緑谷出久が無個性のままヒーローを志すだけ   作:fou-kun

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二撃目

路地裏の、街灯さえ届かない宵闇の中を、一つの影が駆け抜ける。

 

地面を、壁を、まるでゴムボールの如く跳ねまわり、その度に一人、また一人と倒れていく。

 

少年らは、何の冗談だと思った。

 

人が、5,6mを一足で駆け上がり、壁を三角飛びして、一瞬にして自分達の死角に回られ、見失った瞬間には意識を失う。仲間を一人、また一人、少しずつ、しかし確実にやられていく恐怖に、少年らは酷く慄く。

 

「そっ…それが、お前の『個性』か…!?」

 

影が揺れた。

 

ビルの壁の、窓枠に手を引っかけて動きを止めるその陰ーーーやっと視認できたその体躯は、中学生程の体躯だ。

 

「いや、僕は無個性ですよ」

 

影の言葉に、今度こそ少年らは言葉を失った。

 

「…む、無個性で…何の個性も使わずに…」

 

ーーー十人余りいた仲間のほとんどを、倒してしまったっていうのか。

 

言葉は続かなかった。

 

「簡単な話だ」

 

気が付けば、影が、少年の背後にいた。

 

慌てて後ろを振り返る。そして目を見開いた。

 

「…お、お前ら…!」

 

最後に残ったのは、自分だけだったのだから。

 

声が聞こえたというのに、影は姿を現さない。

 

「…っ、ど、どこだ!?」

 

半狂乱状態の少年が、辺りを見渡すーーーと、同時に、首が絞められたことにより、少年の身体は持ち上げられた。

 

「ひっぃっ…!」

「無個性の僕は、確かに個性のあるあなた達に勝つのは難しいのかもしれない」

 

影はーーー狐の面の少年は、面の下で確かに笑った。

 

「だけど、僕が出来ると思った事に、出来ない事など存在しないーーー」

 

狐面は、片方の腕で人を一人軽々と持ち上げ、もう片方の腕を引き絞った。

 

「それだけの話だ」

 

次の瞬間、少年の視界がぶれーーーー

 

 

ーーーーーいや、その理屈はおかしい。

 

 

少年は、最後に途切れた意識の末に、そんな言葉を残したのだった。

 

 

 

 

 

 

ここ最近、僕の住んでいる地域でちょっとした噂が流れている。

 

『無個性マン』という都市伝説じみたその存在は、曰く、なんでも無個性であると主張しながら、人外じみた動きで不良やヴィランを倒していく、正義のヒーローなのだという。

 

多分僕とは関係ないから気にしない事にしようね!

 

「ーーせぇー!皆とか一緒くたにすんなよ!」

 

お?なんだなんだ?

 

僕が周りを見て回ると、いつの間にやら教室中が何やらにぎわっていた。

 

その中心にいるのはかっちゃんーー僕の幼馴染のような奴だ。どうやらまたやらかしたらしい。

 

「俺はこんな没個性共と、仲良く底辺なんざいかねーよ」

「そりゃねーだろカツキ!」

「モブがモブらしくうっせー!」

 

ブーイングの嵐だ。うるさいなぁ。

 

「あー…確か爆豪は…雄英高志望だったな」

「ええええ!?」

 

雄英高かぁ。凄いなぁかっちゃんは。

 

まあ僕も雄英高なんですけどね。ヒーローになるには一番の舞台だ。行かない手はない。

 

ざわざわクラスメート達が騒いでいると、かっちゃんが机の上に立った。

 

「そのざわざわがモブたるゆえんだ!模試じゃA判定、俺はうち唯一の雄英圏内!あのオールマイトをも超えて俺はトップヒーローとなり!必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!」

「あ…そういやぁ」

 

もう慣れたのだろう、かっちゃんの黒歴史確実な奇行に何の文句も言わずに、先生は口を開いた。

 

「緑谷も雄英志望だったな」

 

…ちっ、余計なことを。と思わず先生を睨んだ僕を誰が責められよう。

 

そういう事言うと、絶対にさぁ。

 

「はああ?!緑谷あ!?ムリっしょ!」

「勉強できるだけじゃヒーロー科は入れねんだぞー!」

 

うわぁ、めんどくさい。折角今まで目立たないように生きてきたっていうのに…先生には後で嫌がらせしよう。具体的に言うとしばらく足元にひっそりとバナナの皮を置こう。

 

「こらデク!てめえ、没個性どころか無個性のてめぇが!なんで俺と同じ土俵に立てるってんだ、ああ!?」

「めんどくさ…」

「あ?」

 

あ、やっべ。

 

「ち、違うよかっちゃん!別に君と張り合おうってわけじゃ…!そ、それにやってみないとわかんないじゃない…」

「なぁにがやってみないとだ!記念受験か!」

 

おおう、鋭いツッコミ。正論です。

 

まあ、その後そんな感じで僕はやり過ごした。先生絶許。

 

 

 

 

「まだ話はすんでねえぞデク」

「ん?」

 

放課後。帰ろうとするとかっちゃんがいた。

 

やだなぁめんどくさいなぁ。どうして絡んでくるかなぁ本当に。

 

「一線級のトップヒーローはたいてい、学生の頃から逸話を残してる…俺はこの平凡中学から初めて!唯一の!雄英進学者っつー箔をつけてーのさ!完璧主義者な訳よ」

「完璧主義者(笑)」

「あ?」

「い、いいいいいやなんでも無いよ…うん…」

「まあ、つーわけでさ、一応…雄英受けんなよナード君」

 

なんとも自己中心的な話だ。

 

というか、そろそろ家帰ってランニング行きたいんだけど…多分、ここで言い返しても長引くだけだしなぁ。今は黙っとくのが良いか。

 

「いやいや、流石になんか言い返せよ…」

 

何か失望された気がするけどまあいいか。

 

「あ、そんなにヒーローに就きてんなら効率良い方法あるぜ」

「?」

 

かっちゃんは、なんて事無いような顔してこういった。

 

「来世は個性が宿ると信じて…屋上からのワンチャンダイブ!」

 

 

 

・・・・は?

 

 

 

「殺すぞ、クソが」

 

やっべ、口にでちゃった。

 

 

 

それからは、一瞬の間に後ろの窓から飛び降りて姿を消してやった。

 

ほら、飛び降りてやったぞバカ野郎。

 

何というか、言っちゃいけない事言ったっていうか…本当。

 

かっちゃん、本当にどうにかしないとダメだなぁ…。

 

 

 

 

 

 

「…」

「な…あ、あれ?」

「…消え…た?」

 

俺は今、デクがさっきまでいたその場所を睨んでいた。

 

「消えたわけねえだろが。そこの窓から飛び降りやがったのさ」

「はあああ!?え!?マジで!?」

「ちょ、流石にやばくね…?」

 

こいつら、さっきの一瞬の事、何一つとして見えなかったらしい。

 

デクは…奴は、確かに窓から飛び降りた。

 

まるで曲芸師の様に身体をしならせ、最高速で下へと降りていきやがったんだ。

 

「…って、あれ?いねえ!あいついねえぞ!」

「本当だ…?何がどうなってやがんだ?」

 

窓から下を見て騒ぐ二人を見て、俺は歯の奥を思いっきりかみ合わせた。

 

「…チっ、あいつ…どうなってやがんだ…?」

 

あいつ、本当に無個性なのか…?

 

っていうか、最後あいつ「殺すぞクソが」って言いやがったよな!?

 

ちっ、次会ったらそっこーで殺す。

 

クソナードが!調子に乗ってんじゃねえぞ!

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