チャプター9
チャプター9 崩壊した日常
埃と血で汚れた格好の女性がマンションの一室へ駆け込む。その顔は恐怖で引き攣っており、入って来たドアの鍵をし、チェーンを掛けたのを何度も確認してからやっとその場にへたり込んだ
「はぁ……はぁ……こ、ここには化け物はいない見たいね……」
彼女は突然悪魔が現れた3日前から一箇所に留まる事ができず、ずっと隠れ場所を探して逃げ続けていた
「沙希、希……うっうっ……」
一緒に買い物を楽しんでいた友人の事を思い出し、彼女は涙を流す。沙希と呼ばれた女性は悪魔に、希と呼ばれた女性は血走った目をした男達に捕まった、どうなったかなんて考えるまでも無いだろう。今だって彼女は複数の男に追い掛け回され、やっとの思いでこのマンションに逃げ込んできた所なのだから……
「ごめん……見捨ててごめん……」
2人が襲われている時に見捨てて逃げてしまった。それが彼女の心に深い影を落とす……そしてそれはさらに玄関に置かれた写真立てを見てせいで更にその罪悪感を強くさせた。3人で撮った写真……そう彼女が逃げ込んで来たのは沙希と呼ばれた女性のマンションだったのだ。
「沙希らしいわね、本当に家が綺麗」
涙を拭った女性は家の中を歩き出す。綺麗に整えられた部屋に綺麗好きだった友人の事を思い出しながら部屋に向かう。カーテンで閉ざされたその部屋は何度も訪れていた1LDKの若い女性が暮らすには十分すぎるその部屋。そこで何度も遊んだ事を思い出しながら寝室へ向かう、この3日間禄に眠っていないだからベッドで休ませて貰おう。そう思った彼女は寝室に入り、カーテンで閉ざされた部屋の明かりをつけて……しまった
「え!?」
女性の目の前に飛び込んできたのは、巨大な姿見……そしてそこに書かれていた「電気をつけなくてよかったな」の文字……女性は不幸にもその都市伝説を知っていた、ベッドの下の斧男。それと全く同じ状況だと気付き
「い、いや!私は沙希と希の分まで生きるのッ!!!」
そしてベッドの下から重々しい音と荒い呼吸が聞こえてきた女性は完全にパニックになり寝室から逃げ出そうとしたが……もう遅かった。いや、もう彼女の死は逃れる事が出来る時期を完全に過ぎていた、電気をつけた。その瞬間に彼女の死は既に決まっていたのだから……
「……えっ?」
ベッドの下から恐ろしいスピードで伸びた斧が一瞬で女性の首を切り落とし、即座に伸ばされた異形の腕が女性の首と身体を同時に掴みベッドの下へと引きずり込むのだった……ベッドの下から光る紅い眼……それはベッドの下でにやりと笑い、再び部屋の明かりを消した。そして待ち続けるのだ……次なる獲物を……
久遠教授に助手席に座るようにと言われたので助手席に座っているのだが、地図を見る訳でもない、カーナビを見る訳でもない、俺は完全に暇を持て余していた。フィールドワークの際は後ろの席であり、助手席に座る事なんて無いから落ち着きもしない。しかしフィールドワーク用の4WDなので車体はかなり大きく、雄一郎達が乗り、更に荷物を積んでも余裕があったのは正直かなりありがたい。そして何よりもでこぼこ道を進んでいるのに、かなり安定しているのにも心底安心した。ガソリンと言う問題はあるが、それでも来るまで安全にそして素早く移動出来るというのは安心感が違っていた
「高校を出発する前にも話したが、生存者を見つけたからと言って決して不用意に信用するな」
久遠教授がそう切り出し、俺は出発前に言われていた久遠教授の注意を思い返していた
「では高校を脱出し、市街に出る訳だが。その前に注意点をいくつか言っておく」
4WDに皆で手分けをして荷物を詰め込んだ所で久遠教授がそう切り出した。注意点?俺達が首を傾げる中。久遠教授は大切な話だと言ってから説明を始めてくれた
「悪魔が出現し正直極限状態と言えるだろう、地震や台風そんな災害とは比べ物にならない大災害なのだから」
遠めに見ても今もなお上がり続けている黒煙。悪魔が暴れているのか、それとも消火される事の無い火がどんどん燃え広がっているのかは判らないが、市街とて安全ではないと言う事は判っている。
「そしてその様な極限状態で恐れる物、それが何か判るかな?」
「……倫理観の崩壊ですか?」
少し考えてからそう呟くと、久遠教授は満足げに頷きその通りだと微笑む。地震や台風、土砂災害などと言った大災害が起きた時、もっとも警戒すべきは性犯罪だ。桃と美雪先輩もその可能性が頭を過ぎったのか顔を青くしている
「それよりも状況は悪い、悪魔が闊歩し、死人が出る。その死人の中に警察がいれば?警察が所有していた銃器を手にしている可能性が高い。悪魔だけが敵じゃない、人間すらも敵になる。その可能性を視野に入れておいて欲しい」
そうならなければ良いのだが、その可能性がゼロではないのだからと言う久遠教授。悪魔を契約していると言っても俺達はあくまで生身の人間だ。銃で撃たれれば怪我をする、最悪の場合死に至るのだから
「単独行動は避ける、1人になった瞬間襲われるまたは攫われる可能性が高いからな」
「でもそれじゃあ何の為に市街に出るんですか?」
桃が手を上げてそう呟く、生存者が信用できないのなら街に出る必要は無いのでは?と言う桃の言葉も判るが……
「いつまでも高校には立てこもれない、今はまだライフラインが通じているが、何時それも途切れるか判らない。私の目的としては神無市も脱出してしまおうと思っている、行き先は決まっていないが、もしかすると他の街では悪魔の被害が少ないかもしれないしな」
脱出するといっても明確な目的地がある訳じゃない。だが今よりも状況が悪くなる前に移動するべきだという久遠教授の言葉も判る。状況は日が経つごとに悪くなっている、今日水が使えても明日も使えるという保証も無いのだから
「判ってもらえたようだな、では出発する!」
久遠教授の言葉に頷き、全員で車に乗り込んだのが2時間前。経った2時間前だが、それが随分と昔の事だったような気がする。危惧していた悪魔の襲撃は無かったが、久遠教授が危惧していた通りの事態になりつつあっていた
「久遠教授……さっきから廃墟や瓦礫の影から人間がこっちを見つめてます」
後部座席から雄一郎がそう呟く。俺も助手席から気付いたが、下卑た笑みを浮かべている男をさっきから何度も見ている
「か、楓……だ、大丈夫?」
桃もその視線に気付いたのか、怯えた様子でそう尋ねて来る。俺は大丈夫だと返事を返した、もし桃や美雪先輩を襲うつもりで姿を見せると言うのならばカソを呼び出して追い払うつもりで居る。
「頼りにしても大丈夫ですか?」
美雪先輩の言葉に勿論ですと返事を返すと、久遠教授が1度停まると呟く。フロントガラスから見ると炎上していないガソリンスタンドが見えた。雄一郎もそれに気付いたのか久遠教授に停まった目的を尋ねる
「給油ですか?」
「それもあるが、鬱陶しい。ああいう屑は大嫌いなんだ。楓君と雄一郎君はあんな馬鹿にはなるなよ」
恐ろしい表情をしている久遠教授に判りましたと俺と雄一郎は声を揃えて頷き、久遠教授はゆっくりと車をガソリンスタンドに停車させるのだった……
給油の為にガソリンスタンドに停まった俺達だが、給油する準備をする数分の間でどこに隠れていたんだ?と思うレベルで薄汚れた男達が姿を見せる。その手には血塗れの鉈やハンマー、中には釘バットやバールまでも手にしている。脱出の前にもう1度久遠教授の第二研究準備室から錆付いたハンマーや槍を持ち出しては来ているが、切れ味などで考えれば向こうの方が圧倒的に上だろう。
「よお!兄ちゃん達!うまくやったじゃねえか!!車に女が3人も!!俺も仲間に入れてくれよなぁ!!いいだろ!!」
「そうだぜ!そんなにいい女が3人なのに、2人で満足させられねえだろ!」
「そこの姉ちゃんよぉ!そこの子供よりも俺達の方が満足させられるぜ!なんなら試して見るか!」
下卑た言葉を吐き続ける男達に額に青筋が浮かぶのが判る。こんな状況だと言うのに何を考えているんだ
「そこの小柄な女子高生たまんえねえなあ!!背が低いのにそんなに胸が大きかったら肩が凝るだろ?揉み解してやるよ
」
「ひうっ!」
「……桃。大丈夫だから怖がらなくて良い」
涙目で楓の背後に隠れる桃子。それを見た男達は楓と桃子が付き合っているのだと思ったのか
「ヒュー♪格好良いねぇ!!だけどお前みたいなチビにはその子は勿体無いってもんだぜ!!」
「おいおい、そんな小さい餓鬼じゃ、満足出来ないだろ?俺が本当の男って奴を教えてやるよ」
「そうだよなあ、あんな餓鬼には勿体無いよなあ!!」
「あの小さい子もいいけど、あの長身の女子高生もたまらないなあ、ああいうクールそうなのが案外好き物なんだよ」
「いやいや、ああいうのは初心なんだよ。そう言うのに色々教えてやるのが溜まらないんだよ」
「な、なぁ……!?」
嫌悪感を露にする美雪先輩、こんな状況だと言うのに自分の欲求を満たす事しか考えてない大人に苛立ちを覚えた。こんな下卑た言う馬鹿が生存者だというのなら、そんな連中は皆死んでしまえと思う。こんな状況だと言うのに助け合う事もせず、下半身で物を考えるやつらに心底腹が立った。もしかすると既に性犯罪を犯している連中かと思うと、そんな連中に桃子や美雪先輩に久遠教授の姿を見せたくなかった。俺は無言で金属バットを構えたが、楓はスマホを取り出し、カソを呼び出す準備をしている、そうだよな。金属バットなんかじゃ甘いよな、車の中に置いて来た槍やハンマーを持ってきた方が良かったなと後悔したが、もう遅い。だから俺もスマホを取り出しコロポックルを呼び出す準備をするが、久遠教授が俺と楓の肩に手を置いて、ここは私に任せろと呟く
「満足出来ないか……まぁ確かにその通りかもしれないな」
久遠教授!?予想外の久遠教授の言葉に俺と楓だけではない、桃子や美雪先輩も久遠教授の顔を見る
「へへ、そうだろうよお。あんな餓鬼じゃなあ、満足なんか出来ないよなあ」
「姉ちゃん。俺達が満足させてやるぜ」
男達の浮かべていた下卑た顔に吐き気がする中、久遠教授はスマホを取り出して
「私の前に彼女を満足させてみるといい。そうすれば私が相手をしてやるよ、そんな事はありえないがな。リリムッ!」
スマホの画面に魔法陣が表示され、それが久遠教授の目の前の地面に移動すると、そこからリリムが出てきて下卑た顔を浮かべている男達を見て嬉しそうに笑う
【はーい♪久遠様!あれ本当に私の好きにしていいんですか♪】
「ああ、好きにすると良い。ほら、お前達の大好きな女だぞ?悪魔だがな、たっぷり楽しむと良い」
リリムを見て絶句していた男達だったが、リリムが1番前に来ていた男の頬に両手を添えて、口付けを交わすと男の顔から瞬く間に生気が抜け落ち、リリムが手を放すとその場で崩れ落ちる
「ひゅー……ひゅー」
その男は目を大きく見開き、涙を流しながらか細い呼吸を繰り返していたがその内動かなくなる。その姿に死んだかと思った、あんな屑だが目の前で死んだかもしれないと思うと顔が青くなるのが判る
【うーん……今一。味も旨みも足りないね……ねえ?貴方はどう?私と良い事しない?】
リリムが胸を強調するようなポーズをとり、ウィンクをしながら笑う。だが目の前の光景を見て、リリムに飛びつける人間が居るわけもなくリリムが近づいた事で止まっていた思考が動き出したのか
「「「う、うわああああああ!!!に、逃げろおおおおおおッ!!!!」」」
一応仲間意識はあったのか、リリムに口付けをされた男を背負い、悲鳴を上げて逃げていく男達を見たリリムは振り返り、久遠教授の方を見る。追いかけて行って良いか?と尋ねて居るように見える
「好きにしろと言った筈だが?給油が終わるまではこの場所に居る、移動を開始するまでに戻れ」
【はーい♪】
久遠教授の言葉に嬉しそうに笑いながら、逃げた男を追いかけていくリリム。久遠教授は仕方ないなと呟きながら振り返り
「リリムはサキュバスだからな、男の精気が欲しいのさ。楓君や雄一郎君が襲われる訳には行かなかった。それなら下卑た男を餌として与えた方がいい」
人間を餌と言うのは酷すぎる言葉だと思ったが、リリムの姿を見た事で今後あの男達が俺達を襲ってくる事は無いだろう
「では給油とついでに車中で食事を済ませてリリムが戻るのを待つ、色々言いたい事があると思うが……そこは飲み込んでくれ」
そう笑い、車の中に戻れと言う久遠教授の言葉に頷き、俺達はどこか納得出来ない物を感じながら車の中へと戻り
「さっきの正直どう思う?」
「……母さんのやった事は、良い事とは言いがたいですが……あれだけ倫理観が崩壊した相手に言葉で説得出来る訳が無いので、力を見せて脅したのは結果的に正しい事かと」
「確かにそうかもしれないですが、でもやっぱり納得出来ないものはありますよ」
怯えている桃子の背中を撫でながら言う楓。だけど俺は久遠教授の言った事は決して間違いではなかったと思うんだが……それは決して正常な人間の考えではない事も判っていて……俺も大分壊れて来ていると言う事を改めて実感しながらも、それが生き残るのに必要な事なら仕方ないと割り切り、車の後ろから乾パンと水のペットボトルを取り
「少しだけでも腹を満たしておこうぜ、これからまだ移動するかもしれないから」
楓達に乾パンと水のペットボトルを手渡し、俺は自分の分の乾パンの封を切り、乾パンを1つ口の中に放り込むのだった……
楓達が給油を兼ねて休憩している頃。神無市を訪れた2人組みの姿があった、1人は左目を前髪で隠し、漆黒の巫女服に身を包んだ異様な雰囲気を放つ少女。もう1人はかなりの長身でがっしりとした体格をした、白髪交じりの黒髪をした着物姿の男性だった。男性は周囲を伺いながら巫女服の少女に深く頭を下げながら
「魅啝(みわ)様。周囲に悪魔の気配は無いようですが、いかがなさいますか?」
年下に話しかけているようには思えない丁寧な口調。だが少女の方は男性の方を見向きもせず、興味も何も無いという素振りをとりながら周囲をその空虚とも言える瞳で見つめながら
「……とりあえず、お母様の指示に従う。この街に巣食っている悪魔の特定をしたら帰る」
「生存者は?」
「……興味ない、邪魔なら……切り捨てて良いよ。御剣」
殺してもいいよ、そう言った少女の声にも顔にも一切の起伏は無かった。魅啝と呼ばれた少女の言葉に男性はそれをたしなめるでもなく、それで当然と言わんばかりに頷き
「御意……では早速そのように致しましょう」
男性は立ち上がると同時に腰の刀の柄に手を伸ばし、振り返る事無く、それを下から振り上げる
「えっ……」
瓦礫の山から魅啝を押し倒そうとしていた若い男を股下から頭に掛けて両断し、刀を正眼に構えなおし
「これは警告だ。魅啝様に触れようとするのならば、この男と同じ末路を辿ると覚悟せよ」
男の身体を細切れの切り裂く、その顔には一切の罪悪感など無く。周囲からは悲鳴と共に逃げる足音が響き渡る、御剣と呼ばれた男は暫く刀を手に周囲を警戒していたが、気配が何も無いのを確認してから
「掃除は完了いたしました。参りましょう」
「……」
少女はその言葉に返事を返す所か、見向きもせず歩き出す。御剣が切り殺した男の肉片を踏みつけても、顔色1つ変えず歩くその姿は美少女であったゆえに見る物に不気味さと恐怖心を与えていた。御剣は刀の血を振り払い、それを鞘に収め少女の後を追って歩き出す。
(貴方は何処に居るの?……ねえ、私のお義兄様……)
巫女服には似合わないロケットを握り締め歩き続ける少女。その少女の目にはきっと目の前の光景など何一つ映されていないだろう……彼女がその目に映している物、それはきっと目の前の光景でも、視界の隅にうつる悪魔でも、人間でもない。会った事も、言葉を交わした事も無い。ただ1人に向けられているのだから……
給油と少し早めの昼食を終えた所でリリムが戻ってきたが、その顔は明らかに落胆していて追いかけて行った男達を取り逃がしたのだと一目で判った。あれだけの数だから何人かは捕らえる事が出来たと思っていたんだがな
「逃げられたのか?」
リリムにそう尋ねながら乾パンを頬張る。美味くは無いが、腹の足しはなるか。カップラーメンはあるが、水の量も限られている。それにフィールドワークで使っていた持ち運びのカセットコンロは使いかけのボンベが1つと新品が1つ……行き成り使ってしまうのは惜しい。出発前に学校でしっかりと朝食を食べたので、今は温存するべきだろう
【味がすかすかで不味いから、最初から襲うつもりはありませんでしたよ?久遠様達からある程度引き離してから引き返して来たんです。襲われても面倒でしょう?】
リリムの言葉に良くやってくれたと返事を返す。リリムは嘘をついている、その身体に纏わり付く死臭。少なくとも4人は精気を吸い尽くして殺しているだろうが、楓君達の手前殺したといは言わなかった。リリムのその心遣いに良くやったと言った私はスマホの中にリリムを戻す。すると何か言いたそうな顔をしている楓君達に気付いた、まぁ殺しても良いと言ったしな……この反応は当然か
「仕方ない事だ。向こうが殺しに来ているのに話し合いで解決出来ると思うか?それにリリムは追いかけはしたが殺してはいない、脅しただけだ。襲われるリスクを下げる、それは当然の事だろう?」
まぁ私は面倒だから、殺してしまえば後腐れ無いんだが……楓君達に与えるであろう、影響を考えると今は殺しをしてなくて良かったと思うべきだな。乾パンを食べ終え、ペットボトルの水を半分ほど飲んでから立ち上がる
「さてと給油も済んだから当面の目的としてだが、この近くのホームセンターを目指そうと思うんだがどうだろうか?」
ホームセンター?と首を傾げる美雪にああっと返事を返し、ホームセンターを選んだ理由を話す
「ホームセンターならば、キャンプ用品があると思う。悪魔の出現である程度の物資は運び出された後だと思うが、そこまで根こそぎ持ち出されたとは考えにくいだろう?」
「スーパーとかを見に行くより確実かもしれないって事ですね?」
「ああ、食料品は恐らく絶望的だ。自衛隊とかが動いていれば食料の配給も期待できるかもしれないが……無いかもしれないものに期待するよりも、入手出来る可能性の高い今後の生活に役立つ物を探す方が良いだろう?」
恐らく食料品があるような場所は生存者が集まってコミューンを作っている可能性が高い。下手に接触して行動を制限される事を考えれば最初から接触しないのが無難だろう
「でも母さん。生存者が集まっているのなら協力して「死んだ警察官から銃を取って、それでその場所を支配している可能性が高いぞ?食料を分けてやるから抱かせろくらい言われるかもしれんが、それでも行くか?」
言葉に詰まる美雪。さっき自分達を襲おうとした男達を思い出したのか、青い顔をして震えている美雪の頭を数回撫でる。
「私としてはそんな事態は避けたい、だから信用出来る生存者を見つけるまでは5人で行動する。幸い神無市は海も近ければ、山もある。ホームセンターで釣竿とかを確保できれば食料の確保はそう難しくない、悪魔には遭遇するかもしれないがな」
だがそうなったとしてもこっちには契約している悪魔が4体。よほど強力な悪魔に遭遇しなければ、全滅する事は無い
「異論は無いな?では移動を開始する。明るい内にホームセンターの捜索を終えたい所だな」
時刻は午前11時20分。日が落ちるまでに捜索を終えて、安全に眠れる場所を見つける。それを今日の目的としホームセンターへ向かっている途中私達は衝撃的な光景を目の当たりにした
「久遠教授……」
「言いたい事は判るが、観察だ。罠かもしれない」
リリムに脅されたあの男達が街頭の下の赤い服のマスク姿の女性を取り囲んでいた、距離は少し離れているが瓦礫なども無く遠目だがその姿は確認できた。たった1時間前にリリムに追い掛け回されたと言うのに学習しないやつらだな……
「ですが、久遠教授。あの女の人を見捨てる事になるのでは?」
「何か嫌な予感がするんだ、皆思い出さないか?赤い服とマスク姿で?」
私がそう尋ねると雄一郎君達は不思議そうに首を傾げたが、楓君は何かを思い出したように手を叩き
「口裂け女ですか!」
「そうだ。シュチエーションも合致するだろ?」
都市伝説の口裂け女……それは悪魔となるには些か弱いが、ここまで条件が揃っていると口裂け女なのでは?と思えてくる
「でも、あの人が普通の女の人だったら……その」
桃子が顔を青くしながら呟く。もしあの女性が普通ならばあの男達にレイプされる事になるだろう、それを見ていて見捨てると言うのは確かに目覚めがいい物ではないだろうが……
「下手に助けようとしてスマホを奪われると不味いだろ?」
私がスマホから悪魔を出した姿は見られている。だからスマホを奪う為の作戦かもしれないと呟いた瞬間、女性を取り囲んでいた男達の1人の頭が宙に舞う。一瞬呆けた美雪と桃子だが、噴水のように噴出している血を見て絶叫する
「久遠教授!」
「判ってる!逃げるぞッ!!!」
楓君の言葉と同時にアクセルを踏み込み、一気にその場から離れる。マスクを外した赤い服の女が両手を振るうと、男達の首が次々に空を舞う、私達も襲われる可能性がある以上この場に留まるのは危険だと判断し、私は赤い服の女がこちらを見る前にその場を後にし、ホームセンターの方角へ逃げるように車を走らせるのだった……
チャプター10 探索
今回は新しいキャラが出てきましたが、かなりヤバい2人組み。女神転生で言うとロウ系のキャラが近いかもしれないですが、カオスかもしれないですね。最初は「ベッドの下の斧男」次は「口裂け女」都市編は「都市伝説」をテーマにした悪魔をメインにしていこうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします