新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター14 

 

 

チャプター14 神堂との遭遇

 

建物の影に隠れながら私達は荒い呼吸を必死に整えていた。気が付いたら私達はあの警備ビルから出ていた。最初は夢かと思ったのですが、どうも寝て、起きて、寝て、起きての繰り返しで自分が寝ているのかおきているのか判らず。悪魔から逃げる為に自分達でビルの外へと出てしまったようだ

 

「久遠教授。心配してるかもしれないですね」

 

楓君がやっと息を整えたのか、苦しそうにそう呟く。時間的には母さんがビルを出てから1時間と40分ほど……もし戻ってきて私達が居なかったらさぞ驚くだろう

 

「それよりもだ。今は寝てるのか?起きてるのか?どっちだと思う」

 

「判らん」

 

笹野君の言葉に判らないと即答する楓君。寝ている間も起きているもカソ達が側にいてくれているので襲われる事はないですが……無防備に寝ている所を見られているかもしれないと思うと流石に少し怖かった。ここまで走ってくる間に見た血痕や喰い散らかされた人間の手足、それは出来れば夢であって欲しいと思ってしまう

 

「これが夢なら、どこかから小人が出てくると思いますよ」

 

だから小人が出てくればこれは夢と言うことになるのですが、小人の姿は見えない。だからあそこで見える、骨の見えている人間の腕は間違いなく本物の人間の死体と言う事で顔から血の気が引くのが判る。こういうことがあるというのは判っていたつもりなのに、こうして目の前にするとパニックになりそうになる自分がいるのがいて、1番年上の自分がパニックになるわけには行かない。深呼吸を繰り返し気持ちを落ち着ける

 

「そ、そうですね……はぁ……はぁ……」

 

あの鉈やチェーンソーで武装した小人。それが悪魔が居れば夢、居なければ現実。それしか判断材料が無い……それに桃子さんに限界が見えてきている、寝ていても起きていても走り回っている。寝ている間は肉体的な疲労が無いとしても、精神的な疲労は積み重なっていく。

 

「じゃあ今は現実ですね。10分経ちましたけど、小人が来ませんから……とりあえず、桃。水だ」

 

「う、うん……あ、ありがとう」

 

楓君から水のペットボトルを受け取り、ゆっくりと口に含む桃子さん。野球部である雄一郎君でさえ疲労が見えている、元々保険委員でしかも運動神経もそう良くないと言う桃子さんにはそろそろ限界が見えてきたかもしれない

 

「……これ、確証は無いんですけど……猿夢だけじゃないかもしれないです」

 

息を整えた楓君が手帳を開きながらそう呟く、猿夢だけじゃない?私達の視線が集まる中楓君は桃子さんから受け取ったペットボトルから水を飲んで

 

「10分前の夢でこれと同じ行動をしてます」

 

「これと同じ行動?」

 

差し出された手帳には走り書きで建物の影で休憩、ペットボトルを回し飲み、桃の体力が限界寸前と書かれていた

 

「偶然じゃないよな……?」

 

「ああ、確か……こんな都市伝説もあった……猿夢と似た都市伝説だからもしかしたらどこかで混じっているのかもしれない」

 

その言葉に目の前が暗くなるのを感じた。猿夢だけでも厄介だというのに、それに更に別の都市伝説が加わるとなると私達だけじゃ対処しきれないかもしれない

 

【ここら辺に悪魔が居ないのは確認できたよ?とりあえずみんなにもう1度スクカジャとタルカジャを掛けておこうか?】

 

【じゃあワシはラクカジャじゃな】

 

ナジャとコロポックルが魔法を唱えると、少しだけ身体が軽くなった。スクカジャと言う早さをあげる魔法が効果を発揮しているからだろう

 

「すまないな、カソ。大丈夫か?」

 

【……サスガニすこしマズイ。ハヤクこのジョウタイをダッシュツシナケレバ】

 

【だね、私達はいいよ?MAGがあれば何時でも具現化出来るけど、美雪達はMAGは大丈夫?】

 

ピクシーの心配する声にスマホの画面を覗き込むと、私のMAGを表示しているゲージは既に半分を切っており、残り4分の1ほどだ

 

「俺も半分くらいだな……楓は?」

 

「俺もそれくらいだ。直接殴ってるからな」

 

雄一郎君と楓君はナジャのタルカジャとスクカジャで身体能力を強化し戦っているから、MAGの消耗は緩やかですが、私と桃子さんはナジャたちの魔法で戦っているのでMAGの消耗がかなり激しい

 

「不味いと思うけど、我慢してくれ桃」

 

「う、うん……足手纏いになったら駄目だもんね」

 

桃子さんが楓君から受け取ったチャクラドロップを舐めて、顔を歪めている。血の味がする飴なんて舐めたくないですよね……でも

 

「美雪先輩もどうぞ、俺も舐めますし、雄一郎も舐めます」

 

「……はい」

 

「判ってる」

 

そしてそれから5分の間。私達は血の味のする飴を舐め続け、ただでさえ溜まっていた疲労を更に溜める事になるのだが、ここで5分我慢したおかげでMAGが回復したのがせめてもの救いであり、舐め終わると同時に再び私達は何かに吸い寄せられるように意識を失い、建物の壁に背中を預けて眠りに落ちるのだった……

 

 

 

チャクラドロップを舐め終えると同時に俺達は再び夢の中へと引きずり込まれた。だが予想していた電車の中ではなく、眠った場所だった

 

「どうなっているんだ?」

 

猿夢は電車の中が主になる夢だと楓は言っていた。なのに何故?俺が首を傾げていると楓は手帳に何かを書きながら

 

「おかしいと思っていた。猿夢なのに久遠教授が何度も出て来た」

 

確かにその全てが小人が積み重なっている物を久遠教授と見間違えていただけだが、かなりの頻度で久遠教授は俺達の前に現れていた

 

「それで俺は思ったんだよ。これは猿夢だけじゃないって」

 

手帳を制服のポケットに戻した楓は鉈を手に立ち上がり。話を聞くのもいいが、お前も警戒を緩めるなよ?と言われて慌てて壁に立てかけてあった鉈を手にする

 

「都市伝説の中で夢に関係するのは多いんだ。だからどの都市伝説かは判らないが、その都市伝説が何か?それを知る事がこの悪夢から抜け出るヒントになると思う」

 

このままだと体力もMAGも尽きて小人に殺されて終わりだ、だから何とかその前にこの悪夢を作っている都市伝説が何かを判明させようと言う楓に頷き、建物の影から出る

 

「やっぱり隠れる所と同じですね」

 

さっき隠れるために走って来た町並みと同じだと久遠先輩が呟く。確かにあの折れたガードレールと、信号は見覚えがある

 

「そ、そうだね……それでどうする?来た道を引き返す?」

 

【大丈夫?桃子?あんまり無理をしないでね?】

 

疲労の色が濃い桃子を支えるナジャ。俺から見ても桃子の限界は近いだろう、早く対処法を見つけないと行けない。楓は来た道を見つめながら何かを呟いている、多分夢に関係する都市伝説を思い返しているんだと思う

 

「とりあえず進んでみよう、引き返しても電車に戻るだけだと思う」

 

判ったと返事を返し、俺を先頭にして、久遠先輩と桃子が並び、その後ろから楓が着いて来るという陣形で薄暗い街をすすむ

 

【……変な気配。悪魔の気配が判らないよ】

 

【ソウダナ。ケイヤクシャをマンゾクニマモルコトもできない】

 

カソやピクシーが俺達の回りを警戒してくれているが、あの小人は悪魔とは違うのか特定出来ないらしい。コロポックルもすまないと謝ってくるので大丈夫だと返事を返す

 

(とは言え、怖いけどな)

 

あの鉈は重さで叩き切るものだ、だから当ると動じに切り裂かされるという事は無いが1度に何体も出てくるのが恐ろしい

 

「雄一郎!上だッ!」

 

楓の怒声に顔を見上げるよりも早く鉈を振り上げる。金属と金属がぶつかる音が響き、思わず目を閉じてしまったが直ぐに目を開く、2体の小人が両手で鉈の柄を握り締め、俺に向かって振り下ろしていた

 

【【けたけた】】

 

真紅の目を輝かせ、不気味に笑う小人と目が合う。ナジャのタルカジャがまだ効果を発揮しているから均衡を保つ事が出来ているが、その効果が切れれば押し切られるのは目に見えている

 

「くそっ!こっちも来た!挟み撃ちかよッ!」

 

楓の叫び声とチェーンソーの音が響く、楓の方がやばそうだな……ならこっちはこっちで何とかするしかねえかッ!

 

「コロポックル!ブフッ!」

 

『ブフ』

 

コロポックルが蕗を振るうと氷塊が放たれ、小人を1体吹き飛ばす。2対1だから押されていたが、タイマンならッ!!!

 

「どっらああッ!!!」

 

仲間が吹き飛んだ事で硬直している小人の腹に全力で蹴りを叩き込む。靴越しに感じる何かを砕く感触を感じながら、鉈を持った右手を振るう。鉈の重さに引きずられるようにして後ろに移動する

 

【!!!】

 

伸ばしきった俺の足を切り裂こうとしていた小人の鉈が空振りするのを見ると同時に久遠先輩と桃子に向かって

 

「こっちは大丈夫だ!楓を頼む!」

 

ラクカジャの効果はかなり高いが、チェーンソーの攻撃を耐え切れるとは思えない。だから俺よりも楓を頼むと叫び、弾丸のような勢いで突っ込んで来た小人に向かって鉈を振るう

 

「っくう!」

 

【ケタケタ】

 

勢いがついているので小人の一撃に踏ん張っていたが、後ろに押し込まれる。

 

「なっろおッ!!」

 

右手を握り締め小人の顔面に向かって拳を振るうが、小人はそれを頭を下げることで回避し後ずさる

 

(強くなってる!)

 

さっきの連携にしてもそうだが、小人の動きが良くなっている。

 

「くっくそ!カソ!アギッ!あの後ろの小人を引き離せッ!!」

 

「ピクシー!ジオ!チェーンソーを持っている小人を狙ってください!」

 

楓と久遠先輩の指示が飛ぶ。音からしてそうだが、チェーンソーを持っている小人は複数体居る。早く楓の方に合流しないと

 

「コロポックル!ブフッ!」

 

『ブフ』

 

コロポックルがブフを放つと同時に、手にしていた鉈をブーメランの要領で投げつける。勿論鉈はブーメランなので戻ってくる事は無いが、氷塊と鉈の同時攻撃に小人の動きが一瞬止まる。それと同時に走り出し助走をつけて飛び上がり

 

「くたばれえッ!!!」

 

踵落しを小人の頭に叩き込みその頭を蹴り砕く、だがこれではまだ安心出来ない、早く楓の手伝いに!そう思って振り返ると同時にターンッ!ターンッ!!!っと2発の銃声が響き小人が倒れる

 

「も、桃!?なんで拳銃を!?」

 

「え、えっと……ナジャを召喚する時に久遠教授が使い方を教えてくれて……す、筋がいいって!言ってくれたよ!」

 

間違いなく、この時の俺達の気持ちは1つになっていたと思う。久遠教授……せ、生徒に拳銃を渡さないでください……っと

 

「と、とりあえず。それは緊急時以外使うなよ?それと助けてくれてありがとう」

 

引き攣った顔で桃子に例を言う楓。銃器は危険だが、体力の無い桃子には丁度いい武器なのかもしれない。俺達にさえ当たらなければだが……

 

「次の小人が出てくるまでに移動しましょう」

 

久遠先輩の言葉に頷き、移動を始める。1度小人を倒すと、また複数の小人が襲ってくる。だが現れるまでのタイムラグがあるのでその間に移動しようと言うことになり、全員で移動していると暗い道の中にぼんやりと浮かぶ公衆電話

 

「!やばい!」

 

楓がそう叫んだ瞬間。公衆電話の影から悪魔が飛び出し、巨大な刃物が俺達に向かって振るわれた……その刃が顔に当り顔半分が切り飛ばされた激痛を感じた

 

「「「「っはぁッ!はぁッ!!!」」」」

 

切られたと思った瞬間……俺達は荒い呼吸で目を覚ました。思わず顔に手を当てるが、顔はちゃんと残っている。それに思わず安堵の溜息を吐きかけたが

 

「か、楓……あ、あれ……」

 

「そ、そんな……」

 

驚いている桃子と久遠先輩の声に振り返るとそこには夢で見た公衆電話……背筋に冷たい汗が流れるのが判る

 

「鎌男だ……夢で鎌男に襲われる夢を見て、電話を掛けると助かるって言う都市伝説だけど……」

 

楓がここで言葉を切る。足元のカソ達が唸っているのを見る限り近くに悪魔が居る

 

「……久遠教授に電話したら襲ってくると思う。だけど電話をしないと俺達は助からない」

 

スマホを取り出した楓が緊張した顔で呟く。久遠教授に電話を掛ければ悪魔に襲われる、だが電話をしなければ俺達が死ぬ。大きく深呼吸を繰り返し、呼吸を整えてから指で楓にOKとサインを出す

 

「もしもし?久遠教授ですか?」

 

『楓君!?今何処だ!?』

 

スピーカーから聞こえる久遠教授の声。それと同時に暗がりから叩きつけられる圧力が増していく

 

「猿夢と鎌男の都市伝説に襲われています」

 

『それで電話をして来たのか!今車で迎えに行く!場所は何処だ!』

 

さっきの折れた看板に住所が書かれていた。楓が振り返り住所を確認していると、公衆電話の陰から何かが立ち上がる

 

「「ひっ……」」

 

さっきの死を思い出し久遠先輩と桃子が引き攣った悲鳴を上げる。俺は肩を叩き落ち着いてくれと言いながら

 

「走れる準備を、ここは狭い」

 

路地なので狭い。早くここから脱出しないと、魔法を使われた場合避けきれない、だから落ち着いて走れる準備をしてくれと声を掛ける

 

「神無市、3丁目2-48です。近くに倒壊したビルが3つみえるのでそっちに向かって走ります」

 

『判った!直ぐに向かう!無理をするなよ!』

 

「判りました。久遠教授待ってますから」

 

楓がそう言ってスマホの電源を切り、制服のポケットに戻すと人影が公衆電話の影から現れる、それを確認するよりも早く俺達は男に背を向けて走り出した

 

「夢と違うじゃないか、勝手に動くなぁあああぁ!!!!!」

 

背後から聞こえる男の叫び声。曲がっているカーブミラーにその姿が映し出される、男の口から鎌が出て来て、男の顎を切り裂く、そしてその切り口から悪魔が現れた

 

【シネヨオオオオッ!夢の通りによおおおおおお】

 

狂ったように叫びながら鎌を振り回す悪魔から逃れるために、俺達は久遠教授との合流場所を目指して走り出すのだった……

 

 

 

警備ビルに戻ると楓君達の気配は無く、結界も破壊された素振りがなかった。それはつまり自分達でこのビルから出たという証拠だ。だが楓君達が勝手に外に出るとは思えなかった……悪魔による精神的干渉。それで外に出てしまったのだと思った

 

「リリム、楓君達を探せ、そう離れていないはずだ」

 

【は、はい!判りました】

 

窓から飛び立つリリムを見送り、毛布に触れてみる。まだ僅かに暖かい、時期的には夏と秋の境目だから気温自体が高いのもあるが、ビルから出たのは15~30分くらいだろう……ただ悪魔との契約で身体能力が上がっている事を考えると自転車か何かで移動したくらいの距離は移動しているはずだ。

 

(やはりリリムは残すべきだった)

 

私1人でも本当は大丈夫なのだが、当然楓君達はそれを知るはずも無い。連れて行くと言ってリリムをビルの外に召喚して残すべきだったと後悔しているとスマホに着信が入る、慌てて画面を見ると新藤楓の文字

 

『もしもし久遠教授ですか?』

 

「楓君!今何処に居るんだ!」

 

楓君の声に思わずそう怒鳴った後に気付いた、声に混じっている酷い疲労の色にただ事ではないと判断し、車の鍵を手に駐車場に向かう

 

『猿夢と鎌男の都市伝説に襲われています』

 

「それで電話をして来たのか!今車で迎えに行く!場所は何処だ!」

 

猿夢と鎌男。それは夢に干渉し、現実にも影響を与えるという都市伝説だ。そしてその致死率は100%……悪魔だからそれを回避できる可能性はあるが、そうだとしてもそれを退ける必要がある

 

『神無市、3丁目2-48です。近くに倒壊したビルが3つみえるのでそっちに向かって走ります』

 

「判った!直ぐに向かう!無理をするなよ!」

 

車で15分ほどの距離だが、倒壊した瓦礫などの事を考えると更に時間が掛かる可能性がある。悪魔召喚プログラムの帰還をタップして、リリムを呼び戻し再度召喚をする

 

【久遠様!?さ、流石にまだ見つけてないですよ!?】

 

「違う!駐車場を塞いでいる氷を破壊しろ!楓君達の場所は特定した!私が出たら、駐車場の壁を砕いて、塞げ良いなッ!」

 

車に乗り込み、エンジンを掛ける。リリムが氷の壁を破壊すると同時にアクセルを踏み込み駐車場から飛び出す……走り出して直ぐ瓦礫の崩れる音がしリリムが車の横を飛んで追走する

 

「瓦礫を見つけたら破壊しろ、最短距離で向かうッ!」

 

【はい!】

 

『ジオンガ』

 

私の言葉に頷くと同時に進路の瓦礫を強烈な電撃で破壊する。猿夢にしろ、鎌男にしろ、見た者を殺す都市伝説だ。こんな所で楓君達に死なれては困る。悪魔を轢き殺しながら3丁目2-48に向かい……そこで私が見たのは

 

「神堂……ッ!!」

 

鎌男に追い詰められた楓君達の前に立つ黒い巫女服に身を包んだ小柄な少女と、その隣に佇む着物の男……そして

 

【ぎ、ギガア……】

 

【【……】】

 

釜を持った悪魔を片手で掴み上げる、赤と青の鎧に身を包んだ3メートルはあろうかと言う巨大な鬼の姿だった……

 

 

 

必死に走ったし、カソ達も全力で戦ってくれた……だが鎌男は強すぎた……

 

【す、スマン……ワシはここまでじゃ……】

 

「コロポックル!!」

 

両断されたコロポックルが粒子となり消えて行く、その姿を見て雄一郎が叫ぶ。最後まで粘ってくれていたコロポックルもこれで消滅してしまった

 

(強すぎる……なんなんだあの化け物はッ!)

 

必死に走りながら心の中で叫ぶ。コボルトも強かっただがこいつはそれ以上だ。絶対に勝つ事の出来ない殺意の塊

 

【逃げても無駄だぁ!!早く死ねよぉ……夢みたいによぉぉッ!!!】

 

いつでも殺せるなのにあの悪魔は笑いながら鎌を引きずり、俺達を追いかけ続けている。カソ達は今はスマホの中で眠っている。再召喚可能まで4時間と表示されているが、どう考えたって4時間も逃げ切る訳が無い。そして俺は久遠教授に電話した事を後悔していた例えカソ達よりも強いリリムと契約している久遠教授だって、あの悪魔には勝てない。車に乗っても逃げ切れないだろう……どうして俺は電話してしまったのか?このままでは久遠教授も死んでしまう。俺のせいで

 

「きゃあっ!」

 

桃の悲鳴に思考の海から引き上げられる。瓦礫を避けながら走っていたが、アスファルトが割れていたのか桃が転ぶ

 

「雄一郎!美雪先輩!先に行ってくれッ!!」

 

「楓ッ!?」

 

「楓君ッ!?」

 

桃を見捨てる事が出来ない。俺は振り返り桃の方へ走る、雄一郎と美雪先輩の俺を呼ぶ声が聞こえるが振り返らない。きっとここで桃を見捨てれば、俺は助かったのかもしれない。だけど俺には桃を見捨てると言う選択肢は無かった

 

「か、楓……な、なんで!?私は良いから」

 

「良いわけあるかッ!!!」

 

俺が戻って来た事に驚いている桃だったが、直ぐに我に返り私は良いからと言うだが俺はそれを怒声で遮り。桃に手を掴んで立ち上がらせる。足を挫いているのか痛そうに顔を歪める桃を見てそのまま桃の手を俺の首に回す歩き始める。当然こんな速さで悪魔から逃げ切れる訳が無い、桃がもう良い、もう良いからと泣きながら言っているがそれを聞こえない振りをして歩き始める。

 

「雄一郎!何してる!美雪先輩を連れて逃げろッ!!!」

 

「だ、だけど」

 

「良いから行けって言ってるんだよッ!!!」

 

呆然としている雄一郎にそう叫ぶ。遠くに光が見える、多分あれは久遠教授の車だ。あそこまで行けば雄一郎と美雪先輩は助かる筈だ、悪魔が俺と桃に照準を合わせたのか先ほどと比べてゆっくりとしたペースで近づいてきている。俺と桃に恐怖を与えようとしているのが判り、性格の悪い悪魔だ心の中で罵倒する

 

「久遠先輩。行きましょう」

 

「で、でも!楓君と桃子さんが!!」

 

「楓が逃げてくれって言ってるんだよッ!俺は……楓の意思を尊重するッ!!」

 

「笹野君!?放して!楓君ッ!楓君ッ!!!桃子さんッ!桃子さんッ!!」

 

その場で立ち止まっている美雪先輩を無理やり引っ張って走りだす雄一郎。美雪先輩が俺と桃の名前を呼び、手を伸ばすのが見えるがその行動に意味は無い。この場で助かるのは、雄一郎と美雪先輩だけ……

 

(ここ……までか……)

 

足を挫いている桃を担いでいる俺は当然走る事など出来ない。カソもナジャも倒されて召喚出来ない、武器を使って戦うのも駄目だ。あの鎌のリーチを考えれば鉈はどう考えても相手の間合いに入る事すら出来ない。つまりは完全な詰みだ

 

「い、良いから……わ、私は良いからぁ……か、楓は逃げて」

 

「嫌だ」

 

俺の中に桃を見捨てると言う選択肢は最初から無い。幼稚園からずっと一緒だった幼馴染、兄妹の用に育った……だから俺の中には桃を見捨ている言う選択肢は最初から存在しない。助かるなら2人一緒に、助からないなら……ここで死ぬ。俺にとって桃は側にいて当然だから、俺には桃を見捨てる事なんて出来るわけがない。直ぐ近くで悪魔が立ち止まる、今まで引きずっていた鎌の音が止まったから……もう鎌を振るえば、俺も桃も死ぬ距離に悪魔がいるのだろう

 

【つーかーまーえーたー……じゃあ、死ねよぉッ!!!!】

 

悪魔の高笑いが聞こえた瞬間。どこかから静かな呟きが風に乗って聞こえて来た……それはとても小さな声だったのに、不思議なくらいはっきりと聞こえた

 

「……お前がな……前鬼。ブレイブザッパー」

 

【オオオオオオオッ!!!】

 

【ギャアアアアアアッ!!!!】

 

身の毛もよだつような凄まじい雄叫びと地震の様な地響きが起こった瞬間。悪魔の絶叫が響き渡る

 

「え?」

 

俺は死ぬと思っていたなのにこうして生きている……生きているのは嬉しいが、どうして生きているのか理解出来ず振り返り、桃と揃って引き攣った悲鳴を上げた

 

【【グルルルル】】

 

そこに居たのは3メートルはあろうかと言う巨大な鬼の姿。そして青い鎧を来た鬼の肩の上に佇む黒い巫女服の少女の姿が

 

(な、なんだよ、あれはぁ!)

 

心の中でそう叫ぶ、今まで悪魔は見てきた。だけど今まで見た悪魔とは存在感や圧力がまるで違う。紅い鎧を纏っている鬼は左角が中ほどから折れてこそいるが、その筋骨隆々な身体は力強さに満ちていた。その指でさえ雄一郎よりも大きく、鋭い爪が月の光に照らされて光っているが、俺はその爪よりも鬼が手にしている、3メートルもある剣に恐怖を覚えた

 

【げ、げがああ……】

 

俺達を散々追い掛け回し、俺が死を覚悟した悪魔がその剣の一振りで右半身を失い、血反吐を吐いている姿にその鬼の持つ圧倒的な力を嫌でも理解してしまった。それに身体に纏っている鎧もそうだ、重厚で鋭利な鎧は触れるだけで斬れるような印象を受けた。それに対して少女を肩に乗せている鬼は右角が折れていて、紅い鬼と比べると細身な印象を受けた。纏っている鎧も丸いもので攻撃を受けたとしても受け流せるようになっているように見えた。そして何よりも、3メートルの巨体を覆い隠せるような巨大な盾を手にしているが印象的だった

 

「……前鬼、ゴッドハンド」

 

『ゴッドハンド』

 

紅い鬼の拳が輝くと鬼は暴れて逃げようとする鬼を片手で簡単に捕らえ持ち上げるとそのまま悪魔を粉々に握り潰す。その拳から弾け飛んだ血液と、悪魔の腕が俺の目の前に落ちてきてみっともない悲鳴が口から零れた

 

「……見つけた」

 

「へ?」

 

黒い巫女装束の少女が鬼の肩の上から飛び降り、俺を見て嬉しそうに笑う。見つけた?見つけたってなんだ?突然の事に脳が停止している、目の前で起きている事が理解出来ない

 

「……でも、それは邪魔。あの後ろの邪魔……前鬼、後鬼……殺し「御止めください」……御剣」

 

その少女が桃や美雪先輩達を邪魔だと呟き、2体の鬼に殺してと指示を出そうとした瞬間。着物を着た男性がその腕を掴み

 

「魅啝様。見た所、あの少女達は楓様の友人のようです。ここで殺せば嫌われますよ」

 

「……き、嫌われる?……わ、私が?……前鬼、後鬼……消えて」

 

何でこの男性が俺の名前を知っているのか?俺は目の前の少女も男性も知らない

 

「か、楓ッ!良かった!ご、ごめん……お、俺は……俺はぁ……」

 

「楓君!桃子さんッ!良かった!良かった!!」

 

泣きながらすまないと謝る雄一郎と良かった良かったと繰り返し言いながら、俺と桃を抱きしめる美雪先輩。そして

 

「私の教え子を助けてくれて感謝する……だがお前達は何者だ?」

 

久遠教授が車から降りてきて、俺達を護るように2人の前に立ちそう問いかける。すると黒い巫女装束は目に見えて不機嫌そうな顔をする

 

「これは失礼を、私は御剣、御剣一心。そしてこの方は……「神堂魅啝……」……この様な状況で出会えたのも何かの縁。情報交換を兼ねて話を致しませんか?」

 

そりゃまともな生存者と出会えたのだから、話をするのは決して無駄ではないだろう。それにこの人達も悪魔を召喚していたから……だけど俺が何よりも気になっていたのは、俺をじっと見つめる魅啝と呼ばれる少女の視線だ

 

「な、何?」

 

あまりにじっと見つめられ、新藤って言う苗字から俺の知らない従兄妹か?とも思ったが、でも父さんは従兄妹がいるなんて言ってなかったし……寧ろ天涯孤独の身だと言っていた、祖父母も両親も既に死んだと言っていたから、その線はないと思うんだけど……そんな疑問を感じながら少女に何?と尋ねると少女は俺を見ながら

 

「……お義兄様……やっと会えた……凄く嬉しい」

 

無表情なのに、頬を紅く染めると言う器用な事をする少女に一瞬思考が停止したが、直ぐにその言葉の意味を理解して

 

「「「「はいいいい!?!?」」」」

 

俺だけではなく、桃や雄一郎、それに美雪先輩の困惑した声が、廃墟の中に響き渡るのだった……

 

 

チャプター15 神堂と新藤

 

 




猿夢と鎌男が融合して1体の都市伝説となりました、夢と現実の境目を曖昧にし、何分かおきに夢と現実をシンクロさせて、夢で見た行動をしないと殺すと言う感じになりました。対処法がわからないのでこんな形になりましたことをご了承ください。次回で楓がコボルト戦でケルベロスを召喚出来た理由とか、そこらへんを書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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