仮面ライダー妖狐   作:猫丸@柄杓

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人物

陣野昭人(ジンノ アキヒト)
仮面ライダー朧(カメンライダーオボロ)


二 妖怪の町

「生徒会新聞ですか?」

 

 藍露高校生徒会室。

 再びやって来た春馬と唯は、生徒会が発行している藍露高校新聞についての会議をしていた。藍露高校には新聞部、それからPTAの広報部があるので、計三種類の新聞が発行されている。それを区別するため、彼らは生徒会新聞という呼称を使っていた。

 

「そう。お兄ちゃんがいないから私がやらないと」

「確かに生徒会新聞なかったら、生徒会って認識すらされませんよね」

「そういうこといわない。事実だけどさ」

「それにしても書くことありますか? 片面は部活動の大会の成果で埋めるとして、あとは……」

「神隠しについては?」

「あ、それはオカルト研究会に取られてます」

 

 この藍露高校、部活というのがやたら多い。その癖校舎は小さいので、活動場所は減る一方だ。

 

「そういえば、藍龍寺が今年でちょうど建築から四百年経ちます。お祝い事もやるらしいですよ」

「耳よりじゃん! 夏の特別号はそれで決まりね!」

 

 

 藍龍寺は藍露高校からバスで十五分のところにある。藍龍寺前のバス停で降り、山道を十分ほど歩き、二百八十四段の長く急な階段を上った先だ。

 

「春馬……待って……」

「先輩、遅いですよ。少し座りますか?」

 

 返事もせず、唯は階段に腰かけた。風呂上がりの中年のような声を上げ、水筒のお茶をたっぷりと飲む。

 

「今、先輩が縁側でビール飲んでる姿が浮かびました」

「失礼な」

 

 少し落ち着いたのか、唯はけたけた笑ってみせた。

 

「地元紙の取材も来てるみたいですね」

 

 本堂の方を見ながら春馬がいった。二人と同じバスに乗っていた男が、一眼レフを構えていたのだ。

 

「……あの人知ってる」

「え?」

「友達のお見舞いにいったとき、お見舞いの花を落としちゃったの。そのときに拾ってくれた人」

「良い人ですね」

「記者さんだったんだ」

 

 やがて汗も乾き、何となく、二人はまた歩き始めた。

 

「わざわざこんな山奥の寺まで来ていただき、ありがたく思います」

 

 住職がかしこまった挨拶を続ける中、唯はそれとなく室内を観察した。

 どうやら客人をもてなすための部屋のようだ。さすがに四百年の歴史を刻んだだけあって、囲炉裏に障子と和風の建築となっている。

 

「それでは、藍露様の像をお見せいたします」

 

 住職は立ち上がり、取材に来た面々についてくるよう促した。

 廊下を渡り、戸をゆっくり開ける。その先には、金箔に彩られた絢爛な像の数々があった。それらは決まって一点を向いている。視線の先の扉は、固く閉じられていた。

 住職が鍵を挿す。カチャリ、と音がして、藍露町の守り神の姿が露になった。

 ——が、その瞬間。

 

「伏せろっ!」

 

 襖を突き破り、何かが飛び込んで来た。

 藍露様の像に激突したその物体を、唯たちは慌てて確かめる。

 

「これって」

 

 消え入りそうな声が上がった。

 

「嘘だろ……」

 

 それは、彼らが倒したはずのあの化け物の、首だった。

 

 

「どうするの!?」

「戦います!」

 

 本堂は大騒ぎだった。住職さえも何かおぞましい妖気を感じ取ったのか、始めこそ対処しようとしていたが、今は避難している。

 建物の影に隠れ、春馬は腰に手をかざす。ゆらり、と陽炎のようにベルトが現れ、手にはあの仮面があった。仮面を顔にやり、春馬は再びあの戦士へと変貌する。

 

「変身!」

 

 首だけとなった化け物の前に、春馬が立ち塞がる。

 

「さぁ、勝負だ」

 

 

 妖狐の戦士に変身する高校生。

 端から見ればとんでもない光景である。だが、新聞記者・陣野昭人はそれを見て、

 

「ふうん、俺と同じのがいたか」

 

 いつの間にか手には般若の面があった。陣野は面をかぶり、得意気に呟く。

 

「——変身」

 

 

 首が動く。

 これだけでもおぞましい光景なのだが、その首は、春馬と対等に戦っていた。幻術は確かに優位に立てる力だ。しかし、化け物は、そこにいる全ての春馬に噛みつくことで、幻術に対抗していた。

 腰の辺りを噛まれ、痛みが突き抜ける。化け物を振りきろうとすればするほど、傷が抉られる。

 

「くそっ……離せ!」

 

 やっとの思いで化け物を振り払い、再び構える。幻術を使う暇はない。化け物は一直線に春馬目掛けて向かってくる。

 春馬が死を覚悟したその瞬間、巨大な牛車が出現し、化け物を轢いた。

 牛車は荒々しく着地し、火花を散らしながら停止した。誰かが降りてくる。

 

「……俺と、同じ」

 

 その何者かは、般若のような角を持ち、胴に車輪のような紋様を刻んだ、春馬と同じ戦士であった。

 

「よう、無事だったか? 同志よ」

「記者さん!」

 

 唯が叫んだ。

 

「おう、病院のお嬢ちゃんか。俺は陣野昭人だ。詳しい説明は後だ」

 

 陣野は起き上がった化け物に向き直り、

 

「狩りの時間だ」

 

 牛車がいななき、化け物へと突進する。横に避けた生首を待ち構えていたのは、三体の春馬だった。

 

「幻覚は進化する」

 

 蹴り上げられた化け物は大きく唸り、しかし再度突撃してきた牛車を避けられない。空高くはねられ、絶叫が木霊する。

 

「これが俺の必殺技だ」

 

 春馬が大きく跳ぶ。右足を出しながら回転し、踵落としを化け物に叩き込んだ。

 爆発を背後に、春馬と陣野は変身を解いた。

 

 

「それで、陣野さんは何を知ってるんですか?」

「俺はこの町の民話について調べてたんだが……その中に『妖シノ面』って話があった。まあ平たくいえば、面をかぶった男が化け物退治をする話さ」

「面を……」

「それからあの化け物は犬神っていう、まあ妖怪だな。諸説あるが、首を切られてなお生きるとか何とか」

「この町に、妖怪がいるんですか?」

 

 唯が深刻な顔で訊いた。

 

「ああ。だが、面の戦士も妖怪みたいなものだぞ? えっと、君は……」

「大音春馬です」

「春馬は妖狐、狐の妖怪だ。俺は朧っていう牛車の妖怪」

 

 二人は唖然としていた。いつしかこの町は、妖怪の色に染められていたのだ。

 

「まあ、こいつらはまだ動物が変異したとか、可能性はいくらでもあんだよ」

「もっとおかしなことがあるんですか?」

「ああ。よく聞けよ」

 

 陣野は声をひそめ、こういった。

 

「どうやら、夏が繰り返されてるみたいなんだ」

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