縁側で茶をすするオーバーロード   作:鮫林

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転移二日目の夜のはなし。
食事回までいきませんでした……。メイドちゃんたちがかわいいのが悪い。

大変お待たせいたしまして申し訳ありません。明けましておめでとうございます。
今月中にはカルネ村に行く予定なので、本年もどうか気長にお付き合いいただければ幸いです。

明日の夜にはオーバーロード2期とかうせやろ……?



飲食(おんじき)はあたたかいうちに・前編

 

 

 その部屋に入るなり目にしたのは、ぱたぱたと忙しなく動き回るメイドたちだった。丁寧に刺繍が施された、毛足の短い絨毯の上、細くしなやかな足が右へ左へ。それでも彼女たちは足音ひとつ立てることなく作業をこなしてゆく。

 

 ある者は無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)を抱え、ある者は両手に瓶を提げ、またある者は野菜や穀物を選別していた。ちょっとした市場っぽい光景だったが、それでも優雅な所作を保っている辺りは流石だと、胸の中でこっそり感心する。

 

「……なんだかすごいことになっているな、朱雀さん」

 

 いそがしく働く彼女たちの中心、何かのリストだろうか、紙束片手に指示を出している朱雀さんに声をかけた。手元からそっと外された視線、目の光がゆるやかに歪む。微笑んでいるのだろう。そろそろ細かい表情がわかるようになってきた。

 

「ああ、こんばんはモモンガさん」

 

 朗らかな挨拶。時刻はもう夜、蜥蜴人(リザードマン)の集落からナザリックに帰還して、丸一日近い時間が経っていた。

 じゃあ後よろしく、と傍に控えていたユリ・アルファにリストを手渡して、周囲に比べれば幾分か片付いた様子のテーブルへと、俺を手招きしながら移動する。……ここに来たときから思ってたけど、やっぱりこの人、他人を使うのに慣れてるよなあ……。使われる側が優秀だっていうこともあるんだろうけど。

 

「やー、ごめんね散らかってて」

「いや、それは構わないが……、どうしたんだ一体、この有り様は」

 

 視線をどこに移しても、無限の背負い袋(インフィニティ・ハヴァサック)無限の木箱(インフィニティ・ウッドチェスト)が視界に飛び込んでくる。どうやらそれぞれ中身が目一杯詰まっているらしい。整理整頓に使うための道具が部屋に溢れかえっているのはちょっと本末転倒な気がした。源次郎さんの自宅もこんなんだったのかなあ。しばらく会っていない仲間の部屋に馳せた想いをそっとしまい込んだ。

 

 さて、死獣天朱雀さんという人は、このように大規模な片付けに着手しなければならないほど、普段の整理整頓ができない人だったか。とつとつと記憶の糸を辿っていると、当の本人は肩をひとつ竦めて、こぽ、とため息をついた。

 

「部屋に入ったら、棚に飾ってた分が全部床に転げ落ちててさ」

「ああ、なるほど。スタック分があふれてきたのか」

「そ。割れてなかっただけまだ良かったよ。ほとんど瓶なんだよね、これ」

 

 世の中にある多くのゲームと同様、ユグドラシルでは、特に手を加えていない家具であっても、棚や引き出しなどの収納スペースであれば1スロットにアイテムを重ねて置くことができる。アイテムの重要度やデータ量によっては不可能なものもあるが、大抵のものは16個だとか32個だとか64個だとか、まあそれなりの数をスタックすることができたわけだが、転移してきたこの世界ではそうはいかないようだった。魔法的な力もなく質量保存の法則に喧嘩を売ることはできない、ということらしい。そりゃそうだ。現実世界で品物がさくさく重なっていったらとてもこわい。

 

 俺の部屋の家具はぜんぶ改造済みだったから無事だったけれど、もしかしたら他のギルドメンバーの部屋も同じようなことになってるかもしれない。データクリスタルで容量を増やした家具は大丈夫みたいだから、デフォルトの家具に収集品を手当たり次第ぶちこむような真似をしていなければ大丈夫だと思うんだけど。

 

 ……候補となる人物が多すぎるな。NPCがいる場所に被害がなくて本当に良かった。後で確認させなきゃ。

 

「こんなことならもっとちゃんとした棚に収納しとくんだった。横着はするもんじゃないねぇ」

 

 自嘲気味に溢す朱雀さんだったが、個人的にはそう気にすることじゃないと思う。「突然異世界に転移するかもしれないから、ちゃんと魔法的な家具を用意しておこう」なんて考えるのはとんでもない馬鹿か事件の黒幕ぐらいだ。

 

「この際仕方あるまい。予想だにしなかった事態だからな」

「そう言ってもらえると救われるよ。メイドさん3人とプレアデス2人に手伝ってもらって一晩かかっちゃった」

 

 その場には確かにメイドが5人。

 えーっと? ユリとルプスレギナ、フォアイルと、シクススと、デクリメントか。よし、覚えてる覚えてる。今朝念のためこっそり復習した甲斐があった。上司に名前を覚えられてないとか、悲しいどころの話じゃないからなあ……。

 

 しかしながら、6人がかりで一晩中、か。なんなら作業はまだ終わってないように思われる。あんまり良くないタイミングで訪ねてしまったかな。申し訳ない。

 

「ふむ、忙しいときに邪魔してしまったようだ。出直そうか?」

「や、大丈夫。もうすぐ終わるとこだったし」

 

 朱雀さんはよっこいしょ、と、長椅子に腰掛けて、なんでもないことのようにひらひらと手を振る。

 

 嘘だあ。一瞬、思いっきり声に出しそうになって、口を塞いだ。あぶないあぶない。

 

 しかしなるほど、ぱっと見た限り部屋はかなり散らかっているように感じられるが、よく観察すれば、雑多なりに整頓はされているようだった。新しく収納スペースを確保してから片付けるつもりなのが見てとれる。

 

「むしろ、良いときに来てくれて助かったよ。ちょうどモモンガさんとこ行こうと思ってたんだよね」

 

 朱雀さんのインベントリから取り出される陶器の大皿と、いつの間にやら端から端まで書き込まれた地図。余ったスペースに挟み込まれるように召喚されたモンスターは攻性防壁対策のそれで、これから何が始まるのか、その準備だけで察することができた。

 

「何かあったのか?」

「あったあった。とりあえず座ってよ」

 

 促されるまま、テーブルを挟んで向かい側の席につく。絶賛作業中のメイドたちを、部屋に残したまま。

 

 ……ちょっと、あの、これ、このまま始めるんですか。何か適当な理由をつけて人払いをした方が良いんじゃないのかな。してほしいんですけど。

 

 対NPCなら、全力で気を張りながらもなんとか支配者らしい態度を取れているような気がしなくもないのだが、どうも朱雀さんと一対一で会話しているとメッキが剥がれてしまいがちだ。

 NPC達はゲーム時代のことを覚えているというから、そこまで気にする必要はないのかも知れないが、今はまだ、幻滅されるのがすごく怖い。

 

 内心だらだらと冷や汗を流しつつ、正面の朱雀さんに全力でアイコンタクトを送る。俺の視線に気が付いた朱雀さんは、こくりとひとつ頷くと、ユリを呼びつけた。

 

 ああ、持つべきものは気心知れた仲間だなあ、と心から感動する。言葉がなくても意図はちゃんと――。

 

 

「ごめん、お茶ふたつ淹れてくれる?」

 

 

――伝わってなかった!!!!

 

 畏まりました、と備え付けのキッチンへと去ってしまうユリ。当然続行されるメイドたちの作業。かぱっと開いた口が塞がらない俺。ふんふんと調子外れの鼻歌をうたいながら大皿へと水を注ぎ始める朱雀さん。

 

 <伝言(メッセージ)>使えばいいだろ、と冷静な自分からの突っ込みが入るが、流石にこれはあんまりではないだろうか。

 

 いや、お茶が飲みたかったのなら飲んでくれるのは全然構わない。むしろどうぞと言いたいところなのだが、今の流れでそれはないだろう。そもそも俺、飲食できないって言ったよね。え? 言ったよね?

 

 自分の記憶があやふやになってきたので、とりあえずそこだけ確認しておこうと、開きっぱなしの口から辛うじて声を絞り出した。 

 

「す、朱雀さん? 私は……」

「以心伝心は存在しない」

 

 思わず体が硬直する。一瞬、心を読まれたのかと思った。低い声で紡がれた言葉とは、裏腹に。

 浅い器に、ひたひたと水が満たされてゆく。表情からその内心は読み取れない。意図的に隠しているのか、あるいは。

 

「ぼくが常々そう思ってるだけのことなんだけどね。結局、読心というものは、言語的コミュニケーションが積み重なった結果でしかない」

 

 朱雀さんが何を伝えたいのか量りかねているうちに、水差しから注がれていた水が、ぴたりと止まった。最後のひとつぶ、しずくが水面に波紋をえがく。

 

「伝えたいと想うことは、なんとかして言葉にしなければ絶対に伝わらないってことだね」

「朱雀さ……」

「それはそうとして」

 

 声のトーンが少し変わる。ことん、と小さな音を立てて、水差しがテーブルに置かれた。

 

「さっきも言ったけど、作業自体はあと少しで終わるから、もうちょっとだけ待っててもらえるかな」

 

 下から覗きこむような視線が灯す、悪戯っぽい光。くすくすと笑みさえ含ませながら告げられた言葉は、俺の意図を確かに汲んだもので。

 

 つまるところ。

 

「やっぱりわかってたんじゃないか!」

「あっはっはっはっは!」

 

 やーい横着者ー! と、けらけら笑う、アインズ・ウール・ゴウンの最年長者。最年長、者? 最年長者の笑い方か、これが。

 まあいい。要するにからかわれたのだ。ひどい。なんだか段々いじわるになってきてないかこの人!

 

 あまりにも屈託なく笑い続けるものだから、メイドたちが不審に思うんじゃないかとはらはらしたが、その笑い方はるし★ふぁーさんやタブラさんの発言がツボに入ったときなんかに聞いたことのある笑い方で、懐かしくてとても遮ることなんてできなかった。さてはこれも計算のうちか。ぐぬぬ。

 

 ……いや。きっと朱雀さんは俺に伝えたかったんだろう。報告・連絡・相談は社会人の基本だって。言葉で伝える努力を怠ってはならないって。

 こっちに来てからずっと俺のロールプレイに付き合ってもらっているけど、本当はもう少し砕けた態度で部下達に接したいと思っているのかも。

 

 見れば、メイドたちは実に涼やかなものだ。手を止めることすらしていない。怯えさせるかと思ったけど、どうやら杞憂だったようだ。驚くほどのことでもなかったか、あまり驚いたら失礼だと思ったのか。なんにせよ、この状態が過剰に反応するほどのものではないと認識しているらしかった。

 

 以心伝心は存在しない。

 それはその通りなんだろうけど、相手のことを慮ることは誰にだってできるはずだ。

 けど、俺ときたら、自分のことに手一杯で。

 

 ギルド長、なのになあ。

 

「……私は、甘えすぎているんだろうな」

 

 ぽつりと溢した声は、想像していたよりもずっと弱々しいもので。

 傍から見ていれば随分と思考が飛躍したように見えたのか、ぴたりと笑い声を収めた朱雀さんは狼狽えぎみに問うてくる。

 

「ど、どうしたの、いきなり」

「これでも反省しているのだ。私の臆病につき合わせてしまっているんだろうと」

「ああ、ごめんごめん。そういうことじゃなくてさ」

 

 朱雀さんは背凭れに体重を預けて、んー、と頭を捻りながら襟の後ろを擦る。

 

「昨夜からちょっと色々考えてたんだけど、物理的な距離が近くなると、どうしても溜め込んだものを処理しにくくなるから」

 

 なんとなく、わかるような気はする。むかし、ルームメイトがいるギルドメンバーが言っていた。一緒に暮らすようになって、悪いところが見えてきて、喧嘩が増えたって。 

 

 俺は身近にそういう人がいなかったから、実感はそこまでわかないけれど、ギルドのみんなが、ナザリックで見せていた顔だけが、彼らのすべてではないことくらいは、わかっているつもりだった。

 

 そして、このひとも、また。

 

「だから、思ったことは小出しにする癖をつけとかないと、後々しんどいだろうなあ、と」

「……気を使わせてすまないな」

「こんなもん使ってるうちに入んないよ。ぼくがボンクラ相手にどんだけ奮闘してきたと思ってるの」

「ふ、はは」

 

 散々な言いように思わず笑ってしまった。

 

「珍しいな。朱雀さんから、そういう愚痴を聞くのは」

「もう守秘義務も何もあったもんじゃないし。もう学生が年々幼くなるんだもの。やってられないよね」

 

 多分1000年以上前から言われてることだと思うけど、と、小さく肩を竦めて、朱雀さんは優しい声で続きを語る。

 

「ていうかさ、少々甘えてくれないと困るよ。モモンガさん、ぼくの半分くらいでしょ、歳」

「そう、だったか? そうか、そうだな、うん」

 

 しばしの沈黙。

 のち、ふふ、と、どちらともなく笑いがこみ上げる。

 

 うん、そうだ。もう少し、頑張ってみよう。

 態度ひとつで幻滅されるような人間じゃなくなれば良いんだ。

 

 できるかどうかは、まだ、わからないけど。

 

 

 

「失礼致します」

 

 会話が途切れたと同時、ユリがトレイにお茶を乗せて戻ってきた。さりげなくタイミングを計ってくれていたのだろう。そっとテーブルに置かれたカップから、ふわりと豊かな香りがたちのぼる。

 

「……ああ。良い香りだな」

 

 甘やかな、けれどしつこくない、なんていうか、優しい匂いがする。お茶なんて取引先で出されたものしか飲んだことないし、美味しいと思ったこともないけどこの香りは結構好きだ。

 ユリが選んでくれたのだろうか。彼女もアンデッドだから、同じテーブルに着く者が等しく楽しめる方法を考えてくれたのかもしれない。

 

「ありがとう、ユリ」

 

 少々気が解れたのか、存外、するりと礼を言うことができたが、当の本人はわたわたと慌てだしてしまった。

 

「も、勿体のうございます、御礼など! ボ……、私は……!」

「ユーリ」

 

 間延びした朱雀さんの声にユリは、はっ、と息を飲むと、そのまましおしおと身体を縮めて、申し訳ありません、と控えめな態度で謝罪をする。

 

「? どうしたんだ、一体」

「“死獣天朱雀とのお約束事項”第2項」

「おやくそくじこう」

「“至高の御方にお礼を言われても、辞退せず素直に受け取ること”」

 

 言いながら、朱雀さんはカップを手に取り、お茶を一口含んだ。透明な頭に、オレンジ色の液体が滲む。

 

「なるほど、それは必要だな」

「でしょ?」

 

 しょんぼりしてるユリには悪いけど、お礼を言う度にこの対応じゃこっちの立つ瀬がない。結局命令で押さえつけてることには変わりないかも知れないけど、じわじわと意識を浸透させていく手段としては、悪いものじゃないと思う。

 こちらとしてはもうちょっと気軽に接したいのだ。向こうからあんまり壁を作られても困る。

 

「ユリ」

「はっ、はい!」

「我々は心底感謝しているのだ。お前達がいて、本当に助かっている。どうか、素直に受け取ってくれるよう、皆にも伝えてはもらえないだろうか」

 

 できる限りまっすぐに視線を合わせながら、ユリにそう伝える。彼女は幾度か迷うように口を開閉させた後、きゅ、と引き結び、畏まりました、とお辞儀と共に恭しく返答をくれた。

 

 そんなやり取りがあってすぐ、ルプスレギナと、一般メイドの3人が、失礼致します、と声を掛けてくる。

 

「いただいた業務、すべて滞りなく終了いたしましたので、ここに報告申し上げます」

「ああ、ありがとう。長い時間拘束してごめんね」

 

 なんかあげられるものないかな、と、朱雀さんがアイテムボックスをあさり始めると、途端にメイドたちは青ざめた。

 

「そんな! お止めください、死獣天朱雀様!」

「至高の御方より直接お仕事を頂戴しておきながら、これ以上のものをいただくなど!」

「やー、でも、ねえ」

 

 朱雀さんは困ったようにこちらを見る。仕事に対して報酬を、という考えには完全に同意するところだ。ましてや時間外労働に対してはなおさらのこと。

 

「受け取っておいてくれるか。忠勤には報酬で答えるのが礼儀というものだろう」

「で、でも……」

 

 尚も躊躇するメイドたちに、こっそり耳打ちする赤毛の娘がひとり。

 

「戴けるっていうならもらっておくッス! あんまり遠慮するのも失礼にあたるッスよ?」

「……ルプー」

 

 態度を戒めるユリの冷めた声に、ぴゃっと竦みあがるルプスレギナ。それを見て困ったように微笑むあたり、彼女なりに柔軟に対応しようとしているのが見てとれる。

 

「ユリ、構わん。そう堅苦しい場でもないのでな」

「寛大なお言葉、ありがとうございます。モモンガ様」

 

 そこまでのやり取りでようやく一般メイドたちは、はにかみながらも報酬を受け取ってくれる気になったようだった。そわそわと待つ姿がとても可愛らしい。彼女らを作った3人にも見せてあげたかったな。

 

「……、ごめん、今渡せるのこれぐらいしかないや」

 

 ごそごそと取り出されたのは、クッキー缶が3つ。それも贈答用のでっかいやつ。あー、なんだっけこれ。8年か9年くらい前のハロウィンイベントで配ってたような記憶がある。賞味期限とか、は……、大丈夫かな。イベントアイテムだし。

 

 冗談みたいな大きさのそれを、一般メイド達に直接手渡していく。にしてもなんだか、孫にお菓子をあげるおじいちゃんみたいだな……。実年齢を考えたらそのぐらいだしなあ。

 

 受け取ったメイドたちはというと、なんだかふるふると震えている。涙目になってる娘もいるし。時間外労働の対価にお菓子はちょっと嫌だったのかも。

 

「……労働時間の対価として見合っていないのでは?」

「……やっぱそうだよね、ほかの……」

 

 もう一度アイテムボックスを漁ろうとする朱雀さんに、先程までのしおらしさはどこへ行ったのか、メイドたち3人はずいっと一歩前へ出て、叫ぶような勢いで主張を始めた。

 

「とんでもございません!」

「何よりのご褒美です!」

「大切に飾っておきます!」

 

 飾ってどうする。

 

 同じことを思ったのか、みんなで食べてね? と朱雀さんは念を押す。

 一般メイドたちは再三丁寧にお礼を述べて、クッキー缶を大切そうにインベントリへ仕舞うと、ちょっと名残惜しげに自室へと戻っていった。

 

「さて、プレアデスの2人はもうちょっと番をしててもらわないといけないから、後でね。……で、悪いんだけど、これからちょっと内緒の話をするから、扉の外で待っててもらえる?」

 

 よっこらせ、と立ち上がった朱雀さんに、外に出るよう促され、2人は不安げに顔を見合わせる。自分達に何か落ち度があったのかと心配しているように見えた。

 

「お前達に不手際があったわけではない。私達の我侭につき合わせて悪いが、従ってくれるか?」

 

 だんだんわかってきたことなんだけど、NPCたちはどうも支配者権限で強く命令される他に、殊勝なお願いにもかなり弱いらしい。あんまり多用すると効かなくなりそうだから程々に使わなきゃならないが、個人的にはこちらの方が胃に優しいのでついつい下手に出てしまうのだ。

 

 幾分かほっとした様子で、畏まりました、と声を揃えて、ユリとルプスレギナは執務室を出て行った。何かございましたらすぐにお呼びください、と言い残して。

 

 ふいに朱雀さんの方を見れば、ほら君達も出て行った出て行った、と、天井に張り付いていた八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジアサシン)達も引き摺り下ろし、ずいずいと追い出しているところだった。

 

「お、お待ちください! 死獣天朱雀様! 万一この部屋に侵入者などありましたら……!」

「待たない。誰がどこからどう入ってくるの、こんなとこ」

「し、しかし!」

「しかしも案山子もないの。お嬢さん方は聞き分けよく出て行ってくれたでしょ」

 

 職務の違いが、とか、至高の御方に何かあっては、とか、なかなか頑張って粘っていたが、物理的に押し出してくるレベル100の上司に本気で抵抗できるはずもなく、最終的には納得したようで、扉の外に出て行ってくれた。

 なんかちょっと申し訳ないけど、許してくれ。俺の心の平穏のために。

 

 最後のひとりまで見送ってから扉を閉めた朱雀さんは、こぽぽ、と、長めのため息を吐いて、くるりとこちらを振り返る。

 

「……モモンガさんさ、NPCにお願い押し通すの上手になってきたよね」

「いやいや、朱雀さんほどでは」

 

 ふっふっふ、としばらく悪代官のようなやり取りが交わされる。本題に戻るべく、長椅子に座ったタイミングで、朱雀さんに問いかけた。

 

「で、話っていうのは?」

「そうそう、ちょっと相談ごと。どうしようかなって」

「相談事?」

 

 うん、ともう一度頷いて、朱雀さんは優雅にお茶を飲み始める。

 この調子だと、あまり緊急性の高い用件じゃ――。

 

 

 

「攻性防壁で召喚された10位階のモンスターがさっき撃退されたんだけど」

 

「えっ」

 

「どうも相手がノーダメージみたいなんだよね」

 

「えっ」

 

 

 

――ないですか……。

 

 

 

 

 

 

 




今年の目標
プレアデス及び一般メイドちゃんたちの出番を増やす。


本日の捏造

・スタックした分があふれる事案
そもそもユグドラシルの家具でアイテムスタックができるのかの言及があったようななかったような。


次回は3日後。情報収集2日目ですがどのくらい情報を出そうかまだ悩んでます。がんばる。


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