『華のさかづき大江山』(星熊勇儀のテーマ曲)
『月まで届け、不死の煙』(藤原妹紅のテーマ曲)
です。
前回のサブタイトルは『二色蓮花蝶』(博麗霊夢のテーマ)とカービィの配色をかけて付けたタイトルです。
サブタイトルは基本的に曲名が元ネタの場合が多いです。
「あり....えない....」
Aブロックの決勝戦、もはや出来レースと言ってもいい程の圧倒的な強さの差がある博麗霊夢と星のカービィの戦いはこの大会に居る者達の九割程の予想を裏切って星のカービィが勝利した。
中にはカービィが勝つ事は予想していなかったものの、勝てる可能性が十分に合った事に気付いていたものが居た。しかしプロトはその者達の中には含まれない。
彼にとって博麗霊夢が能力を使い、敗れることは外の世界では月が落ち、火が熱いまま液状化して、水が意思を持って動き回り、木が形を崩さずに数千度の熱を放ち、天が堕ちるという出来事は一斉に起こる様なものである。
つまり理解が追い付かず、信じられなかったのだ。
彼の中に居るモンスター達もそうだ、博麗の巫女の強さを充分に知っている。対面しただけで生物の危険信号が出されて古龍ですらまともに霊夢に攻撃を加えれないほどだ。
「何故、あいつが....やはり特別なのか........仮面の悪魔の....始祖」
こうなれば、もう後に引くことなんて出来ない。妖怪狩りを倒し、あの博麗の巫女を倒したピンクの悪魔を倒すのみ。
(優勝などあまり興味が無かったし、あくまで地獄の動物霊や反乱分子共を潰す為の人材を探す目的だったのだが....気が変わった。行くぞ、お前達)
時同じくしてAブロックが終了した会場。今までの盛り上がりは少しだけ消え失せ、何か不穏な空気が感じられた。
その会場の舞台の真下.....つまり地中。そこにて旧地獄に影響を与えないように結界を張っている破壊神ウィザーと超越神ペルソナは結界の手を緩めて軽く雑談や談笑していた。
「博麗の巫女が敗れただけでここまで静かになるとはのぉ.....」
「貴様には大げさに思えうるかもしれんな、だがあの博麗の巫女の実力は確かだ。我やミラボレアス共ですら敵わぬだろう」
「じゃが、わらわは圧倒したぞ?少なくともお主より断然弱かった」
「.....何?」
神滅戦争の時、ウィザーは一番最初にペルソナにやられたため、その後の出来事はカービィがペルソナを打ち倒した事くらいしか情報が来ていないのだ。
まさか博麗の巫女を倒すなんて.....信仰を重視される彼女にはそんな事は出来ないはずだ。
「不可思議だな.....ペルソナよ、能力は使ったか?」
「あの巫女を甚振る時は使ってはおらんぞ」
ペルソナの『全てを司る程度の能力』ならば何かのはずみで博麗の巫女に攻撃出来たと解釈は出来なくも無いが、使っていないのならばいよいよ分からない。
まだ幻想郷にはウィザーの知らない事など腐るほどある。
その内の何かが作用して霊夢はペルソナに負けたのだろう、そして今回のカービィとの試合も.....
___________________________________
ウィザーやプロトは真実にたどり着くことが出来なかったものの、約数名博麗霊夢がの敗北の原因を分かっている者が居た。
無論、その一人は負けた本人である博麗霊夢だ。
今の所無人の廊下から小窓を通してBブロックの決勝戦の選手である藤原妹紅と星熊勇儀の入場を見守る。
不意に彼女の背後に気配を感じる。
とてつもない妖気、霊気、魔力、邪気を感じる。並大抵の上級妖怪でもここまでは辿り着けないだろう。
少なくとも風見幽香に匹敵する凄まじい力だった。
だが、同時に懐かしくもある。
「ここ、試合出場者以外立ち入り禁止よ」
霊夢は背後を振り返らずにその者に話しかける。
「久しぶりに旧友に会えたってのにその態度は何だい~?」
その者は豊かな胸を支えるように腕を組みながら少し姐さん感溢れる口調で霊夢の態度に呆れる。
霊夢はめんどくさそうに振り返ってその者を確認する。
相変わらず変わってない。
緑髪のロングヘアーで四季映姫に似てなくもない服装をしているが、下半身は存在していない。というより蘇我屠自古を思わせるかのように足が幽霊なのだ。
昔の時から口調も容姿も変わっていないこの女性の名は
魅魔
あの霧雨魔理沙の師匠であり、過去に霊夢ですら苦戦を強いられた最強の悪霊である。単純な魔力ならなんとウィザーの上を行く程だ。
彼女が来ていることは魔理沙から聞いていたので特に驚く事も無い。霊夢はすぐに興味を失くして試合を覗く
そんな事御構い無しに魅魔は霊夢に話しかける。
「どうして中途半端な手加減したんだい?」
「........」
その言葉に霊夢の顔少し揺らぐ、が霊夢は無言。
「夢想天性はあくまであんたの切り札の一つに過ぎないし、例え攻撃が当たったとしても....あんた攻撃が当たる事に気付いてたね?あんたの勘の鋭さなら気づけるはずだよ」
「........あなたがそんな知的とは思わなかったわ」
「じゃなきゃ、あんたをからかえないしね。」
霊夢の夢想天性は霊夢の空を飛ぶ程度の能力の力であり、他にも博麗の巫女の力が備わっている。更にその中には博麗の巫女の勘があり、もしハンマーが当たるなら彼女の勘が発動して避けるなり防御なり、また当たった後に地面に着く前に再び空を飛べば場外にはならなかった筈だ。
だが、彼女はあえて抵抗しなかった。確かに夢想天性が破られるのは勘が事前に言ってても驚きだったが....
「本気を出さなかったのはプライドかい?」
「....プライドというより面子ね、もしも本気で戦って本当に負けたら幻想郷のバランスが崩れるわ」
「でも、その手加減試合も虚しく。殆どの奴らが巫女は本気で敗れたと勘違いしているようだね」
「いいわよ、あなたみたいな厄介なのが手加減に気づいてればね。他の下級、中級妖怪がいくら勘違いしようとどうでも良いわ」
「騙すのはわたしらみたいな上級のみ....か........」
確かに、博麗霊夢が敗れたからと言って妖怪達や人間達が霊夢に勝てる訳ではない。回避しなくてはならないのは幻想郷の上位に立つ厄介な奴らがカービィを利用して何か悪事を働く事を未然に防ぐ事である。
中途半端に試合を終わらせてしまえば、いざ本当に霊夢と戦った時に勝てるかどうかあやふやになる。それが霊夢の狙いだ。
「それより、あの紫の飼ってる犬っころが完全にあんたが負けて凄い勢いでカービィとかいうピンク玉を睨みつけてたけど。言わなくて良いのかい?」
「大丈夫よ、カービィならプロトに........勝てそうにないわね。あいつもシュテン程じゃないけどめんどくさいわね....まぁ、なんとかなるでしょ。私の勘がそう言ってるわ」
結果はこの藤原妹紅vs星熊勇儀の試合が終わってからしばらくのお楽しみである。
___________________________________
舞台の上で大きな衝撃のぶつかり合いが起こり、大きな振動音を旧地獄に響き渡らせる。
不老不死の蓬莱人の藤原妹紅と山の四天王の一人星熊勇儀のお互いの回し蹴りが相殺したのだ。
普通なら力の勇儀とも言われる勇儀だから勇儀の方がパワーが高いと思われるが、妹紅もかなりパワーがある。
妹紅は長生きするたびに妖力が蓄積して妖怪として強くなっていくのだ、あと数千年生きればあの風見幽香と互角に戦えるだろう。
その時の風見幽香はもっと強くなっていそうだが....
「あんた、なかなかやるね。ハンデ無しで私とまともに戦える何て、不老不死は羨ましいね!」
「そうか?私は強いままいつでも死ねる鬼の方がとても羨ましいよ」
妹紅は片腕を鳥類の爪の形をした炎を纏わせて勇儀を引っ掻く、ただ爪も炎も大して有効打にならず勇儀はカウンターがてらに妹紅の顔面を殴る。
その気になれば避けれるが、妹紅は死の願望があるため、特に避けようとはせずに勇儀のパンチをもろに食いつつ場内に留まった。
「あ~熱いね、危なかったよ」
「あ~頭蓋骨割れた、危ない危ない」
全く説得力のない台詞である
先程から妹紅の放つ火の鳥を素手で握りつぶす勇儀と勇儀のパンチで致命傷を負いながらも何事も無く立ち上がる妹紅。
弾幕ごっこを期待していた観客と熱い戦いを期待していた客のどっちもこの恐ろしい少女の殴り合いにややドン引きである。
(鬼の四天王って言うから殺してくれると思ったけどやっぱり無理か、じゃあさっさと終わらせて違うやつに殺されてみるか)
妹紅は腕を広げると背中から炎の翼を展開させる。それを見て勇儀も腰を深く落とし始める。
「もしかして本気出してなかったのか?」
「あんたも本気出してなかっただろ」
炎の翼を広げたまま、妹紅は自身を炎に包ませる。その姿はあたかも不死鳥の様にも見える
対して勇儀は息を精一杯吸い始めて、正拳突きの構えを取る。幻覚かどうかは分からないが、観客達や妹紅には勇儀の背中に半透明な鬼神が見えたような気がした。
そして....
「凱風快晴飛翔蹴!!!」
「三歩必殺!!!」
妹紅のラ◯ダーキックと勇儀の正拳突きがぶつかり合う。その時の衝撃波は先程の比ではなく、舞台を囲っているペルソナの薄い封印が明確に目に映る程強い封印にしなければならない程の衝撃だった。
そして再び封印が薄まり、舞台がよく見えるようになると....勇儀は立っており妹紅の姿は無かった。
「おやおや、場外に吹っ飛ばすつもりが粉々にしてしまったかな?」
しかし突如、大きな火柱が目の前に立ち始める。その火柱はずっと上に続いており、まるで地底を突き抜けて地上へ....いや、もしかしたら月にまで届きそうな勢いだった。
「死にたくても死ねない、なるほど確かに辛そうだね」
「今回ばかりはこの能力に感謝だけどな」
勇儀の目の前には先ほどの激戦が嘘のように無傷でピンピンしてる妹紅が消えた火柱から現れた。
妹紅の「老いることも死ぬことも無い程度の能力」によって強制的に発動する「リザレクション」だ。
「あんたを倒すには場外に追い出すか、もう復活できないくらい倒せばいいだけだな!」
勇儀は再び、拳を構えて妹紅へ突撃する。
「出来るものならやってみな!山の四天王!」
再び、少女達は血が飛び散る無残な戦いを続けるのだった....
___________________________________
一方その頃、変な不安に駆られて地底を飛び出したシュテンは....
「....フグゥ....何故だ?背中が重いな、いつものスピードよりやや遅い」
「でも天狗達は気づいてないから相当速いよ~」
「そうか、だが背中が重いとますます不安になるな。さっき頭にひよこを付けてる変な奴を通り側に跳ね飛ばしたから罰が当たったか?」
「さっきの人確か、地獄の門番やってる鶏の神様だって聞いたよ~」
シュテンはかいてもいない汗を拭き、少女の声に返事を返す。
「そうか、地獄の....プロトの知り合いかもな」
「それにしても変だよねー鶏の神様が地獄の門番なんて、もっと蛇の神様とか蛭の神様とかの方が地獄っぽいのにね~」
「ああ................ちょっと、待て、いつからお前居た?」
シュテンはとうとう自分の背中にしがみついてる少女に気がついた。その少女は先程龍騎に敗れた古明地こいしだ。
「地底出る時からずっと付いてきてたよ~」
「重かったのはお前のせいか....付いてくるなよ」
「いやだ~、すぐ負けちゃったから退屈なの~」
こいしは見た目相応の反応を取り始めて、シュテンは説得に苦戦し始める。そもそもこの無意識少女を止めるなんて物理的に止めるしかないだろう。
残念ながらシュテンはこいしに圧倒されるため、止められないという事だが....
こんな奴を相手してる暇などないなとシュテンはすぐに思い、こいしは無視して華扇の屋敷へと向かう。
それでもこいしは付いてきて話しかけてくる。だが、それは少し気が引かれる話だったため不快とは思えなかった。
「ねぇ、さっきから何が一定の距離で付いてきてるけど?」
「あ?天狗か....?それともさっきの鶏の神様じゃないのか?」
「わかんなーい、でもさっきの鶏ではないよ」
だとしたら天狗か?しかし追いつこうとせずに一定の距離を保つのが分からない。策略だろうか?
シュテンはこいしに周りに注意するように言い、更に速く華扇の屋敷へと向かい始めた。
何故だろうか?身体がとても軽く感じて更に速く移動出来る気がする。
力が湧いてくる....というより禍々しい何が身体に染み渡って来ている。
究極の魔法を記した本の成果だろうか?それともまた『狂気』が活発になったのか? この不安感に関係あるのだろうか?
そう思っているうちにいつのまにか茨華仙こと茨木華扇の屋敷に着いた。特殊な方法でしかここに入らないがシュテンは弟子なのでその特殊な方法を知っている。
シュテンは屋敷の扉に触れる....
鍵が開いている....いや、この幻想郷に鍵はあるのか?紅魔館や地霊伝、香霖堂にはありそうだが
「どうしたの?入らないの?」
「........いや、何でもない。入るさ」
こいしに促され、扉を開ける。
そこには........
地底に行ったはずのシュテンがここに居ることに驚いてる茨木華扇と幼女(こいし)を見て欲情し始める如月葉月が居た。
「シュ、シュテン?どうしてここに?」
純粋な疑問だ。しかしシュテンはそれには答えずに少し背を低くして華扇に抱きつく。
(速い!)
普段からシュテンが抱きつくなどはよくあるセクハラ行動であり、その度に華扇はカウンターを決めていたが今回は出来ずに終わった。
いつもの倍近くの速さだったのとシュテンがここに居る事を疑問に思っていた隙が合わさった為だ。
慌てて華扇はシュテンを引き剥がそうとするが、シュテンはガッチリと捕まっててビクともしない、まるで無機物の物体の様だ。
華扇は少し不安そうに葉月の方を見てみるが、どうやら不安なのはあっちの方の様だ。
葉月は今、目をハートにしてこいしをガッチリホールドしながら奥の部屋へと入って行き。こいしは「たすけてー」と叫んでいたが、この無機物シュテンの方が大事だったので華扇はこいしを放っておいた。
「シュテン....?どうしたのかしら?........シュテン?」
「仙人....華扇、良かった....何も無くて」
シュテンは弱々しく呟く、少し泣き声になっている。
「え?」
「華扇が何処か....何処か遠くに行ってしまう様な....俺の前から消えてしまう様な....そんな感じがして....」
華扇の視点からではよく見えなかったが、シュテンは泣いているのは分かった。
シュテンの頭を優しく撫でて華扇静かにシュテンの話を聞く。
「華扇....お前は俺の師匠であり、大切な....仲間だ。仲間を失う恐ろしさは知らないが、恐ろしいのは分かる....」
「....ええ」
「頼む、何があっても俺の....俺たちの前から消えないでくれ....」
シュテンは少し抱きついた状態から崩れ、華扇は怪力で支える。
シュテンは恐ろしい悪魔である。彼の扱いを誤れば幻想郷に大災害をもたらす程の恐ろしさだ。
しかしこう思えば彼はただの子供に思えた。性格が歪められてもクローン素が無邪気な子供であるからこのクローンもそうだろう。
少し背伸びをして強く振る舞う思春期の子供。
シュテンはまさにそれだろう。
「私はまだ修行の身ですが、貴方の師匠です。弟子を見捨てて消える奴は仙人になれるはずがありません........私は何処にも消えませんよ、貴方を、霊夢を、幻想郷の住民達と常に共にありますから」
その言葉にシュテンは特に反応しない。ただ、更に強く涙を流し、抱きつくだけだった。
華扇は軽くその弟子の姿に微笑み、自身の右腕の包帯が少し外れているのに気づかなかった。
そこにはあるのは............
___________________________________
「はぁ~、降参だ降参」
鬼と蓬莱人の激戦は大会最高記録の長時間の激戦となった。
どちらも全く負ける気配が無かったが片方が座り込んで降参を宣言する。
降参を宣言したのはなんと星熊勇儀だ。
見ると彼女は身体の至る所に火傷の痕がある、誰も致命傷や重傷にはならないものだが....対して妹紅は無傷である。ぐちゃぐちゃにされようが粉々にされようが復活するため無傷なのは当たり前だが....
このまま続けば、確実に決着まで数週間はかかる。
妹紅の攻撃は勇儀に対してダメージを与えられず、勇儀の攻撃は妹紅を消し飛ばすのに十分だが、場内で復活してしまうため場外に追いやれなかった。
正直、勇儀は満足....というより飽きたのだ。
このまま泥仕合を続けるより、彼女がこの先の猛者にどう立ち向かうのかを見た方が勇儀的には面白そうに感じたのだ。
勇儀の降参で試合が終了して、妹紅は舞台から降りたった。どこか物足りなそうな表情をして....
Bブロック優勝 藤原妹紅
To be continued...
魅魔・・・東方旧作ではほぼ皆勤賞のキャラクターであり、旧作では最も有名なキャラクター。あの霧雨魔理沙の師匠であり(公式旧作設定)靈夢を苦戦させたりする異常なまでの強さ。何気に旧作では魔理沙より出番が多かった。再登場してほしい旧作キャラ第一位でもあり、搾乳シーンを見たい東方キャラ一位でもある。
庭渡久侘歌・・・シュテンが跳ね飛ばした鶏の神様、東方鬼形獣3面ボスで地獄の門番(小町と違い、仕事をきちんとこなそうとしていた)。普段は妖怪の山に居るらしい
どうやら最近、ダーズのネタバレが解禁されたようですね。
そして次回は東方茨歌仙最終回の後に投稿します。最終回を読んでから書くため、次回は東方茨歌仙のネタバレ注意かもです!