陣野昭人(ジンノ アキヒト)
仮面ライダー朧(カメンライダーオボロ)
「生徒会新聞ですか?」
藍露高校生徒会室。
再びやって来た春馬と唯は、生徒会が発行している藍露高校新聞についての会議をしていた。藍露高校には新聞部、それからPTAの広報部があるので、計三種類の新聞が発行されている。それを区別するため、彼らは生徒会新聞という呼称を使っていた。
「そう。お兄ちゃんがいないから私がやらないと」
「確かに生徒会新聞なかったら、生徒会って認識すらされませんよね」
「そういうこといわない。事実だけどさ」
「それにしても書くことありますか? 片面は部活動の大会の成果で埋めるとして、あとは……」
「神隠しについては?」
「あ、それはオカルト研究会に取られてます」
この藍露高校、部活というのがやたら多い。その癖校舎は小さいので、活動場所は減る一方だ。
「そういえば、藍龍寺が今年でちょうど建築から四百年経ちます。お祝い事もやるらしいですよ」
「耳よりじゃん! 夏の特別号はそれで決まりね!」
✳
藍龍寺は藍露高校からバスで十五分のところにある。藍龍寺前のバス停で降り、山道を十分ほど歩き、二百八十四段の長く急な階段を上った先だ。
「春馬……待って……」
「先輩、遅いですよ。少し座りますか?」
返事もせず、唯は階段に腰かけた。風呂上がりの中年のような声を上げ、水筒のお茶をたっぷりと飲む。
「今、先輩が縁側でビール飲んでる姿が浮かびました」
「失礼な」
少し落ち着いたのか、唯はけたけた笑ってみせた。
「地元紙の取材も来てるみたいですね」
本堂の方を見ながら春馬がいった。二人と同じバスに乗っていた男が、一眼レフを構えていたのだ。
「……あの人知ってる」
「え?」
「友達のお見舞いにいったとき、お見舞いの花を落としちゃったの。そのときに拾ってくれた人」
「良い人ですね」
「記者さんだったんだ」
やがて汗も乾き、何となく、二人はまた歩き始めた。
「わざわざこんな山奥の寺まで来ていただき、ありがたく思います」
住職がかしこまった挨拶を続ける中、唯はそれとなく室内を観察した。
どうやら客人をもてなすための部屋のようだ。さすがに四百年の歴史を刻んだだけあって、囲炉裏に障子と和風の建築となっている。
「それでは、藍露様の像をお見せいたします」
住職は立ち上がり、取材に来た面々についてくるよう促した。
廊下を渡り、戸をゆっくり開ける。その先には、金箔に彩られた絢爛な像の数々があった。それらは決まって一点を向いている。視線の先の扉は、固く閉じられていた。
住職が鍵を挿す。カチャリ、と音がして、藍露町の守り神の姿が露になった。
——が、その瞬間。
「伏せろっ!」
襖を突き破り、何かが飛び込んで来た。
藍露様の像に激突したその物体を、唯たちは慌てて確かめる。
「これって」
消え入りそうな声が上がった。
「嘘だろ……」
それは、彼らが倒したはずのあの化け物の、首だった。
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「どうするの!?」
「戦います!」
本堂は大騒ぎだった。住職さえも何かおぞましい妖気を感じ取ったのか、始めこそ対処しようとしていたが、今は避難している。
建物の影に隠れ、春馬は腰に手をかざす。ゆらり、と陽炎のようにベルトが現れ、手にはあの仮面があった。仮面を顔にやり、春馬は再びあの戦士へと変貌する。
「変身!」
首だけとなった化け物の前に、春馬が立ち塞がる。
「さぁ、勝負だ」
✳
妖狐の戦士に変身する高校生。
端から見ればとんでもない光景である。だが、新聞記者・陣野昭人はそれを見て、
「ふうん、俺と同じのがいたか」
いつの間にか手には般若の面があった。陣野は面をかぶり、得意気に呟く。
「——変身」
✳
首が動く。
これだけでもおぞましい光景なのだが、その首は、春馬と対等に戦っていた。幻術は確かに優位に立てる力だ。しかし、化け物は、そこにいる全ての春馬に噛みつくことで、幻術に対抗していた。
腰の辺りを噛まれ、痛みが突き抜ける。化け物を振りきろうとすればするほど、傷が抉られる。
「くそっ……離せ!」
やっとの思いで化け物を振り払い、再び構える。幻術を使う暇はない。化け物は一直線に春馬目掛けて向かってくる。
春馬が死を覚悟したその瞬間、巨大な牛車が出現し、化け物を轢いた。
牛車は荒々しく着地し、火花を散らしながら停止した。誰かが降りてくる。
「……俺と、同じ」
その何者かは、般若のような角を持ち、胴に車輪のような紋様を刻んだ、春馬と同じ戦士であった。
「よう、無事だったか? 同志よ」
「記者さん!」
唯が叫んだ。
「おう、病院のお嬢ちゃんか。俺は陣野昭人だ。詳しい説明は後だ」
陣野は起き上がった化け物に向き直り、
「狩りの時間だ」
牛車がいななき、化け物へと突進する。横に避けた生首を待ち構えていたのは、三体の春馬だった。
「幻覚は進化する」
蹴り上げられた化け物は大きく唸り、しかし再度突撃してきた牛車を避けられない。空高くはねられ、絶叫が木霊する。
「これが俺の必殺技だ」
春馬が大きく跳ぶ。右足を出しながら回転し、踵落としを化け物に叩き込んだ。
爆発を背後に、春馬と陣野は変身を解いた。
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「それで、陣野さんは何を知ってるんですか?」
「俺はこの町の民話について調べてたんだが……その中に『妖シノ面』って話があった。まあ平たくいえば、面をかぶった男が化け物退治をする話さ」
「面を……」
「それからあの化け物は犬神っていう、まあ妖怪だな。諸説あるが、首を切られてなお生きるとか何とか」
「この町に、妖怪がいるんですか?」
唯が深刻な顔で訊いた。
「ああ。だが、面の戦士も妖怪みたいなものだぞ? えっと、君は……」
「大音春馬です」
「春馬は妖狐、狐の妖怪だ。俺は朧っていう牛車の妖怪」
二人は唖然としていた。いつしかこの町は、妖怪の色に染められていたのだ。
「まあ、こいつらはまだ動物が変異したとか、可能性はいくらでもあんだよ」
「もっとおかしなことがあるんですか?」
「ああ。よく聞けよ」
陣野は声をひそめ、こういった。
「どうやら、夏が繰り返されてるみたいなんだ」