ペルソナ3×仮面ライダーエグゼイド【ゲンムがほぼメイン】   作:K氏

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 社長、人生はじめての……というわけで、オリジナルガシャットの力のお披露目前に、何故か思いついてしまったシーンを書きたいだけ書くなど。

>どうでもいい……


社長、ナンパする。

「……私は、何をやっているんだ」

 

 燦々(さんさん)と照り付ける真夏の太陽。太陽の周りには、広がる青空。所々に浮かぶ白い雲と、水平線で海と交わる光景がアクセントとなって、実に美しい景観であると言える。……檀黎斗が、そんなシチュエーションを楽しめるような人間であれば。

 

「きゃっ、風花やったなー!」

「ひゃあッ! 冷たーい! フフッ!」

「なるほど。喜んでいるのを見る限り、とりあえず水を掛ければよろしいのですね?」

「えっちょ、何を……」

「水掛け、全・開ッ! であります!」

「ブボボババボボ!?!?」

 

 キャッキャウフフというのは、ああいうのを言うのだろうと、砂浜に打ち付けられたパラソルの下にあつらえられたビーチチェアに寝そべりながら、黎斗はそんな事を考えていた。自分自身、らしくもない考えをしているものだとも思いつつ。

 

 現在、学校が絶賛夏休み中のS.E.E.S.がいるのは、日本の本州から南に離れた島、屋久島。

 屋久杉で有名なこの島には、桐条家の別荘が存在しており、美鶴の父、武治からの提案もあって、この島にやってきたのだ。

 そして、現在は二日目。本来であれば、黎斗はこの日の朝にでも本島にある会社へと帰っているはずなのだが、武治に諭され――黎斗自身は、「よもや断るまい?」という圧力だろうと勝手に考え――、仕方なしにこの島でバカンスを送る事にしたのだ。

 

……が、案の定と言うべきか、ゲーム以外には無頓着な彼は、こうして電源も存在しない砂浜で、ただ無意味な時間を過ごしていた。

……否、過ごしていていいはずがない!

 

(……そろそろ抜け出すか。何か理由でもつけて……)

 

 「社員にも休暇は必要」という事で、ミネルバはゆかり達と楽しんでいるようだ。いつの間にか(美鶴を除く)女性陣で買ったと思しき、水色の水着を着ている。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という思いが頭をよぎるが、すぐにその考えを振り払う。

 

(……暑いからな。熱に浮かされたのだろう)

 

 そう自分に言い聞かせると、チラリと隣を見やる。

 

 パラソルの支柱を挟んで置かれたビーチチェアに、先程までの黎斗と同じように、美鶴が優雅に仰向けになって寝転がっている。というより、寝ている。

 制服の上からでも分かる抜群のプロポーションの持ち主である彼女は、白の水着にパレオという、その悩ましい肉体も相まって、どんな男でもイチコロであろう妖艶さを醸し出している。

 当然だが、その「どんな男」には、黎斗は含まれていない。彼は女性に対して、個人的にはそれ程興味がない。それどころか、寧ろゲーム作りにおいて、自分自身の色欲は邪魔だとすら考えている。現に、彼が今までに製作したゲームには、『ときめきクライシス』のような恋愛ゲームはあるものの、色欲を感じさせるようなゲームは一つたりとも作った事が無かった。

 

――そんな矢先であった。

 

「ほほぉーう?」

 

 突然、鬱陶しい声が掛かる。

 その声の主――伊織順平に、黎斗は思わずうんざりとした様子で向き直る。

 

「……何だね、一体」

「いやいやぁ~、黎斗クンも、オトコノコなんだなぁってね」

「…………」

「ちょっ!? そんな冷たい目やめて!? 普通に否定して普通に!」

 

 どっちなんだ、と思いつつ、黎斗はなおも冷ややかな目を順平へと向ける。

 

「まぁ、お前が今考えている事は、分からんでもないぞ。黎斗」

「……真田さん」

 

 見れば、その隣には引き締まった細マッチョな男――真田明彦が立ち、うんうんと頷いている。

……ちなみに、順平は普通にトランクススタイルのものを穿いているのだが、明彦はなんとブーメランパンツである。もう一度言う。ブーメランパンツである。

 スポーツマン故にそんな水着を選んだであろう事は明白ではあるが、ここはプライベートビーチではない。

 他にもやってきている人がいるというのに、流石にそのスタイルはまずいだろうという事で急遽、白いシャツを着てきたのだが、今の黎斗の位置からだとそのブーメランパンツが良く見えてしまう。なんというか、生々しい感じに膨らんでいる感じが、目も当てられない。というか毒だ。

 

 そのままトレーニングへの情熱を熱弁しだした明彦を前に、黎斗は極力嫌そうな顔を見せず、しかしゆっくりと目を逸らす。

 目の保養になるとすれば、不本意だが、全くもって非常に不本意だが、隣で寝ている美鶴の方だろう。

 

「……だーッ! とりあえず、お前来い!」

「えっちょっ、待っ――」

 

 そこが命取りだったのか、黎斗は順平に引きずられるようにして、影の外から引きずり出されてしまった。

 

 照り付ける陽の光が、黎斗の白い肌を容赦なく焼く。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「……断る」

「えー、いいジャン! やろうぜ、ナ・ン・パ!」

 

 順平がわざわざ(理事長を除く)男性陣を招いた理由を聞き、黎斗は一層、げんなりとした様子を見せる。

 彼らがいるのは、他の面々がいる場所より少し離れた木陰。そこで順平が明かしたのは、ナンパ。

 

「時間の無駄だと思うんだが」

「しかし、やらないならやらないでなんだか負けた気がしないか」

(この脳筋が……)

 

 内心で明彦に毒づきながら、黎斗は溜め息をつく。

 

「……そもそもの話、ナンパをする事によって、私に何の得がある?」

「そ、そりゃあ、水着のカワイコちゃん達と渚のデート――」

「言っておくが、私にはそんなものはどうでもいい。そんな事をする暇があったら、新作のゲームの開発をする。時間の無駄だ」

 

 それを聞いて「確かに」と同意を示したのは、他ならぬ明彦。

 

「正直、ナンパをしたからと言って、身体が鍛えられるわけでもないしな……」

「おや、話が分かるじゃないですか」

「ちょいちょいちょい待ち! いやいやいや、海ですよ!? 水着ですよ!? 女の子にときめかないんですかアンタら!?」

「どうでもいい」

「右に同じく」

 

 何故か黎斗の脳裏にときめきクライシスの起動音声が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだ。

 

 二人の返答を聞き、思わず順平が天を仰ぐ。……が、そこは順平。こんな事ではへこたれない。

 

「そっ、そぉーだ! 黎斗、お前恋愛ゲーって作ってねぇの!?」

「……まぁ、データぐらいならあるが。それが何か?」

「だったら話は早いぜ! いいか? フツー、どんなゲームを作るにも知識は必要だろ?」

「……それはそうだが」

「ならさならさ! 面白い恋愛ゲーを作るのに必要なのは……そーゆー経験だと思うんですよ俺っちてば!」

 

 なるほど。一理ある、かもしれない。どんなゲームを作るにも、必要不可欠な知識のデータというものがある。特に、現実に則した技術があるゲームならば尚更。

 もっとも、求めるのはリアルではなく、あくまでもリアリティーだ。リアルを突き詰めてしまっては、プレイヤーが見たくないものまで映し出してしまう事になる。それは駄目だ。

 ゲームはゲーム。現実ではなく、誰もがヒーローになれる世界でなければならない。それに――

 

(確かにときめきクライシスのデータは頭に叩き込んであるし、一通りパソコンに入力済みではあるが……もし、あれよりも面白くできるとしたら?)

 

 順平の言いくるめが、まさかの功を奏した瞬間だった。

 

「それにぃ、真田センパイもぉ、身体だけ鍛えてていいんスかぁ~?」

「何? どういう意味だ」

「つまり、精神的にも鍛えなきゃいけないと思うんスよォ~! ホラ、ボクシング部のエース、真田明彦と言えば! やっぱり女の子がたくさん来るじゃないッスか! だから、もし女の子がいっぱい来てもいいように、平常心で対応できるようにしないと!」

「美鶴となら話せるぞ?」

「美鶴サン以外は?」

「…………」

 

 明彦はただ、沈黙した。

 

「……いいだろう。今回は君の口車に乗ってやろう」

「……非常に不本意だが、同じく」

「人聞きの悪い事言うなっての! ……ヘヘ」

 

 こうして、二人はまんまと順平に丸め込まれてしまったのだった。

 

 

 

 

――そして時は過ぎ去り。

 

 

 

 

「何故だ……何故一人もナンパできないッ……!?」

「そりゃ、あんなアプローチじゃ寄り付くわけないじゃないッスか……」

 

 明彦と順平は、二人して地に伏せていた。

 そう、見ての通りナンパに挑み、そして見事に敗北、撃沈したのだ。

 

「……ふむ。明らかに見た目は女。だというのに男。……これは全年齢向けではないな」

 

 そんな二人とは対照的に、黎斗はたった一人、夕焼け空を背に堂々と立ち、そして思考の海へと潜っていた。

 

 彼も失敗したのか? 否、逆である。ただ一人、成功していたのだ。

 そも、黎斗は人生経験で言えば、他の二人の追随を一切許さない程度には積んできている。何せ、本来の世界での約30年に、こちらの世界での10年程、加えて社長として社交界でも渡り歩いてきたのだ。しかも、ときめきクライシスの製作時に培った知識もある。

 普段の紳士的な立ち振る舞いを貫いたままなら、そんじょそこらの女性を口説くなどわけない。素の状態でナンパをしろと言われたら、まず間違いなくアウトだが。

 

 ちなみに、口説いた女性には何かしらの理由を付けてそそくさと別れた。何とも罪な男であるが、本人は全く罪悪感などこれっぽっちもないのだから余計性質が悪い。

 

「畜生……これが、汚ねぇオトナのやり口ってかぁ……」

「待てよ……つまり俺は……後輩に負けたのか……?」

「悔やむ事はない。これも経験の差だ。人生の、ね」

 

 非情にも追い打ちをかける黎斗。そのたった一言で、それまでのナンパでの数々の失敗が祟り、ハートブレイク寸前だった二人の心は、完全に折れてしまった。こればかりは、如何にペルソナが心の鎧であっても防げない。

 

 そこに、海で遊び終えたS.E.E.S.の女性陣が集まってくる。

 

「あ、おーい、檀くーん! ……と、あれ、順平に、真田先輩? 何してんの二人とも……?」

「何、ただの日焼けだよ。順平はモテたいが為にワイルドさを。真田先輩は、我慢強さを磨きたいらしい。もう少しやっていくそうだから、しばらくそっとしておこう」

「ふーん……」

 

 本当にテキトーな言い分だが、順平、明彦ともにダウンどころか戦闘不能状態の為、それどころではなかった。

 

 こうして、黎斗は二人を放置し、女性陣と共に先へ桐条の別荘へと戻っていった。

 その後、残された二人がようやく我に返り、慌てて別荘へと向かったのは、日が沈んでしばらく経った頃だった。




 本筋と全く関係ないし、山もなけりゃオチもない。そんな与太話があってもいいじゃない。人間だもの。ミツオ。

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