新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター11

チャプター11 想鬼てけてけ

 

てけてけ。去年に都市伝説を纏めてレポートを作った時に調べた都市伝説の1つ……複数のパターンがあるのだが、俺がリポートとして纏めたのは寒い地方の列車事故で上半身と下半身が分かれてしまった女性がいた。所がその寒さで血管が凍ってしまい、暫くの間生きていたと言う物だが、実際には日本の寒さでは血管が凍るなどありえず、あくまで都市伝説として語られているが、ここで更に2つの分岐がある

 

(どっちだ?どっちのてけてけだ)

 

カソが唸り声を上げててけてけを睨み付けているのを見ながら、雄一郎に目配せをして桃達の前に移動する。もしあれがてけてけの伝承から生まれたとすれば2つのパターンがある。吹き飛んでしまった自分の下半身を捜しているうちに死んでしまったのと、生きていたが駅員に見捨てられて死んだパターン。先程死んだ女性を見る限りでは下半身を捜しているパタンだと思うが、その場合だと上半身を吹き飛ばされて殺される。逆に見捨てられたほうでも殺される……どっちにせよかなりやばいパターンの都市伝説だ

 

【!】

 

てけてけが美雪先輩を見つめ、動き出した瞬間。俺は美雪先輩の腕を掴んで横に飛ぶ。てけてけの射線から逃げる事しか考えてなかったので、そのまま倒れこむ形になったが、背後を凄まじい勢いで何かが通過していく

 

「な、なななな!?か、楓君!?」

 

「楓ぇッ!何してるの!!!」

 

急に抱き抱えられる形になって赤面している美雪先輩にすいませんと謝りながら直ぐに立ち上げる。桃の視線が物凄く痛いが、緊急事態だったし、何で睨まれているのか判らないので俺としては困惑するしかない。遠くでまるで交通事故のような音が響く……これも都市伝説の通りか!走り出したら何かにぶつかるまでは止まれない。ぶつかった後はゆっくりと移動を開始して、見つけるとまた突進してくるはず

 

「早く移動しましょう!あれがてけてけだとしたら狭い場所じゃ追い詰められるッ!」

 

今回は運良く反応出来たから良いが、もし背後から突進されたら避ける事できずに死ぬ。

 

「ピクシー!カソ!あの化け物の警戒を頼む!近づいて来たら教えてくれ」

 

【オッケー!後で魔石ちょうだいね?】

 

【ワカッタ】

 

人間よりも視野が広いカソと、空を飛べるピクシー。これである程度の不意打ちは防げると思うが状況はかなり悪い。見つければ突進してくるが、既にてけてけは美雪先輩に狙いを定めている。美雪先輩を殺すまでは間違いなく追いかけてくる筈だ、いや、もしかすると生きている俺達全員を見て、俺達の中に自分の脚があると思って襲ってくるかもしれない。つまり例えここで美雪先輩を見捨てても、結果は変わらない筈だし、勿論俺の中に美雪先輩を見捨てるって言う選択肢は無い。だから何とかここでてけてけを撃退しなければならない

 

(なんだった……てけてけの弱点は何だった?)

 

てけてけの事を思い返しながら、桃と美雪先輩に荷物は1回ここに置いて行って下さいと呟くと桃が

 

「でも折角見つけたんだよ?運んだ方が良いんじゃないの?」

 

確かにその通りだが、時速100~150キロで突進してくるてけてけを相手にするのならば、移動を制限するようなものは持たないほうが良いと説明し、陳列棚に荷物を載せ、俺達はてけてけの事を警戒しながら歩き出した

 

「車よりも速いスピードで突進してくるとかとんでもないな。逃げるのも無理なのか?」

 

「ああ、逃げるのはまず無理だと思う。あれは生きている人間を憎んでいるっていう都市伝説もある、俺達を見つけた以上

 

殺すまでは追いかけて来るはず」

 

出来る事ならば荷物を持って、さっさと車に乗って逃げたい所だがてけてけが追いかけて来て、車を破壊される可能性を考えればここで何とかするべきだと思うんだが

 

「久遠教授。てけてけって地獄に帰れって言葉で撃退でしたよね?」

 

「その筈だが……後はかしまれいこの名前にちなんだ撃退の呪文もあったはずだが……撃退法が無いという場合もあったはずだ」

 

そうなると俺達全員が死ぬ事になる。都市伝説はあんまり調べてないから対処法なんて覚えていない

 

【ふいー全員にラクカジャを掛けたぞ。さすがにちと疲れた、少し休む】

 

コボルトの豪腕で殴り飛ばされた俺だが、骨折などをしなかったのはラクカジャのおかげだと思っている。てけてけに突進されても一撃なら耐える事が出来るかもしれない、その可能性に賭けてコロポックルにラクカジャを使って貰った。ただ連続の魔法で疲れたのかスマホの中に消えて行くコロポックル……出来れば撃退を手伝って欲しかったが、体力を回復するまでは待つしかないか

 

「それでその、楓君」

 

「はい?なんですか?」

 

美雪先輩に背後から声を掛けられどうしました?と返事を返すと、いえなんでもないんですと言われる。美雪先輩はどうしたんだろうか?と首を傾げながらも周囲を油断無く見回す。てけてけは肘で移動するので独特な音を立てて動き回ると言うが、上半身だけなのでかなり小さい……幾らカソとピクシーが警戒してくれているとは言え自分達でも見つけるつもりでいないと駄目だろう

 

「むう……」

 

「桃までどうした?」

 

なんか桃まで不機嫌そうな顔をしている、てけてけが怖いと言うのなら判るのだがどうして不機嫌そうな顔をしているのか?その理由が判らず首を傾げるのだった……

 

 

 

 

久遠先輩と桃子の反応を見て首を傾げている楓に俺は思わず溜息を吐いた。楓は民俗学の研究者になる、その夢を叶える為に出雲から出て来た。恋愛などは全く考えていないと言うのは楓の口から何度も聞いている、桃子は自分の幼馴染と言う事もあり非常に大切に思っているのは知っているが、それが恋愛感情の物とは気付いていないだろう。そしてこんな状況だ、ますます桃子や久遠先輩の反応を見ても気付かない

 

(こいつはしょうがないやつだ)

 

とは言え、俺も半年前までは野球の事しか考えておらず、とても人の事を言えるような立場じゃないんだけどなと苦笑する事しかできない

 

「呪文は恐らく効果が無いだろうな。となるとリリムのムドが効くか?どうだ?行けそうか?」

 

久遠教授はその雰囲気を指摘する事無く、てけてけについて話し始めた。ここでそれを指摘して、お互いに意識してしまって空気が悪くなるような自体は避けたほうが良い。こんな状況でギスギスした空気になるのは避けたい

 

【久遠様、当たれば大丈夫だと思いますけど……術が完成するまでの時間が】

 

1度ムドと言う魔法を見せてもらったが、黒い炎が魔法陣を描き、それが完成すると同時に黒い炎が円の中の悪魔を殺すという魔法だった。発動までは2分弱……あのスピードのてけてけでは完成するまでに通り過ぎてしまう

 

「どこかに追い込むか誘い込むって言う方法もありますけど……それは無理じゃないですか?」

 

てけてけの方が早すぎる。追いかけるのは当然無理だし、誘い込むにしろ一歩間違えれば下半身とおさらばだ。かと言って打撃も早すぎるので仮に命中したとしても獲物が折れるだけだろう

 

「メルコムと言う悪魔に協力を頼むのは?」

 

「何を対価に寄越せと言われるか判らないぞ。私達の誰かの命なんて言い出す可能性があるから駄目だ、かと言ってそっちに逃げててけてけが商品を破壊すれば、てけてけを連れて来たと私達に損害賠償を請求する可能性がある」

 

だから車が停まっている方じゃなくて、店の奥に逃げているのか……久遠教授の言葉にどうして建物の奥に向かっているのかの理由が判り納得した

 

【スクカジャがツカエレバニゲルコトハたやすいだろうが、ツカエルものがイナイ】

 

ぼそりと呟いたカソの言葉に俺達の視線がカソに集中する。スクカジャ?何かの魔法か?と説明を求めるがカソは頭が良くないから説明は無理と言って楓の方に逃げた。カタコトの口調だからそれは理解していたが、何かのヒントならその内容を教えて欲しかった

 

【えっとね、スクカジャって言うのはラクカジャと同じ種類で、反射神経とか、足の速さに影響する魔法なんだ。他にも力

 

に影響するタルカジャ、魔法に影響するマカカジャとかもあるよ】

 

補助魔法って事か……スクカジャって名前が判ってもどんな悪魔が使えるとかが判らないとどうしようもない。楓と久遠教授は悪魔を後1体召喚出来るが、狙った魔法を持った悪魔が出てくるとは限らない上にやり直しが効かないのだから、そんな博打をする訳にはいかない

 

「じゃああの、カソとリリムが使う、マハ・ラギ?だっけ?あれで炎の帯を作ればてけてけがぶつかってダメージを受けるんじゃないかな?」

 

「確かに、追い掛けるのも、逃げるのも難しいのなら罠を仕掛けるという手段が1番妥当ですね。母さん、試してみますか?」

 

桃子と久遠先輩の提案を聞いて、内心安堵の溜息を吐く。さっきまでのギスギスした雰囲気が無くて良かったと、でももしこの先どちらかが告白をするや、付き合うと言うことになれば大変なことになるか。問題を先送りにしただけだが今はこれでよかったのだろう

 

【後ろから近づいて来てるよ!何かやるなら急いで!】

 

背後を警戒していたピクシーの言葉で久遠教授と楓がリリムとカソに魔法の指示を出した瞬間。奇妙な音が響き渡る

 

【来たよ!離れてッ!!!】

 

ピクシーの警告の言葉に一斉に飛びのく、すると高速で突進して来た何かが炎と電撃の檻を突き破り、その先の壁に追突する。どうだ?効果あったか?起き上がろうとした瞬間。今度は反対側の棚が吹き飛ぶ、棚が小刻みに動くのを見たダメージを受けているようには見えなかった

 

「駄目だ!効いてない!!!動き出す前に逃げ……ぐあっ!?」

 

【ケイヤクシャッ!?】

 

「楓ぇッ!!!!!」

 

「楓君ッ!!!!」

 

立ち上がった楓が悲鳴を上げて吹き飛んだ楓が棚に叩きつけられる。その姿を見て、桃子と久遠先輩が悲鳴を上げる。だが久遠教授は顔を歪めながらも冷静に楓に駆け寄り

 

「大丈夫だ、意識は無いが脈もあるし息もしている……早くこの場を離れて手当てをしよう」

 

久遠教授がそう呟くと、倒れた棚の下からてけてけが這い出てくるが、俺達には視線を向けず俯いて動き回っている。

 

【???】

 

てけてけが何かを探すように動き回っている姿が見える。今の突撃で吹き飛んだはずの楓の下半身を捜しているのだろうか?だがそれは今の段階では好都合だった。俺はてけてけに気付かれないように久遠教授と楓に駆け寄ると、ぐったりとして顔には血の気が無いが、胸が動いている。それは生きているという証拠で俺は思わず安堵の溜息を吐きながら

 

「久遠教授。楓は俺が背負います、桃子と久遠先輩をお願いします」

 

ショックを受けて呆然としている2人に声を掛けてくださいと頼む。久遠教授は判っていると呟き

 

「カソ、リリム。てけてけが気付いたら足止めをしてくれ、もし気付かないのなら監視を頼む」

 

【判りました。久遠様】

 

【ケイヤクシャをたのんだ】

 

ピクシーとコロポックルではてけてけを止める事が出来ないと判断したのか、カソとリリムにそう指示を出した久遠教授は桃子と美雪先輩に駆け寄り何かを話し掛け、2人を連れて走り出す。俺はそれを確認してから楓を背中に背負い、てけてけが別の方向を見た瞬間に慌ててその場を離れるのだった……

 

 

 

久遠教授に何を呆けていると怒られて、その後は良く覚えてない。ただ逃げて来て生存者が作ったであろう、箪笥などで作ったバリケードを見つけてその陰に隠れていた、楓が無事なのかそれを祈る事しか出来なかった。美雪先輩も同じなのか、自分の身体を抱きしめるようにして震えている……目の前で人が死んで、楓ももしかするとと思うと怖くて怖くて仕方なかった。

 

「はぁ……はぁ……楓を横にする」

 

笹野君が楓を背負って私達から少し遅れてバリケードの影に入って来て、楓をゆっくりと下ろす。意識が無いのかぐったりしている姿を見てまた悲鳴を上げそうになったが、久遠教授に口を塞がれた

 

「てけてけに気付かれるだろうが、楓君の事が心配なのは判るが、落ち着け。お前もだ、美雪」

 

強い口調の久遠教授にすいませんと謝ると、久遠教授は楓のYシャツのボタンを外して、傷の確認をする。なんか悪い事をしているような罪悪感を感じながら楓を覗き込むとお腹の辺りに青黒い痣があった

 

「ここにぶつかって来たんだろうな。ラクカジャが無ければ死んでいたかもしれないな」

 

死んでいたかもしれない、久遠教授のその言葉に顔から血の気が引いた音が聞こえた気がした。だからこうして楓が生きていてくれてよかったと心の底から思った

 

【じゃあディアを使うねー♪】

 

ピクシーが楓の痣に手を当てると、楓はうっと呻いたが、ピクシーの手から柔らかい光が当っていると徐々に顔に血の気が戻ってくる。

 

「てけてけだが、もしかすると走っている間はどんな攻撃も効かないのかもしれないな」

 

楓の顔色が良くなった辺りで久遠教授がそう切り出す。リリムとカソの炎と電撃の勢いは相当強かった。現に何度も悪魔を倒しているその攻撃を受けても平気と言うのは正直驚いた

 

「となると何かにぶつかって動きが止まっているうちに攻撃するですか?」

 

だけどそうなるとしてもあれだけ高速で動けるとなると、仮に止まっていたとしても動き出せば吹き飛ばされるのは目に見えている

 

「私はリリムのムドの魔法陣の中に誘い込むと言うのがベストだと思うが……あの魔法は効果を発揮するまでの時間が長い

 

普通なら気にするまでも無いが、あのスピード相手では2分は長すぎる」

 

てけてけに見つけさせて誘いこむと言う方法はまず無理だ。あのスピード相手では逃げ切れない……

 

(そうだ)

 

カソが言っていた。スクカジャと言う魔法があれば対処できる可能性があると……スカートからスマホを取り出して

 

「久遠教授……楓が眠っている間に悪魔召喚をしてもいいですか?」

 

楓が起きていれば絶対に反対する。私にはそんな事をしなくても良いと、側に居てくれるだけで良いと言うだろう。だがそれでは私が嫌なのだ、この状況で私だけが足手纏いになっている。それが嫌なんだ、楓に負担をかけたくないから……

 

「桃子……良し、判った。許可しよう、ただし危険な悪魔が来るかもしれない、カソとリリムが戻るのを待ってからだ」

 

久遠教授の言葉に頷いてから数分後、カソとリリムが戻って来た

 

【あの悪魔は危険ですよぉ……魔法も打撃も効果が無いんです】

 

【キバがオレルカとおもった】

 

メルコムの方に走り出したから暫くは大丈夫だと思いますけど、早く対処法が必要だと思いますというリリム。魔法も打撃も効かないとなると本当にもう出来るのはムドを試すしかないと言う事だ。それでも駄目なら確保した道具を捨てて、車に乗って逃げるしかない

 

「楓君は起きなかったな、桃子。悪魔召喚を試して見るんだ」

 

「はい、美雪先輩、雄一郎君。楓をお願い」

 

「ああ、桃子も気をつけて」

 

「桃子さん。無茶はしないでくださいね」

 

悪魔召喚で出て来た悪魔に楓を襲われる訳にはいかない。雄一郎君と美雪先輩に楓の事を頼み、バリケードの外に出る

 

「念の為だ、持っておけ」

 

「うっ……」

 

差し出された拳銃を手にする。見た目よりも遥かに重い……何かを殺す為の武器に思わず顔を歪める

 

「私とリリムで悪魔を倒すつもりではいる。だが万が一と言う事もある、良いか?セーフティを外して、照準を合わせる。両手でしっかりとグリップを握って引き金を引く」

 

「は、はい」

 

重すぎる拳銃……だけどいつまでも楓に護られている訳には行かない。私だっていつまでも足手纏いでは駄目なのだ、久遠教授に教えられた拳銃の使い方を数回練習し、実際に引き金を引く

 

「うっ……」

 

銃声と手に来る反動に顔を歪める。こんなのを良く平気そうに久遠教授は使えるなと驚いた……とてもじゃないけど、悪魔に命中させる自信なんて無い

 

「まずまずだな、その弾薬も限れているから練習させる訳には行かないが、護身程度だと思え」

 

久遠教授の言葉に判りましたと返事を返し、久遠教授がくれた太ももにつけるガンホルダーに拳銃を入れてスマホを取り出し悪魔召喚のボタンを押す

 

(楓を助けたいの、私は弱いし、臆病だし、運動神経だって悪い)

 

スマホが光を放つ中、両手を組んで必死に祈る。私みたいな臆病者に力を貸してくれる悪魔なんて居ないかもしれない、悪魔も出てきてくれないかもしれない。だから祈るんだ、私の想いを悪魔に知って貰うために

 

(でもこのままじゃ楓に迷惑ばっかりかけちゃう……だからお願いします。私に力を貸してください)

 

スマホが放つ光が弱くなって行く、私の想いは悪魔には通じなかった。そうだよね……私みたいな弱い契約者と契約したら悪魔だって死んじゃうかもしれないから嫌だよね……そう思った瞬間

 

(いいよー、私が手を貸してあげる……君の気持ちは判ったよ。契約しよう)

 

楽しげな声が脳裏に響いた瞬間。スマホが放つ光が強くなり、そこから悪魔が姿を見せる。それは私達と同年代くらいの少女の姿をしていた。褐色の肌と白い質素な服。そして首から下げたペンダント……ちょっと変わった服装だけど、普通に街の中を歩いていてもおかしくないと思えた。その少女は私を見てにこりと笑い

 

【私は妖精ナジャ……あなたの優しい気持ちと願いを聞いて召喚されたの、これからよろしくね、契約者さん】

 

敵意などをまるで感じない柔らかい笑顔に思わず安堵の溜息を吐くとスマホに契約完了の文字が浮かび上がる。これで彼女は私の契約悪魔となってくれたようだ

 

「ナジャ……?お前なんの悪魔だ?」

 

久遠教授が不思議そうな顔をして尋ねる。久遠教授も知らない悪魔なのかな?……もしかしたら本当は悪魔じゃなかったりするのかな?

 

【私?私は変異種だよ?だからなんの悪魔って言われても判らないよ?あ、でも役立たずじゃないよ?補助魔法とか回復魔法は凄く得意だよ】

 

回復魔法と補助魔法が得意だよ?と笑うナジャちゃん。変異種って事は普通じゃない悪魔って事だけど例えそうだとしても私の気持ちと願いを聞いて来てくれたのだから、きっとこの子も優しくて良い子だと思う。ナジャちゃんは足元の石を蹴りながら

 

【変異種だから私は妖精の仲間から仲間はずれだよ?でもね、私は思うんだ。誰かを傷つけるよりも、護る方が良いってね!】

 

悪魔としてはおかしいかもしれない、だけどこの子の言っている事は決して間違っていないとそう思う。私とよく似た性格をした悪魔が契約してくれると言った事に良かったと思いながら

 

「私は紅桃子。これからよろしくね、ナジャちゃん」

 

【うん、よろしくね!モモコ】

 

差し出された手を握り返し、これで私も楓の手伝いが出来る。そう思っていると、楓がバリケードから飛び出て来て

 

「桃!何で、何で悪魔召喚なんか……お前は、お前は……」

 

「大丈夫。私は大丈夫だから、これからは楓の手伝いも出来るから、そんなに心配しないで」

 

楓が私を心配してくれるのは判る。でもそれじゃ嫌なんだ、私だって楓の手伝いをしたいのだから

 

「楓が護ってくれるように、私も護りたいのと楓を」

 

「桃……でも」

 

「大丈夫。大丈夫だから、ナジャちゃんは良い子だよ。私には判る」

 

だから心配しないでと繰り返し言うと楓はまだ納得していないようだったが、判ったと小さく呟く

 

「ナジャが補助魔法が得意だと言っている。もしかするとてけてけに有効な作戦を練る事が出来るかも知れない、1度皆で話し合おう」

 

久遠教授の言葉に頷き、バリケードの方に歩き出しているとナジャちゃんが耳打ちしてくる

 

(モモコの好きな人は格好良いねえ。頑張ってね?私は応援するよ?)

 

「うえあ!?」

 

予想外の言葉に思わず奇声が出てしまう。え、ええ……わ、私ってそんなに丸判り!?

 

「桃!?なんだどうした!?急に奇声を発して!?」

 

「な、なんでもない!なんでもないよ!」

 

心配そうにしている楓になんでもないよと慌てて返事を返す中、ナジャちゃんはそんな私と楓を見て楽しそうに笑っていた。この子は悪魔と言うか、小悪魔なんじゃ……私は思わずそんな下らない事を考えてしまうのだったが、ナジャちゃんを交えた作戦会議でてけてけを倒す手段が見つかり、この子は私達にとっては悪魔ではなく、天使だったのでは?と思ってしまい、さっきは悪魔って思ったのに現金だなっと苦笑するのだった……

 

 

 

どこにいる……追いかけていた5人の人間を探して広い場所を探し続ける。あの中に私の下半身がある……あいつらが隠したんだ……そう考えて必死に探し続ける

 

【!】

 

遠くにその人間を見つけた……そこからはもう何も考える事は無い。その人間を追いかけて走り出す、何度も何度も繰り返していた事、私の脚を使っている人間から私の脚を奪え返す。私が走れば誰も逃げられない……私の脚だからそれは当然の事なのに……

 

(おいつけない……)

 

そんな馬鹿な、私が追いつけなかった事なんて無かった……だから確信した、あの逃げている女の脚こそが私の脚なのだと……絶対に取り返すッ!!!それだけを考えてその女の後を追いかけ続ける。そして女が曲がり角を曲がったのを見て、その後を追いかけて曲がる

 

(捕まえた)

 

女が立ち止まり、息を整えているのを見ていまだと全力でその女へとぶつかる。やっと私の足が……そう思った私の耳に飛び込んで来たのはガラスの割れる音……そして背後から聞こえて来たくすくす笑いに怒りで目の前が真っ赤に染まりながら振り返る

 

【バーカッ♪】

 

女が馬鹿と言いながら嘲笑うように笑っているのを見て、走り出そうとした瞬間。私の耳にある言葉が飛び込んできた

 

「「「「「カは仮面のカ、シは死のシ、マは魔のマ、レイは霊のレイ、コは事故のコッ!!!!」」」」」

 

その言葉が聞こえた瞬間、手から力が抜けて床に倒れこんだ瞬間目の前に翼を持つ女が現れ、その指をこちらに向ける

 

【ムド】

 

私が最後に見たのは漆黒の炎。だがそれは決して苦しいものではなく、どこまでも暖かく包み込むような炎で私はその中で確かな安堵を感じながら、瞳を閉じるのだった……

 

 

 

てけてけが消えた所でナジャが誇らしげに笑う。ナジャは自身にスクカジャ・てけてけにスクンダを掛けながらずっと走っていたのだ。流石は変異種、稀少なスキルを持っているなと正直感心した

 

【どう?私が囮で良かったでしょ?】

 

確かにナジャが居て良かった。彼女がいなければてけてけを撃退する事は不可能だったから

 

「ふう……ふう……」

 

「桃。大丈夫か?」

 

ナジャが容赦なく魔法を連続で使用した事で、青い顔で呼吸を整えている桃子とそれを心配そうに支えている楓君。出来る事なら早くホームセンターを後にしたい所だが、ここで無理をさせるわけにはいかないな

 

「少し休んでから移動を開始しよう。楓君と雄一郎君、そして美雪に桃子は悪魔をスマホに戻せ、警戒は私がやる」

 

死体ではなく、目の前で人の上半身が消し飛ぶ瞬間を見ているので、精神的にも相当参っているだろう。だから1度休憩だと楓君達に言うと、4人はてけてけの恐怖を思い出したのか、へたれこむようにして座るのを見てやはり移動は厳しかったかと心の中で呟く

 

「でも教授。1人じゃ」

 

「心配するな、ここまで悪魔をずっと召喚していたんだ。MAGも限界だろう、私はまだ全然MAGに余裕がある。私の事を心配するなら、身体を休めてくれるほうが良い」

 

心配してくれている楓君にありがとうと笑いかけながらも、休んでくれと強い口調で言うと何を言っても無駄だと判断したのか4人で背中合わせで目を閉じる。それから数秒で寝息を立て始める楓君達を微笑ましい物を見るような気分になりながら、倒れている棚に腰掛け楓君達が目を覚ますのを待つ事にする

 

【久遠様?私はどうすれば?】

 

リリムをスマホに戻す事も考えたが、それよりも楓君達が寝ているのなら都合が良いと笑い

 

「翼と尻尾を隠して精気を取り込んで来い。本来の能力を下回っているぞ?私に迷惑を掛けるな」

 

必要以上に私からMAGを持っていくリリム。それは精気が不足しているからだ、幸いこの近くにも男は居る。翼と尻尾を隠して精気を吸収して来いと指示を出すとリリムははーいっと嬉しそうな声で返事を返し、翼と尻尾を隠しホームセンターを出て行く、そんなリリムを見送りながら、私はチャクラドロップの入った袋を開けて2つほど取り出しそれを頬張るのだった……

 

チャプター12 近寄る悪夢

 

 




女神転生のやった事がある人なら判ると思いますが、桃子の契約悪魔は薄幸美少女の妖精ナジャです。結構好きなキャラなのでレベルを変更し変異種と言う事で登場させました。彼女のスキルは次回書いて行こうと思います、次回の内容としてはナジャや、次のバトルの相手のフラグなどを用意して行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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