「誰だおめえ」

 

そういって振り向いた男らは、どちらもガタイが良く、僕よりも背が高い。

 

だけど、臆するわけにはいかない。っていうか、臆するほどの相手じゃない。

 

まあ、どんな個性持ってるか分からないから油断はできないけれど。だけど、こんな影に隠れてこそこそやるような連中だ。

 

多分、大した奴らじゃないだろう。

 

あ、そういや誰だって聞かれたんだっけ。

 

「僕は…そうだなぁ…」

 

僕は少し考えて、そして口を開いた。

 

「ただの通りすがりの者、です」

「…」

 

静寂。少し間があって、片方の男の方が突然笑い出した。

 

基地外かな?

 

もう片方の男も、何やらおかしそうに口角をゆがめて僕にこういった。

 

「ほーう。じゃあただの通りすがり君。今、ここからおとなしく消え失せるのと、ここで殺されるの、どっちがいいかとっとと選べ」

「…へえ、殺される、ねえ」

 

僕は、ゆっくりと手を広げて、まるで舞台の主人公のようなわざとらしさで言った。

 

「殺す覚悟も無い癖に、生意気を言っちゃいけない…オトナなんだから、そのぐらい分かれよ」

「…ぶっ殺す」

 

僕は、仮面の下で静かに笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あ、貴方は…一体…?」

「ーーーへあ?僕?」

 

返り血の付いた拳を、気を失ってぐったりしている彼らの服で拭っていると、女性が僕に話しかけてきた。

 

そういやいたんだっけ。なぜ逃げなかったんだろう。

 

僕は少し考えながらも、折角問われたので答える事にしよう。

 

「ただの、通りすがりの者ですよ」

 

僕は、仮面の下で不適に笑った。

 

ちなみに不良たちの財布はちゃんともらっておいた。

 

これは、ほら、悪い奴らが金を悪用するのを未然に防ぐための事前対策なのさ!

 

だからそんな目で見ないで少女よ!

 

 

 

 

それからは、彼女に警察を呼ぶように言って、すぐにその場を去った。

 

これは、僕、緑谷出久のただの日課だ。

 

ランニングして、ランニング途中に悪いやつらや不良を見つけて、それをぶっ飛ばす。

 

小学生のころからずっと続けている、特に何の特徴も無い日常だ。

 

僕はまたランニングを始める。

 

ん?何故こんなことをしているのかって?

 

勿論それは、ヒーローになるためさ。

 

オールマイトみたいな凄いヒーローに、僕はなるんだ。

 

ちなみに僕は無個性だ。だけど、そんなものは障害にはなりえない。

 

だって、僕にはこの肉体がある。

 

石を砕くのに、手のひらから水を噴射して石を砕くのと鍛えぬいた肉体と拳で砕くのと。結果は何ら変わりはないだろう?

 

つまり個性を使ってヒーローをするのと、鍛えた肉体でヒーローをするのと、変わりは一切ないって事なのさ。

 

じゃあ、僕に出来ない訳はない。

 

何せ僕は、絶対にヒーローになるって決めてるんだから。

 

この命を賭しても、絶対にあきらめない。

 

ヒーローになるまで諦めないのだから、ヒーローになるのは当然の結果だという訳だ。

 

…なぜヒーローになるのかは、まだ分からないので置いておくとして。

 

まあ、つまりはそういう訳さ。

 

…多分、これを聞いたら、絶対に『何言ってんだこいつ…』ってバカにされるんだろうな。

 

まあ、だからこうして秘密裏に特訓してるんだ。

 

何時かそういう奴らを見返してみたいもんだぜ…ふっふっふ。

 

そんな事を思いながら、僕は全力で街中を駆け抜けるのだった。

 

 

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