幕末人切り譚   作:ヤマアラシ齋藤

4 / 4
天才

 

──その日少女は運命と邂逅した。例えその身が朽ち果てるようとも必ず巡り会える運命へと。剣の神に愛されし人切り少女と時代を冠する稀代の人切り、この日ここから運命は始まった。

 

お上のお墨付き、天下御免の御前試合。様々な強者共が己の全てを出し戦い勝利し、敗北していった。何も出来ず敗北し涙を流した者もいるだろう、あらゆる障害を粉砕し勝ち残った者もいるだろう。名のある名門道場から参戦した者もいれば定住の地を決めず己の感じるがままに流れて生きる渡世人もいたこの大会。

次の試合こそそれら全ての集大成。

 

「やはり…最後の相手は貴方ですか。では、参ります!」

 

「…」

 

御前試合最終試合、剣の神に愛された人切り少女 対 賞金 金350両。稀代の人切りの試合の幕は開いた。

 

真っ先に動いたのは沖田だった。音すら置いていく踏み込みを持って動き始める。瞬身、常人では感知できない速さ。常人ならば何も出来ず打ち込まれ終わるだろう。歴戦の猛者ならば己が経験と勘を持ってして一太刀をいなすだろう。

新陰流の鉄心ならば何も出来ずに終わるだろう。だが、渡世人として渡り歩き名の知れた筈の火渡りの錬司ですら攻めいる事が出来なかった。

 

「一歩音超え…っ!」

 

その、人を超えた動きに人鉄は追い付く事ができるのだろうか?

 

「…」

 

この後の光景の事だが様々な記録があり情報が錯乱しているのだが試合を見ていた者が口を揃えて言っていたとされている事が一つだけある

 

試合が始まった瞬間、2人がその場から消えたと

 

 

──

初めての事だった。自分は最強だと自負していた、剣術ならば誰にも遅れを取らないし誰も自分に追い付けないと思っていた。初めて剣を握ってから負け知らずでそれからも剣を極めて誰も自分に追い付けなくなり、それからも剣を極め音すら、光すら置き去りにした筈だった。

誰も自分に追い付けない。それで良いと思っていた。自分は人切り、仲間と共に戦うためならば貧弱なこの身体では長く戦う事は出来ない。ならば自分が誰よりも速くなれば皆と共に戦えると、例え誰もが自分に追い付けず、満足する切り合いが出来ずとも。それで良いと思っていた。

 

「一歩音超え…っ!?」

 

音を超え、自分の速度に世界が追い付けなくなった筈の世界。そこに初めて自分に追いつける存在を見た。

音を超え自分以外は動けぬ筈の世界で彼はこちらに向かって剣を振り下ろした。

そこからはじまる剣戟、互いの剣技をぶつけ合い自分達しかおらず感知できない舞台で互いに竹刀をぶつけ合った。

 

初めてだった。自分と同じ事が出来る者を見るのを。そしてこの瞬間、この日彼を見てから感じていた同族の感覚はこれだったのだと納得し溢れる感情を抑えられなかった

 

そして知りたくなった。自分はこれ以上速くなれるが彼は何処まで速くなれるのだろう?音は超えた。ならば次は光より速く?いやいや、空間を跳躍するほど?

 

今、自分が出せる最大まで?もしくはそれを遥かに凌駕するほどに?

 

「(…感謝します土方さん近藤さん。沖田さんは今、最高の瞬間の中にいます)」

 

もしもこの試合に出てなければこの最高の瞬間は得られなかっただろう。胸の中で土方さんと近藤さんに感謝しながら更に加速する。彼が真に己と同じ光景が見れる存在だと心の底から願いながら。

 

「二歩無間…ッ!」

 

沖田は音と光を超えた先、暗闇しかない筈の無間の境地へと飛翔する。その先に彼がいる事を信じて。

 

───

 

その領域に音は存在せず

光すらもついてこれずあるのはあたり一面の闇のみ。いつもならばここに到達しているのは己のみ、普段ならばこの領域に対して何一つ感じるものはなかった。だが、今は違う。同じ目線を持つ者がいる、そして彼はこの領域へと辿り着いている。

例え姿が見えずとも感覚で分かる。今日はこの暗闇が何時もとは違う世界に見える。1人だけの世界ではなく1人この世界を知っているものがいる。それだけで嬉しかった。

互いに竹刀を構えてある。何度も打ち合い剣術の腕も互いに把握済み、ならば成すべき事はひとつだけ。

 

人鉄が虚空で竹刀を振りかぶった。

本来ならば何の意味もなさない行動だろう。だがその本意に気付けぬ沖田ではない、すぐに身を翻し元いた場所から離れる。

 

その瞬間虚空は切り裂かれ一刄の刃となる。切り裂かれた空気は速度と眼前にあるもの全てを切り裂く鋭い湾曲した形で正面へと進む。

 

今は身体の殆どが絡繰となり口を開けぬ人鉄。もしも彼にそのままの生身の身体が残っていたのならばこう言うだろう。

音を超え、光を超え。切り裂くは虚空。これぞ渡世人仁が辿り着きし奥義。

 

光超、鎌鼬

 

新選組1番隊隊長、並ある不定浪士を切り裂いてきた沖田総司ですらこの剣技を見るのは初めてであり、同時にこの剣技を極めるのにどれだけの年月を費やしたのかを、今同じ領域に立つ天才同士故に感じ、理解した。

 

人鉄がこの技を見せたのは簡単な事だ

 

己は光を超え虚空を切り裂く程に剣を極めた。次はお前の剣技も見せろ。と言外に言っているのだ。

こう感じているのは沖田の思い違いかもしれない。だが、そう感じずにはいられなかった。

 

こんな技の自慢をされ、お膳立てされ返事を返さぬ沖田ではない。その整った顔を悪鬼の如く歪ませ突きの構えを取る。

 

 

ならば…我が秘剣。受けてみるが良い!

 

 

「三歩絶刀…ッ!」

 

一歩めで音を超え、二歩めで光を超え、無間へと至った。ならば次は何処へ?

剣の神に愛されし少女が至った領域、それは音や光などいった次元の話では無い。今までのはまだ人の領域での戦い。これから沖田が見せるは神域、剣の神に愛されてるからこそ辿り着けた場所。

 

そこに光、音、空間の概念は存在しない。あるのは己ただそれのみ。一つ己が剣を振れば形になり二つ己が剣を振れば形になる。三つ己が剣を振ればそれも形になる。

 

確かにその場に沖田は三人いた。剣を振れば沖田自身が増えていくのだ。そして三人の沖田が狙うはただ一点。その場から動かぬ人鉄の竹刀。

重なり合った沖田の残影は質量を持ちその剣先は確かに人鉄の竹刀の先端を捉えている。

 

見よ!これぞ沖田総司が見せる秘剣の煌めき!

 

剣に対する迷いなどなく。己の生涯は剣を振る事だと悟り。己の身に迷い、苦しみ、無明を振り切りその先へと至った奥義!

 

 

「無明…三段突き!」

 

三つの剣先が人鉄の竹刀の先端を狂いなく捉えた。

 

───

 

「…私の勝ちです」

 

「…」

 

人鉄の手に持つ竹刀が先端から割れていく。人鉄はその様子を見て何も言わず、ただ竹刀を見ていた。

どんなに長時間打ち合ったと感じても実際には数秒程度にしか満たない時間。この試合を見ていた者には一瞬両者の姿が消えたと思えばそこには先端から割れている竹刀を見る人鉄と剣を構える沖田のみ。拍手喝采など起きる筈もなく、ただただ不思議そうに人々はその光景を見るだけだった。

 

「…最後の一撃は…見えましたか?」

 

「…」

 

思わず問わずにはいられなかった。もしもあの一撃を彼が見えていたのならば、もしもあの一撃を感じていたのならと考えるも、もう終わった事だと思い頭を振る。返事を返さずただただ竹刀を見続ける人鉄、沖田はその姿を少し見た後

 

「…まぁ!沖田さんが見事に完勝!だいしょーりです!」

 

そういつも通り笑みを浮かべたのであった。

 

様々な猛者共が己こそが最強だと集まり戦った御前試合、これにて終了。

日吉源吉はついぞ試合に現れる事なく

 

───

 

「人鉄が負けた…あの餓鬼…確か新選組の奴だったか?」

 

「新選組…俺の悲願達成に邪魔くさい奴らだ。少し手を打たにゃあならんか」

 

阿片窟の奥底で悪意は蠢く。目標は新選組、江戸の悪意の溜り場歓楽街。そしてそれを統治する男は動き始める。

 




書きだめ全部消えて草生えまくりや!
(´;ω;`)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。