幕末人切り譚   作:ヤマアラシ齋藤

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まったくこりない悪びれない


二話 秘密の話

どのような時代にも闇はある。例えるならば災害等の人間では対処不可能な現象を神の仕業として人身御供、生贄を捧げる行為、フランスの魔女狩りとそれらはあげればキリがない。そして日の本、この江戸時代にも大きな闇が存在していた。

 

『おいおい仁鉄よぉ。本当にここにアイツがいるのか?』

 

夜の中を男が歩く。その歩みに乱れはなくただ月夜すら見ない江戸の闇の中へと。最初は鳥の囀りしか聞こえる者は無かった夜の道だが男が歩みを進める程に人々の喧騒の声が耳に入る。

夜の街、歓楽街。聞こえる声は女の嬌声、男の怒号、それを揶揄する者達の掛け声。男はそれらの声を無視し歩みを続ける

 

『…会いたかぁねぇんだがなぁ。なぁ人鉄よ、こっから周り右して帰らねぇか?』

 

「…」

 

『分かった分かった!分かったからその目で見るんじゃねぇ!あぁもうこっから先は野となれ山となれだコンチクショウが!行くぞ人鉄!』

 

男が向かう場所は歓楽街の中でも寂れた場所だった。そこにいる誰もが幸悦を感じているような惚けた顔をして辺り一面に煙が充満していた。

 

「あぁぁあぁ…最高だァ…こんなもんが世の中にあるたぁなぁ…」

 

「おい兄ちゃん。アンタも吸いに来たのかい?いやいや吸いに来なきゃあこんな場所に来ねぇよなぁ。ここは楽園、お前も一緒に吸おうぜ」

 

『…アッシはここに人を探しに来ただけでな、吸うのは遠慮しておくぜ』

 

「なんでぃつまらん。なら俺一人で吸うとするか…」

 

近くにいる者から誘いを受けるもそれを流し先へ進む。ここはある意味楽園。金と生命さえ払えば生きている内には味わえない快楽を提供する楽上洛土。しかし金と生命が払えなくれば待っているのは死の一文字のみ。

 

この楽園の名は阿片窟。この歓楽街に蔓延るこの国の悪そのものである。

そしてこれを作り上げた者こそが男が探している者であり

 

「よぉ人鉄に鋼丸。江戸までの長旅ご苦労様だったなぁ」

 

『…ここに呼ぶのは止めくれねぇか?入っただけで気が滅入っちまうんだよ』

 

「なぁにここは天下御免の江戸。そしてその悪い所をグツグツに煮込んだ地獄さ。悪い話をするなら持ってこいだろ」

 

『俺を作った時からなんにも変わってねぇみたいだな日吉源吉様よ』

 

その言葉に日吉と呼ばれた男は笑う。ここは阿片窟、人々が求める快楽を提供する場、そこを管轄するこの街きっての悪党が住まう地獄の釜の中そのものだ。

 

───

 

「日吉源吉?誰ですかそれは?」

 

場所は変わって新選組。京と人々の安全を守る彼等の駐屯所である場所で2人の者達が話をしていた。

1人はこの新選組1番隊隊長、沖田総司。その愛らしい顔を不思議そうにして聞いた言葉を反復している。そしてその姿を見て溜息を吐き話を続ける男

この男の名は土方歳三。この新選組の副長であり仲間から鬼の副長として恐れらる者である。

 

「あぁ、日吉源吉。昔幕府に務めていた時は天才的な頭脳をもって幕府に貢献したらしいがその天才性からか他の者達から妬まれ、嵌められて幕府務めを辞めらされたらしい」

 

「成した功績は数しれず、だがそれは全てを揉み消され横取りされた哀れな天才だ」

 

「まぁ、良くある話ですね。出る杭は打たれるとは言いますが出過ぎた杭は引き抜かれる、という事ですか」

 

「そうだ。そしてその男が江戸で尊皇攘夷運動…いや反幕府運動をしているらしい」

 

「尊皇攘夷じゃなくて反幕府運動?…何が違うんですか?」

 

「あぁ…それはだな」

 

───

 

「お前を呼んだ理由はたった一つ。この江戸、いやこれを収める江戸幕府。ちょっと黒い部分が山ほどあってなそれを綺麗にしなきゃあならん」

 

『この頃流行りの尊皇攘夷ってやつか。俺達はそんなもんに手を貸すつもりは毛頭』

 

「いやいや尊皇攘夷だなんて崇高な理念は掲げてねぇ」

 

『…んじゃ何の為にんな事を?』

 

月夜の光、街の光すら遮断する阿片窟の中で男達は話をする。日吉は話をすればするほどその目を濁らせていく。その目から感じるのは溢れんばかりの殺意、怒り。それら負の感情が溢れ出さんと言わんばかりに

 

「復讐だ」

 

一言ただそれだけ。だがそれだけの言葉に込められた感情は如何程な物だろうかその濁りきった目、いやそれ以上に鬱積された感情が言葉となって吐き出されてる以上感情に疎い者もこれを聞けば納得するだろう

これが怒りであり殺意であると。

 

『すまねぇが俺は嫌だぜ!刀でありながら考える頭と話せる口を手に入れたんだ!いくら製作者であるお前さんの話でもこれは聞けねぇな!』

 

『幕府に逆らうなんぞ首が何本あっても足りねぇんだよ!』

 

『何にも話せない人鉄の代わりに俺が言ってやるよ!尊皇攘夷だが幕府に対する恨み、反幕府運動だが何だが知らねぇがなそんな事してみろそこにあるのは死だけだ!俺はまだまだこの世界を見たりねぇ、人鉄が死ねば俺も死ぬんだ。だったら断るに決まってんだろ!』

 

『阿片狂いの阿呆の戯言に付き合うこたぁねぇ。出ようぜ人鉄!』

 

刀はそれに待ったを掛ける。捲し立てるような言葉で拒絶し男、人鉄にここを出る事を促すも人鉄はそこを動く事は無かった。ただ日吉の目をじっと見詰めている。逸らすことなく、見透かすような目でジッと。

 

『おいおい早く出ようぜ人鉄!それとも何か?お前まさかコイツの手伝いをしてやろうとか思ってないよな!?』

 

『正気じゃねぇ!確かにお前さんはコイツに生命を救われたかもしれねぇが新しく貰った生命をこんな事の為に無駄に使う必要はねぇ!コイツは幕府を揺るがそうとしている輩だぞ!義理人情なぞ払う必要が何処にあるってんだ!』

 

「黙ってろ鋼丸。俺は今コイツに聞いてんだ」

 

『喧しいお上に逆らおうとしている阿呆の話なんぞ聞いてもロクな事にならん!いいか人鉄!絶対に』

 

「黙れ鋼丸。刀は刀らしくしていろ」

 

日吉の言葉に刀、鋼丸は押し黙ってしまう。だがそれでも人鉄はジッと日吉をみるだけ、まるで何かを見定めているみたいに

 

「なぁ人鉄。たった一回、一回だけで良いんだ。死に掛けたお前を助けたのは俺の願いにお前の手が必要不可欠だったから。金なら幾らでもくれてやる、それが嫌ならその後俺を殺しても良い。俺が叶えられる範囲ならば何でもくれてやる」

 

「だから…頼む。俺を助けてくれ」

 

そう言いながら頭を下げる日吉。人鉄はその姿を見詰めた後腰にぶら下げてある刀、鋼丸の柄を叩く。

 

『おいおいおい…本気で引き受ける気かよ。分かってんのか?お前が死んだら俺も死ぬんだぞ?俺が壊れたらお前は話す事は出来ねぇんだぞ?』

 

「頼む…人鉄。後生だ。これっきりだから」

 

「…」

 

『あーもう!お前は本当にお人好しだな!何時もの事だが本当に困った奴だぜ!』

 

その言葉に人鉄は気恥ずかしそうに頭を掻く。恐らくこんな事は一度や二度ではなかったのだろう。鋼丸もその姿をヤケクソと言わんばかりに声を張り上げる。

 

『わぁったよ!人鉄の好きにすりゃ良い!いつも通りの悪い癖を出しやがってこの野郎!』

 

「…すまないな。ありがとう人鉄」

 

『おい!人鉄だけじゃなくて俺に礼はないのかよ!』

 

「…?お前は人鉄の為に作ったんだから人鉄へ礼を言えばお前に言ったも同然だろ?」

 

『かーッ!流石はこの超高性能絡繰名刀鋼丸様を作り上げた男だ!製作者様だから俺に対する優しさとか礼儀が全くねぇ!』

 

「で、それじゃあ話の続きなんだが」

 

『聞けよ人の話!?』

 

やんややんやと話を続ける2人と一本、その会合は夜が開けるまで続いた。そしてその会合は彼等の運命を大きく分けると事は誰も知らない。

 

───

 

話は流れ新選組。そこでは沖田と土方の二人の話が佳境に入ったらしく張り詰めた空気の中で話をしている。

 

「幕府公認の御前試合ですか」

 

「あぁ、そこに日吉源吉が現れるとの垂れ込みがあった。お上公認の御前試合、日吉源吉が現れるかもしれないという理由だけで中止には出来ない。そこで沖田、お前にはその御前試合に参加してもらおうと思っている」

 

「了か…えっ?私が参加…するんですか?」

 

その言葉に沖田の言葉が止まる。ついでに張り詰めた空気もパチンと割れる。

想像していたのは裏方に潜んでいて日吉源吉が現れたら御前試合の邪魔にならないように引っ捕えると考えていたからこれには沖田さんもビックリ、鳩が豆鉄砲をくらったような顔を晒してしまう。

 

「あぁ。言うならば密偵みたいなもんだ。選手として参加した方が日吉の奴の目から誤魔化せると踏んだからな」

 

「いやいやいや。沖田さんの隠密術なら隠れている事なんてお茶の子さいさいですよ!?わざわざ試合に出さすなんて正気ですか!?」

 

「因みに近藤さんもこの案賛成していたから逃げられねぇぞ。チャンバラ、楽しんできな」

 

「」

 

沖田さんの明日はどっちだ

 

───

 

「──という訳でお前には御前試合で完勝してもらってとあるお方とお見えするチャンスを作って欲しい、そうすれば後は好きにしてもらっても良い。そこからは俺がやる」

 

『…稀代の人切りを絡繰を使って蘇られせた理由が大勢の人の前で木刀でチャンバラしてもらうってお前…お前』

 

人鉄君の明日もどっちだ

 

 

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