この幸福だった者に幸せを……   作:ウボハチ

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※2018/07/17 : 各章の本文を一部修正
※2020/01/04 : 各章の本文を一部修正


犯人のウラ事情

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「良太郎、この件から手を引くつもりない?」

 

 それが犯人のところへ向かっている最中に投げかけられたウラタロスの言葉だった。

 

 

 

 

 

 犯人との戦いから数時間が経過した。

 辺りはすっかり夜が更けて、騒がしかったアクセルの街は眠ったように静寂に包まれている。外に人の姿がほとんどなく、どこを見回しても建物の灯りは消えていた。唯一、ギルドの集会所だけは営業していたけれど、扉から金髪の若い男性が放り出されたと思えば、すぐに建物の灯りが消えて中にいた人達がそそくさと帰ってしまった。アクアさん曰く、普段ならば深夜帯であろうと関係なくバカ騒ぎしていられる場所らしい。そんな集会所が日没を過ぎてすぐに店仕舞いしたことを考えると、やはり例の襲撃事件が街の人達に与えている影響は大きいみたいだ。できれば早く解決したいけれど、それ以上に大変なことが僕達の間で起きている。

 

 サトウさんが連れ去られた。

 一言でいえばこれだ。あの戦いの最中、犯人は高火力の魔法で僕達の不意を突くと、その隙にサトウさんに近づいて意識を奪い、彼を背負ってゼロライナーで逃走した。その鮮やかすぎる手口は敵でありながらも見惚れてしまうもので、全員が全員、サトウさんが連れ去られる光景を呆然と眺めてしまった。気付いた時にはすでに遅く、ゼロライナーは遠く彼方へ走り去っていた。

 

 そんな形で犯人との二度目の対峙を終えた僕達は、一度警察署に寄った後、今後の作戦を立てるためにサトウさんの屋敷へ訪れていた。サトウさん達が住む屋敷はヨーロッパの貴族が住むような気品のある建物で、ミルクディッパーが入るビル以上の敷地面積があった。なんでもサトウさん達は世界征服を企む魔王軍の幹部を何人も撃破して、その賞金がたんまりとあるらしい。初めて出会った時はそんな風に見えなかったけど、先程の戦いを通して、その功績が本当のことなんだと実感した。

 

 そして今、僕達は屋敷のリビングに集まっている。

 僕は室内に置かれているダイニングテーブルの一席に座っていた。

 

「……えっと、大丈夫ですか、ダクネスさん? 余裕がないように見えるけれど」

「うっ……やはり、わかってしまうか? 私なりに気持ちを抑えているつもりなのだが、思いの他、カズマが連れ去られたことに動揺しているみたいでな。お陰でさっきから手の震えが止まらない。皆を守る騎士として情けない話だ」

 

 対面の席で乾いた笑い声を漏らすダクネスさん。

 彼女の声に張りはない。騎士の鎧を身に着けてはいるものの、先の戦闘のような気迫は感じられず、テーブルに置かれた手はわずかに震えていた。パーティーを結成してからこれまでの間、サトウさんが死亡したことはあっても、連れ去られることはなかったらしい(死亡している時点でどうなのかなと思うけれど)。そうした未曾有の事態に直面しているからこそ、不安を隠し切れずにいるみたいだ。

 

「大丈夫よ、ダクネス。カズマならきっと無事よ。ああいう男はね、殺されても死なないようにできているんだから。警察署にも事情は話したわけだし、仮に死体で見つかっても私がいるんだから問題ナッシングよ」

「……それもそうだな。ところでアクア、さっきから素早い手つきでゼル帝を撫でているようだが、何か気になることでもあったのか?」

 

 ガタンという音が室内に響いた。

 彼女は今、暖炉近くに配置されたソファーで一人寝そべっている。どうやらひよこ(彼女曰くドラゴンの子供)を抱えているみたいだけれど、ソファーが背面を向いているので、実際に撫でているのかどうか確認できない。そんな中、ソファーに背を向けているダクネスさんが、アクアさんの行動に指摘を入れた。アクアさんの反応から察するに図星なのは間違いなさそうだけれど……ダクネスさん、どうしてわかったんだろう?

 

「アクアさん、やっぱりサトウさんのことを……」

「バ、バ、バカねぇ!! なんで私があんなヒキニートの心配をしなきゃいけないのよ!! 口を開けばバカだのアホだの言ってくる失礼極まりない男なんて、いない方が清々するわ!!」

 

 勢いよくソファーを立ち、僕達に身体を向けるアクアさん。

 そんな彼女の腕の中には、素早い手つきで撫でられるゼル帝がいた。

 

「無理する必要はないぞ、アクア。こんなところでツンデレを発揮しても、カズマが戻ってくるわけではないのだから……」

「ツンデレなんて発揮してないわよ!! これが素の私なの!! ダクネスまで私のことをバカにするのね!! もう、なんなのよ、全く!! ……ああ、なんかむしゃくしゃしてきたわ。ねぇ、なんで犯人はまだ捕まってないのよ。なんでカズマがいないのよ。なんで犯人なんかに連れ去られちゃってるのよ!!」

 

 やっぱり心配しているじゃない。

 というツッコミはあえてしなかった。アクアさんも不安なのだ。サトウさんという当たり前にいた存在が目の前から消えてしまい、これからどうすればいいのかわからないんだと思う。以前、ウラタロス達がとある事情で消滅した時、モモタロスが似たような反応をしていた。たとえ、どれだけお互いを悪く言い合う間柄だったとしても、一緒に過ごした時間は記憶として僕達の心に刻まれていく。そんな記憶の中にいる相手が突然いなくなれば、誰だって不安に苛まれてしまう。今のアクアさんやダクネスさんはまさにその状態だ。

 

「…………」

 

 でも、そんな二人よりもさらに深刻な人がいた。めぐみんさんだ。

 彼女はダクネスさんの隣席に座り、ちょむすけという黒い猫を膝に抱えながら顔を俯けている。サトウさんが連れ去られてから今に至るまで、質問に返答することはあっても、めぐみんさんから話題を振るところは見ていない。その返答でさえ、まるで生気が抜けたように力のないものだ。ダクネスさん達も心配している様子だけれど、めぐみんさんがここまで沈んでいる理由――サトウさんの一番近くにいた自分が何もできなかったことをなんとなく察しているからか、今は声もかけずにそっとしている。僕もダクネスさん達に合わせて話しかけずにいた。

 

「ねぇ、ねぇ! 本当になんで! なんでカズマが連れ去られたのよ!! 姑息で鬼畜で卑怯なところしか取り柄のないあいつを連れ去ったって何も良いことないのに!!」

「そ、それは言い過ぎだと思うよ、アクアさん。サトウさんの機転があったからこそ、僕達はあと一歩のところまで犯人を追い詰めたわけだし」

「そうだな。もしカズマの機転がなければ、私達も他の冒険者と同様、街へ運び込まれる側になっていたと思う。無論、良太郎達の力がなければ、カズマの機転があったところでどうにもならなかっただろう」

 

 僕の意見に同意を示すダクネスさん。

 正直なところ、サトウさんのお陰であそこまで有利に戦えたと言っていい。特に爆裂魔法という技のタイミング、あれは完璧だった。興奮気味だったモモタロスを冷静にさせつつ、一瞬にして彼好みの舞台を整えてくれた。ダクネスさんはああ言っているが、むしろサトウさん達の力がなければ、僕達は犯人とまともに渡り合うことは叶わなかったと思う。

 

「じゃあ何? カズマが優秀だったから犯人に狙われたっていうこと?」

「うん。僕はそう思うよ」

「だったら、おかしくない? もしそれが本当だとすれば、連れ去るよりもその場で殺した方が手っ取り早いでしょ。統制の取れた集団だって、指揮官がいなくなれば烏合の衆になるわけだし」

「それは一理あるが、仮に殺せる瞬間があったとしても、犯人はそこまでのことをしなかったと思うぞ。カズマの件だけじゃない。これまで襲われた冒険者や良太郎の仲間も命は取られていないじゃないか」

「でも、思い出してみて。あの犯人、良太郎達に対してだけはなんの躊躇もなく刀を振り下ろしていたわ。リュウタロスだっけ? あのイマジンが戦っていた時、止めまで刺そうとしてきたじゃない」

 

 言われてみればそうだ。

 リュウタロスが銃型のデンガッシャーを奪われた時、あと一歩のところまで追い詰められてしまった。キンタロスが代わってくれなければ、あの窮地から脱することはできなかったと思う。この街の冒険者や侑斗達を殺そうとしなかったのに、なぜ僕達だけは命を狙ってきたのだろうか。狙われた立場としては非常に気になるところだ。

 

「それだけじゃないわ。あの犯人、最後の最後で上級魔法を使ってきたでしょ。しかも、その威力はカズマ似のくせに本職並みだった。別に冒険者が上級魔法を使うこと自体、おかしいとは思わないのよ。でも、それだけの攻撃手段があるのなら、最初から使ってくるのが普通じゃない?」

「カズマ似は余計な気はするが……でも、確かにアクアの言う通りだな。魔法に関しては私もあまり詳しくないが、犯人の放った上級魔法は非常にきもち……コホン、威力があった。今回は防御手段として使用されたからあの被害で済んだが、もしあれが私達に向けて放たれていたとしたら、私でさえどうなっていたかわからない。しかし、犯人はそれをしなかった。考えられるとすれば、魔法を使うことで何か不都合が生じたのかもしれないな。例えば……自分の素性がばれてしまうとか」

「自分の素性がばれる? 強靭、無敵、最強を人型に収めたようなあの犯人が、その程度の理由で魔法を使わないなんてことあるかしら? 大体、素性を隠して何になるっていうのよ?」

「わからない。わからないが……もしかすると犯人は、この襲撃事件自体をできる限り大事にしたくなかったのかもしれないぞ」

「大事にしたくなかった? どういうことよ?」

 

 訝しんだ表情を浮かべるアクアさん。

 ダクネスさんは座ったままアクアさんの方へ身体を向ける。

 

「例えばアクア、あの犯人の職業が冒険者でなく、アークウィザードだとしたらどう思う?」

「カズマ似の犯人が? いやいや、あり得ないわよ。貧弱そうな装いで上級職なんて考えられないわ」

 

 アクアさんは首を横に振りながらせせら笑った。

 ダクネスさんは彼女の反応に深く頷いて見せる。

 

「そうだな。私もそう思う。そして、被害に遭ったアクセルの冒険者も感じたはずだ……『サトウカズマに似ているのだから、最弱職に違いない』と」

「でしょ。で、それがさっきの話とどう関係するの?」

「つまり、私達はあの犯人を冒険者――最弱職だと思っていたからこそ、事態が深刻化するまで襲撃事件を放置していたわけだ。でも、これが上級職――上級魔法を得意とするアークウィザードの犯行だとしたらどうだ? おそらく、もっと早い段階で事件の深刻さに気付き、国が動いていたに違いない。最弱職と上級職の犯罪では、想定される被害規模に大きな差が出るからな。犯人にとって、その状況は好ましくなかった。だからこそ、あえて最弱職の印象が強いカズマの格好をしていた」

「なるほどねー。せっかくド田舎で犯行に及んでいるのに、国に介入されちゃあ、面倒なこと、この上ないものね。一理あるわ。でも、仮にその考えがあっていたとしても、スティールやドレインタッチを使える理由にはならないじゃない」

「いや、そうでもないぞ。冒険者はステータスが上がれば、別の職業へクラスチェンジすることができる。スティールやドレインタッチは犯人が冒険者時代に習得したスキルで、そのあとアークウィザードにクラスチェンジしたと考えれば筋が通っているではないか」

「うーん、そんな簡単に冒険者からアークウィザードにクラスチェンジできるものかしら。しかも、カズマさんみたいに都合よくリッチーと友好的になれるとも限らないし……」

 

 お互いに意見を交わすアクアさんとダクネスさん。

 専門的な話のため、イマイチ理解できないところはあるけれど、それでも犯人の存在、行動が全てイレギュラーだということはよく伝わった。侑斗達を倒してゼロライナーを盗んだことも、この街の冒険者を襲ったことも、サトウさんに似た格好をしていたことも全て……。

 

「ふぅ……とりあえずこの辺りで話を一区切ろう、アクア。それでこれからどうする? 警察署から連絡が入るまで、今みたいな話し合いを続けるつもりはないだろ?」

「当然でしょ!! カズマさんを助けに行くのは癪だけれど、あいつがいなきゃ私も天界に帰れないわけだし、何より私の前で勝手な振舞いをしたあの犯人を野放しにしてはいられないわ!! 絶対に捕まえてゴッドブローを叩き込んでやるんだから!!」

「ああ、全くその通りだ。……だが、この街には犯人の後を追う手段がない。最悪、アイリス様に事情を説明して竜車を借りるという手もないわけじゃないが、仮に借りられたとしても時の中に逃げられてしまえばそれで終わりだ」

「だったら、良太郎達のデンライナーを使えばいいんじゃない。あれなら火の中、水の中、草の中、時の中だろうと関係なく移動できちゃうんでしょ? ……あっ、でも、関係者以外は乗車できないんだっけ?」

 

 そう言って僕を見るアクアさん。

 確かに普段のデンライナーなら乗車できない。乗車できないどころか、こうして無関係な人と接触すること自体、固く禁じられている。でも……

 

「本当ならそうなんだけれど、今回は緊急事態だから乗車していいってオーナーが言ってくれたみたい」

「オーナーというのが何かよくわからないが……でも、いいのか? 私達のような部外者をデンライナーに乗せてしまって。それにそんなこと、いつ聞いたのだ?」

「この屋敷に着く前だよ。ウラタロスを通してお願いしてみたんだ。まあ、今は時間移動できないし、悪用される心配もないから乗車許可が下りたんだと思うけどね。多分、そろそろ迎えが来る頃だと思うんだけれど……」

「迎え?」

 

 首を傾げるダクネスさん。

 そう、迎えだ。可愛らしい服装に身を包んだ少女のお迎え。その見た目とは裏腹に、少しだけ気性が荒かったりするけれど、そんなことを本人の前で口にすれば、鉄拳制裁の餌食になりかねないので絶対に言わない。

 

「そんなに荒くないわよ!!」

 

 と、ちょうど思考し終えたところで、外から怒鳴り声が聞こえてきた。

 どうやら本人が到着したみたいだ。駆け足で玄関に向かうと、そこには顔を引き攣らせたハナさんの姿があった。

 

 

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 普段よりも喧噪としているデンライナーの食堂車。

 車内にはいつもの顔ぶれと本日初乗車となる面子が顔合わせしている。お互いに様々な反応を見せつつ、軽い雑談を交える中、車内に住み着く赤と初乗車の青は、奥の席でガンを飛ばしあっていた。

 

「あんた……『モモタロス』って名前のくせに、桃太郎に出てくる鬼みたいな容姿をしているのね。道理で気品の欠片もないチンピラみたいな喋り方をしていたわけだわ」

「うるせぇ。姉ちゃんだって自称女神のくせに、背伸びしたガキみたいな容姿じゃねぇか」

「誰がガキですって! しかも、自称って何よ!! 正真正銘、私は女神なの。それにこう見えても私、あんたよりずっと年上だから。人間並の寿命しかないあんたなんて、私から見れば子供同然よ」

「なんだ、ババアかよ」

「殺す」

 

 食堂車の奥から聞こえてくる物騒な会話。

 事の発端はアクアさんのようだけれど、モモタロスの余計な一言が彼女の逆鱗に触れてしまったらしく、二人の間に流れる空気は緊迫していた。確かにアクアさんの言い草はあまり褒められたものじゃないが、だからと言って、女性相手に年齢ネタを持ち出すのはよくない。女性に対して年齢ネタは禁句なのだ。あの温厚な姉さんでさえ、この手の話題になると無理矢理相手を黙らせるか、暴力で訴えてくる。自転車を投げてきた時は本当に恐ろしかった。モモタロスには悪いけど、ここは一度素直に謝って、アクアさんの機嫌を直すことに専念してほしい。

 

「ふむ、デンライナーとは素晴らしい乗り物だ。竜車並みの速さで走っているにも関わらず、車内に風が吹き込んでくることもなければ、走っている時の振動もほとんど感じない。しかも、火も使わず室内の温度調整ができるときた。日本という国は画期的な道具で溢れている本当に素晴らしい国なのだな」

「そうでもないで。日本はな、画期的な道具で溢れている代わりに自由がほとんどない国や。仕事や学業、人間関係に縛られて、自分のしたいことが大抵できずにいる。それに比べるとこの国……いや、アクセルの街はいいところやで。金を稼ぐために必死に働かなきゃいけないことを除けば自由やし、住人は人当たりが良くて、さらにみな強い。ダクネスは街の領主の娘やったな。つまり、次期領主でもあるわけや。自らの危険を顧みずに俺達を助けてくれたダクネスが領主になれば、この街も安泰やで」

「あ、あの時はカズマの指示があってこその行動だったんだ。私一人では硬いだけでどうすることも……」

「そんな謙遜することないで。他の奴なら足が竦んで動けずに終わったところやのに、ダクネスはそうならんかった。中々できることやない。肝が据わっとる。あとは剣を当てることを改善すれば文句無しやな」

「ううっ……そこまで褒められるとこ恥ずかしい」

 

 顔を赤らめながらも満更でもない表情を浮かべるダクネスさん。

 キンタロスの言う通り、ダクネスさんは強い。ダクネスさんだけじゃない。サトウさんもアクアさんもめぐみんさんも、他の冒険者の人達も皆、僕にはない強さを持っている。もし僕が一人であの犯人と対峙していたら、目を合わせただけで気を失っていたと思う。

 

「めぐみんちゃん、大丈夫? 元気ないよ?」

「そんなことはありませんよ、リュウタロス。私は普段からこんな感じです。なので、お気になさらず……」

「そうかなぁ? 最初に会った時はもっと元気だったと思うんだけれど……あっ、もしかして、カズマってお兄さんが連れ去られちゃったこと、気に病んでるの?」

「あっ、いえ、その……」

「それとももっと踊りたかった? それなら言ってくれればよかったのに! 今からでもデンライナーを降りて、街中でおどろ――」

「それは遠慮しておきます」

 

 『踊る』という単語に敏感に反応するめぐみんさん。

 表情には出ていないものの、めぐみんさんの身体からは負のオーラが漏れ出していた。あれがサトウさんの件だけで出たものじゃないのは明確だが、リュウタロスは気にも止めず、彼女の肩を揺さ振って誘い続けている。恐れを知らないのか、或いは気付いていないだけなのかわからないけれど、依然として彼女の様子は変わらない。

 

「『遠ざかるほど思いが募る』だね」

「ウラタロス、今のは?」

「今のめぐみんさんに一番合う諺だよ。良太郎も気付いていたでしょ? 彼女がカズマさんに好意を抱いていること」

「勿論。めぐみんさん、サトウさんのことを大切に想っているもんね。サトウさんだけじゃない。アクアさんとダクネスさんに対してもまるで家族のように接していたし、本当に良いパーティーだと思うよ」

「……良太郎。それ、本気で言ってる?」

「へっ?」

 

 僕の返事を聞いて肩を竦めるウラタロス。僕、何かおかしいこと言ったかな?

 

「良太郎……ウラタロスはね、彼女が彼のことを異性として見ているって言いたかったのよ」

「えっ……う、嘘っ!! じゃあ、めぐみんさんは……うごっ!?」

「はーい、ストップ。もう、なんでそういうことを大声で叫ぼうとするの。良太郎はここを修羅場にしたいのかしら?」

「ご、ごめん、ハナさん。でも、暴力はいけないと思うなぁ」

 

 僕は腹部を擦りながら、そうハナさんに苦言を呈した。

 口が滑りそうになったのをカバーしてくれたとはいえ、今の対応――腹部に鉄拳を叩き込む行為はどうなのかなと思う。今みたいなことをしているから、気性が荒いとか言われ……なんてことを考えていたら、再び彼女の鉄拳を受ける羽目になりそうなので、考えないことにしよう。屋敷で受けた制裁の痛みも地味に残っているし。

 

「アクア様もそうだけれど、良太郎もそういった話題に対して鈍すぎると思うよ。愛理さんだって本来なら結婚していたはずなんだし、ある程度は知識を身につけておかないと、将来、孫のいない人生を送る羽目になるかもしれないよ」

「そ、そうは言われてもどうすればいいのか……」

「そうだねぇ……やっぱり色々と経験を積むのが一番じゃないかな。例えば、夜の街に繰り出すとか。でも、いきなり一人だと難しいかもしれないから、僕が一緒について行って教えてあげるよ。大丈夫、僕の手にかかればそのくらい……」

「ダーメ。あんたの場合、良太郎の身体で色んな女の子と遊ぶだけなんだから」

「あはは、ばれちゃいましたか」

 

 イタズラのばれた子供のように頭を垂れるウラタロス。

 色々と指摘はしてくれたけれど、結局のところは自らの欲望を叶えたかっただけのようだ。彼らしいといえば彼らしい。ただ、指摘したことが全て間違いかと聞かれると一概にそうとは言えず、現にハナさんも最初はウラタロスの言葉に同意を示していた。身内にもすでに恋愛経験者がいるので、僕もある程度は知識を身につけた方がいいかもしれない。

 

「皆さん、お揃いのようですねぇ」

「あっ、オーナー」

 

 食堂車全体が騒がしくなってきた頃、一本のステッキを手にした壮年の男性が車内に入ってきた。デンライナーのオーナーだ。

 

「はーい、コーヒーの準備ができましたよー。今日は数が多いから、良太郎ちゃんも配るのを手伝ってくださーい」

「あっ、うん」

 

 そんなオーナーの横を掻い潜るように飛び出してきたのは、奇抜な格好に身を包んだデンライナーの客室乗務員、ナオミさんだった。彼女が運んでくるお盆には、アクアさん達の分も含んだコーヒーカップが乗っている。確かに彼女一人では配るのに時間がかかりそうだけれど、はたしてこの内、いくつのコーヒーが飲み干されるのやら。

 

「さて、現状わかっていることを整理しましょうかねぇ」

 

 そんなこんなでナオミさんの手伝いをし、全員にコーヒーが行き渡ったところで、席についたオーナーがそう話を切り出した。

 ちなみに僕達はハナさんが迎えに来てくれた後、人目を盗んで街の外に飛び出し、平原の岩陰に隠れていたデンライナーに乗り込んだ。普段ならそんなことをせずとも楽に行き来する方法があるのだけれど、この世界に来てからその機能が故障したため、徒歩での行動になってしまった。

 余談だが、ハナさんはサトウさんの屋敷へ向かう道中、怪しげな仮面をつけた紳士と出会い、ここまでの道のりを聞いたとのことだ。その際、「今回の襲撃事件、これ以上関わらないのが吉と出た。このまま何もせずに放っておけば、いずれ事件は終息に向かうだろう。特にあの爆裂娘、奴は余計なことをせず、かつてのように爆裂魔法だけに打ち込む生活に戻るべきである」と言伝を預かったらしい。そのことを伝えた途端、枷の外れた獣のようにアクアさんが殺気立った。そして、めぐみんさんは青ざめた表情を浮かべていた。

 

「両者の間で共有されている情報は以下の通りだが、一度確認してくれないか?」

 

 僕達の前に出たダクネスさんは、車内のテーブルに一枚の用紙を置いた。

 食堂車にある用紙とペンで情報をまとめてくれたそうだ。小見出しと思われる箇所には四角い印がつけられ、その下に箇条書きで文字が記されている。シンプルで見やすいまとめ方だ。でも……

 

「ごめん、ダクネスさん。これ読めないよ」

 

 言語の違いで何一つ情報を読み解けなかった。

 異世界の文字は僕が知るものとだいぶかけ離れている。象形文字ほどではないけれど、妙な字体で書きづらそうだ。このままでは話も進められないので、両言語共に理解しているアクアさんに情報の内容を翻訳してもらうことにした。

 翻訳された内容は以下の通りだ。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――

■出来事

・日本にて、良太郎達の仲間が犯人に襲われる事件が発生。

・アクセルの街にて、犯人による冒険者襲撃事件が発生。

・良太郎達が犯人と対峙(一度目)

・良太郎達が犯人と対峙(二度目、私達も同行)

 

■被害

・ゼロライナーが奪われる。

・良太郎達の仲間が重傷を負う。

・襲撃を受けた冒険者が街に運び込まれてくる。中には昏睡状態に陥っている者もいる。

・犯人との戦闘中、カズマが連れ去られてしまう。

 

■犯人の特徴

・容姿、服装、武器、スキル共にカズマに特徴が一致している点が多い。

・身体能力はかなり高く、街の冒険者が束になっても軽くあしらわれてしまう。

・戦闘スタイルは基本、小刀によるスピードを活かした近距離戦。

窃盗(スティール)吸収攻撃(ドレインタッチ)による搦め手を使ってくることがある。

・パワーに特化している相手だと劣勢に陥ることがある(主にキンタロスなど)。

・劣勢になると上級魔法を使用してくる。上級風魔法(トルネード)以外にも習得している可能性は大。

・対話は一応可能。しかし、こちらの話を聞くつもりはない様子。

・現状、殺された者はいない。しかし、なぜか電王にだけは殺意を向けている。

 

■事件の時系列

①日本にて、良太郎達の仲間が犯人に襲われる事件が発生。

・良太郎達の仲間が襲われ、重傷を負う。

・ゼロライナーが奪われてしまう。

 

 

②アクセルの街にて、犯人による冒険者襲撃事件が発生。

・襲撃を受けた冒険者が街に運び込まれてくる。日に日に被害が拡大している。

 

 

③良太郎達が犯人と対峙(一度目)

・犯人はウラタロスを圧倒しつつも、キンタロスに苦戦する。

・途中、犯人はその場から逃走。そのタイミングで街近辺を調査していたセナと遭遇し、良太郎は身柄を確保される。

 

 

④良太郎との対面

・事情聴取の助っ人として私達が警察署に赴く。その際、良太郎と対面。

・お互いの事情を把握し、犯人を捕まえるために手を組む。

 

 

⑤良太郎達が犯人と対峙(二度目、私達も同行)

・最初はリュウタロスと対峙。しかし、窃盗(スティール)で武器を奪われてしまい、追い詰められてしまう。

・二番手はキンタロス。パワーで犯人を圧倒するものの、吸収攻撃(ドレインタッチ)により劣勢となる。

・三番手はウラタロス。カズマの指示と援護射撃もあり、優勢となる。

・最後はモモタロス。あと一歩の所まで追い詰めたものの、上級風魔法(トルネード)によって防がれてしまう。

・カズマが連れ去られる。

―――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「……どうだ、間違いないだろうか?」

 

 翻訳された情報を読み終えると、ダクネスさんがそう訊いてきた。

 

「うん。これで間違いないと思うよ」

「ええ、そうかな? 僕、追い詰められてないよ。あいつがズルするからいけないんだ」

「馬鹿野郎。戦っている時にズルもクソもあるか」

 

僕の隣で騒ぎ出すリュウタロスとモモタロス。

リュウタロスが不服に思ってしまうのも無理はない。接近することなく、相手の武器を掠め取る行為は卑怯と言わざるを得ない。実際、一緒に戦っていた僕もそう感じてしまった。ただ、モモタロスの言うように、戦いにズルもクソもないので、そうした行為も踏まえて、犯人と戦わなければいけないと思う。

 

「なるほど。良太郎君から聞いていた報告とほぼ一致していますね」

「ねぇねぇ、事件の時系列の③に『途中、犯人はその場から逃走。そのタイミングで街近辺を調査していたセナと遭遇し、良太郎は身柄を確保される』って書いてあるけど、そもそもなんで確保されちゃったわけ? 確かデンライナーが近くに停車していたって話だったでしょ。なら、デンライナーに乗り込んで逃げちゃえばよかったのに」

 

 情報を読み終えたアクアさんがそう疑問を呈した。

 そういえば、その辺りについてはまだ話してなかった気がする。

 

「その点については私から説明しましょう。そもそも私達がこのせ――いえ、この街に辿り着いたのは、今から数日前のことでした。辿り着いた当初、私達はイマジン捜索のために、日夜デンライナーを走らせていました。そして昨日、この街近辺でゼロライナーを発見し、イマジンと戦闘になりました」

「俺は戦えなかったけどな」

「僕も~」

 

 オーナーの話に割り込んでくるモモタロスとリュウタロス。

 戦闘に参加できなかった不満をぶつけているようだが、オーナーは気にも止めない。

 

「ここにもまとめられている通り、一度目の戦闘ではイマジンに逃げられてしまいました。ただその時、私はゼロライナーに追跡用の発信機をつけることに成功しました。これでゼロライナーの居場所をいつでも特定することができます。発信機に関しては機密事項なので詳しく話せませんが、どうやら今も相手には気付かれていないようです」

「何よ。だったら、良太郎が確保される必要もなかったわけじゃない。そのまま後を追えばよかったのに」

「それはできませんでした。皆さんも実感したと思いますが、相手は私達の想像を遥かに超えた存在です。イマジンとしても、冒険者としても……。さらに相手は戦闘中ずっと契約者の身体を使用していました。もしこの状態で相手を刺激すれば、イマジンが契約者に何をするかわかりません。そこで私は戦闘後の良太郎君に地上に残ってもらい、契約者に関して情報収集するよう指示しました。丁度そのタイミングで街の方々とも遭遇できましたし、何より食料調達で色々と困っていましたからね。その辺りの聞き込みも兼ねて、良太郎君には地上に残ってもらったわけです」

「ふーん、なるほどねぇ」

 

 アクアさんは納得した様子で頷いた。

 大方、オーナーの話したことで間違いない。異世界という未知の土地にやってきたせいで、僕達は右も左もわからない状態にあった。異世界の人に頼ろうにも、中々人と遭遇することができず、アクセルの街に辿り着くまで人は存在しないと思っていた。食料にしたって、何が食べられる物なのかわからず、空を飛ぶキャベツを目撃した時は頭痛がした。こうしてサトウさん達に出会えたからよかったものの、そうでなければ僕達はどうなっていたか……あまり想像したくない。

 

「オーナー――でよろしいでしょうか。あなたに一つお聞きしたいのですが、そもそも犯人はどこに身を隠していたのでしょう? 幾度となく調査隊を出しても、冒険者が襲撃される時以外は目撃情報がなく、私達も困りかねていまして……」

「おそらく時の中に逃げ込んでいたのだと思いますよ。発信機で確認する限り、地上にいた時間はほんの僅かだったようですし」

 

 オーナーの言葉を聞き、腑に落ちた様子のダクネスさん。

 相手が年長者だからか、彼女は敬語で話しかけている。

 

「そういうことでしたか。道理でいくら探しても見つからないわけです。ちなみに犯人が他の時間へ逃走する可能性もあるのでしょうか? もしそれをされたら、私達だけではどうにもなりません」

「その心配はありませんよ。ゼロライナーもデンライナー同様、時間移動ができない状態に陥っているようですから。ダクネスさんが懸念していることは起こらないでしょう」

「そうですか。それは良かった。でも、おかしなこともあるのですね。他の時間へ移動した時は何も問題がないのに、アクセル――いえ、ベルゼルグ王国周辺だとそんな異常が発生するなんて……」

「ええ、全くですねぇ……」

 

 ダクネスさんが漏らした疑問にオーナーは素知らぬ振りを見せた。

 デンライナーが時間移動できなくなった原因――おそらく、異世界に渡ってきてしまったことが大きな理由だと僕は踏んでいる。でも、そのことを異世界の住人――ダクネスさんやめぐみんさんに伝えてしまえば、本来流れるはずだった時間に何らかの異常が生じてしまう可能性がある。異世界とはいえ、そういった事態はできる限り避けたい。だからこそ、オーナーは深く語らないのだ。

 まあ、時間移動のことを伝えている時点で、あまり良い状況とは言えないのだけれど。

 

「そもそもなんで犯人はアクセル周辺で事件を起こしているのかしら? アクセルに何か恨みがあるなら、直接街に乗り込んで破壊の限りを尽くせばいいのに、やっていることと言えば街の冒険者を無差別に襲うだけ。しかも、相手を殺してはいない。てか、契約者の身体を使って戦う理由もよくわからないわよね。イマジンの事情を把握している良太郎達には人質として有効的かもしれないけど、そんな事情を知らない私達には無意味じゃない。仮にカズマに罪を擦り付けようとしたって、あんなヒキニートらしくもない真っ直ぐな戦い方をしていたら、偽物だってすぐにバレるわよ。なら、あんた達イマジンみたいなおっかない外見で襲ってきた方がよっぽど絵になるわ」

 

 矢継ぎ早に口を開くアクアさん。

 ほとんど息を止めずに言い切ったので、僕達の割り込む暇はなかったが、それでも彼女が言いたいことはよく伝わった。イマジンの外見が絵になるかどうかまでは定かではないけれど。

 

「おっかない外見って言われるのは心外かな、アクア様。先輩は確かにそうかもしれないけれど、僕はそういうキャラじゃないからさ。むしろ、凛々しいと思うんだよね」

「おいこら亀。お前のどこが凛々しいだって? 俺よりよっぽどおっかねぇだろ。なんだよ、その直立二足歩行した亀みたいな外見。うわぁ、気色悪っ!?」

「先輩こそ『モモタロス』って名前なのに、外見は鬼でしかも体色は赤じゃない。数年前まで青い鬼が流行したのに今更赤い鬼って……はっきり言って時代遅れだよね」

「んだとこらぁ!! 赤の何が時代遅れなんだよ!! 赤はカッコいいじゃねぇか!! 赤は主役カラーじゃねぇか!! 赤鬼は泣けば名作じゃねぇか!!」

「あの作品が名作なのは否定しないけど、あれだって青鬼の行動がなければ、ストーリーは成立しなかったでしょ。他の作品だってそう。赤がどれだけ出張っていたとしても、結局は青に頼らざるを得なくなる。つまりはどの作品においても青が真の主役ポジションにいるわけ。僕が言いたいことわかる、先輩?」

「……ああ、よーくわかったよ。お前がここでぶっ飛ばされたいってことがな!!」

「やってみなよ。まっ、真の主役である僕には敵わないと思うけどさ」

「いい加減にしなさい、二人共!! わたし達から見ればどちらもモブキャラよ!!」

 

 鈍い音が二回響いた。そして、赤と青がその場で撃沈する。

 外見、色、主役、強さと続けざまに話題が転換していったけれど、総合的に見て一番なのはハナさんだった。あくまで総合的に見た結果なので、単体での比較ならばモモタロス達にも分はありそうだけれど、デンライナーに乗車している限りはハナさんに絶対敵わない。

 

「……彼女は一体何者なのだ? 屋敷でのことと言い、あの姿からは想像できないほどの力を発揮していると思うのだが」

 

 そんなハナさんを見て目を丸くするダクネスさん。

 隣にいるアクアさんもまじまじとハナさんを観察している。

 

「あの姿じゃなくても信じられない力を発揮していたけどね」

「あの姿じゃなくて……とは?」

「ハナさん、実は僕と同い年くらいなんだ。時間の影響で今は幼い姿をしているんだけれど」

「そ、そうなのか! 信じられない」

 

 目を見開くダクネスさんは、再びハナさんに視線を移した。

 そのハナさんはといえば、腰に手を当て、沈んだ赤と青を見下ろしている。

 

「へぇ、不思議なこともあるのね。幼女なのに化け物を手懐けることもあれば、カズマ似なのにとんでもなく強い奴もいるわけだし。外見って、あまりあてにならないわ」

 

 顎に手を添えながら興味深そうに頷くアクアさん。

 ハナさんや犯人のような例は滅多にないと思うけれど、それでもアクアさんの言う通り、外見だけで人を判断するのは早計な気がする。たとえ外見が強面でも親切な人はいるし、逆に愛想良さそうな外見で悪事に手を染める人もいる。何事も外見が全てじゃないのだ。だから、僕達は相手の外見に惑わされず、その人本来の姿を見極められるようにしないといけない。そういう僕はまだできていないけれど。

 あっ、本来の姿といえば……

 

「僕、犯人が生身で戦っている理由、なんとなく予想ついているよ」

「ほう。それは興味深いですねぇ、良太郎君」

 

 僕の言葉に興味を示すオーナー。

 オーナーに続くようにハナさんやアクアさん、ダクネスさんも僕に顔を向けた。途中で遊びだしたリュウタロスやいびきを掻いて眠っていたキンタロス、撃沈したはずのモモタロス、ウラタロスも僕の下に近寄ってくる。めぐみんさんは食堂車の端で顔を俯けたまま動かなかった。隣に寄り添っているナオミさんが優しく話しかけているが、何も返事をしない。彼女のことは心配だけれど、今は本題に戻ろう。

 

「多分だけれど……あの犯人、イマジンに取り憑かれていないと思うんだ」

「はあ? どういうことだよ、良太郎。緑マントがイマジンに取り憑かれていないって」

「……ねぇ、あんたが言っているその『緑マント』ってあだ名、センスなさすぎじゃない。どういう脳みそしていたら、そんなヘンテコネームが思い付くのよ」

「俺に言うなよ。良太郎がつけたんだから」

 

 アクアさんの視線がこちらに向けられた。

 どこか哀れんだ様子で僕を見つめている。そんなに酷かったかな? 似たような反応を前に受けていたので、異世界に来てからは使うのを控えているんだけれど。

 

「実は僕も同じことを考えていたんだ」

「おいおい、亀公もかよ。でも、そうだとしたらおかしいぜ。緑マントからは確かにイマジンの匂いがしたんだ。お陰であいつが街の外にいるってことがわかったんだからな。おっさんが変なもんをつけていたみたいだけどよ……」

 

 じろりとオーナーを睨むモモタロス。

 確かに発信機があるのならば、モモタロスの匂い感知がなくても、相手の居場所や行動をいつでも特定できる。ただし、この方法は時の列車に対してのみ有効なので、やはりモモタロスの匂い感知は欠かせないと思う。実際、他の戦闘ではいつもお世話になりっぱなしだし。

 

「先輩が言いたいことはわかるよ。間違いなくあの子がイマジンと契約したんだから。でも、良太郎が言うように、あの子はイマジンに取り憑かれていないと思う」

「えっ、どういうこと? 私、話が複雑すぎてさっぱりなんですけど」

 

 回りくどい言い方なせいか、アクアさんが混乱し始めた。

 多分、アクアさん以外も僕達の話を理解できていないと思う。無表情を貫くオーナーは別だけれど。

 なんてことを思っていると、ダクネスさんがゆっくりと手を挙げた。

 

「つまり、こういうことか? 犯人はイマジンと契約しているが、お互いに別行動を取っていると。それならウラタロスと良太郎が言うことも理解できる」

「えっ、そういうことなの? ……でも、待って、ダクネス。もし犯人とイマジンが別行動を取っているっていうのなら、イマジンはどこに行ったのよ? 私、アクセルでこんな化け物を見たことないわよ」

 

 そう言いながら、アクアさんはモモタロスを指差した。

 モモタロスは彼女の指先をウラタロスの方へずらしている。

 

「そう言われると、私も見たことがないな。襲われた冒険者達も犯人しか目撃していないと思う。もし目撃していたのならば、いの一番に証言しそうだからな」

「だとしたら、おかしくない? 別行動を取っているのに、誰も目撃していないなんて。そこのところ、どうなっているのよ!」

 

 語気を強めるアクアさんは、目を細めながら僕とウラタロスを交互に見た。

 そろそろあの話を持ち出した方がいいのかもしれない。そんな意味合いも込めてウラタロスに目配せすると、彼はコクリと頷いた。

 

「……あくまで推測だけれど、イマジンは別行動を取っているわけじゃないと思うんだ」

「じゃあ、どこにいるっていうのよ、良太郎?」

「……犯人の中だよ」

 

 僕の言葉を耳にした途端、アクアさんは目を丸くした。

 それと同時に、車内が一瞬だけ静まり返る。まるで一発芸がすべってしまったかのようだ。

 

「……なんだって、良太郎? 犯人の中? それはさっき違うって良太郎が自分で……」

「それでも、犯人の中にいると思うんだよ」

「お、おう……そうなのか」

 

 少しだけ語気を強めてしまったせいか、モモタロスはそれ以上追及してこなかった。

 悪いことしたなぁと思う反面、それだけ今の発言に自信があった。でないと、これほどおかしな症状が()の身に起きたりしないのだから……。

 

「良太郎、今の発言だけじゃ流石に意味がわからんで。それに良太郎も言っとったやないか――『あの犯人、イマジンに取り憑かれていないと思うんだ』ってな。なのに、イマジンが犯人の中におるのは矛盾しとるがな」

「うん、わかってる。それでもイマジンは犯人の中にいると思うんだ。『取り憑いた』のではなく、『取り込まれた』という形で」

「……なんやて?」

 

 僕の言葉を聞き、キンタロスは言葉を失った。

 そんな彼と入れ替わるように、モモタロスが口を開く。

 

「おいおい、どういうことだよ、良太郎。イマジンが緑マントに『取り込まれた』って」

「文字通りの意味だよ、先輩。契約したイマジンはあの子の身体に取り込まれてしまったんだ。だからこそ、あの子は電王に関する知識を持っていたし、冒険者と対峙した時も姿を変えずに戦っていた。人間である契約者はイマジンになれないからね」

「マジかよ……」

 

 ウラタロスの言葉を聞き、モモタロスも絶句する。

 当然、こう答えてしまえば他にも疑問が出てきてしまう。

 

「イマジンが取り込まれた? ……すまない、イマジンに関してそれほど知見のない私からすれば、『取り憑かれた』と『取り込まれた』は同じように思えるのだが……」

「その辺りについて、今から説明しますね。僕も犯人と二度目の対峙をするまで、その考えには至っていなかったんです。でも、キンタロスが犯人と戦っている時に一つの推測が立って……」

「俺があいつと戦っている時?」

 

 突然名前が出たことに首を傾げるキンタロス。

 それと同時に、周囲の視線が一斉に彼へ向けられた。

 

「先輩とリュウタ、良太郎達がデンライナーに乗車するまでの間、キンちゃんが何をしていたか覚えている?」

「ああん? そりゃ、寝てたに決まってるだろ」

「うん。寝てた、寝てた」

「そうやな……自分のことやけど、俺も寝てたと思うで」

 

 ウラタロスの問い掛けに応じるモモタロスとリュウタロス。

 訊かれていないキンタロスもなぜか返事しているが、答えは全員同じだ。

 

「そうだね、キンちゃんは寝ていたね。なら、どのくらい寝ていたかも覚えている?」

「そりゃ緑マントとの戦いから良太郎達がデンライナーに乗り込むまでの時間だから……ざっと十時間くらいか」

「そうだね……って、あれ? 今日はクマちゃん、普段よりもたくさん寝たんだね。いつもなら三時間おきに起きて、お茶を啜ってからまた寝るのに」

「ほんまやな。多分、あいつとの戦いで疲れたんやろ」

 

 リュウタロスから指摘を受けながらも、すぐに笑い飛ばしてしまうキンタロス。

 確かにあの時は僕も疲弊していた。でも……

 

「勿論、それはあると思うよ。でもね、キンちゃんと同じように疲弊していたはずの良太郎は全快しているんだ。アクア様の回復魔法のお陰っていうのもあるんだけれどね」

「ほう、そうなんか。まあ、水の姉ちゃんの回復魔法は凄いらしいからなぁ」

 

 キンタロスの誉め言葉に、アクアさんは腕を組んで胸を張った。

 確かにその通りなのだけれど、大切なのはそこじゃない。

 

「ただ、仮にアクアさんの回復魔法がなかったとしても、時間さえ経てば、良太郎の体力は全快していたと思うんだ。それに対してキンちゃんはどう? 長時間の睡眠で全快した?」

「あん? そんなの全快したに決まって……」

 

 そこでキンタロスの言葉は途切れた。

 彼は拳を握っては開くという動作を、入念に確認しながら繰り返し行っている。

 

「そういうことだよ、キンちゃん。キンちゃんは長時間寝ていたのに、体力が全快していないんだ。良太郎がこの話を始める前も寝ていたでしょ。それも狸寝入りじゃなく熟睡して……普段のキンちゃんなら、そんなことしないはずなんだ」

「そ、そんなことないで。俺はちゃんと起きて……」

「本当に? なら、この話題に入る前、どんな話をしていたか覚えている?」

「そ、それは……」

 

 キンタロスは渋った声を漏らした後、両膝に手を置いて頭を下げた。

 

「すまん。寝ていて聞いてへんかったみたいや」

「大丈夫だよ、キンタロス。頭を上げて。それは仕方のないことなんだよ。だって、キンタロスは犯人に取り込まれそうになったんだから」

「何? 俺が?」

 

 顔を上げたキンタロスは首を傾げた。

 そう、キンタロスはあの戦いで犯人に取り込まれそうになったのだ。……正確に言うのならば、彼の存在はすでに一部取り込まれていると思う。

 

「ねぇねぇ、良太郎。キンちゃんが取り込まれそうになったってどういうこと? 確かにデンライナーの中じゃずっと眠っていたけれど、他におかしなところ、全然見当たらなかったよ? ほら、今だって普通に話せるし」

「普通に生活する分には、何も支障ないと思うよ。でも、戦闘だと話は変わってくる。キンタロス、普段の君の力が百パーセントだとするならば、今はどのくらいの力を発揮できる?」

「そうやな……恥ずかしい話、五十パーセントいくか、いかへんかやで」

「そ、そんなに!! キンちゃん、本当に大丈夫なの!!」

 

 キンタロスの言葉に、リュウタロスは激しく狼狽する。

 目の前でいつもと変わらず過ごしていた仲間が、実は深刻な状態にあったのだ。驚くのも無理はない。しかも、こうなるキッカケ――キンタロスが犯人と戦うことになったのには、少なからずリュウタロスが絡んでいる。おそらく、自らの不注意でキンタロスが傷ついたと感じているのだろう。別にリュウタロスは悪くないし、そこまで責任を感じる必要はないと思う。だから、心配のあまりキンタロスの身体を激しく揺さ振るのは、やめてあげよう。

 

「ほら、リュウタ。そんなに揺さ振っていると、キンちゃんが疲れてまた寝ちゃうよ」

「ううっ、そうだね……ごめんね、キンちゃん」

「大丈夫やで、リュウタ。心配してくれてありがとな」

 

 俯いたリュウタロスの頭を優しく撫でるキンタロス。

 この部分だけ切り取って見れば、仲間同士の絆が強く感じられる微笑ましい光景となる。普段はみんな、相手を出し抜こうとして喧嘩に発展するので、こうした光景は新鮮だ。

 

「良太郎、ちゃんと説明してくれ。なんで熊公が緑マントに取り込まれそうになったんだ?」

「そうよ! その原因がわからないと、モモ達にも同じことが起きるかもしれないじゃない!!」

 

 キンタロス達が微笑ましい雰囲気を醸し出す一方、僕の下にはモモタロスとハナさんが迫ってきた。普段のモモタロス達ならばともかく、遠目から見てもピリピリ感じるほど真剣な二人は正直怖くて、うまく言葉が出ない。

 ふと、そこで思考に耽っていたダクネスさんがポツリと呟いた。

 

「もしかして……ドレインタッチか?」

 

 みんなの視線が一気にダクネスさんへ集中した。

 犯人との二度目の戦闘を目撃していないハナさんとオーナーも彼女の言葉に反応している。おそらく、モモタロス達から吸収攻撃(ドレインタッチ)について、詳細は聞いているのだろう。

 

「ドレインタッチですって!? でも待って、ダクネス。確かにあれは相手の魔力と体力を吸収する厄介なスキルだわ。けれど、相手を取り込むことなんてできないはずよ。本来の使い手であるウィズでさえ、相手の魔力と体力を一瞬で搾り取るのが限界なんだから」

 

 相手の魔力と体力を一瞬で搾り取る。

 その言葉に僕はゾッとした。魔力はともかく、体力を全て奪われてしまえば、僕はただの搾りカス――つまり、死体と化す。そんな芸当ができる生物がこの世界に巨万(ごまん)といると思うと、日々、モンスターと戦い続ける冒険者の方々に敬意を表したくなった。

 

「でもね、アクア様。あの子のドレインタッチはそれができたんだよ。実際、キンちゃんもこんな風に弱体化しちゃったわけだし」

「だったら、良太郎が無事なのはどう説明つけるのよ!! 良太郎だって一緒にドレインタッチを食らったんだからね!!」

「それは多分……人とイマジンの肉体構造の違いが原因だと思うよ」

「肉体構造?」

 

 荒々しく問い質してくるアクアさんは、怪訝な表情を浮かべた。

 そんな彼女へ優しく語りかけるように、ウラタロスは説明を始める。

 

「アクア様はすでにご存知かもしれないけど、僕達の肉体って人の記憶からイメージされて作られたものなんだ。先輩は桃太郎、僕は浦島太郎、キンちゃんは金太郎、リュウタは……うん、御伽噺ではなかったね。つまり、人の記憶そのものが僕達の血肉になっているわけ。人も僕達と存在は似ているけれど、一つだけ違いがある。人には過去があって、イマジンにはそれがない。今でこそ良太郎達と過ごした時間があるから、こうやって好き放題していられるけど、もしここで過去が奪われたら、僕達の存在は砂城のように崩れて消滅するだろうね」

「ふーん。つまり、あの居眠りイマジンはドレインタッチで自分の存在を――記憶を吸収されたってわけね。だから、色々とヤバい状態になっているってこと」

「そういうこと。でも、少し不思議なのは、キンちゃんに記憶障害のような症状が全く見られないことかな。普段の半分しか力を発揮できないことを考えると、相当記憶を持っていかれたはずなんだけれど……キンちゃん、僕達の名前、ちゃんと言える?」

「言えるに決まってるやないか。良太郎にモモの字にカメの字にリュウタ、ハナにオーナーにナオミ、水の姉ちゃんに爆発の嬢ちゃんに変態の姉ちゃんやろ?」

「ちょっと!! 私達の呼称だけなんかおかしいんですけど!!」

「わ、私もその名前で呼ばれるのはちょっと……。できれば、ド変態と……」

 

 もう手遅れかもしれない。

 そんな言葉が僕の口から(おそらくデンライナー側メンバーからも)出掛かったが、すんでのところで呑み込んだ。ここで安易にツッコんでしまえば、この悪ノリ?に最後まで付き合わなければいけない気がする。僕にはダクネスさんを制御することはできない。どうやらツッコミ(サトウさん)不在は想像以上に深刻なようだ。

 ちなみにその間、アクアさんは「何かあった?」とでも言いたげな表情で僕達の顔を窺っていた。めぐみんさんも少しだけ顔を上げている。ダクネスさんを睨んでいる様子だったけれど。

 

「……この際、ド変態のことは放っておこうぜ。んで、今の話だけどよ、もし緑マントのドレインタッチって技が相手の記憶を吸い取るものだとすれば、良太郎にも影響は出ているかもしれないってことだよな? 良太郎、お前は大丈夫なのか?」

「へっ!? あっ、うん。大丈夫、別におかしなところはないよ」

 

 突然モモタロスに呼びかけられ、素っ頓狂な声を上げてしまう僕。

 キンタロスのことばかり心配していたけれど、確かに僕も吸収攻撃(ドレインタッチ)の被害者だった。でも、今のところ何か忘れたとかそんなことはない。ないけれど……なんだろう、意識しているわけじゃないのに、ふと脳裏に姉さんとの喧嘩のことが過ってくる。あの件に関しては、この間ようやく一段落したはずなのに、今になってなんでまた……。

 

「うーん……二人の症状を見る限り、記憶が奪われたってことでもないようだね。ただ、キンちゃんの身に起きていることを考えると、記憶に関して何かしらの後遺症が出ている可能性も考慮した方がいいかもしれない。もし自分の記憶に異変を感じたら、ちゃんと相談してね、キンちゃん。勿論、良太郎もだよ」

「おう、わかったで」

「うん、そうするよ」

 

 こうしてドレインタッチについての話は大体終わった。

 でも、肝心のイマジンを取り込んだ経緯について、まだ話し切れていない。

 

「ドレインタッチという技でキンタロスが弱体化したのはわかったわ。同じ方法で犯人が契約したイマジンを取り込んだこともね。ただ、そうなると疑問も出てくるわ。侑斗からもらったチケットのことよ。おそらく犯人は過去へ飛ぶ前にイマジンを取り込んでいる。その後に侑斗達を襲って、ゼロライナーを奪った。でも、その時点でイマジンを取り込んだら意味ないじゃない。良太郎は勿論わかっていると思うけど、チケットって過去へ飛んだイマジンの居場所を示す道標よ。なのに、イマジンが犯人の過去に飛んでいなかったら、チケットには何も表示されないし、犯人も過去へ飛べないわ。けれど、侑斗が渡してくれたチケットには時間が表示されていた。これって矛盾してない?」

 

 そう疑問を呈したのはハナさんだった。

 彼女の言う通りだ。侑斗達の目撃証言により、犯人が僕達の世界にいる時点でイマジンを取り込んでいたことはわかっている。この証言が正しいとすれば、犯人が過去へ渡ることなど到底できない。犯人にチケットを翳したって、何も表示されないはずだ。

 ただ、犯人が異世界の住人であったとすれば話も変わってくると思う。異世界の冒険者が凶悪なモンスターと立ち向かうために身につけている未知の力――スキル、これの使い方次第ではなんとかなるのではないだろうか。つまりは……

 

「手加減したんだろうな」

 

 そう言葉を発したのはダクネスさんだった。

 彼女はなおも話を続ける。

 

「私達が使うスキルのほとんどは強弱をつけることができる。そうすることで、本来消費するはずの魔力をある程度抑えることができるのだ。おそらく犯人はこんなことをしたのだろう――

 

『おうおう、イマジンさんよ。あんた、良い記憶を持ってるじゃねぇか、へへっ。おっと、こんなものまであるのか。時の列車、デンライナー。どの時間へも飛べる。だが、チケットは片道限り……なんだよ、これじゃああんたを一度野放しにしなきゃいけないじゃねぇか。嫌だぜ、そんなことすればあんたに存在を消されちまうんだろ。……ふっ。なら、こうしよう。あんたはその不完全な状態のまま過去に飛んで、俺がそっちに着くまで待機する。わかるか? 俺の過去に飛べって言ってるんだよ。もし過去で暴れた時はわかっているな?  今みたいにあんたの存在を吸収してやる。吸収するだけじゃねぇ。もし消されそうな時はあんたから奪ったものを道連れにして消滅してやる。あんたはその不完全な状態で過去を彷徨い、やがて電王に殺されるんだ。さあ、どうする? 殺るか、殺られるか? どっちでもいいぜ。勿論、俺の言う通りに行動したなら、そのまま過去で解放してやる。悪い条件じゃないはずだぜ。いいだろ、それで……って、あーあ。また吸い取っちまったぜ。へへっ』

 

――と、こんな具合にイマジンを脅して過去へ飛ばし、それを道標にして自分もこの時間にやってきた。その後、ドレインタッチでイマジンを完全に取り込んだんだろうな」

「うん。例え話もあってわかりやすかったけど……長いわ」

 

 ダクネスさんへ感謝をしながらもツッコミを忘れないハナさん。

説明の節々にダクネスさんの趣味嗜好が混じっていたけれど、可能性としては十分あり得る気がした。この方法ならば、チケットの件も説明できる。

 

「今の説明で不本意にも犯人の手口がわかったわけだけれど、だったら、尚更犯人の行動が疑問ね。アクアさんも話していた通り、せっかく目的の時間へ辿り着いたのに、やっていることといえば街の冒険者を無差別に襲っているだけ。本当、何が目的なのかしら、あの犯人。イマジンに何を望んだっていうの?」

 

 ハナさんは顎に手を添えながら考え込む。

 犯人が生身で戦う理由は理解した。どのような手口でこの時間へ飛んできたかも大方予想はついた。でも、未だ犯人の目的だけがわからない。アクセルの街の冒険者だけを襲っているので、この街が関係しているのは明らかだけれど、街に直接乗り込んでいない時点で破壊活動や怨恨を晴らすことが目的でないのもわかっている。本当、何を考えているのだろう、あの犯人は。街の外で誰かを待っているのかな。けれども、それなら普通に乗り込んでいく方が手っ取り早いだろうし、うーん。

 

「ほーんと、犯人は数日間も何をやっているのかしらね。理解に苦しむわ」

「……数日間?」

 

 ふと、ハナさんが漏らした愚痴にダクネスさんが食いついた。

 彼女は腕を組み、黙って思考し始めると、何か気付いた様子で僕に顔を向けた。

 

「良太郎、『チケット』というものを一度見せてはくれないだろうか?」

「えっ? あっ、わかりました」

 

 僕はズボンのポケットから電王のパスケースを取り出した。

 片道切符であるチケットは、普通なら目的の時間に飛んだ時点で消滅するのだけれど、今回のチケットだけは消えることなくパスケースの中に挟まっている。依然として謎めいたチケットだが、この世界に来てから多少変化はあった。黒く塗り潰されていた文字が見えるようになったのだ。但し、僕達の知っている文字ではなかったので読み解くことができず、今に至るまで放置していた。そういえばこの文字、どこかで見たような……。

 

「はい、これがそのチケットです」

「…………」

 

 ダクネスさんは僕が提示したチケットを覗き込むように見つめた。

 そこから数秒ほどの沈黙が続く。食堂車らしくないひっそりとした空気が漂う中、チケットを確認し終えたダクネスさんが顔を上げた。

 

「良太郎、デンライナーはこのチケットに記された時間へ移動するということで間違いないか?」

「は、はい」

「時間を移動する際、一日、二日先の時間へ辿り着いてしまうことはあったりするのか?」

「えっ? これまでにはないけれど……」

「なら最後に……良太郎達がこの街へ辿り着いたのはいつ頃か覚えているか?」

「えっと、数日前です」

「……そうか」

 

 僕の返答にこくりと頷くダクネスさん。

 そこから一拍置き、彼女は再び口を開いた。

 

「良太郎……このチケットに記されている日付は今から一ヶ月半前のものだ」

 

 

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 鈍器で頭を殴られたような衝撃が走った。

 一ヶ月半前の日付? でも、僕達がここへ辿り着いたのは今から数日前だ。なのに、なぜここには間違った日付が――いや、違う。間違っているのはチケットではなく、僕達。デンライナーの辿り着いた時間そのものが間違っていたんだ。なんでそんなことが起きたのか、考えられることはただ一つ――異世界移動によって発生したデンライナーの不具合だ。

 

「……なるほど、私達は本来辿り着くべき時間いなかったわけですね。ですから、チケットも現存している。何せ、私達はまだ目的地へ向かっている途中なのですから」

 

 しばらく僕達の話し合いを傍観していたオーナーがそう言った。

 どうやら衝撃を受けたのは僕だけではなかったらしい。周りを見回すと、オーナー以外の皆もそれぞれ驚いた反応を示していた。鳩が豆鉄砲を食ったような表情をする人もいれば、信じられずに周囲に確認を求めるイマジンもいるし、さらには「ええっー!!」と甲高い声を上げる客室乗務員もいる。バレバレだとは思うけれど、甲高い声を上げたのはナオミさんだ。

 そんなナオミさんにも視線を移したせいか、僕は見てしまった。

 ガバッと顔を上げ、紅い眸を見開くめぐみんさんの姿を。

 

「ちょっと待って、ダクネス。一ヶ月半前って確かエルロードに向かう前だから……王都で魔王軍と交戦していた時じゃない!! じゃあ、あの犯人はそんな前からこの時間に居座っちゃってるの? 何それ、悪質なストーカーと同じじゃない!!」

 

 犯人のことを辛辣に責めるアクアさん。

 言葉遣いは相変わらずきついけれど、間違ったことは何一つ言っていない。つまり、犯人は一ヶ月半という長期間、目的を達成できずに街の周辺を彷徨っていたのだ。その行為に一体何の意味があったのかはわからないけれど、存外、それが犯人の目的を知る一番の近道なのかもしれない。

 でも、今の僕が気になっているのは、なぜダクネスさんが僕達の本来辿り着くべき時間の違いに気付いたかである。もっと気になっているのは、アクアさんの言葉を聞く度にビクリと身体を震わせるめぐみんさんだけれど。

 

「えっと、ダクネスさん。どうしてチケットに記されている日付が違うと思ったんですか?」

「実は彼女――ハナの呟いた言葉が少し気にかかったんだ。ハナは先程、『犯人は数日間も何をやっているのかしらね』と口にしていた。しかし、最初の襲撃事件が発生したのは少なくとも二週間前、『数日間』に当てはめていい期間ではないのだ」

「に、二週間も前から……」

「私もその食い違いに最初から気付いていたのだが、偶々だろうと思い、気にも留めなかった。でも、良太郎達が数日前にこの時間へ辿り着いたとなると、事情が変わってくる。なんせ、良太郎達は犯人を追ってこの時間へやってきたのだから。そうだとするならば、少なくとも二週間前にはこの街にいないとおかしい。だから、チケットを確認させてもらったんだ」

「なるほど、そういう理由で……」

「……本当なら良太郎から事情を聞いた時点に気付くべきだったのだが、そういう頭を使う作業は全てカズマに任せていて、自分で考えることは怠っていた。あいつも事件に関する情報をもう少し知っていれば何かに勘付いていたかもしれないが……いや、今更後悔しても仕方がないことか」

 

 そう言いながら肩を落とすダクネスさん。

 ダクネスさんが気に病むことではないと思うけれど、確かにこの情報が事前に知っていれば、現状の流れが変わっていたかもしれない。例えば、サトウさんが連れ去られずに済んだとか。

 

「私達が少し後の時間に辿り着いていたことは理解したわ。でも、そうなるとまずいわね。だって、もしかするとこの時間は、犯人が干渉したせいですでに改変されているかもしれないじゃない……」

「それは少なからずあると思うよ、ハナさん。けれども、時間改変が完全に行われてしまったかといえば、そんなこともない気がする。契約者がイマジンを取り込んだって話をさっきしたでしょ。もしあの考えが正しければ、この時間で時間改変を企む人はいないと思うんだ」

「犯人がいるじゃない、犯人が。犯人こそ時間改変を一番に狙っていそうでしょ。契約したイマジンを取り込んだり、侑斗達からゼロライナーを奪ったりしたんだから」

「本当にそうかな? 犯人が数日前から犯行に及んでいたとすればまだ可能性はあるけれど、最初の襲撃事件が二週間前なら、そうとも限らない気もする。しかも、一ヶ月半前にはこの時間にいたのに、最初の襲撃事件を引き起こすまで何も行動しなかった。これっておかしくない?」

「言われてみれば確かにそうね。でも、それなら何が目的だったって言うの? 結局その疑問へ立ち返ってしまうじゃない」

「それはそうなんだけれど……でも、この『一ヶ月半』という期間が実はヒントになるんじゃないかなと思うんだ、ハナさん」

「えっ、ヒント?」

 

 コクリと僕は頷いてみせる。

 数日間だけならば可能性は低くても、一ヶ月半という長期間の場合なら考えられることもある。ついさっき思いついた推測なので、犯人が生身で戦っていた理由ほど明確に説明できるわけじゃないけれど、もしこの推測が正しければ――

 

『ここに来て、ようやく幸せを取り戻すチャンスを掴んだんです。』

 

 犯人が去り際に残したあの言葉。

 あの言葉の意味を真に理解できるかもしれない。

 

「多分、犯人は誰かを待っていたんじゃないかな」

「誰かを待っていた? ならば、直接街に入って会いに行けばいいのではないのか?」

「それができなかったんだと思うんです、ダクネスさん。犯人にとって、アクセルはすでにそういう街になっていたのかなと……」

 

 僕はデンライナーの窓から見えるアクセルの街へ視線を移した。

 当たり前だけれど、僕の視界に入るのは何の変哲もない街の外壁だけだ。その外壁でさえ、今は辺りが暗くてほとんど視認できない。でも、そんな光景を犯人はずっと眺めていた。一ヶ月以上もの間、街を破壊することも中に入ることもせず、冒険者を襲撃する時以外はずっと眺めていたはずだ。その行動から考えられること――街に対して何か後ろめたいことがあったんじゃないかなと思う。僕も最近、似たような理由でミルクディッパーに入れない時期があったし。

 

「だから、犯人は街の外で待ち続けた。でも、待てど暮らせどその人は現れなかった」

「それで冒険者を襲い始めたと? 確かに冒険者が襲われれば、ギルドや警察署が犯人の捜査に乗り出すだろう。そうでなくても、仲間意識の強い冒険者達が仇討ちと言わんばかりに街の外へ繰り出すはずだ。もしその推測が正しいとすれば、今の状況こそ犯人の狙いというわけだが……しかし良太郎、仮にそうであったとして、二週間も犯人側に進展がないことが起こり得るのだろうか? 襲撃事件が始まってすでに二週間、事態を重く見た警察署は王都から捜査員を派遣してもらっている。ギルド側でも多くの冒険者を募集して犯人捜索にあたっているところだ。それだけ多くの人が街の外へ出ているのに、犯人の待ち人だけが未だ現れないなんてことはないと思うが……」

「そうでもないですよ、ダクネスさん。僕の中ではその条件に当てはまる人が一人だけいます」

「何?」

 

 ダクネスさんは訝しんだ表情を浮かべる。

 そう、僕の中には一人だけいるのだ。一ヵ月もの間、街どころか屋敷からも出ることを拒み続け、今日ようやく動き出した人物が……。

 

「そして犯人は、その人にだけいつもと違う行動を取った」

「……ま、まさか」

 

 ダクネスさんの顔から血の気が引いていく。

 そう、これはあくまで僕の推測だ。

 でも、僕達の前で取った犯人のあの行動が全てと繋がっているとすれば、無意味に思えたこれまでの犯行にも説明がつく。

 

「ちょっと待ちなさいよ、良太郎。その例外って、あいつしかいないじゃない!!」

「そういうことになりますね、アクアさん」

「じゃあ、犯人の目的って――」

 

 

 

 

 

“カズマの誘拐”

 

 

 

 

 

「きゃあ!!」

 

 食堂車の端からナオミさんの悲鳴が聞こえてきた。

 何かと思いその方向へ視線を向けると、めぐみんさんがナオミさんを跳ね除け、脱兎の如く食堂車から飛び出していた。ナオミさんはバタンと尻餅をつき、「いてて……」と臀部をさすっている。

 

「僕が後を追うよ。みんなは話を続けて」

「あっ、ちょっとウラタロス!」

 

 めぐみんさんの後を追って、ウラタロスも食堂車から出て行った。

 正直、女癖の悪いウラタロスに後を追わせるのは色々と危うい気がした。でも、今回だけは誰も彼を止めようとしなかった。いつもならば暴力を行使してでも無理矢理引き止めるハナさんもウラタロスの行動を見逃している。多分、今日の功績(犯人が生身で戦う理由、契約したイマジンがどこにいるかの説明)が認められ、特別に許されたのだろう。

 

「……亀もああ言っているわけだし、さっさと話終わらせようぜ」

 

 そんなモモタロスの言葉を皮切りに話し合いが再開する。

 その後、ウラタロス抜きの話し合いは滞りなく進んだ。結論として、直接犯人に会って全てを確かめることが決まり、デンライナーで犯人の潜伏先に向かうことになった。ちなみにこの話し合いが行われている間、デンライナーはアクセルの街の外壁をグルグルと駆け回っていた。途中、デンライナーを見かけた守衛の方が目を丸くしたのは単なる余談である。

 

「ねぇ、赤いの。めぐみんと青い亀、戻ってくるの遅くない?」

「赤いのはやめろ。モモタロスってちゃんと呼べ。でも、確かにそうだな。あの亀、あんな自信ありげに飛び出していったくせに何してるんだ、全く」

 

 デンライナーが発進してしばらく経った頃、ふとそんな会話が聞こえてきた。

 ウラタロスとめぐみんさんが食堂車を飛び出して一時間、未だに二人が戻ってくる気配はない。それだけめぐみんさんが戻ることを拒んでいるのかもしれないが、そうだとすれば、一度くらいウラタロスが食堂車に引き返してきそうな気はする。

 そもそも、めぐみんさんはなぜ食堂車を飛び出したんだろうか。サトウさんの件で落ち込んでいるとはいえ、その飛び出し方は犯行がばれて逃走を図る容疑者のようだった。でも、めぐみんさんは何一つ悪いことをしていない。……ただ、話し合いの途中で見せた奇妙な反応は少し気になっている。『チケットに記された日付』、『犯人の目的』――話し合い中、ずっと俯いていためぐみんさんはこの二つの話題にだけ敏感に反応を示していた。その辺りは一度彼女に確認したいところだけれど、今はここにいない。さて、どうしよう。

 

「……僕、ちょっと見てくるよ」

 

 なら、直接確かめに行くべきだ。

 そう思い至った僕は食堂車を飛び出した。デンライナーには食堂車以外にも長期滞在者用の車両がいくつか設けられている。僕はそうした車両にも足を踏み入れて、ウラタロス達を探し続けた。けれども、二人は見つからない。本当、どこへいってしまったんだろう。もしかして、ウラタロスが隠れてめぐみんさんに手を出しているんじゃ……。

 そんな悪い予感が脳裏に過った。そして、その予感は半分当たっていた。

 先頭車両にてウラタロス達を発見したのだ。

 ……ウラタロスがめぐみんさんを壁に押し付けている形で。

 

「う、ウラタロス!? 何をしているの!!」

 

 僕は声を荒げてしまった。

 ウラタロスがめぐみんさんに手を出そうとしていたから……ではない。確かに先程の説明だけではそう解釈されかねないけれど、実際はそういった雰囲気を微塵も感じさせないほど場の空気は凍っていた。女性に優しいあのウラタロスが取調べ中の刑事ばりにプレッシャーを放っているし、めぐみんさんはその空気に耐え切れず涙目になっている。只事ではない。

 

「ごめん、良太郎。今、取込み中だから後にして」

「取り込み中って何!! 僕にはウラタロスがめぐみんさんを責めているようにしか見えないよ!!」

「そうだよ、責めているんだ。それのどこが悪いの?」

 

 悪びれもせずそう言ってのけるウラタロス。

 まるで自分のしていることは正しいと主張しているかのようだ。

 

「悪いも何も……めぐみんさんが何かしたわけじゃないでしょ。それなのに、どうして責める必要があるの?」

「確かに何かしたわけじゃないね。でも、それがいけないんだよ、良太郎。僕はめぐみんさんの力になりたいとは思っているけれど、何も知らないで慈善事業に取り組むつもりもないんだ」

「慈善……事業? もしかして、サトウさんを助けに行くことが慈善事業だって言うの?」

 

 思わず目を見張ってしまう僕。

 本当、ウラタロスはどうしてしまったんだ。短い間とはいえ、共に戦ったサトウさんを見捨てるなんて正気の沙汰としか思えない。ウラタロスだってサトウさんのことをあんな評価していたのに、あの発言もお得意の嘘だったのだろうか。

 

「そういうことじゃないよ。僕だって彼は助けたいさ。でもね、僕達が今あの子と戦ったところで、負けることは目に見えている。勝利のない戦いに身を投じるなんて、僕はしたくないし、良太郎達にもさせたくないんだ。良太郎だって同じ立場ならそう考えるでしょ?」

「……ウラタロスが僕達の身を案じていることはよくわかったよ。でも、それとめぐみんさんを責めることに何の関係があるの?」

「めぐみんさんは知っているんだよ。僕達以上にあの子のことを。そうだよね、めぐみんさん?」

 

 そう優しく声をかけるウラタロス。

 でも、めぐみんさんは目を逸らして何も答えようとしない。

 

「めぐみんさんが犯人のことを知っている? なんでそう言い切れるの?」

「それが事実だからさ。でないと、話し合いの最中にあんな反応を見せたりしないよ。あれは親に隠し事がばれて怯える子供と同じだった。良太郎だってめぐみんさんの反応に違和感を覚えたから僕達の後を追いかけてきたんでしょ?」

「それはそうだけれど……でも、僕達が違和感を覚えたからといって、その違和感が必ず正しいとは言い切れないよ。何より、そのことを理由に相手を責めるなんて絶対にしちゃいけないことだと思う」

「良太郎……」

 

 ウラタロスの腕の下から顔を覗かせるめぐみんさん。

 数時間ぶりに彼女から名前を呼ばれたけれど、その声に覇気は感じられなかった。最初に出会った頃は爆発寸前の花火のように元気溌剌だったにも関わらず、今は見る影もなくなっている。

 

「うーん……わかったよ、良太郎。これ以上、めぐみんさんを責めたりはしないよ」

 

 降参をした様子のウラタロスは、壁に押し付けていためぐみんさんを解放した。

 どうやら理解してくれたみたいだ。彼女もホッとした様子で壁に凭れ掛かっている。

 

「じゃあ、最後に一つだけ質問していい、めぐみんさん?」

「えっ?」

 

 しかし、そんな安息も束の間、ウラタロスは疑問を投げかけてきた。

 確かに責める様子はなさそうだけれど、一体何を訊くつもりなんだろう。

 

「今から一ヶ月半前、めぐみんさんと彼との間に何があったんだい?」

「……!?」

 

 ブルっとめぐみんさんの身体が震えた。

 かと思えば、彼女は思いっきりウラタロスの身体を突き飛ばし、僕の横をすり抜けた。そのまま先頭車両から姿を消してしまう。

 

「やれやれ……嫌われちゃったみたいだね、僕」

「ウラタロス、今の質問って……」

「うん? ああ、僕の個人的な興味だよ、興味。まあ、気にしないで」

 

 飄々とした返事をするウラタロス。

 個人的な興味と答えてはいるが、僕にはそうじゃないことが薄々わかっていた。それに今から一ヶ月半前といえば、チケットに記された日付と同じだ。そのことをめぐみんさんに聞いたってことは……

 

「ウラタロス、君は何を知っているの?」

「何も知らないよ。だからこそ、一時間もかけて彼女に訊いていたんだ。それで確信した」

 

 そう言い終えると、ウラタロスは僕の方へ顔を向けた。

 いつになく真剣な彼の表情。そこから次に紡がれる言葉がどのようなことか、なんとなく察しがつく。

 

「良太郎、僕なりにこの事件の被害を最小限に抑える方法を考えたんだけど、言ってもいいかな?」

「うん、いいよ」

 

 ウラタロスの言葉に僕は頷いて見せる。

 彼は少し間を置くと、一言。

 

「良太郎、この件から手を引くつもりない?」

 

 それが犯人のところへ向かっている最中……そして、犯人と三度目の対峙をする前に言われたウラタロスの言葉だった。




第五話、予定より投稿が遅くなってしまいました。
残りの第六話を12月初旬、第七話(おそらく最終話)を1月1日までに投稿したいです。
……投稿できるかなぁ。

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