------007------
「……カズマ」
「……なんだよ」
「これ、いつになったら終わるのでしょうか?」
「街の外に出たらじゃね」
「それまで私達は、公衆の面前でこんな醜態を晒し続けなければいけないのでしょうか?」
「そういうことになるな」
「…………。…………。……グスン」
涙目になりながら赤面するめぐみん。
彼女は今、街の外へと繋がる大通りで、通りすがる市民や冒険者にキレッキレのブレイクダンスを披露している。実はめぐみんだけでなく俺やアクア、ダクネスも踊らされているのだが、その中でも特に被害を受けているのはめぐみんだ。なぜめぐみんなのか、彼女の服装を考えていただければなんとなく理解いただけるだろう。めぐみんは基本、紅いローブに黒マントを羽織るだけの服装だ。当然、ズボンなど下半身に着ける衣類は穿いていない。そんな服装でブレイクダンス――特にウィンドミルやスワイプスという足を上げる技を使えば、自然と見えてしまうものがある。そう、見えてしまうのだ……大切な勝負下着が。それも一度ではなく何度も。
ちなみに似たような服装をしているアクアもそれが原因で最初は大泣きしていたが、次第に踊ることが楽しくなったのか、今は狂ったように笑いながら大技を披露している。新たな快感にハマって、ダクネスと同じ道を歩まないか心配だ。
「アハハ、楽しいね! みんなも踊ろうよ!」
そんな俺達の状況など気にも留めず、陽気にパチンと指を鳴らすのは、今回の元凶である良太郎――いや、ダンサー良太郎だ。
ウェーブがかった髪に紫のメッシュ、それに紫に輝く瞳が特徴的な彼は、俺達の先頭に立ってプロ顔負けのブレイクダンスを踊っている。この時点でイマジンに憑依されているのは明白なのだが、それがわかっていてなお、俺達はダンサー良太郎の暴走を止められずにいた。彼には他のイマジンにない厄介な能力があるのだ。その能力というのが……
「うおっ!? なんだよ、これ!!」
「か、身体が勝手に!?」
人に暗示をかけて精神を支配する能力――いわゆる『精神干渉』というやつだ。
俺達がダンサー良太郎のバックダンサーとしてキレッキレのブレイクダンスをしているのも、この能力によって暗示をかけられてしまったからである。ちなみに暗示をかける合図は指を鳴らすこと。今まで物珍しそうに俺達のダンスを見物していた人々が踊り始めたのもそれが理由だ。
「ほら、めぐみん。また仲間が増えたぞ」
「…………」
返事はない。ただの屍のようだ。
……なんて慣れ親しんだボケを挟んでみるが、実のところ、めぐみんは本当に屍のような状態だった。精神干渉を受けた相手は、ダンサー良太郎が満足するまで踊り続けなければならず、その分、体力を消耗してしまう。見た目以上にハードな動きをするダンスを数十分も続けていれば、素人はすぐバテバテになるわけだ。俺ですらだいぶ疲れているのに、元々身体を動かすことを得意としないめぐみんがはたして耐えられるかどうか――想像に難くない。
まあ、こいつの場合はそれだけが理由じゃないんだろうけど。
「……今日は黒なんだな」
「!?!?!? カズマ!! あなたって人は!!」
今の今まで意気消沈していためぐみんが怒髪天を衝く勢いで怒鳴ってきた。
どうやら俺のさりげない一言で元気を取り戻してくれたらしい。元気を取り戻しすぎたのか、いつにもましてギャーギャーと文句を垂れている。そんな彼女をスルーしながら、俺はこうなってしまった経緯を改めて思い返していた。
------008------
「ありがとう、サトウさん。お陰でやっと外に出られたよ」
取調べを始めて約二時間、警察署での用件をすべて終えた俺達はようやく自由になれた。セナは今回の報告書を作成するため、警察署に残るらしい。まあ、署内の備品破壊や取調べ中に出た負傷者のことを考えると、報告書だけじゃ済まされなさそうだけれど。
そんな俺達と一緒に署から出てきたのは、つい数時間前まで容疑者として拘束されていた良太郎である。今の彼はチンピラ――モモタロスにも、二枚目――ウラタロスにも、冬眠熊――キンタロスにも取り憑かれていない素の状態だ。良太郎達(特にウラタロス)から聞いた話をうまく濁してセナに伝えた結果、事件に関与していた疑いだけは晴れた。ただ、今後も彼等(主にイマジンズ)が何をしでかすかわからないので、監視付きという条件での釈放になっている。ちなみにその監視役は俺達だ。
「そんな謙遜するなって。今回はお互いの利害が一致して、都合のいい形に収まっただけなんだしさ。それでも感謝し足りないっていうなら、この事件が解決した後にでもセナに何かお礼をしてやってくれよ。良太郎がこうして外に出られているのも、セナの計らいがあったからこそだからな」
「あっ、うん。じゃあ、そうするよ」
納得した様子で頷く良太郎。
正直、セナがいなければ、良太郎の取調べは今も続けられていたと思う。それどころか、事件とは別件(器物破損や職員への暴行)で逮捕されていたに違いない。そうならなかったのも、セナがこちらの事情を察して、イマジンズが起こした問題の責任を背負ってくれたからだ。これから彼女は徹夜で報告書をまとめることになるのだろう。今度、俺からも何か差し入れしておくか。
「それにしても、良太郎達の話はほんと驚く内容ばっかりだったな。まさか、〇ラえもんのタイムマシンみたいな道具を使って、時間の中を駆け巡っているなんてよ。時の列車――デンライナーだったか? 俺も一度はお目にかかりたいもんだ。……なあ、その列車で未来の自分がどうなっているのか、確認することはできるのか?」
「で、できると思うよ。故意じゃないけど、僕も孫がいることを知っちゃったし……」
「おお、やっぱりできるのか! いいなぁ。俺も未来の自分がどうなっているか確認したいぜ。魔王を倒してみんなからチヤホヤされているのかとか、今以上に安定した生活を送れているのかとか、誰と結ばれているのかとかさ。ちなみに結ばれるのなら、性格がまともで俺に甘い子がいい。あと、長い髪でスタイル抜群なら完璧だな。ああ、時の列車に乗って未来の嫁を拝む日が待ち遠しいぜ」
「お、オーナーは絶対許してくれなさそうだけど……」
俺の欲望まみれの発言に良太郎は苦笑する。
なんだよ、時間移動できる奴を前にして、そういった期待を抱くくらい良いじゃないか。今でこそ日々楽しいと感じてはいるが、異世界転生した当初はホント碌な目に遭わなかったし。
「全く……何バカなことを言っているんですか。そんな自分の理想を押し付ける考え方では、誰も振り向いてくれませんよ。……まあ、髪を伸ばすくらいなら私にもできますが」
おい。小声でもはっきり聞こえてんぞ、ロリっ子。
俺はラノベ主人公みたいに鈍感じゃないから、そういう発言をされると普通に動揺するんだよ。そんな頬をほんのり赤くさせながらそっぽを向かれると尚更な。普段は魔性ぶっているのになんなんだよ、全く。
「それにしても、カズマと良太郎が住んでいた国の道具は本当に画期的な物ばかりですね。リザードランナー並みのスピードを出せるという列車もそうですが、魔力を使わずに火をつけられるライターや潰せば穏やかな気持ちになれるぷちぷち、そして誰もが手軽に爆裂……、ばくれ……、ばく……、ばくは……、……、……炸裂魔法を使えるようになるダイナマイトもありますし」
「否が応でもダイナマイトの威力を認めたくないんだな」
魔王幹部ウォルバクとの一件以来、めぐみんの爆裂魔法はさらに磨きがかかっている。
その威力は最初に出会った頃の比ではなく、王都近くの砦の防衛戦では、攻め寄せてきた魔王軍をことごとく一掃して王国軍に勝利をもたらした。そんな彼女からしてみれば、
……まあ、それがわかっていながらも、「エクスプロージョン!!」と叫びながら使ってしまうのだが。
「うむ、確かに二人がいた国の道具は画期的で便利だな。それにチャーハンや餃子、ポテチという郷土料理も手軽に作れておいしい。魔王軍に攻められることなく、平和に暮らしているところだけ聞けば住み心地の良さそうな国だが……なあ、良太郎。『ニホン』の国民はみな、あなたのような名前をしているのか? カズマもそうだが、少し変わった名前だと思うのだが」
「えっ、そうかな。確かに僕の名前は少し古臭いかもしれないけど、サトウさんの名前は今の日本でもよく使われているよ」
「そうなのか。変なことを聞いてしまってすまない。良太郎のような名前を聞くと、どうしても手の掛かる者が頭に過ってしまうのだ。欲望を爆発させた時のカズマもそうだが、鼻につく態度を取ってくるソードマスターやおかしな言動で度々問題を起こす紅魔族、それに……」
「紅魔族がなんですか! 紅魔族がなんですか!! ダクネスは私のことをそんな風に見ていたのですか!」
「い、いや、めぐみん一人のことを指しているわけじゃなくてだな……」
「ダクネスの普段の奇行に比べれば大したことないじゃないですか。それもあのソードマスターと同列に見られるなんて心外ですよ」
「そ、それは悪かった。でも、めぐみんにもそういうところが少なからずあるんだぞ。祭りの時、街中に意味もなく爆裂魔法を撃ち込んでいたじゃないか。あれでは周りから『頭のおかしな爆裂娘』と呼ばれても仕方がない」
「ほう、そういうこと言いますか。いいんですか? ここ最近、あなたがカズマにしてきた数々の所業を大声で暴露してしまっても?」
「いやいや、所業ってそこまでのことをした覚えは……ちょっと、めぐみん? 一体何をして……わ、わかった! 私が悪かったから、そんな大きく息を吸わないでくれ!! 誰かに聞かれると色々とマズい!!」
「そうだぞ、めぐみん。それにちゃっかり俺も被害を受けるんだからやめろ」
叫ぶ寸前のめぐみんを必死になって止めにいくダクネス。
なんか今日は二人の絡む率が高いな。いや、ここ最近はこんな感じか。こういった展開になると、大抵は知力が高くいじめっ子気質のあるめぐみんが優勢に立ち、ダクネスを弄るという構図が出来上がるのだけれど。
ちなみに日本に関しては、良太郎に『ここから遥か遠方にある小さな国』と口裏を合わせてもらった。そうしないと、俺が別世界からの転生者であることがめぐみん達にバレてしまう。まあ、バレたところで何かあるとは思えないが。
「名前と言えば、良太郎がつけたイマジン達の名前も大概よね。『モモタロス』に『ウラタロス』に『キンタロス』って……。私、ペットでもそんな名前つける人見たことないわよ。ねぇ、なんでそんな変わった名前をつけたの? イマジン相手とはいえ、流石に可哀想だと思うわよ」
「そ、そうかな? 僕は気に入ってるんだけれど……」
一方、良太郎は絶賛アクアに絡まれ中だった。
アクアにしてみれば、ただ興味本位で尋ねているだけのようだが、良太郎のオドオドとした態度に彼女のトゲのある口調が相まって、金を強請るチンピラとその被害者のやり取りを見ている気分になる。本当、第一印象って大切だよな。ただ、良太郎のネーミングセンスのことを考えてしまうと、アクアだけを責める気にはなれない。だって、これから一生付き合っていく自身の名前が御伽噺のタイトルから捩られているなんて知ったら、恥ずかしくて人前に顔を出せなくなるもん。
「私は悪くないと思いますよ。むしろ、良いくらいです。紅魔族以外にこれほどのネーミングセンスを持った人は他にいませんよ」
だが、そんな良太郎のセンスに共感できる奴が身内にいた。
そう、めぐみんである。
「ほ、本当? そんな風に褒められたのは初めてだよ。周りからはいつもセンスないって言われているし……」
「それは周りが良太郎のセンスを理解していないからです。あなたは紛れもなく素晴らしいネーミングセンスの持ち主ですよ。機会があればぜひ、紅魔族のみんなを紹介します。良太郎ならすぐに仲良くなれると思いますよ」
「そ、そう? なら、僕も紅魔族の人達と会ってみたいかな」
ネーミングセンス皆無な者同士で意気投合する良太郎とめぐみん。
めぐみん――というより紅魔族は基本、他人には理解しがたい独特な感性を持っている。どれくらい独特か、めぐみんの名前だけでなんとなく察していただけるだろう。そんな彼女に唆されて良太郎が紅魔族と同じ感性を持てば、彼の将来が危ぶまれる。もし良太郎が他の紅魔族と出会うようなことがあれば、どんな手段を使ってでも全力で阻止しよう。
なお、先程までめぐみんと口論を繰り広げていたダクネスは、涙目になりながら壁際で蹲っていた。大声で暴露されること自体は阻止できたようだが……一体、何を言われたんだろうか。
「そういやイマジン達はどうしたんだ? 全然出てくる気配ないけど」
「モモタロス達なら今、デンライナーで待機していると思うよ……いや、見張られているって言った方が正しいかな」
「見張られている?」
「あっ、ううん。こっちの話。この方がサトウさん達にも迷惑かけずに済むと思ったんだけど」
「おお、そりゃありがたいぜ。街中であいつらが出てきたら、面倒なことこの上ないからな。厄介事も持ち込んでくるアクア並に」
「ねぇ、それってどういう意味? なんか今日のカズマ、私への当たりがきつくない?」
「いや、いつも通りだ」
俺の素っ気ない返事にアクアはワーワー、ギャーギャーと文句を言ってくる。
そんな彼女の言葉をスルーし、俺は良太郎との話に戻った。
「それで良太郎はこれからどうするんだ? 盗まれた時の列車――ゼロライナーとその犯人について、もう少し調べるのか?」
「そのつもりだよ。特に契約者がイマジンに何を望んだのか早く突き止めないと」
「何を望んだのか? それって今すぐ突き止めなきゃいけないことなのか?」
「うん、突き止めなくちゃいけないこと。イマジンが事件に絡んでいる以上、これまでしてきた行為には必ず契約者の望みが関係しているはずなんだ。今はまだ街の外でしか被害は出ていないけれど、もし契約者の望みがこの街自体に関係しているとすれば、攻撃の火の手がこちらにまで上がってくる可能性がある。犯人を強引に止められない今の僕達にできることは、契約者が何を望んだかを突き止めて、そこから対策を練ることだと思うんだ」
そう自らの意見を力説する良太郎。
取調べ中に聞いた話だが、良太郎達はこの異世界に来てすぐ犯人と対峙したらしい。その時はウラタロスとキンタロスが交互に取り憑いて戦ったが、相手の敏捷な身のこなしと巧みな剣術に翻弄され、だいぶ苦戦を強いられた。幸いにも力に取り柄のあるキンタロスの大奮闘で相手は退いてくれたが、そういう事情もあって正攻法で行くのは良くないと判断したようだ。でも、それだけが理由じゃない気が……
「それに……契約者がこの街の記憶を持っている理由も調べなきゃいけないからね」
「ああ、そういうことか……」
今の一言で良太郎の意図を大体理解してしまった。
イマジンは契約者の望みを叶える存在だ。契約が成立すれば、その人の記憶を辿って過去へと飛び、存在ごと時間を奪っていく。その手段は取り憑くイマジンによって多少異なってくるが、いずれにしても、契約者の望みを叶えるために何かしらの行動してくれるわけだ。そんなイマジンが良太郎の仲間からゼロライナーを強奪し、契約者を連れてこの異世界へと飛んできた。そこから導き出せる答えは一つ……契約者はアクセルの街――いや、この異世界を知っているということだ。
「良太郎とアクア、ちょっとこっちに集合。確認したいことがある」
「あ、あれ? カズマ、私の名前が呼ばれていない気がするのですが……」
「呼んでないからな。それにめぐみんにはやることがあるだろ。あそこで愚図っているお嬢様、そろそろあいつの機嫌を直してこい。ああなったのはお前が原因なんだから」
「あ、あれはダクネスが私のことを悪く言うからいけないんですよ! それでちょっと言い返しただけで……」
「ちょっと言い返しただけなら、言葉責めで快感を覚える変態お嬢様はあんな風にならねぇ」
俺に正論(?)を突きつけられ、何も言い返せなくなるめぐみん。
彼女はムッとした表情を浮かべながらも、壁際で蹲るダクネスの下へ歩み寄り、肩を激しく揺らし始めた。
……よし、これで俺達の話は聞こえないな。
「アクア、きつく当たったことはあとで謝るから一つ確認させてくれ。ここから他の異世界に飛ぶ方法って、転生と時の列車を使う以外に何かあるのか?」
「あとじゃなくて、今謝りなさいよ。……まあ、いいわ。で、異世界に飛ぶ方法だっけ? 一応あるわよ。ただ、転生と違ってあまり期待できるものじゃないけどね」
「ほう。それは?」
「門よ、門。あんたがエリスの所から蘇生される時にいつも通っているでしょ。あれが地上にいくつか存在するの。それを使えば、他の異世界にも飛べるわ」
「へぇ。あれってそんな便利なものだったのか。よくよく思い返せば、俺がこの世界に転生する時も使ってたな。でも、なんであまり期待できないんだ?」
「あの門は本来、どこの時空に繋がっているか誰にもわからない、ブラックボックスみたいなものなの。宇宙空間を想像してくれたらわかりやすいんじゃないかしら。それを改良して、実用化できるようにしたのが、私達の使っている門よ。ただ、安全面を考慮している都合上、異世界に飛ばせるのは基本、魂だけなんだけどね。もし肉体を持ったまま門を通ろうとすれば、異世界に飛ぶどころか遭難しちゃうわ」
「そんなリスキーな代物を転生の時に使っていたのか。恐ろしいな。てか、門に関して詳しすぎやしないか? 鶏並みの知力のお前が覚えていられる内容じゃないと思うんだが」
「誰の知力が鶏並みですって!! 私だって女神だから大切なことはちゃんと覚えているわよ!! あんた、これ以上私のことを侮辱する発言をしたら天罰食らわせるからね!!」
「はいはい。悪かったよ、アクア様。で、話を戻すけど、なんでそんなに詳しいんだ?」
「え、えっと……実は一度だけ改良されていない門に入ったことがあるの。極悪人をうっかり天国に送っちゃった罰としてね」
「お前、天界でもそういうことやらかしているのかよ。何が大切なことはちゃんと覚えてるだ。さっきの発言、撤回しやがれ」
地上以外でも問題児っぷりを発揮していたアクア。そういや、エリス様が前に仕事を押し付けられて苦労したって話していたな。本当、なぜ俺はこんな駄女神を転生の特典に選んでしまったんだろう。
さて、一度気持ちを切り替えて、アクアから聞いた話を整理してみるか。転生や時の列車を使う以外に異世界へ飛ぶ方法自体はあった。……あったのだが、それは想像以上にリスクが高く、とても実行できそうになかった。これでは契約者が元々この世界の住人だったという仮説を立てられない。それくらいしかこの世界と接点を持つ方法はないと思ったんだけど。
「要はアクア達女神に転生してもらうのが、リスクなく異世界に飛ぶ一番の方法ってわけだな」
「そうね。あとは時の列車……あっ、そっか。あれには元々そういう能力はないんだっけ。今回は変なチケットでたまたま来れちゃった感じだし。そうなると、転生するが一番安全な方法かしらね」
「なるほどな。じゃあ、もう一つだけ確認。改良した門を第三者が個人的な理由で使うことってできるのか?」
「無理ね。そもそもあの門は私達女神のような高貴で麗しい存在じゃないと扱えない代物なの。だから、第三者が許可なく使用することはできないわ。そうでなくても、私用で門を開くことは天界規定で禁止されているし、使った時点で地獄行きになるから、誰もそんなことしないわよ」
「天界規定を無視して、人のことをポンポン生き返らせている奴の台詞には聞こえないな」
「それはカズマに魔王を倒してもらわないと、私が天界に帰れないから」
「超個人的な理由じゃねぇか。あっ、ちなみに生まれ変わった先で前世の記憶が蘇ることってあるのか?」
「えっ? 何よ、突然そんなことを訊いて。まあ、あるにはあると思うけど……ハッ!? まさかあんた、生まれ変わりを希望しているんじゃないでしょうね! そんなこと、絶対に許さないわよ!! 魔王を倒さずに生まれ変わられちゃったら、私は一生天界に帰れないじゃない!!」
「いや、今のところは考えてねぇから大丈夫だよ」
「なーんだ、よかっ……ねぇ、『今のところは』って言わなかった?」
言ってない、言ってない。
「でも、そうか。生まれ変わった先で記憶が蘇るのなら、その記憶を辿ってこの世界に来ることもできなくは……」
「カズマが何を考えているのか知らないけど、仮に前世の記憶が蘇ったとしても、大抵の人は何も思わないか、或いは夢と勘違いして終わるだけよ」
「ほう、そんなもんなのか?」
「考えてもみなさいよ。仮にカズマがこの世界の存在を知らなかったとして、ふと脳裏にキャベツが飛んだり、畑からサンマが取れたりする光景が過ったらどう思う?」
「ああ……夢だと思うなぁ」
「でしょ。今の私達みたいに特殊な環境に置かれているか、或いは余程おかしな人じゃない限りは、前世の記憶を取り戻したところで何も起こらないわよ。本当、余程おかしな人じゃない限りはね」
おい、最後の部分だけ強調していうな。実際そういう奴がいるように聞こえる……
ああ、いるかもしれない。身内のロリっ子に若干その傾向があるもの。以前、部屋の前を通り過ぎようとした時に「私の前世は魔王」みたいなことを叫んでいたし(遊びだとは思うが)。
「サトウさん、今、アクアさんに確認していたことって……」
「そう、契約者が元々この世界の住人か否かを調べていたんだ。まあ、結局わからず仕舞いだったけど。悪いな、力になれなくて」
「ううん。凄く貴重な情報だよ。ありがとう、サトウさん。それにアクアさんも」
「えっ? なんで私、感謝されちゃってるの? もしかして何か役に立った? 役に立ったのなら、お礼の一つや二つ献上してくれてもいいのよ。例えばそうね……高級シュワシュワとか」
「高級シュワシュワ? ちょっとよくわからないけど、お礼できるものがあればなんでも……」
「やめとけ、良太郎。こいつを調子づかせると、もっと高額なものを要求してくるから」
ようやく話に一区切りがついた
先程までの真面目モードから普段のおちゃらけた雰囲気へと戻っている。おっと、丁度いいタイミングであいつらの問題も解決したみたいだな。
「全く、カズマのことになるとすぐに泣きべそを掻いて逃げるんですから」
「だ、誰のせいにこうなったと……はあ、もういい。それより迷惑をかけたな、カズマ。それに良太郎も。少し盛り上がっていたようだが、もしかして事件の犯人についてわかったことがあったのか?」
「あったといえばあったし、なかったといえばなかった。他で聞き込みとかしていれば、手掛かりの一つや二つ見つかったかもしれないけど、生憎、変態のお嬢様が愚図っていたせいでそれもできなかったし」
「そ、それについては謝っているだろう。だから、そんなに私を責めないでくれ。責められるのが好きな私でも、自分のコンプレックスを執拗にいじられるのは苦手なんだ」
「いや、苦手なのが普通なんですよ、ダクネスさん」
思わず敬語でツッコんでしまった。
全く、このどうしようもない性癖さえなければ、パーティー唯一の常識人だというのに。
でも、これでようやく行動に移す準備が整った。さて、まずは何をするか。街中の冒険者が集まるギルドで聞き込み作業をするか、或いは見通す悪魔――バニルの力を借りにウィズの店へ向かうか……うーん、正直なことをいえば、バニルの力を借りて犯人の正体を看破したいところだが、あいつに頼み事をすると結構な金額を要求してくるし、そうでなくても犬猿の仲であるアクアと
「……えっ? それ本当なの、モモタロス?」
「んっ? どうした、良太郎。そんなに慌てて」
「ま、街の外にいるって……」
「街の外にいる? 何が?」
「イマジン――ううん、犯人が……」
…………。
………………。
……………………。
「「「「はああああああ!?」」」」
良太郎を除く四人の声が重なった。
「ど、どういうことだよ、犯人が街の外にいるって!! てか、なんでそんなことがわかるんだ!!」
「モモタロスが匂いで感知したからだよ。モモタロスの鼻、匂いでイマジンの居場所を特定できるんだ。このせ――この街にいるイマジンはモモタロス達を除くと、犯人と契約したイマジンしかいないはずだから、間違いないと思うよ」
「匂いで感知するとか犬かよ。でも、マジか……。俺、こういう事態を全然想定しなかったから、心の準備が足りないぞ。どうしよう、今日は屋敷に帰って、また明日考えればいいかな」
「なんでお前はすぐ面倒事から逃げようとするんだ!! 街を脅かす犯人を捕まえられる絶好のチャンスなんだぞ!! そんなチャンスをみすみす逃すなんて、人として恥ずかしくないのか!!」
「だってよ、相手は冒険者が束になっても勝てなかった奴だぜ。襲われた被害者の中には凄腕の冒険者もいたって話じゃないか。そいつらがどうすることもできなかった相手に立ち向かったところで、返り討ちに遭って担架に運ばれるのがオチだろ」
「その心配は無用ですよ、カズマ。たとえ相手がどれほどの強敵であろうと、爆裂魔法の前では無力に等しいですから」
ドヤ顔を浮かべながら言ってのけるめぐみん。
そうか。どれほど相手の身体能力が高くても、一撃で葬れる威力をぶち込めば問題な……
「いや、爆裂魔法じゃオーバーキルすぎるだろ。捕まえるつもりなのに、跡形もなく消し飛ばしてどうするんだ」
「大丈夫です。その時はアクアのリザレクションで蘇らせればいいだけです」
「ああ、そうか。その手が……いや、駄目だな。リザレクションは遺体の損傷が激しいと蘇らせることができなくなるみたいだし。その考えは悪くないんだけどなぁ」
「なら、こういうのはどうでしょう。私がわざと爆裂魔法を外すので、その隙に潜伏スキルを使ったカズマが怯んでいる犯人の背後まで近づき、クリエイト・ウォーターを口の中に叩き込むのです。そして、口の中の水をフリーズで凍らせてしまえば、犯人は息ができず、身動きが取れなくなります」
「なるほど。それなら犯人の身体を傷つけずに確保できるな。じゃあ、この方法で……」
「二人共、盛り上がっているところ悪いのだが、良太郎がドン引きしているぞ」
ダクネスの指摘を受け、俺とめぐみんは良太郎を一瞥する。
ああ、本当だ。あの良太郎が引き攣った表情でこちらを見ている。思いがけない事態に、俺はまともな判断を下せずにいたようだ。こりゃ、もう少し人道的な方法じゃないと駄目だな。
「で、みんな、どうするのよ。行くの? 行かないの?」
「お前、こんな状況なのによく落ち着いていられるな」
「あんた達があれだけ騒いでたら、自然とそうなるわよ。それにこのまま地道に手掛かりを探すより、パパッと犯人を捕まえて解決する方が楽でしょ」
「あ、アクアがまともなことを言っている……」
いや、こいつのことだから、面倒事を早く済ませて家に帰りたいに違いない。
正直、俺にもそういう気持ちはあるし。
「……はぁ。じゃあ、犯人を捕まえに行くか。道案内は良太郎に任せればいいのか?」
「そうだね。……あっ、モモタロスに案内してもらった方が正確だと思うんだけど、どうかな?」
「うーん……まあ、仕方ねぇか。大丈夫だと思うけど、もし暴れ出したら、俺達が止めればいいし。じゃあ、呼んでくれ」
「うん、わかっ……」
『みんなばっかりずるい!! 僕も外に出る!!』
どこからか子供っぽい声が響いてきた。
それと同時に良太郎の身体に何かが入り込んでいく。
「……へぇ、これが異世界かぁ。想像していたよりずっと面白そうなところだね」
また良太郎の雰囲気が変わった。
その様子はモモタロスのように威圧的ではなく、ウラタロスのように落ち着いているわけでもなく、キンタロスのように堂々としているわけでもない。子供心を失っていない、やんちゃな若者そのものだ。
「お前……モモタロスじゃないよな?」
「えっ? なんでモモタロスの名前が出てくるの? あっ、そっか。僕のこと、まだ教えてなかったんだよね」
納得した様子でポンッと掌を叩く良太郎。
彼はその場で軽くステップを踏むと、パチンと指を鳴らしてからこう言った。
「僕はリュウタロス。街の外に行くだけだし、僕が出てきちゃってもいいよね? 答えは聞かないけど」
------009------
「うぅ……もうお嫁にいけないです」
警察署を出て約一時間。
リュウタロスに振り回された俺達は、体力と気力を消耗しながらも、ようやく街の外に着くことができた。街を出た時点で精神干渉は解け、ダンスも終わったのだが、時すでに遅く、めぐみんは心に深い傷を負ってしまった。先程までのダクネス状態である。ちなみに「もうお嫁にいけないです」の元ネタは、インターネットで検索してはいけないワードとのことなので、何があっても絶対に検索しちゃいけない。これはフリじゃないからな。絶対に検索するなよ!!
「気にするなよ、めぐみん。たかがパンツ一枚見られただけじゃないか。しかも、ローブ越しに。そんなの公衆の面前でパンツを剥がれた時に比べれば、大したことないだろ?」
「なぜここでその話を持ち上げてくるんですか!! どちらも嫌ですよ!! 私が本当に落ち込んでいるという時にあなたって人は……さっきの発言、忘れていませんからね!! あとで覚えておいてくださいよ!!」
「黒、似合ってたぞ」
「えっ、あっ……それはどうもありがとう」
不意を衝かれためぐみんはほんのり頬を赤く染める。
ここ最近、こいつには色々とやられっぱなしなので、こうしてやり返せると気持ちがいい。あとの仕返しは少し怖いが、深く考えないことにしよう。
「以前、王都で社交ダンスに参加したことはあったが、これほどアクロバティックな動きはしなかった。自分が何をされているかわからず、最初こそ戸惑いはしたものの、クエスト中では味わえない快感があって楽しかった。道行く人が向けてくる好奇な目も存外悪くなかったからな。あとはめぐみんやアクアのように無防備な服装であれば完璧だ。私のあられもない姿を見て男達が興奮する……くぅぅ、もっと悪くない!!」
「お前は二度とダンスするな」
なんでも自分の性癖に合うように脳内変換してしまう変態。
こいつにはもう少し常識的なところで恥じらうことを覚えてほしい。だからといって、先程のように愚図られるのは困るけれど。
「ねぇねぇ、カズマさん。王都にいた日本の転生者でブレイクダンスが得意な人っていなかったかしら? 宴会芸スキルの中にブレイクダンスがないから、誰かに教えてもらいたいんですけれど」
「お前は一体何になろうとしているんだ」
よほどブレイクダンスが気に入ったのか、嬉々とした表情でアクアが訊いてくる。
俺が言えた義理ではないが、こいつは冒険者をしているより、大道芸やモノづくりに勤しんでいる時の方がずっと輝いている。クエストに出てしまうと、余計なモンスター(特にアンデット系)を呼び寄せたり、必要以上に相手を挑発したり、莫大な借金を抱え込んだりとトラブルしか起こさない。百害あって一利なしとはまさにこのことだ。……いや、それは流石に言い過ぎか。でも、本気でブレイクダンスを覚えるつもりなら、このまま大道芸人やクリエイターにジョブチェンジするのも悪くない気がする。というか、むしろ良い。もしアクアが大道芸人やクリエイターにジョブチェンジする時は、全力で応援してあげよう。
「アハハ。みんな、面白かったね。また今度踊ろうよ」
そんな俺達のやり取りを楽しそうに眺めているのは、この騒動の元凶であるダンサー良太郎――もとい、リュウタロスだ。モモタロス、ウラタロス、キンタロスとこれまで出会ってきたイマジンは一癖、二癖ある奴だったが、こいつは特にずば抜けている。一度ギアが入ってしまえば、他人の言葉など一切聞こうとせず、周りを巻き込んで暴れまくる。モモ、ウラ、キンタロスが俺のパーティーでいうところのめぐみん、ダクネスとするならば、リュウタロスはアクアだ。それだけでリュウタロスは手が焼ける相手なのだ。良太郎も苦労していることだろう。まあ、アクアと違って人を見下す態度を取らないのは救いだが。
「んで、ようやく街の外に出たわけだが……犯人の姿は見当たらねぇなぁ。もしかして、もうどこかに逃げちまったか? 或いはモモタロスの勘違いだったとか」
「モモタロスはバカだけど、鼻だけはいいから、勘違いの可能性はないと思うよ」
周囲を見渡しながらリュウタロスはそう口にする。
彼の中でモモタロスがどう位置付けられているかよーくわかったが、それでも信頼している様子は窺えた。ただ、周囲に犯人らしい人影は見当たらないので、すでに逃走したと考えた方がいいのかもしれない。
「そうなのかなぁ。この辺りを叩けば出てくるかもしれないよ」
「そんなビスケットみたいに都合よく現れねぇって。俺もさっきから敵感知スキル使ってるけど何にも反応ないし。それに街の外がこの有様じゃ探したって時間の無駄だろ」
俺は目の前の平原に視線を移す。
平原には普段と変わらぬ光景が広がっていた。でも、普段と明らかに違ってもいた。静かすぎるのだ。かつて魔王軍幹部が近隣の廃城に住み着き始めた時のように、人はおろか、モンスターすら顔を出さぬほど、辺り一帯が異常に静かだった。十中八九事件のせいだろうが、まさかモンスターにまで影響を及ぼしているとは……。お陰で探索しやすい環境ではあるが、そもそも何もないのでは犯人探しをする意味がない。
「ったく、人がせっかく腹を括ってここまで来たっていうのに、その結果がこれじゃあ拍子抜けもいいところだよな。なんで逃げちまうんだよ、犯人。別にこの街の冒険者相手なら逃げる必要なんてねぇだろ。……はぁ、どうしよう。このまま回れ右して屋敷に帰ろうかな。どうせこの辺りを見張っていても犯人は出てきそうにないし、正直もうだるい。今日のところは一旦切り上げて、また明日から頑張ろうぜ。よし、そうしよう!」
「……その必要はなさそうだよ」
俺の提案を横から遮ってくるリュウタロス。
なんでだよ、とすかさずツッコもうとしたが、リュウタロスの姿を見た途端、勝手に口が閉じてしまった。あれほどはしゃいでいたリュウタロスが突然静かになったのだ。表情も硬いものに変わり、どことなく緊張も感じられる。……えっ、ナニコレ? なんか凄く嫌な予感がするんだけど。
その予感を抱いたのはどうやら俺だけではなかったようで、てんでバラバラに行動していたアクア達が俺の元に集まってきた。
「どうかしましたか? もしかして、またカズマが余計なことを口にしましたか?」
「いやいや、めぐみんくん。君は俺をなんだと思っているんだ?」
「鬼畜発言機」
「よーし、そこを動くなよ。俺のスティールを炸裂させて、この街のシンボルを黒パンティーに変えてやる」
「じょ、冗談ですよ、軽い冗談。嫌ですねぇ、そんな本気にしないでください。私がカズマのことを悪く思っているわけ……ええっと、突き出しているその手を下げてくれませんか? 以前、下着を剥がれた身としては少し心臓に悪いです。女性に対してそういう行為は感心しませんよ。全く……あの、カズマ? ちゃんと話を聞いていましたか? だから、その手を下げて……わ、わかりました!! 謝りますから呪文を唱えようとしないでください!! これ以上パンツで弄られるのはこりごりなんです!! 私の失言だったのでどうか許してください!! お願いです、カズマ様!!」
「こんな時にお前は何をしているんだ……」
俺とめぐみんのやり取りに呆れだすダクネス。
駄女神風の謝罪をめぐみんにさせて場の空気を和ませようと試みたが、リュウタロスの表情は依然として硬いままだった。てか、こっちのやり取りなど見向きもしない。なぜかアクアはリュウタロスのことを凝視しているし……ん? これはリュウタロスを見ているわけじゃなさそうだな。てか、二人して同じ方角を向いていないか? その方角を見たところで何かあるはずが……おや?
「おい、あそこ……なんかおかしくね?」
「本当ですね。少し大気が歪んでいるような……」
「歪んでいるというより、捻じれていないか? 渦巻くように大気が一点に圧縮している気がする。……そういえば爆裂魔法の呪文が詠唱されている時、こんな光景を目にしたことがあるぞ」
「なーんだ、爆裂魔法か。おいこら、めぐみん。いくら俺にパンツを剥がれそうになったからって、憂さ晴らしに爆裂魔法を撃ち込もうとするんじゃねぇ。また俺が謝りにいかなきゃならないだろ」
「な、なぜ私なのですか!? 確かに色々と鬱憤が溜まっていたのは事実ですが、時と場合は考えていますよ。……なんですか。なんですか!! 二人してその疑いの目は!! ええ、そうですよ!! かつての私ならば所構わず爆裂魔法を撃ち込もうとしていましたよ!! でも、今は我慢できるようになったんです!! あの頃より確実に成長しているんです!! だから……おい、今どこ見たか言ってみろ。答え次第ではカズマの頭上目掛けて爆裂魔法を撃ち込みますよ」
「うん。お前じゃないのはわかったからやめような。洒落にならないから」
ケンカ腰で詠唱しかけたところを見ると、どうやらめぐみんの仕業ではないらしい。
それに爆裂魔法にしては、あまりに規模が小さい気もする。肌に刺さるピリピリとした感覚もないし……。
「違うわよ、みんな。あれはね、ワープゲートが発生する前触れなの」
ワープゲート?
ああ、ワープゲートか。なんだよ、びっくりさせやが……
「……アクア、今なんて?」
「だからワープゲートよ、ワープゲート。アニメやゲームでよく使われている、テレポートみたいにビューンと他の場所へ転移できるアレよ。ヒキニートのカズマさんなら知っているでしょ?」
「誰がヒキニートだ、駄女神。ワープゲートは知っているけどさ、なんであの現象だけ見てそうだと言い切れるんだ?」
「だって、私達が使う門も似たような仕組みで地上に現れるもの。まあ、見た目はあんな歪じゃないけどね。ファンタジー感を出すために魔法陣っぽくしてるし」
「あの魔法陣ってただのカモフラージュなのかよ。ファンタジーの欠片もないな」
いや、魔法でカモフラージュしている時点で、一応ファンタジーっぽさはあるのか。
でも、門の正体があんな不可解な現象だと言われると、なんだか夢をぶち壊された気分にはなる。この世界に来てからそんなんばっかりだけど。
「つまり、あそこに出現するワープゲートから何かが飛び出してくるってわけか。でも、何が飛び出してくるんだよ?」
「あんた、取調室での良太郎達の話、ちゃんと聞いてた? デンライナーは基本、時の中を走っているでしょ。そこから地上へ転移する時、ワープゲートを使うのよ」
「そういやそうだったな。じゃあ、これから俺達の前にデンライナーが現れるってことか?」
「ならよかったんだけど……あのイマジンの表情を見てそう思える?」
ああ、なるほど。大体理解できた。
どうやら俺の「どうせこの辺りを見張っていても犯人は出てきそうにない」という発言が見事フラグになってしまったらしい。
「つまり、あのワープゲートから飛び出してくるのは……」
「もう一つの時の列車――ゼロライナー。そう、犯人の登場よ!!」
そんなアクアの高らか声と共に、それは姿を現した。
『この幸福だった者に幸せを……』の第三話を読んでいただき、誠にありがとうございます。
第三話までしか投稿していませんが、ここまでの話を皆様に楽しく読んでいただけましたら幸いです。
この作品は全七話の短編小説となる予定です。
現在、第四話以降を執筆中で、今年の12月までには完結させたいと考えています。執筆速度が遅く、これまでのように毎週投稿することはできませんが、『この素晴らしい世界に祝福!』と『仮面ライダー電王』の持ち味を活かした作品に仕上げていきたいと思います。
次の投稿は10月半ばを予定しております。よろしくお願いします。