博麗霊夢 VS シャテン・シュテン
*サブタイトルはサリエルさんの曲名のオマージュですが、サリエルさんは出てきません
博麗霊夢は少しだけ重い足取りで試合会場へと向かった。
試合が怖いわけではない、かと言って平気なわけではない。
霊夢の次の相手はあのシャテン・シュテンなのだ。
カービィと同じ能力を持ち、更にはカービィですら持っていない能力を扱ってくるし、あいつは頭のネジが数本イカレてるのだ。
そして.....妖怪狩りの事件の後と格闘王開催の知らせが来る前にシュテンとちょっとしたいざこざがあったのだ.....
やがて霊夢は試合会場へたどり着き、舞台へ上がる。
仮面の悪魔はもう既に舞台に上がっており、表情の読み取れない顔をしながら霊夢を待っていた。
「顔が代わっても相変わらず気持ち悪いわね」
「フン、少しキモい方が
霊夢はお祓い棒と御札を構え、シュテンは最初から『狂気』を展開させる。
「
「.........」
風も吹いていないのに突如、霊夢の身が震える。
あの時の記憶が.....
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~妖怪狩り、神滅戦争勝利の宴会後、格闘王の開催前~
いよいよ冬の寒さが厳しくなり、中々外に出ることのできない中、人里だけは悲鳴などが飛び交い妙に騒がしくなっており上白沢慧音と藤原妹紅はその騒ぎの中に駆け付ける。
数分後には博麗霊夢も来ていた。
「これはいったい何の騒ぎだ?」
騒ぎを見てみると、人里の男性が子供用の手袋を抱えて蹲っている。男性は泣いているのだ。
よくよく見るとその手袋は中距離からでも血に染まっているのが分かるほど血まみれだった。
男性が答えずとも、慧音達は察した。
この男性の子供は手袋が血に染まるほどの何らかの事件に巻き込まれたのだ。
「妖怪か?」
「子供が人里から出るとは思えん、人里内でも何者かに襲われたとは考え.....!」
妹紅の言葉を否定しようとした慧音だが、ここで思い出す。
今、人里のルールはほとんどが凍結しており、妖怪が入り放題の無法地帯と言ってもいい場所となっている。
そこで子供が妖怪に襲われるなど確率的にはとても高い。
だが、妖怪が犯人だと決定しても誰だか見当もつかない。
人里に入ってくる妖怪が多すぎるのだ。
「霊夢は何か分かるか?.....その....巫女の勘的なのを.....」
「確かに私の勘はあてにはなるけど.....駄目ね、勘が出てこないわ(?)」
結局犯人など分からずじまいで、その日は終わった。
しかし事件は終わらなかった。
「「..........」」
次の日の早朝。
人里の中心から叫び声が響き渡る。その声に駆け付けた妹紅と慧音は全身に冷水をぶっかけられた様な寒気を感じた。
人里の道に人間を複数引きずったような跡があったのだ。
なぜ人間を引きずった跡と分かったのは、道の所々に人間の爪痕(地面にしがみつこうとしたが、そのまま引っ張られた模様)、血の跡(筆でなぞったように続いてるため、出血した状態で引きずられた模様)、人里の住民が良く来てる服の布切れなどが散乱していた。
しばらく呆然とする二人だったが、霊夢が来たことにより我に返り、恐る恐る引きずられた跡を辿ることにした。
「妹紅、何かあったらお前だけは守ってやる」
「慧音、むしろ私が慧音だけ守ってやるさ」
「私は?」
跡を辿っていくと跡は人里を出て、森の中へと続いていた。
一体どのくらい長く、人を引きずっているのだろう。
引きずられている跡はまだ続いているが、血の跡と爪跡や抵抗した跡はもう無くなっていた。つまり引きずられた者はもう......
「.....ここで終わってるわね、いえ、立ち止まってるわ」
「周りに死体は無いようだが.....?」
「食べたのか?」
さまざまな議論が出たが、結局は班員は妖怪確定だと分かっただけでその日の調査は終わった。
しかし、人里は恐怖と混乱に陥ったが。
~その日の深夜~
もしかしたらもう明日になっているかもしれない、その時間帯に妹紅は待ち伏せのために一人、被害者が引きずられた跡付近を見回っていた。
慧音は人里を、霊夢は別の所を見回る予定だ。
「ほんと.....ひどい事をする奴がいたもんだな.....」
妹紅は美しく照らされている月を眺めて呟いた。
そして、同時刻にして妹紅とは反対の木々の中.....
そこにただ一人、博麗霊夢は突っ立ていた。
サボっているわけでもないし、見回りでもない。
今ここで待つことで犯人に会えると巫女の勘が言っているのだ。
(私の勘ではそろそろ奴が........来たわね)
こちらに向かってくるように人里方面から何か引きずる音が聞こえてくる。
心なしか、虫の息という言葉がぴったりな人間の呼吸音も感じ取れる。
そして犯人は姿を現す。
犯人は大きく驚いた様子だったが、霊夢は眉一つ動かさない。
「そこまでよ、人間狩りさん?いえ________」
「仮面の悪魔さん?」
人里から人間をゴミの様に引きずっていた犯人。それは人里の人間から「人里の英雄」と英雄視されていたシャテン・シュテンであった。
「おぉ.....慧音から聞いた話では真反対の方向に犯人の痕跡を見つけたというからこっちに来たのに.....どうやって分かった?」
「勘よ」
「さすが」
シュテンは引きずっていた人間を無造作に放り投げると両腕を広げて、かの純狐のようなポーズを取った。
「それで?どうする?今なら見逃すが?」
「あんたみたいな危険な雑魚を見逃すはずないでしょう、異変の首謀があんたなのは少し驚きだけどやる事は変わらない!」
「弾幕ごっこ......か」ニヤァ
悪魔は耳元まで口が裂けるほどに笑みを浮かべると少し前屈みになった。
霊夢は危険を察知したが、近づくのは危険とすぐに判断した。
「こいつらにはなぁ!最高の苦しみを与えてやったよ!」
悪魔、いやもはや化け物は背中から無数の棘々しい触手と影のようなもの、禍々しい大目玉を飛び出させた。さらに同時に人里の人間
思わず霊夢は口に手を当てて、吐きそうになるのを抑え込む。
触手は器用に死体を積み上げるとシュテンはお構いなしにその上を踏み歩く。
「人間の分際で!弱者の分際で!自分の私利私欲でクソみたいな儀式をやるからだ!俺の!俺たちの!幻想郷の!大事なレティを春乞いで袋叩きにするだと!?」
化け物は怒りのあまりに死体の山の肉片を粉々にする。
同時に辺りに腐敗臭と血の匂いが漂う。
「ククフフフフ...霊夢、俺はなぁ.....自分が間違ったことをしたなんてこれぽっちも思ってはいないんだよ.....何だったらもっと苦しめて殺してやりたいくらいさ.....たかが毎年来る春を早く呼ぶためにレティを袋叩きにする人間なんてなぁ!」
狂った化け物の辺りを漂う大目玉は相槌を打つように頷く。
さらに狂った化け物は触手を巧みに使い、子供の様な肉片と人間であろう物体を引き寄せる。
「こいつら知ってるか?目の前で子供や家族が惨殺された時に上げた悲鳴より、自分が殺されかける時の悲鳴や慈悲を乞う声の方が大きかったんだぜ?.....人間はやはり自分な大切なものより自分が大事なのかもな!守るべき者のために神すら倒すピンク玉を見習ってほしいぜ!」
そう言い、化け物は肉片を砕く。その砕け様を見て化け物の顔に喜色が浮かぶ。
我慢できなくなった霊夢は化け物にお祓い棒を向け、片手にスペルカードを握る。
殺さないのはわざわざ化け物が弾幕ごっこに乗ってくれるからだ。
「やはり俺を退治するか!?ちょうどいい!「
シュテンは自身の顔を覆うと突然、博麗の御札が浮き出てきた。
御札はシュテンの顔にびっしりと張り付いており、まるでキョンシーの様だ。
あの御札は妖怪狩りの時に暴走したシュテンを抑え込むときに使用したものだ。
だが、今の狂気はあれと比にならないくらいにグロさは消えたが禍々しさが倍増している。もしこの状態で霊夢が御札をはがしたら......
考えたくもない
「それは嫌!それに、私が負けることは万に一つも、億に一つも、兆に一つもない!!!」
「クフフ.....グ、グフフフフフフフファァハハハハハハハハハハハハ!!!!!良い!!!さすがは博麗の巫女!!!やはり貴様は最高だ!素晴らしさならばレティにも幽香にも勝る!オリジナルを思い出させる!人間とは思えぬ!」
化け物は大目玉や触手と共に大きく空中に飛びあがる。
霊夢も後に続き、お互いに弾幕を放ちスペルカードを6枚のうちの1枚を取り出して大きく宣言するのだった。
「夢符『二重結界』!!」
「希望『命の灯火』!!」
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「さすがに「狂気」を使っても弾幕ごっこではお前には勝てなかったよ」
あの時の様に、シュテンは背中から触手と禍々しい一つ大目玉、単邪眼を排出すると更に狂気を身に纏う。
『サァ、始めようか。殺し合いヲ......クグフフフフ』
「あんたねぇ、そんなの展開したら博麗大結界壊れるでしょ」
『グフフフフ、そこは問題ないのだろう?幻想郷や観客にダメージが無いようにここの真下にペルソナが結界を張っているのだから』
「あら、気づいていたの」
真下のウィザー達の事を知ってるのは霊夢、紫、プロトと各々の力量で気づいたほんの一部の猛者達だけ。
普段のシュテンならウィザー達には気づかなかっただろう。
『アァ.....ヤベェ、抑えるのが難しいナァ.....今にもお前を倒して周りの結界を破壊したい衝動に駆られル.....』
「安心しなさい、前にも言ったけど.....博麗の巫女である私が負けることは無いわよ?たとえ貴方が本気でも....ね?」
『クク....それはどうかな?
「......狂気の事かしら?」
『違うな......『人間完全耐性』.....まぁ、それはお前を地べたに這いずらせてから聞かせてやるよ!!』
『グガァァァァァァァァァァ!!!!!!』
単邪眼の声の籠った雄叫びと共に霊夢は空高く飛びあがり、禍々しい触手と狂気は後を追う。
「夢符『二重結界』!」
即座に霊夢は結界を張り、触手と狂気を追い払い、同時に御札と弾幕をシュテンに当ててゆく。
弾幕アクションは弾幕ごっことは少し違い、体術や武器の使用などもアリ。最近の異変解決や妖怪退治はこれが多い。
弾かれた触手はその場で朽ち始める。
だが狂気は弾かれはしたもののダメージは食らっていない様子。
シュテン本人は棒立ちであり、代わりに単邪眼がゆらゆらと動いて霊夢を見つめる。
(......???本体は大目玉の方?)
試しに霊夢は鋭く針を単邪眼に放つと、単邪眼は触手で防ぐ。
どうやら霊夢の予想通り、単邪眼が本体の様だ。
だが.....
(
「霊符『夢想桜花封印』」
「化身『キーラ』」
突如、微動だにしてなかったシュテンが口を大きく開く。
大きくと言っても異常なほどであり、口が顔面全て覆うほどに.....更に口はブラックホールを報復させるかのように暗く、霊夢のスペルカードを吸い込んだ
この時、霊夢は全身が恐怖に包まれた。
生物としての逃走本能が刺激されて、後ろに引っ張られる。
だが、逃げ出すことはできない。
霊夢は一瞬の間に呼吸を整えて、覚悟を決める。
そしてシュテンは
『
シュテンの狂気が一転。七色に煌めく翼に変わり、辺りを輝かすと同時にシュテンから無数の光線が発射される。
この光線は触れればたとえ女神であっても勇者であってもゴリラであっても段ボールを被っていても、一瞬で身体を消される最強最悪の技。
恐らく、カービィでも風見幽香でもプロトでも触れればおしまいだ。
直撃した霊夢も......
「案外大丈夫なものなのね」
『.......!?』
失明するくらい輝いていた光は消え、そこに残るのは思念体となった霊夢と最悪の事件にかかわった者なら誰しもが思う。
だが、その思いを裏切るかのように博麗霊夢は飛んでいた。
『な、なぜ?食らえばオリジナルだろうと消えるはズ....』
「なぜって?簡単よ、私が博麗の巫女だから」
『ググ、ググググゴォォォァァァァァァ!!!!』
切り札にしていたのだろうか?
自身の技がうまく効かなかったことに焦りを覚えたシュテンと大目玉は翼と触手をけしかける。
今度はシュテン達が恐怖に包まれる番だ。
「フン」
霊夢は空中でシュテンを見下ろしながらお祓い棒のみで触手と翼を叩いてゆく。もちろん怒涛に来る攻撃全てを叩けるはずも無く、何十発も当たるのだがなぜか触手と翼は
『!?!?!?!?.......!?』
「シュテン、確かに昔私は貴方に負けた.....正確には負けかけたわ、でも博麗の巫女として本気を出せば」
霊夢はお祓い棒を横一直線に振ると、触手と翼は破裂するかのように消えた。
「こんなもんよ?」
肩を竦めて、聞き分けのない妖怪に説教するかのように......彼女はごく普通の日常の博麗の巫女の顔をしながら狂気の化け物を見つめる。
彼女からしたら狂気を纏う化け物も下級妖怪と何ら変わりない。
本気となった博麗の巫女には誰も勝てない。
それは常識にとらわれない幻想郷では知らないといけない常識でもある。
狂気の化け物は何も言わない。
大きな単邪眼は見つめるのみ。
勝利など、ない
勝機など、ない
この日、シュテンはカービィに劣らない.....むしろそれを超えるかのような.....存在に出会った。
「終わりにしましょう、『夢想天生』、霊符『夢想封印』」
素敵な巫女さんは現在発動中の夢想天生の状態から詠唱を始めると自身の周りに多数の陰陽玉を生み出した。
博麗神社最大の秘宝。陰陽玉。
生み出されたのが本物かは分からないが、そこから形成される多色の弾幕と霊夢の定番の夢想封印。
敵からしたら恐怖で終わりを悟る。
だが、シュテンには余裕があった。
余裕と言っても少し違う。
もう、彼は勝つ気などもうない。
彼はただ.....これから起こる、幻想郷で最も美しい巫女の弾幕を見たいのだ。
だからこそ、恐怖などない。
あるのは好奇心とワクワク感、そして飛んでくる弾幕に対しての感動のみ。
化け物は弾幕を迎え入れる様に両腕を広げ.....
単邪眼はその大きな瞳に迫りくる美しく、素敵な弾幕をしっかりと焼き付けた.....
To be continued...
霊夢の勝利!
まぁ、当たり前ですねw公式で絶対勝てないと言われてる巫女と製作者に最弱と言われる噛ませ犬ですから(なお、強い)
人間狩りの正体はなんとシュテン!
心優しいカービィから生まれたクローンにしてはあり得ない行動ですね....
まあ春乞い(春を迎えるために冬の風物詩であるレティを袋叩きにする)なんて馬鹿な真似をして化け物を怒らせた人里の馬鹿どもがいけないんですがね(笑)
しかし皆さん、実はシュテンが人間狩りと同一人物であることは人間狩り初登場から複線?を残しています。
『アタシキレイ?いいえ、可愛いです』の回を見返してみてください、するとこんなセリフを人間狩りは言ってます
「ククフフフフ...霊夢、俺はなぁ.....自分が間違ったことをしたなんてこれぽっちも思ってはいないんだよ.....何だったらもっと苦しめて殺してやりたいくらいさ.....」
そしてその何十行か後にシュテンがプロトに
「分かっている。そもそも俺は妖精にすら苦戦するレベルだ、楽に勝てるなんてこれぽっちも思っていない」
と言っています。
気づいた方は居るでしょうか?分かりづらいですが
両者「これぽっちも思って」という単語を使ってます。
「これぽっちも思って」なんて使う人はそうそういませんよね、なのでそんな珍しい使い方する奴はシュテンだ!という感じの慣れない伏線をしてみました。
地味だし、意味わかんないかと思うかもしれませんが私はここを見返すと「ウヒョォォ」となりますw