邪神を知る裏切り者は平穏を望む   作:ルーニー

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プロローグ

「あぁあ。また死んじゃった」

 

教会であった場所で神を嘲笑うかのように燃え盛る炎の中、それは何もないかのように佇んでいた。手には人の腕を持ち、ナニカの血と肉で汚れた服を面倒くさそうな表情を浮かべて眺めていた。

 

「せっかく進化の種(レネゲイド)をばら蒔いたというのに、全然進化してないじゃないか。まったく、自然の摂理に逆らう進化をする(ウィルス)だというのに、ここまで進化を否定するなんて本当に愚かなのだな」

 

つまらない、と言わんばかりに深くため息を吐く。手にした腕もゴミを捨てるかのように燃え盛る炎の中へと放り投げ、何事もなかったかのように反転して去ろうとする。もう用はないと言わんばかりに、下らないことをしたと首を振りながら猛火の中を何事もないかのように歩いていた。

猛火の影響で天井が崩れ、男のすぐ後ろに落ちた。瞬間、人の形をした影が落ちた瓦礫の後ろから現れ、異常に膨れた腕を鞭のように男へと降り下ろす。

 

「死ネ!」

 

水面を叩きつけたかのような、サンドバッグをバットで叩いたかのような、重機をコンクリートに叩きつけたかのような矛盾の音が辺りに鳴り響いた。

 

「死ネ!俺ノ家族ヲ傷付ケルものハ死ネ!俺ノ友達ヲ殺スものハ死ネ!俺ノ日常ヲ壊スものハ死ネ!死ネ!死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネ死ネェェェエエエエエエ!!」

 

打つ。撃つ。討つ。人ではなくなった、2周りも大きくなった肉の塊となった腕で放たれる鉄すらも穿つ拳は、男の背中から湧き出る肉の流体によって難なく受け止められていた。

 

「ここまで壊れても意思を保ち続けれるのか。やはり人間は面白い」

 

目を狂気に満たした中にある確かな理性。それを垣間見た男は嬉しそうな笑み(嘲笑)を浮かべ、防ぐことしかなかった肉の流体が1本増え、触手のようにうねりながら青年に向かっていく。

 

「ガァァアアアア!」

 

それを全身から流れる電流で以て動きを鈍くし、弾いては男を殴り付ける。

青年が優勢に見えた殴り合いは、しかし徐々に増えていく肉の流体によって劣勢へと変わっていく。

 

「よせ隆成!そいつは、邪神は俺たちの手に負えるものじゃない!一旦離れるんだ!」

 

青年が圧され始めたころ、瓦礫の山の陰にいた石の剣を持った青年が血を流して動かなくなった少女を庇うように動きながら呼び止める。

しかし、その青年の声が隆成に届くことはなく、(化け物)青年(隆成)の猛攻はいっそう激しさを増していった。

 

「クハハハ!まさかここまでとはな!多少の懸念を捨ててでもあの進化の種を落としたのは間違いじゃなかったな!」

 

1度でも受け損ねたら死んでしまえような猛攻の中にも関わらず、化け物は嬉しそうな表情を浮かべる。既に肉の流体の数は5となり、その1つ1つが軽く人を潰せるほどの威力を持つそれをギリギリさばいている隆成を、化け物は笑み(嘲笑)を深める。

数分間も続くそれを、しかし化け物は笑み(嘲笑)から一転、悲しげ(つまらなさそう)な表情を浮かべる。

 

「だが、残念だ。君では私を殺せない」

 

突然、化け物の腹部から1本の肉の流体が発射される。亜音速に近い速度で放たれたそれは、5本の肉の流体を防ぐのにいっぱいだった隆成の腹部に意図も簡単に突き刺さった。

 

「イ、ギィ……!」

 

しかし、隆成も目の前の化け物とは違う人の道を外れた化け物。突き刺さった肉の流体は体内まで入ることなく、被害を肉が少し抉れた程度に留めて体から発せられる電流で腹部に食い付く肉の流体を焼き切った。

 

「ほう。存外に耐えるじゃないか。いいぞ。その抵抗は逆に心地よい。どこまで耐えれるか楽しみだ」

 

思い通りにならない。普通ならばすでに死んでいてもおかしくはない。ここまで手間取るとは予想外だ。だというのに、目の前の男(隆成)をいたぶるのがこんなにも楽しいとは。

人の世を壊すために進化の種(レネゲイド・ウィルス)をばらまいたというのに、世界はまだ破滅に至ってない。愚かしくもまだ人間社会は崩れていない。

つまらない。あぁ、なんとつまらないことだ。そう悲観していたというのに、目の前の男は嬉しい方向に壊れてくれている。

いいぞ。このままいけば社会崩壊の一手になる。さぁ、もっとだ。もっと侵食を進めるんだ!

 

化け物は興奮を隠そうともせず、肉の流体を隆成に襲わせる。1つ1つが容易に人を押し潰すことができる肉の流体を一斉に、時にタイミングをずらして隆成の判断を鈍くさせる。

 

「ガァァアアアア!」

 

「ハハハハ!どうした!動きにキレがなくなってきているぞ!」

 

かすめる回数が徐々に増えていく。かすめていくたびに体勢も崩れ、当たる面積が増えていく。悪くなっていく循環に、ついに体勢を完全に崩した。

もはや避けることも受け止めることもままならない状態の隆成に、肉の流体が襲いかかる。肉の流体が受け止めることも出来ない脇腹へ潜り込む、その前に数本の剣が肉の流体を地面へと縫い付けた。

 

「守る、守るんだ!俺たちの仲間を、護るんだ!」

 

異様に硬い石の剣を振るい、今も隆成へと襲いかかってくる肉の流体を剣で力任せに地面へと縫い付ける。

グチャリと嫌な音を立てて縫い付けられた肉の流体は、しかし縫い付けられた痛みなんてないかのごとく暴れだす。それを青年は瓦礫から作り出された新しい剣で再び縫い付け、少なくとも死の猛威を振るわない程度まで動きを封じた。

 

「ふん。人が楽しんでいるところを邪魔するとは、躾がなってないな」

 

肉の流体に剣を突き立てられても痛みはない。が、せっかくの興奮をくだらないことで水を差されたことで呆れとわずかな怒りが沸き上がる。

 

「隆成!今のうちに逃げ」

 

青年の声は続くことはなかった。青年は慢心もなく、むしろ多大な警戒をしていた。しかし、青年が隆成を守ろうとしたことで致命的な隙を与えることとなった。

地面へと縫い付けた肉の流体の先端。そこから新しく肉の流体が溢れだし、青年の足元から打ち上げるように殴り付けた。意識を割いていたことと、もう動けないと思い込んでいたがゆえに受けてしまった攻撃に、青年はなすすべもなく空へと打ち上げられ、肉の流体が地面と空から溢れだし、固体となって青年は押し潰された。

手を叩いたかのような高い音が鳴り響くのと同時に、肉と液体が辺りに勢いよく散らばっていく。

 

「目障りなゴミは退かすに限る」

 

自分に着いたソレを何でもないかのように払い、目の前のごちそうに目をやる。化け物の近くにいた青年には少なくない量の赤い肉と液体が付着したが、それに対する反応は青年は目を丸くして触れるだけだった。

 

「……ユウ、ト?」

 

押し潰された青年の名を呼ぶ。しかしその呼び掛けに返ってくる言葉はなにもなく、自身に着いたソレが自分が守るべき者だったことを理解できなかった。

 

「あれごときで死ぬのか。いや、知識の神(ヨグ=ソトース)の細胞を取り込んだ人間との殺し合いのあとだったか。復活できるとはいえ、あぁなればもはや肉体は限界だったか」

 

自分に着いた肉を指でこねながら様子を見ていたが、それにもあきたのかすぐに隆成の目の前へ弾く。

水分を多分に含んだソレが気持ちの悪い音をたてて青年の手に付着し、それを見た隆成は、やっとのことで目の前で何が起こったのかを理解した。

 

「ァ、ァア、アアアアアァァァァアアアアアア!?」

 

電気が走る。青い電流は白い電流へと代わり、膨れ上がった肉体は圧縮されるかのように縮んでは膨らんでいくことを繰り返していた。

そして、2周りも膨れていた腕は普通の腕と変わらない太さとなり、自身を拘束していた黒いナニカを引きちぎる。ただ増えていた筋肉が圧縮され、先程よりも強くなった腕に電気を帯びさせ、それを化け物へと振り回した。

 

「ほう。まだ力を出せたのか。こいつは本当に面白い」

 

それを化け物は軽く驚き、そして深い笑みを浮かべて体を動かすだけでそれを避ける。が、それすらも予測していたのか、それとも無意識でやったのか。隆成は避けた化け物の首へ物理的に小指を伸ばして首を引っ掻いた。

 

「……ほう」

 

意外そうな声を上げる。同時にサンドバッグをフルスイングで叩いたかのような音が辺りに響いた。それに遅れて隆成が上へと跳ね上がり、なすすべもなく重力に引かれるままに地面へと叩きつけられた。

 

「……喜べ。本当の意味で人が私を傷つけたのは貴様が初めてだ」

 

化け物は引っ掻かれた首をなぞる。なぞったその傷は、なにか出てくるわけでもなく、血が流れることもなく、まるで空間そのものを抉ったかのように何もないそこは、しかしすぐに消えてなくなった。

 

「面白い。進化の種を持つとはいえ、ここまで楽しめるとは思ってもなかった」

 

化け物は凶悪に歪んだ笑みを浮かべる。今までも魔力のこもったナイフや道具で攻撃されたことはあった。だがそれでも本当の意味で傷つくことはなく、ただ力を弱められただけだった。

だが、これは違う。本当の意味で自分を殺せる攻撃であったことに化け物はただ笑みを深めるだけだった。

 

「ほら、どうした。私はここだ。ここにいるぞ?」

 

まるで子供と接するかのように自身の胸を叩く。ゆっくりと、あやすかのように叩いた化け物に、隆成は怒りのままに雄叫びを上げ、空気を叩くように尾を叩きつけた。

 

「ガ、ィァ、ゥガ、ゴ、デグゥゥゥアアアアア!」

 

その姿はもう人ではなかった。強靭すぎる筋肉を剥き出しにした腕、すべてを切り裂く鋭い爪、何物も通さない灰色に変化した肉体、恐竜のように発達した尻尾、すべてを食い千切る鋭い牙、そして全身に走る青い電流。

人の姿をした邪神に迫るそれは、もはやどちらが化け物なのかわからないほどに常識から剥離していた。

 

「おっとぉ。残念ハズレだ」

 

「イギィ!」

 

しかし化け物は人の姿をした邪神だ。戦車すらも易々と引きちぎれるそれをまるで子供をあやすかのように弾き飛ばしては肉の流体で体を叩く。隆成は血を吐き出し、しかし痛みを感じないかのように体勢を整えては化け物へと向かっていく。

何度も、何度も、何度も。目の前の化け物を殺すべく、愚直に何度も向かっては弾き飛ばされる。

 

「……ふむ。さすがにあきてきたな」

 

暴風ですら生ぬるい猛攻を、あくびを噛み締めるかのような表情を浮かべてさばいていた化け物は何でもないかのように呟く。

なにか面白いことになりそうなものはないかと何でもないかのように辺りを見回して、ソレを見つけた。

 

「あぁ、あそこに新しいオモチャがあるじゃないか」

 

ソレを、人を超越した仲間を子供のように扱う化け物に震える大人になりかけている少女を見つけた化け物は狂気を含んだ笑みを浮かべ、ゆっくりと少女へと近づく。

 

「ヒィ!?」

 

自分に標的が回ってきたことを悟った少女。その手に血でできた剣のようなものを握っていたが、その手は恐怖で震えていた。

その様子を見て邪神は満面の笑みを浮かべ、猛攻を何でもないかのようにさばきながらまるで抱擁するがのように腕を広げ、

 

「さぁ、遊ぼうじゃないか」

 

あの猛攻の中から一瞬にして少女の元へと移った。

 

「ぃゃぁぁあああああああああ!!」

 

恐怖に震えていても、目の前にいるのが人の理の外にいる化け物であっても、彼女はUGNの人間だ。目の前にいる化け物を倒すべく震えている腕を上げ、目の前の脅威を排除すべく鉄すらも切り裂ける血の剣を降り下ろす。

 

「はい、残念」

 

だが、それも化け物には通用しなかった。まるで木の枝を握るかのように人型の手でそれを止め、まるで吸いとったかのように剣が消滅した。

 

「ぁっ」

 

「呆気なかったな。まぁあまり侵食されていなければこんなものか」

 

つまらなさそうに、期待はずれだと言わんばかりに手を降る化け物は何が起きたのか理解できずに呆然としている少女を一瞥し、肉の流体へと変化した腕を突き刺すように少女へと走らせる。

 

「ほぅ」

 

だが、それは少女まで届くことはなかった。いつの間に回っていたのか、変化と怪我でもはや原型をとどめていない隆成の胸に、まるで少女を護るかのように突き刺さっていた。

 

「……ほう?」

 

「オレ、ガ、マモ、ルンダァァァアアアアアアアアア!」

 

ピクリとも動かない腕に意外そうな表情を浮かべる化け物に、隆成は電流が走る腕を化け物に突き刺す。腕の届く範囲内で音速を越える速度で迫る腕を化け物は驚いたかのような表情を浮かべ、

 

「予想以上に速かったな」

 

使っていなかったもう片方の腕で掴み取り、そのまま隆成の身体に突き刺さった肉の流体と化した腕を枝のように内側から突き刺した。

隆成の口から血があふれでる。全身から力が抜け、全身を走っていた電流も静まっていく。

 

もうすぐ死ぬ。胸から、首から、背中から、腹から、脇腹から枝のように突き出ている流体から流れ出る血が大量に地面へと滴り落ちる。

しかし、それでも隆成は入らない力を込めて化け物へと手を伸ばす。

 

「マモ……、ル……、オレ、ガ、マモ……」

 

化け物を掴むかのように弱々しく流体の腕を掴み、そして全身から完全に力が抜け落ちていった。

ピクリとも動くことがなくなった骸を化け物はジッと見つめ、その視線をゆっくりと突き刺していない腕へと向ける。

 

「……まさか、2度も私を傷つけるとはな」

 

腕をつかんだ肉の流体の腕。何物も通さないはずのその腕からは煙があがり、周辺よりもわずかに小さくなっていた。

 

「これだから人間は面白い。進化の種をここまで引き出せるとはな。だが、その貴重なサンプルも壊してしまったのは興が乗ったとはいえ少し悔やまれるな」

 

わずかに眉をひそめ、肉の塊となったそれを眺めては軽くため息を吐く。別に化け物にとって殺したことを心の底から惜しんだわけではない。化け物にとって殺したものを生き返らせることなんて造作でもないし、自分の意思のままに動かすことだって片手間ほどの苦労もない。

しかし、それでここまでのことが出来る人間を作れるのかと言われれば、まず無理だ。こんな肉塊ではまともに蘇生させることは難しく、なによりこれは反抗してくるから面白いのだ。自分の意思を介入させる程度のことはしても完全な自我を持つことも出来ない人形を持ってもなにも面白いことはない。

 

「もうこれもいらんな」

 

肉をかき混ぜるような音をたてて隆成の体から腕を抜き取る。体を支えていた流体の腕が無くなった骸は重力に引かれるままに地面へと落とされ、至るところから空いた穴から血がゆっくりと流れ出ていく。

 

あぁ、しかし、本当に惜しいことをしたな。あのまま生かしておけばまず間違いなく私を探して社会を壊すはずだったのに、本当に惜しいことをした。

 

「……りゅう、せい?」

 

ピクリとも動かないそれを、少女は呆然と眺める。何が起きたのか理解もできず、こうなっま原因が近くにいるのに動くこともできずにただそれを眺めていた。

 

「あ、は、あはは」

 

考えてしまえば自分が無くなると本能で理解した少女のとった行動は、ただ笑って現実から逃げることだった。

 

「あ、あはは。どうしたのりゅうせい?こんなところでねてたらかぜをひくじゃない。やっぱり、わたしがいないとりゅうせいはだめね。ほら、ゆうともおきなさいよ。はやくしないとねぼうするわよ」

 

ボロボロになって激痛の走る体を無視して、涙を流しながら笑っている少女を、化け物はつまらなそうに見ていた。ゆっくりと動いて血に染まった手を震わせながら伸ばす。それをゴミを見るかのように見た化け物(邪神)は、なんでもないように隆成の護りたかった少女を押し潰した。

 

「ふん。まぁ、今の人間を裏切った者共がここまで面白いということがわかっただけよしとしようか」

 

ピチャリと、化け物(邪神)が歩くたびに血が跳ねる。全身から肉と血を滴らせた化け物(邪神)はもとに戻った腕を眺め、まるでコマから抜け落ちたかのように消えた。

 

化け物(ナイアルラホテプ)が消えた空間にあるのは、潰れた肉塊が1つと、辺りに飛び散った血肉が1人分と、人のような形をした化け物の骸の3つだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございます。元気な赤ちゃんたちですよ」

 

「あぁ、あぁ……!やっと、生まれてきてくれたのね……!私たちの、子供たち……!」

 

「あぁ、ありがとう、ありがとう……!」

 

「よかった……!下手をすれば死んでたって……!少なくとも1人は生きて生まれてこなかっただろうって……!」

 

「よかった……!絶対に、生まれてくるって、名前があれば生まれてくるって、必死に祈って、考えて、生まれてくれた……!」

 

「ありがとう、生まれてくれて、生きててくれてありがとう……!」

 

「「ありがとう、一成、隆成……!」」

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