Running On The Rockin' Road 作:あさ。
ハーメルン様での投稿は初めてとなりますので、タグ等に不適切な内容があればご指導いただけますと大変助かります。
数年ぶりの執筆になりますが、何とかエタることの無いよう、続けていこうと思います。
いつまで続けるかも、方向性も、どのような展開にするかも決まっていませんが、せめて少しでも、多田さんを可愛くてカッコいいアイドルにプロデュースできるよう努めさせていただきます。
なお、一話目は多田さんの登場は少な目となります。
人生で最高の
一つ挙げるとしたら、世のミュージシャンは、一体どの瞬間を語るのだろう。
――僕だったら答えは決まっている。人生で
学校の試験でも、徒競走でも、美術の授業でも、いつだって脇役だった僕が、初めて主役になれた瞬間。
承認欲求が満たされた快感を忘れることができず、僕は輝かしくも腐った世界にのめり込んでいった。
最低な人生が始まった瞬間であり、人生で最高な瞬間だった。
ロックンロールとは何か、なんて知りもしない。知ろうとも思わなかった。
ただ初めての感覚をまた味わいたくて、追い求めて――堕ちていくだけだ。
ひたすらに、坂道を外れ、道なき道を転がり続けていくだけ。
スポットライトに呪われた人間なんて、誰でもそんなものだと思う。
そんな中で、稀に、常に最高の瞬間――いつまでも初期衝動を保ち続けるやつがいる。
擦れることなく、飽きることなく、輝きが鈍ることが無い。
ロック
その星は、摩天楼の輝き程度にかき消されることはない。むしろそれらの輝きを見えなくさせるほどに、強く、常に輝いている。
僕らのような、五等星程度の輝きなんて簡単にかき消されてしまう、一級品の一等星。
多田李衣菜という少女は、まさにそんな存在だった。
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「もうバンドをやりたいとは思わないですね。一人の方が楽ですし」
行きつけの居酒屋で、管を巻きながら口にしたのは、本音であり、建前であった。
大学在学中から活動していたバンドが、メンバーの
それから、さして歌も上手くない気楽なシンガーソングライターとして活動していたのだが、唐突に飲み仲間の大学時代の先輩から、バンドはもうやらないのかと聞かれたのだ。
解散直後であれば答えも違っただろうが、今でははっきりとそう答えられる。
この一年で実感したことだが、練習も、ライブも、日程を他人と合わせる必要もない。一人は思った以上に気楽なものだった。
「大学まで辞めたのに、もったいない。太郎だったら、他のバンドからも誘われるんじゃないの?」
「それを言ったら先輩だって」
「俺はそんなモチベーションないよ。仕事もしてないし」
「じゃあ仕事しましょう」
「考えておく」
この先輩は、オリジナル曲を演奏するようなバンド(バンドマンは「外バン」なんて言葉を使う)を組んでこそいないものの、在学中はコピーバンドで一緒に演奏したり、馴染みのなかった海外のバンドを教えてもらったりして、音楽的にもお世話になった。
大学卒業後は、悠々自適な
「なら僕だって一緒ですよ。大学も卒業してないし」
「いいじゃん大学中退。ロックだよ。さあ、またロックンロールしよう!」
「そんなんロック履き違えてるわ」
音楽から離れたやつっていうのは、大概が他人には「夢を追い続けて欲しい」と無責任に願うものだ。
まあ仮に、僕も同じ境遇でくすぶっているやつを見たら、同じことを言うだろうと思う。
脱落者とは、いつだって残った者に勝手な期待をするものなのだ。
そして相手が成功すると、盛大に嫉妬する。
居酒屋に一つだけある、ミュートに設定されているテレビでは、音楽番組が流れており、タイミングの悪いことに、対バンしたことのあるバンドが出演していた。
非常に妬ましいが、アルバムは買ってやろう。
「当方ボーカル未経験、全パート募集、プロ志向、みたいなメンバー募集、行ってみたら意外と凄い才能のやつに会えるかもよ」
「それこそ先輩が行けばいいじゃないですか。女子高生と出会えるかもしれませんよ」
「やだよ。その女子高生、絶対地雷でしょ」
「違いない」
先輩の言うようなあからさまなハズレは避けたが、実は何度か、元々の知り合いのバンドや、メンバー募集の張り紙を見て、セッションに行ったことはある。
あるのだが、僕の演奏は本当に上手いものではなく、どうも相手を選ぶようなので、あまり手応えを感じることはできなかった。
相手はそれでも良いと言ってくれるのだけど、自分が楽しくない。
思っていた以上に、僕は音楽的な協調性に欠けていたらしいと、解散早々に実感したのだ。
「ま、僕は女子高生とバンドなんて死んでもごめんですけどね」
「あっ。察し」
自分で出した女子高生という単語は、僕の地雷でもあった。完全に自爆だ。
ネット用語をわざわざ口にした先輩に気を使われる。
非常に申し訳ない。
「……ポン酒飲むけど、太郎も飲む?」
「あ、はい。飲みます。飲みましょう。
すいませーん! 注文お願いしまーす!」
解散の一年前、就職のためベーシストが脱退し、代わりに空いたパートに加入したのは、ボーカルがスタジオで
モデルのように容姿の整っていた新ベーシストは、拙い演奏ながらもライブハウスのろくでなし共からは瞬く間に人気を獲得し、バンドの看板娘になるのは遅くなかった。
その功績は数字としても表れ、彼女のおかげで客数が数倍にもなったことは、とても感謝している。
性格も明るく、社交的で、練習にも遅刻しない。所謂
顛末としては――ボーカルとできちゃってたのだ。色々な意味で。
「お待たせしましたー。ご注文をどうぞ!」
「こんちきちんをもっきりで二つと、あとなめろうください」
「あとたこわさもお願いします」
「はいっ! よろこんで!」
快活な女性店員――この店で初めて見るが、それこそ女子高生ぐらいだろうか――に注文を済ませ、思い出してしまった嫌なことを煙に巻くため、どこで買ったのかも思い出せない安物のライターで煙草に火をつける。
そういえば、あの娘は煙草も吸っていたなと思い出し、そもそも初めからまともな女の子ではなかったことに今更気付いて、ニコチンとのダブルパンチでダウナーな気分が加速した。
煙草のせいか、飲みすぎのせいか、視界が歪んでくる。日本酒のあとは水を飲もう。
「女子高生に手出すなんて、いばらの道なんだから気にすんなよ。
太郎にも良い出会いがその内あるって」
「いやそういうんで落ち込んでるわけじゃないですから。ほんとに。別に女子高生とか興味ないですから。先輩と違って」
「おおお俺だって三次元の女子高生には興味ないから」
「箸震えてんじゃないですか。今更隠したっても、泥酔したら最近道端で見た女子高生の話しかしないじゃないですか」
ただただ、元バンドメンバーというだけ。それ以上の関係性はなく、更に恋愛感情はなかったはずだと思う。
そりゃ、かなり可愛い、若い女の子だ。
メンバーとして加入した時だって、練習やライブ、それ以外の日常でも共に行動できたことは、悪い気はしていなかった。
だけど、恋人になりたかったかと聞かれると、明確にノーと言えるだろう。
そうは言っても、昔馴染みのボーカルと実は付き合っていて、子供までできたと聞いたときには、なんだか残念な気持ちになるものだ。
男女混合の仲良しグループ内でカップルがいたことを知らされた、なんてシチュエーションがあるなら、その状況に近いと思うが、こちらは新しい生命の誕生まで告白されたのだ。
更にバンドは寿解散。素直に祝福なんてできるはずもない。
「お待たせしました! お先にこんちきちんになります!」
この居酒屋では毎回頼んでいるお気に入りの日本酒を、先ほどの快活な女の子が慣れた手つきで升に入ったグラスへ注ぐ。
きれいに透き通った酒が、グラスに並々注がれ、溢れ、升に溜まっていく。
徳利に入れて、おちょこでちびちび飲むのも良いのだが、密かにこのもっきりを目の前で注いでもらうのが僕は好きだ。
「ありがとうございます――」
升からも溢れそうなぐらいまで注いでもらい、注ぎ終わったところでお礼を言うため、目線を酒から店員の女の子に移し、僕は目を見張った。
その女の子は、ボーイッシュな雰囲気だが、とても整った顔立ちで、件の元バンドメンバーと比べても遜色がない――美少女だった。
まじまじと見てしまっていたのか、女の子は先ほどまでの溌剌な接客態度ではなく、少し怪訝な表情で僕に問いかけた。
「……お客様、もしかしてどこかで会ったことありますか?」
「え!? い、いや、どうだろう……」
「んー、そうですか……。ごめんなさい、変なこと聞いちゃって」
こんな不審者に謝ってくれるなんて、この子はとても良い子に違いない。
言われてみればどこか見覚えがある気がするが、こんなに顔の整った女の子、一度会えば忘れることはないだろう。
そして僕の顔なんて平々凡々。どこにでもいるような顔だ。
――つまり、おそらく双方とも勘違いだろう。
やましい気持ちなど少しもないのだが、じっと見てしまったことは事実だ。
しどろもどろな返事になってしまって、却って怪しまれてしまったかもしれない。むしろ謝りたいのはこちらのほうだ。
謝りはしたものの、曖昧な僕の返答に納得いっていないのか、不思議そうに首をかしげる女の子との間に不穏な空気が流れていたが、それをぶち壊す野次が外野から飛んできた。
「あ、おっちゃん! 太郎が店員の子ナンパしてる!」
「なんだと! 太郎さん、JKはダメだぞ!」
「いやいや、何言ってんすか先輩! おっちゃんも……おい! にやにやしてんな!」
「あ、あはは」
先輩の茶化しに、場外から店主であるおっちゃんが乗ってくる。
多くて週に二回ほど飲みに来る僕らは、店主のおっちゃんとも気さくな仲だ。
この六十歳間近の店主は、酒を飲みながら仕事をしていることも多々あり、大概ノリが良い。稀に二日酔いで塩対応。
今日も、おそらくあの手に持っているマグカップの中身は焼酎なんだろう。どう見たっても、仕事中にしては不相応に顔が赤い。だが、それでも料理の味が落ちることはないのだから不思議だ。
こんなお店だから面倒な酔っ払いに囲まれる状況は慣れてはいるのだろうが、愛想笑いを浮かべている女の子には申し訳なく思う。
ひとしきり賑やかされたあと、その面倒な酔っ払いの内、店主であるおっちゃんが思い出したように聞いてきた。
「そういや太郎さんって、ギター弾けたよね?」
おっちゃんとはバンドを解散してからの仲になるので、僕が音楽活動をしていることは特に話しているわけではないのだが、弾き語りや練習帰りにギターを持って飲みに来ることもある。
それで僕がギターを弾けると思ったのだろう。
事実、僕はギタリストだった。
「ええ、まあ人並みには」
おっちゃんは僕がどのくらい弾けるのかは知らないだろうし、僕も自分がどのくらい弾けるのかいまいちわかっていないので、当たり障りのない返答をした。
先輩が横から「プロ並みだ」とか「クラプトンの生まれ変わりだ」とか言ってるが、クラプトンは死んでねえ。
そして、関連性はわからないが、店員の女の子が何かを期待するように僕を見ている。
――その眼差しの意味は、すぐにわかった。
「ナンパはダメだけど、JKにギター教えてみない?」
「えっ?」
気安く口にされた予想だにしていなかった提案に、僕は思わず女の子に目を向ける。
……すっごいきらきらした目で見られているし、あるはずのない尻尾がぶんぶん振られているような幻まで見える。犬だな。この子は犬か猫かで言ったら、犬だな。
この調子だ。言わずもがな、教える相手はこの子なんだろう。
「そんな、教えるってほどのもんじゃないし……」
僕は、人に物を教えるような器ではない。そう自己評価している。
更に自分の演奏スタイルも、技巧派ではなく、
そんなギタリストに教わることなんて何もないだろう。この子の将来を思って断ろう。そう決意したが、旗色が悪いと見るや、目に見えて女の子の表情が曇っていった。
少し騒がしかった僕らは狭い店内で目立ってしまっていたので、周りの客からの注目も集めてしまっている。
女の子も段々と泣き顔に一歩ずつ近づいていくため、感じる視線に非難の色を強く感じる。
何より、この子のあるはずのない尻尾が丸まっていくように見えて、なんだかほっとけなくなってしまった。
……仕方ない。おっちゃんには、今度から僕だけお通しを豪華にしてもらおう。
「はあ……まあ、簡単なことでよければ」
先ほどまでこの世の終わりのような顔をしていた女の子の表情が、瞬く間に輝いていく。
こんなどこの馬の骨とも知れぬ男にギターを習うなんて、不安じゃないのだろうか。
そういえば、結局まだ誰に教えるのかしっかりと聞いていないが、この顛末を見守っている誰もがわかっていただろう。
それでも、これから簡単なものであるとはいえ、師弟になるのだ。一応聞いておかなければならない。
「それで、僕は誰に――」
「はい! はい! 私です!
これからよろしくお願いします!」
「お、おお」
僕の人生初めての弟子は、かなり走りがちなようだ。
ぐっと身を乗り出し、僕の眼前までその整った顔を近づけ、食い気味に僕の質問に返答をしてきた。もはや、仕事中であることは忘れているに違いない。
美少女の勢いに押されながら、僕も言葉を返す。
「シンガーソングライターもどきをやっている、田中太郎と言います。
どうか、お手柔らかに頼むよ」
「シンガーソングライター……かっこいい!
あ、でも、ロックじゃないかも……」
もどき、という単語は彼女の耳に入らなかったようだ。
こちらも、おそらくロック好きであろう彼女が残念そうに漏らした本音は、聞かなかったことにする。
どうも過剰に期待されている気もするが、まあ一回や二回会って、ローコードで弾ける曲を一曲ぐらい教えれば、気が済むだろうと、軽く考える。
先ほどからにやにやしている先輩やおっちゃんを見ないように、彼女の顔を見る。
――改めて見ると、やっぱりどこかで見た顔な気がする。
そんなまじまじと見ていたのがどう取られたのかはわからないが、彼女は先ほどの接客スマイルとは違う、人懐っこい笑顔で、馬鹿みたいな目標と共に自己紹介をしてくれた。
「多田李衣菜と言います! ロックな
よろしくお願いします! 師匠!」
は? ロックな……アイドル?
タイトルは、敬愛するミュージシャンの曲名を一部拝借しております。
サブタイトルは、今後の展開によって変更する可能性があります。