幕末人切り譚   作:ヤマアラシ齋藤

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黒鉄を久しぶりに読んで書きました


序章 人切り

沖田総司は剣士である。江戸市谷にあった天然理心流の道場、試衛館の内弟子となり、のちに新選組結成の中核となる近藤勇、土方歳三とは同門にあたる彼は新選組の中でも突出した剣の才を持っていた。

曰く、仲間が1人を切り伏せる間に5人を切り伏せ、その剣先は誰にも捉える事は出来ず音や光すら置いていく無明。まさに剣の神に愛された存在であったと。

 

だが、そんな剣の神に愛されている沖田総司にも弱点が2つある。一つは産まれた時から病弱である肉体。幾ら才があろうとも肉体を酷使し続ければ持病が表に現れ血を吐き倒れ付す。そしてもう一つは沖田総司が女であるという事

 

そう、沖田総司。後世では絶世の美男子だと語り継がれている彼は彼女なのだ。

病気による影響か髪は白く染まり、女性であり病弱な彼女は他の仲間達のように常に身体を動かす事が出来ない。

 

それでも沖田総司は剣士である。もしも彼女に剣術の才がなければ恐らく後世に語り継がれてはいなかっただろう。

 

「そこっ!」

 

「がっ…ッ!!?馬鹿な…俺がこんな所で…」

 

銀の閃光が月夜に揺らめく。その美しい白髪と誠の一文字が描かれた衣紋は赤く染まり修羅をも想わせる眼光は切り伏せた敵を射抜く。

病弱故に白く美しい肌。まるで花を想わせる可憐な顔。その全てが赤く染まっていた。

そして少女は次なる獲物を視界に入れる。その戦姿はまるで舞踊の如く優雅であり、その一振りは光を越え、他者では捉える事が出来ない一閃。

1人、また1人と捕えられた獲物は倒れていく。

 

その姿、まさしく剣神。戦場で彼女を捉えられる者などこの世に居らず。その背に描かれた誠の文字を成す為に、不定浪士を切り伏せ幕府の存続の為に。

この江戸末期。彼女より優れたる剣士はこの世にいない。そう断言するほどに。

獲物が何時もより多く身体に負担を掛けたのか大きく息を吐きながら刀を収めようとする。すると眼前に1人の浪人が姿を表した。

 

「…夜ももう深いです。貴方はここで何をしているのですか?」

 

「…」

 

眼前の浪人は何も答えない。編笠を深く被り顔を見せないようにしてただ何も言わず立ち塞がる。先程狩り尽くした不定浪士の残党か?と思えど剣すらも握る気配すらない。

ならばただの酔っ払いか?それはない。このような血の匂いが漂う場所に町人は集まる訳がない。それにここは少女達新選組と不定浪士が斬り合った場所。そんな所に剣をぶら下げて来るなど自殺行為以外他ならない。ならば何故?

そんな事を少女が考えているとと眼前浪人からジャリジャリと変な音が混じった声が聞こえてきた。

 

『おいおい!俺はこっち来たら危ないってあれだけ言っただろうが!キンキン斬り合いしてる場所に突っ込むのはお前の悪い癖なんだ!そんな事してたら命が何個あっても足りねぇよ!』

 

『だいったいお前はいっつも俺の言葉を聞きやがらねぇ!俺がいっつも止めとけと言うのに!そんな俺のありがたーい言葉をいっつも無下しやがってこの野郎!お前が死んだら俺も死ぬんだぞ!分かってんのか!というか聞いてんのかオイ!』

 

「…一体何を仰っているのですか?」

 

いきなりの言葉に理解する事が出来ず聞き返す事しか出来ない。すると男は刀を1回小突いたかと思うと

 

『…おっとこれは失礼。アッシはただの旅人、この江戸にアッシの探し人がいると噂を聞きやして足を使い探している最中で御座います。さてはて…そんなアッシの目前に見えるのは、蔓延る悪を断ち払い、誠を成す。新選組のお人とお見えしますが…如何に?』

 

少女の言葉を聞き先程の怒り狂った声とは違い大仰に話し出す。しこを踏むようにどっしりと足を大きく開き編笠を片手で持ち残った手を横に大きく突き出して話す姿はまるで歌舞伎座の役者を彷彿とさせた。

 

「そうですが…貴方は?」

 

『愛する故郷を離れ何千里。探し人は見当たらず、途方に暮れるただの流浪の旅人に御座います』

 

『あぁ、これは申し訳ない。申し遅れました。アッシの名前は人鉄、ただの人鉄で御座います』

 

その瞬間風が吹き深く被っていた編笠が少し上がり、月の光に照らされて男の顔が少し見える。

その肌色は鉄色だった。鋼鉄の面を被ればこうなるだろうと想わせる顔、そしてその鉄の肌とギョロリと睨みを効かせる目。それはまるで怪物を彷彿とさせる面構えだった。

 

「…そっその顔は」

 

『…人と鉄より産まれ出ずるは人鉄。今見た事はお忘れくだせぇ』

 

そう言うと身体を翻しその場を後にする男。少女はただその背中を仲間が来るまで呆然と見続けていた。

 

 

 

鉄の面を被った男人鉄と誠を背に戦った人切り少女の物語。これらただの彼等の出会い。これより先は修羅の道、剣を交える者なれば切って離せぬ死合の運命。

 

さぁさ皆様ご照覧あれ。

 

『幕末人切り譚』始まり始まり

 

 

なぁおい。人切り仁ってしってんか?

 

あぁ…確かそいつぁ金100両の賞金首じゃあなかったか?100両の値段が付いてるんだ今はもう殺されてても可笑しかぁねぇ。

 

いやいや、これがまた恐ろしい事に人切りの野郎、自分を狙って来た奴を皆殺しにしたらしく今では金300両の怪物よ。

 

ヒェーおっかねぇおっかねぇ。そんな奴に敵う筈ねぇ。くわばらくわばら

 

おいおい、話はここで終わりじゃあねぇ。どうやらあの犬飼いの玄の野郎が人切りを狙いに行くらしいぜ。

 

ほぉ…アイツの犬の前にはどんな賞金首も喰い殺されちまったと聞くが今回はどうなるのやら。なんせ相手は前人未到の金300両の人切り、アイツの犬も厳しいんじゃねぇのか?

 

…そんならお前、人切りと玄。どっちに賭ける?俺は玄に賭けるぜ!

 

そうさなぁ…なら俺は玄の野郎に賭けるとするか!

 

おいおい!そりゃ賭けにならないだろ!

 

ハッハッハッハッハッハッ!

 

 

それは雲一つなく月の光が綺麗に見れる夜だった。目の前にいるのはただの小さな餓鬼1人。本来予定したより余っ程楽そうで早く済ませて家に帰るつもりだった。

 

「ハハッ…コイツぁ下手こいたか?」

 

「グルルルルル…」

 

始めはボロい儲け話だと思った。俺の犬はどんな賞金首であろうとも恐れず首を噛み切ってきた最高の相棒。野生のままに戦い、勝利する。何時もそうしてきたし、今回もそうなるものだと思っていた。

だが、今回は違った。目の前の餓鬼の放つ威圧感は尋常なものではない。まるで何かが取り憑いているような、背中に今まで切り殺してきた悪霊を背負い、その恨み辛みを剣先に乗せているような感覚。相棒達も餓鬼を警戒し唸り声を上げるばかりで襲いかかろうともしない。

 

「…」

 

「…なんか喋りやがれってんだ!」

 

餓鬼は何も話さずただこちらに剣先を向けるだけ。何時もなら相棒に任せて使う事の殆どない刀を抜いて正面に構える。

何年この刀をまともに振ってないのか、それを考えると思わず手に汗が握る。 勝てるのか?頼みの綱の相棒も唸るばっかで襲いかかろうともしない。下手をうてば確実に俺はここで死ぬ。

 

「…怖いか?」

 

「あぁ…?いきなり何言って」

 

「怖いなら逃げろ。逃げる者を殺すつもりは毛頭ない」

 

岩に頭を打ち付けられたような衝撃が走った。目の前の餓鬼は俺に逃げろと言った。幾多の賞金首を殺した犬飼いの玄に対して小さな餓鬼が情けを掛けたのだ。到底看過できるものではない。俺の思いを感じ取ったのか相棒も何時でも襲いかかれる体制をとる。

 

「…忠告はした。然らば来い」

 

「───ッ!舐めるなァッ!」

 

そうそう、その人切りなんだけどよ。その人切りが振るった剣は何やら可笑しいみたいでな

 

ほぉ…そいつぁ気になる。一体何が可笑しいんで?

 

「─── 光越、鎌鼬」

 

「─── ァ?」

 

その光景を見ていた奴がいるらしく、決して目を離していたわけでは無いらしいが人切りが剣を振ると遠くにいた者の身体が真っ二つに両断されてるらしいんだ。まるで鎌鼬に切り裂かれたみたいに綺麗にチョンパ!らしいぞ

 

いやいや人切りは追手を皆殺しにしてきたんだろ?ならそれを見ていた奴は殺されてるだろ?噂には尾鰭が付くとは言ったものだがこれは一段と酷いな

 

 

それがもしも本当ならば人切りは剣を振るだけで鎌鼬を起こせる程の剣の使い手って事じゃねえか

 

 

「…犬との息の合った連携。見事だった」

 

犬飼いの玄と愛犬が真っ二つに切り裂かれた死体が後日発見されたらしい。その犯行は人切り仁の仕業とされ金300両という賞金は金350両へと上げられた。

 

その後、人切り仁のあまりの危険性に幕府自ら人切り仁を討伐する為に腕利きの侍数百人を集め半数以上の死者を出し討伐したらしいが人切り仁の死体が表に出てくる事はついぞなかった。

 

「───で人切り仁は結局どうなったんだよ!」

 

「そうだよ!続き教えてよおっちゃん!」

 

『その後の事はだーれもしらない。人切り仁はその戦いで命かながら逃げ出したらしいがその後直ぐに死んだとか、名を変え姿を変えてまだ生きているとか色んな噂があるがどれも信憑性にかける話だ』

 

「肝心な所知らないんじゃ意味無いじゃん!さっき聞いた所までは皆知ってるよ!」

 

少年達に囲まれ鉄仮面の男は懐から銭を出しそれを渡す。

 

『話はこれでおしまい。これで仲良く団子でも食ってこい』

 

「やったー!ありがとなおっちゃん!行こうぜ皆!」

 

口々にお礼を言いながら茶屋へ向かう少年達の声を聞きながら鉄仮面の男は腰に下げてある刀の柄を優しく触る。

 

『…アンタほんと童が好きだな。天下にその悪名を響かせた人切り仁とは思えないねぇ』

 

かと思えば柄の先を力強く何度も叩き始める。

 

『悪かった悪かった!冗談だっての!だから殴るのをやめやがれぇ!…ったく俺様は超高性能絡繰なんだぞ優しく丁寧に扱いやがれ!超デリケートなんだってのにコイツはほんとに…』

 

『超高性能絡繰の俺様だからお前の代わりに話せるんだからな!お前の生命線みたいなもんだならちったぁ大切に扱いやがれ!』

 

その言葉に男は頷くと歩き始める。その足は一体何処へ向かうのか。それを知っているのは男とその歩みに揺らされる刀のみ。

 

 

 




全方面へ謝る体制は既に出来ている
ごめんなさい書きたかったんです許して下さい何でも
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