緑谷出久が無個性のままヒーローを志すだけ 作:fou-kun
家に急いで帰ろうとしたところ、人だかりを見つけたので立ち止まる。
人だかりの向こう側では爆発音と爆炎が広がっており、その火が商店街に燃え広がり大惨事となっている。僕は何事かと人だかりに近づいて、唖然と口をあんぐり開いている気弱そうなおじさんに声をかけた。
「あの、これ今どうなってるんですか?」
「へ…あ、ああ…それが、ヴィランが強い個性を持った子どもに寄生してるようで…ヒーロー達が近づけないでいるんだ…俺の、俺の店も…もう火の海だ…ちくしょう…」
「そ、そんな事が…」
にしても、寄生するヴィランだと?火の海と爆炎を見るに、恐らく寄生された子どもはかっちゃんと似た個性だ。それはまた厄介な。
僕は何とか人ごみをぐいぐい泳いで、その先の光景を確認して…そして、目を見開いた。
何という偶然でしょう。かっちゃんと似た個性なんかじゃない。かっちゃん本人がそこにはいたのだ。
しかも、僕を襲ってきたあの泥のヴィランに取り付かれた状態で。
(なんで…!?あのヴィランは確かにオールマイトが…!)
そこまで考えて、僕の頭にオールマイトが背を向けて去っていく光景がフラッシュバックした。
ポケットに入れていた筈のペットボトルが、入っていなかったことに、僕は遅まきながらに気が付いたのだ。
(あっちゃぁ…僕の所為じゃないか…)
僕は頭を抱えた。
畜生、かっちゃんを助けるような真似なんかしたら絶対にかっちゃんこじれるからしたくないんだけど…僕が招いた事だ。どうにかしなければなるまい。
「ちくしょう、どうすれば…って、おい!?」
歯噛みして拳を握りしめる巨漢のヒーローを追い抜いて、僕は地面を駆けていた。
「何してんだ、止まれバカ野郎おおお!」
無視。一気に距離を詰めて短期決戦、これしか僕の勝ち筋は無い。
流動型の個性は物理攻撃が効きづらく、それだけでとても強力な個性だ。長期決戦になって僕の技が見抜かれるのだけは避けなければいけない。
「あのガキ…!爆死だぁ!」
ヴィランが気づいた。かっちゃんも気づいた。
「デク…お前、何してぇ…!?」
ヴィランによって操られたかっちゃんの腕が僕に向かって迫る。だがしかし、僕はそれを身体をひねって避けて、手のひらよりも前に出て身体を詰め、爆発の範囲から逃れる。
やっぱり、かっちゃんのいつもの動きのキレがない。
かっちゃんの強い所は超スピードと超センスの格闘戦による爆破!それがなくなったかっちゃんなんて、ただの爆弾だ、脅威にはならない!
「このガキぃ、離れ…!」
「目があるってことは…」
「あ!?」
僕の拳が、一瞬にして敵の両目を刈り取った。
「目がないと見えないって事だよな?」
「ぎゃあああああああ!?」
僕は右足を軸に回転し、敵の側面に回り込む。敵は一瞬にして目を回復させるが、しかしそこにもう僕の姿はない。
「くそ、どこにーーーー!?」
僕はすかさず、手の平を敵の身体に向けて、足を踏み込み全体重を一撃に集める様に調整、そして、全身の筋肉を意識して操り、僕の身体が出せるであろう最大の威力を込めた。
そうして繰り出すのは、かつて、鎧を着こんだ敵に打撃を与えられるように先人たちが生み出した技。
「表面からの破壊に強いのなら、中身からズタズタに破壊してやればいいだけの事だ」
「ひ、や、やめ…!」
「死ね」
僕の全身全霊の『鎧どおし』が、敵に綺麗にヒットしたーーーいや、これは…!
「かっ、はーーーー」
敵は、白目をむいて気絶した。
「ぶっは…!」
かっちゃんが拘束が一気に緩んだ敵から抜け出す。
「ぜぇ、ぜは…!くそ、デク…てめぇ…!」
かっちゃんが何か言おうとした次の瞬間だった。僕は一気にかっちゃんの襟首をひっつかんで引き寄せ、そのまま後ろにバックステップする。
「何を…!」
「ぐああああああああああ!?クソガキがぁ、よくもおおおおおおお!」
かっちゃんの背後で、一瞬にして目を覚ましたヴィランがこちらを物凄い形相で睨んでいた。
くそ、敵め、ただのチンピラだと思って見くびっていた。
いくら流動性のヴィランでも、飯を食って便をするのなら内臓があって然るべき。そしてさっきの技はその内臓を破壊するべく撃ったのだ。
奴は僕の打撃が入る直前、主要器官(恐らく内臓やらなにやら)を全力で別の場所に退避させたのだ。中身を抉っても、そこに内臓が無ければダメージは入るが致命傷には成りえない。
「げほ…ひひひ、一体どんな手を使ってきやがるかと思ったが…げほ、もう二度とくらわねえぞ、そんな技ぁ!」
「くっ…」
未熟!敵の技量を見抜ききれなかった僕の失態だ。奴の言った通り、もうそう簡単には同じ技は入れさせてはくれまい。
「ぶっ殺してやる!あとその良個性のガキぃ返せえ!」
敵の身体が僕を包み込もうと一気に広がる。ご丁寧に退路をつぶしてきやがったのだ。
こうなりゃ、イチかバチか、相手が僕を包み込むのと同時にさっきの技を打ち込むしかない。僕が腰を落として敵を待ち構えるーーーその、次の瞬間。
「俺を抜きに語ってんじゃねぇぞ、クッッッッソヴィランがああああああ!」
「うわっ!」
「なっーーーぎゃあ!」
閃光、爆発。敵が吹っ飛ぶ。
ーーーーーーが。
「----ぁっ、効っかねえなぁ!泥に火はよぉおおおおお!」
身体の一部分が吹っ飛んだだけ。敵が再度こちらに迫る。くそ、今度こそ…!
「君に諭しておいてーーーー!」
横から巨大な腕が泥の壁を突き破り現れて、僕とかっちゃんの腕を器用につかんだ。
「な、あんたは…!」
「己が実践しないなど!」
平和の象徴、オールマイトが、そこにはいた。かっちゃんと僕が目を見開いた。
「プロはいつだって命がけ!!」
「お、前…はぁ…!」
敵もオールマイトの突然の出現に身体を硬直させている。その隙を、オールマイトが逃す筈もなく。
「デトロイト・スマッシュ!!!」
本日二度目の爆風に、僕は巻き込まれたのだった。
その後、僕はめっちゃヒーロー達に怒られました。
尊敬していたヒーローに声を荒げて怒られるのは精神的に非常にダメージがガガガ。きつい。
しかもかっちゃんなんかめっちゃ褒められてたし。僕が招いた事だし、叱られて当然、むしろ怒られる事しかしてないのは僕も理解してるけど、わざわざ見える真横でかっちゃんを褒めなくてもいいじょのいか。
「君が行かなくても別に良かったんだぞ!」
確かにオールマイトが最初から現れてたら僕が出た意味とかなかったけどさぁ…。
「それと、君個性使っただろ!外での個性使用は厳禁なんだぞ!」
「え?」
僕はヒーローの言葉に思わず目をぱちくりさせた。
「いや、僕無個性なんですけど」
「…はあ!?」
僕はさらに怒られた。
解せない。