進め!にゃんみく探偵団!   作:君下俊樹

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胸とか言うなよ。

キャラ崩壊あるのでご注意。ギャグ時空だから仕方ないねと思えない方にはお勧めいたしません。

荒木先生とクズかれぴとゲスPのお話を考えていたら遅れました。
モンハンワールド楽しいですね(正直)。


風もない凪のように穏やかな

 前川みくは優しい。

 

 前川みくは生来世話好きな気質であり、捨て猫を一度は通り過ぎても、後々罪悪感で居ても立っても居られずにその場所へ戻り、拾われていたことに多少の後悔と安堵を覚えては、その代わりに事務所で全員の世話を焼こうとするような優しい、それはもう優しい一般市民である。

 

 前川みくは多少のイタズラにも目を瞑り、少しばかりのヤンチャも笑って済まし、理不尽にファンが減っても戒めとして己を奮起させることの出来る、優しく強い少女である。

 

 

「お前を殺す」

 デデン!

 

 前川みくは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐のPを除かなければならぬと決意した。

 念のためもう一度言っておくが前川みくは優しい少女である。彼女のフィギュアを徐ろにひっくり返して白か……と呟いたところで、顔を真っ赤にしながら『それは流石にやめてほしいんだケド!?』っつって目をグルグルさせながらベシベシはたきはすれども本気で怒りはしないくらいには優しあああああああ可愛いいいい────失礼しました。熱盛と出てしまいました。

 

「許さにゃい……次にPチャンと会うのは法廷だにゃ!」

「……どうしたのですか? みくちゃんさんが、ここまで怒るなんて」

 

 ふと、事務所の隅で本をパラパラとめくっていた鷺沢文香は顔を上げてわいのわいのと騒がしい彼らに視線を向けた。集中できないというわけではなかったが、単に何度も読んで結末どころか何ページ何行目と言われても大体は思い出せる本より、そちらの方が興味があっただけの話だった。

 

「ああ、さ……文香。君からも、みくを説得してくれませんか」

「何があったのか教えて貰えませんと、私からは何も……」

 

 フシャー、と喉を鳴らして威嚇するみく。どうにか宥めようとソファーを陣取る猫に手を伸ばしても神速の猫パンチにはたき落とされる始末。

 これはダメだというわけでPは距離を取ることにしたが、その間も恨みがましい視線がチクチクと、文香を通り越してPに突き刺さっていた。

 

「次回のお仕事なんですが、あの五十嵐さんのアシスタントなんです。それも公録」

「はぁ」

 

 世情に疎い文香でもあの五十嵐と聞けばそれが五十嵐響子を指すのだとわかった。

 どこぞの週刊誌で息子の嫁に欲しいアイドルランキングNo.1なんて称号を勝ち(?)取り、料理の写真をツイートすれば軽く5万のリツイートがツイッター上に溢れかえるような良妻系アイドル、それが五十嵐響子。なお、15歳である。

 

「当初はハンバーグとか、その辺になる予定だったんですよ。けど、前々からのリクエストとか旬の食材の関係で、知ってか知らずかお魚ハンバーグになっちゃって」

「……ああ、それであのように」

 

 ぶっすー、と頬を膨らませていかにも私不機嫌だにゃと態度で主張する魚嫌いなネコミミ。睨みを利かせていた先ほどまでとは違い、彼らを見ようともしないのは今の自分がただの八つ当たりイキリネコミミであると自覚しているからかもしれない。

 そんな折、キキィ、と扉が開かれてちょこんと少女が顔を覗かせた。

 

「こんにちはー……あら、どうしたんですか? みなさん、固まって」

「あ、藍子さん、おはようございます」

 

 それは、紛れもなくヤツである。高森藍子。この事務所における下世話な話、稼ぎ頭のうちの1人であった。ほんわかとしたゆるふわオーラが魅力的な癒し系アイドルである。

 しかしその癒しのオーラを振り撒く藍子を見てあっやべーヤツが来たと、みくは自身の死を悟った。死んだ目を泳がせてなるべく顔を合わせないようにした。それは一瞬の出来事であったが同時に文香も顔を逸らして自然な動きで一歩下がった。

 

「あっ、もう。またですよ。藍子で良いって何度も言わせんなや言ってるじゃないですか」

「ん、今何か……」

「気のせいですよ」

 

 気のせいなら仕方ないですね。とPはほんわかと微笑む藍子に釣られて破顔する。それがまた気にくわないのか、みくはPの膝を蹴りつけて、ソファーの背もたれに顔を埋めた。

 

「みくちゃん、どうかしたんですか? やっぱりお魚食べないからカルシウム足りてないんですか?」

「ちゃんと毎日牛乳飲んでますゥー!」

 

 にゃ。と取ってつけたかのように小さく続けたのはご愛嬌である。かくかくしかじかダイハツムーヴと先程文香に説明したように藍子にもみくの不機嫌の理由を説明する。

 

「なるほど、それで」

「ええ。藍子、ぜひ君にも説得に協力して欲しいのですが」

「では、こうしましょう」

 

 ポン、と藍子は手を打った。みくは不審げに文香は不安そうに、彼女を見て両手でバツの印を作る。しかし、一縷の望みに賭けてPはそれを気にせず続きを促す。次回、『前川死す!』ジュエルスタンバイ!

 

「無理矢理にでも魚を食べさせて、慣れさせるんです」

「発想がアレルギーの子を殺す大人のそれ」

 

 スパルタにも程があるにゃと抗議し、なんとか勝訴をもぎ取ることに成功。ではどうするかと四人の知恵を振り絞るが、あまりいい案は出て来なかった。舌を焼いて味を分からなくさせるとか、水で流し込むとか、

 

「舌をこんにゃくで包んで守るとか……」

「文香ゾ口リ読んでたんですね」

「普通のハンバーグを別に用意して貰えばいいのでは?」

「藍子チャンがまともな意見を出した……だと……にゃ」

 

 ある程度は言葉を選んだみく。

 だがそれが逆に(?)藍子の逆鱗に触れた!

 ガッチリとコブラツイストを極められて悲鳴をあげるみくを戦力外とし、気持ち新たに3人で意見を出し合う。

 

「やっぱりダミーを用意してもらうといっても、響子さんもプロの料理人ではありませんから違う材料から全く同じ見た目にするなんて難しいでしょう」

「……今の時代、ネットの影響も大きいですから、安易な考えでは動けません」

 

 藍子や文香の言う通り、料理番組でダミーを食べたなんて事があれば双方のイメージダウンも免れない。今のネット社会が発展した世の中では、今後の人生にも大きく関わって来るだろう。

 

「敢えてこちらから魚嫌いを公表して、《○○嫌いでも食べられる!!》────みたいなのはどうです?」

 

 のんのん、と地底の奥底から声が聞こえる。猫キャラとしてイメージは大切らしいが、えり好みできる立場か、と突っ込んでやればぐぬぬぬぬ……にゃ、と地獄より怨嗟の声が響いた。

 

「こうなったらアレしかないですね……」

「アレ、とは……」

「魚料理が嫌いなら、嫌いじゃない魚料理を作ればいいんです」

 

 ほう、と3人の目が光った気がした。その拍子にゴキリ、と人体からしてはいけない音が響いたような気もした。気がするだけだ。地に伏せる猫などいない。

 

 

 

 

 

「どうも! 今週もやってまいりました、《(ハート)五十嵐響子の女子ごはん(ハート)》! はい、パーソナリティ兼、コックさんの五十嵐響子です」

 

 パチパチと割れんばかりの拍手が巻き起こり、照れたように響子は笑み(難波でない)を浮かべた。そうしていつものように和やかに生放送はスタートした。

 Pはといえば、スタジオの隅の方でそのハートは本当に読むものなのか……? えってか結構露出エグくねスカートアレでいいのほらえっうわヤバいあのエプロンめっちゃスケべじゃんと真剣な顔をしてそこまで重要じゃない考え事を巡らせる。

 

「本日も、素敵なゲストをお呼びしております。どうぞー!」

 

「はーい! みなさんお待ちかね、ネコチャンアイドル、前川みくだよ! よろしくニャン☆ ほらいっしょにー……ニャン☆」

 

『ニャン!!!!!!』

 

 野太く雄々しいちょっとキレ気味な大合唱がスタジオに響いた。もっと可愛くやって、と前川さんからのお触れを頂戴したため、2take目は可愛く野太く雄々しくかわいい益荒男のようなにゃんコールが響いた。Pももちろん参加している。

 ちょっとだけ動揺したものの響子はすぐに持ち直して進行を務めた。

 

「は、はぁい! そんなわけで、今日は大人気ネコミミアイドルの前川みくさんに来ていただきました───!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ────トーク部分の収録は恙無く進行し、年頃の女子2人が仲良く談笑をするだけの見ていて微笑ましいような懐かしいような光景があった。

 が、収録が調理場面に移ったところで、早速大きな山場を迎えた。猫プリントのエプロンを装備し、肘の辺りまで長袖をまくり、白魚のように細やかな指先を丹念に洗うみく。その表情は──素人目には分からない程度に──暗く、ぎこちなかった。

 キュッ、と水道を止める。どうやら観念したようだとPも固唾を呑んで見守る。

 

「……さ、さぁて! それじゃあみくはタネを作ろうかにゃぁ」

 

 そして、みくはその手で生姜の汁に浸かった鰯を摘んだ。水ですすぎ、三枚におろし、フードプロセッサーにガガガとかける。その手付き自体は手馴れたもので、オーディエンスにもなんら違和感を与えるようなことはないだろう。

 

 ガガガ

 

 ガガガガ

 

 

 ガガガガガ(春過ぎて)

 

 

 ガガガガガガガ(夏来にけらし)

 

 

 ガガガガガ(以下省略)

 

 

 にゃんみく心の俳句。

 それにしても長くね? とPが疑問に思うのも当然だ。それほどまでにみくは鰯を丹念に丹念にフードプロセッサーにかける。

 カメラは響子の手元を追っているし、観客もまたそちらや画面に映る響子の手元を見ているのでまだ怪しまれてはいないだろう。しかし、みくはまるで親の仇かのように魚をすり潰しまくる。

 

 ふぅ、とみくが清々しい顔で息をついた頃には彼らはペーストどころかもはやこれはゲルじゃないかと思うくらいにすり潰されていた。

 しかしそこはさすがの前川さんと言ったところか、こなれた手つきで上手く繋ぎ合わせて見事に成形していった。

 

「────響子チャン、できたケド。そっちどうかにゃ?」

「あ、ありがとー。じゃあ、メインディッシュに取り掛かりましょう!」

 

 オーブンレンジの方で作業をしていた響子がそう言うと、カメラが少しフェードアウトして二人を映す。Pはここら辺で一旦切れるのな、と思いながら笑顔を見せるみくを心配そうに見つめる。

 そんな心配をよそに、二人はストローの付いたペットボトルで水分を補給して少し息を吐く。のんびりと二言三言の会話を行いながらも調理器具や、皿に水を張る手は止まっていない。

 

 

 

 ここらで、ネタばらしと行こう。彼女が公録までにしてきた特訓とはすなわち、苦手意識の改善。一言で言ってしまえばそれに尽きる。

 

 意外にも女子力の高いP、あまり料理はしないものの人並みにはできる文香、鬼殺しの藍子、当然のように女子力天元突破なP嫁による出来る限り魚々しさを抑えた料理を食べることで『もしかして魚って大したことないのでは?(池沼)』と思わせる作戦である。

 それが功を奏し、上手いこと洗脳いい感じに魚料理を食べられるようになったみく。刺身とかThe・魚みたいなのはまだまだ食べられる気がしないにゃとは本人の弁である。

 

 

 

 そうして挑んだ今回の収録。あと数分もすれば『お魚煮込みハンバーグ』も完成である。女子ご飯らしいヘルシーなサラダを器に盛り付けてあとはご飯が炊き上がるのを待つだけというところ。

 お腹が空いたな、とPはもう夕飯気分。帰ったらとりあえずビール、これもまた人の性なんだなぁと哲学者気取りが思考をそらしていると響子の明るい声が聞こえてきた。完成だ。

 

 

 

「「いただきまーす!」」

 

 未成年に優しい麦茶で乾杯すると、お行儀よく箸でスイスイと食べ進める響子。対面のみくは未だ、一口目をご飯の上にバウンドさせている最中である。それを見た響子の純粋な?マークがみくに直撃する。覚悟を決めて口に運んだ。

 

「……………あー────」

 

 フルフルと震える肉が、薄桃色の境界を越えて、口の中に滑り込む。

 パクリ、と口に入れてしまえばもぐもぐごくん、それだけである。

 

「……! おいしい!」

 

 スタジオの中でしゃがみ込み、安堵に一息ついた。パクパクとみくはサラダもごはんも食べ進め、最終的に響子の料理番組はヘルシーとは、アイドルとはなんぞやと視聴者に問いかける教育TVと化した。無論、大成功である。

 

 なお、みくの一口目が妙にエロいと密かに話題になったとかならないとか。プロダクションの公式アカウントがそう呟いたとか呟いてないとか。ちひろさんに怒られ当該ツイートは削除されたとかされてないとか。

 

 

 

 

 

 

 前川みくは優しい。

 

「やはりあの時生かしておいたのが間違いだったにゃ」

 デデドン!(絶対特権)

 

 そうでもない。

 

「……今度はどうなさったんですか?」

 

 少し呆れ気味に問いかける文香。ちょっと雑になっているのは否めないもののそれでも気を遣って話を逸らしてあげるあたり文香の方が優しいまであるかもしれない。

 

「ああ、文香。ちょうど良かったです、君もみくを説得してくれませんか」

「今度は鯖ですか?」

「違うにゃ! 流石に今回はみく悪くないもん!」

 

 バッと突きつけられたのは企画書の紙束。1ページ目、大きく縁取られたそのタイトルは────。

 

「────『前川みくV.S.焼き鮭』…………?」

 

 パッと反射的にPを振り返る。いくら、特訓をしたとてV.S.焼き魚なんてそんな“魚ァーッ!”って感じの企画書にPが許可を出すわけがない、そう思っていた。文香は信じられないようなものを見る目でPの瞳を見つめる。

 

「…………いや、うん、いけるかなーって」

 

 今度はPが目を逸らした。




探偵団のメンバーはガチャで決めました。
草案が『前川みくV.S.焼き鮭』です。お弁当交換によって自然死に見せかけてみくを鮭殺する智絵里のお話でした。自分で書いてて流石に意味がわからなかったのでちょっと書いて消しました。

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