新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター17

チャプター17 動く屍

 

喫茶店に入ったと同時に何かに足を掴れたと思った瞬間。激痛が走り、私は意識を失った……それが私が覚えていた事だった

 

「う、うん……?え、っきゃああああ!!」

 

暗い喫茶店の中で目を覚ました私は自分が逆さ吊りになっている事に気付き、食器棚に映っている自分の姿がスカートが捲れて下着が見えている事に悲鳴を上げて慌てて両手でスカートを押さえる

 

「う、うん……い、一体何が……」

 

「つう……身体が痺れて……何が起きたんだ」

 

近くから久遠教授と久遠先輩の声が聞こえてくる。目を凝らしていると私と同じ様に逆さ吊りになっている2人の姿が見えてくる……そして意識がハッキリしてくると感じるのは両足の足首に走る鈍い痛みと酷い嫌悪感

 

「き、気持ちわるいよぉ……」

 

ぬるぬるしている上にぶよぶよとした太い何かが足に巻きついている。久遠先輩達も同じなのか気持ち悪いと呟いている……

 

(これ、絶対悪魔だよね……一体何時からこうなっていたの)

 

外が暗いから日が落ちている事は判る。しかし意識を失う前も夕暮れだったのでそれでは時間がどれ位経っているのか?それが判らない、楓達の姿が無いからそんなに時間が経っていないのか、それとも……私達を捕まえている悪魔にやられてしまったのか?そんな最悪の予想が脳裏を過ぎった時

 

【しー!静かに!騒いだらあいつに見つかるよ】

 

【静かにしてて、何とかして、その足の切るから】

 

ナジャとピクシーが物陰に隠れながら静かにと声を掛けてくる。どうしてあんな風に隠れているのか?と思いそれを尋ねようとした瞬間

 

【駄目!起きた事に気付かれた!】

 

リリムの悲鳴が聞こえた瞬間。机の影で蹲っていた何かが立ち上がるのが見えた。そして不幸にもその瞬間に強い風が吹いて月を隠していた雲が吹き飛び、その何かの姿がはっきりと見えてしまった

 

「「ひっ……!!」」

 

「醜悪なッ!」

 

私と久遠先輩の引き攣った悲鳴が重なり、久遠教授の強い言葉が喫茶店に響き渡る

 

【アアアアアア……】

 

立ち上がったのは男性……だった。ボロボロのTシャツとズボンを着た中肉中背の何処にでも居そうな格好をした男性の姿だが、その頭部は半分欠けており、手足も欠損している。それだけなら良い、いや、良くないのだが、その男性の遺体はぶよぶよとした何かで欠けた部分を補っており、身体のあちこちから赤く光る眼や、青く光る眼が見えている

 

「うっ……い、遺体に悪魔が寄生して動かしている!?」

 

久遠先輩がそう叫ぶ、私にもそうにしか見えなかった。既にその男性は死んでいるのに、悪魔に寄生されて今も動いている……そしてそのぶよぶよした触手でそれが私達の足を掴んで吊り上げている事に初めて気付いた……そしてその触手の先は私達だけではなく、他の方向にも伸びていて、その先を見て私と久遠先輩は声にならない悲鳴を上げた

 

「あ……あは……ああ……あん……あは……あはは……」

 

触手に吊るされていたのは全裸の女子生徒の姿……首元に僅かに残る制服の意匠に自分達と同じ学校の生徒だと判ったが、彼女の身体にはあの男性の遺体に寄生している悪魔から伸びた触手が胸や下腹部に伸びていて、そこから先は見たくなくて思わず目を閉じたが、耳には生々しい音を立てていた。大きく見開いた女子生徒の目には既に光は無く、口からだらしなく舌と涎が垂れ続けていた……その余りに酷い光景に私も久遠先輩も完全に声を無くしてしまった

 

「ピクシー!リリム!ナジャ!この触手を何とか出来ないか!?」

 

久遠教授の叫び声がやけに遠くに聞こえる。こんなに近くに居る筈なのに……その声を聞いているが自分ではないようなそんな気がした

 

【……】

 

触手を伸ばしている悪魔は私達と既に精神が死んでいるであろう少女を何度も見つめ、そしてニヤリと笑うと

 

【ガバアッ!!!】

 

「「あ……ああああああああっ!!!!」」

 

私と久遠先輩の悲鳴が重なった。触手の先が大きく開き、巨大な口を広げるとその少女を丸呑みにしたのだ。大きく膨れていた触手だが、それがあっと言う間に元のサイズになるのを見てその少女が解かされてしまったのだと知りたくないことを理解してしまった……

 

【ジオ!】

 

ピクシーの電撃が悪魔に伸びた。その瞬間私達を吊るしている触手が光った。そして次の瞬間

 

「「あ、ああああああ!きゃああああああッ!!!」」

 

「ぐっぐう!止めろ!ピクシーッ!!!」

 

ピクシーの放った電撃が触手を伝わって私達の身体に走る。想像も出来ない凄まじい痛みに悲鳴を上げてしまう……ピクシーが慌てて電撃を止める。しかし数秒とは言え、電撃が走った事で手足に力が入らない

 

「ぴ、ピクシー……そ、外に行って、楓君達を呼んで来い……リリムとナジャは私達を守れ……」

 

久遠教授が苦しそうにそう指示を出し、ピクシーが喫茶店から飛び出し、リリムとナジャが私達の前に立って悪魔から護ろうとしてくれたが

 

【きゃあっ!】

 

【うっ……わ、私はこういうのは駄目……】

 

触手の無造作の一撃に弾き飛ばされ、喫茶店の壁に叩きつけられる。そして触手が私と久遠先輩に伸びてくる

 

「ひっ!い、いやああ!」

 

「こ、来ないで!いやああ!!」

 

「くっ!照準が……合わない……」

 

触手が私達の服を掴んだと思った瞬間。まるで紙でも引き裂くかのように制服を破ってしまう。下着姿になった事と先ほどの女子生徒の姿を思い出し必死に逃れようと身を捩るが、私達の足を掴んでいる触手が私達を放す事は無い。素肌にぬるぬるとした触手が触れた瞬間。このままでは私もあの女子生徒と同じ風にされる、そう思った瞬間心の近郊が崩れ、もう訳が判らなくなって

 

「い、いやああああああ!やだ!やだやだやだああ!!触らないでッ!わ、私に触らないでぇッ!!!」

 

「いやあああ!止めて!いやああああ!!嫌だぁ!触らないで!い、いやああああ!」

 

「止めろッ!!」

 

私と久遠先輩の悲鳴が重なり、久遠教授が悪魔を止めようと銃を放つが、悪魔は暴れる私達も拳銃の弾も無視し太い触手の先端が膨れ上がりそこから分かれでた何本もの細い触手が私達の下着に伸びた瞬間喫茶店の扉が弾ける様に吹き飛び

 

「桃!美雪先輩!!」

 

楓が喫茶店の中に飛び込んできて、楓が助けに来てくれたそれだけで凄い安心感を感じた。悪魔に犯されるかもしれないという恐怖が少しだけ薄まる。楓が来てくれた、楓なら助けてくれるそう思っていたのだが

 

「んなあ!?」

 

楓の裏返った声を聞いて、自分達が下着姿で殆ど裸同然だった事を思い出した瞬間顔が赤くなる

 

「やだあ!楓こっち見ないで!」

 

「助けに来てくれたのは判りますが、あんまり見ないでください!」

 

私と久遠先輩の声を聞いて楓がそっぽを向こうとするが、それよりも早く久遠教授の怒声が喫茶店に響き渡る

 

「馬鹿か!下着なぞビキニと同じだろう!!今はそんな事を言ってる場合ではないだろうが!!」

 

下着を触手に引っ張られるのを感じて、楓に下着姿を見られたという羞恥心よりも再び悪魔に犯されるかもしれないという恐怖が大きくなり、思わず涙が零れる。そんな私と久遠先輩の顔の涙を見て楓が拳を握り締めるのが見える。そんな中久遠教授が拳銃を撃ち、ナジャとリリムが下着に伸びていた触手を弾いてくれた瞬間に楓に指示を出す

 

「そんな事を気にしている場合じゃない!早く!私達を吊るしている触手をなんとかしてくれ!!」

 

その叫びに私達が触手に吊るされている事に楓が気付き、その先の悪魔を見ると今まで見たこと無いほどの怒りの色を顔に浮かべる。すると楓の身体の回りに赤黒いオーラが纏わり付き、そして目の前に魔法陣が展開される。そしてスマホから流れる無機質な声が喫茶店に響き渡る

 

【悪魔召喚開始……】

 

「お前ええええええッ!!!!よくも桃達を泣かせたなぁッ!!!!」

 

スマホの声を掻き消すような、楓の怒声が響いた瞬間魔法陣が光り輝きそこから異形が姿を見せる。

 

【ワガナはトウキスパルトイッ!!ナンジノテキをすべてウチクダカン!!!】

 

光の中から現れた悪魔は肉の無い姿をしていた。骨だけでありながら巨大な盾と錆付いた剣を見につけた骸骨の悪魔はそう叫ぶと同時に、私達の足を拘束している触手に向かって雄叫びを上げながら人を超えた速度で疾走しはじめた。

 

【オオオオオオオッ!!!】

 

スパルトイと言う楓が呼び出した悪魔は重そうな盾と、骨と言う外見からは想像も出来ない柔らかな動きで、周囲から伸びる触手を盾で弾き、剣で切り裂きながら私の方へ走ってくる。そしてスパルトイが飛び上がり錆付いた剣が光ったと思った瞬間。私の足を掴んでいた触手が斬り飛ばされ、私の身体が宙に舞う

 

「桃ッ!!」

 

滑り込んできた楓に抱き止められる、下着姿で恥かしいと思ったがそれ以上に穢されなかった事に安堵するが、楓の手がお尻に当っている事に気付き、安堵を羞恥心が上回り叫びそうになったが助けてくれた楓に怒鳴る訳にも行かず、両手で顔を隠した。さっきまで悪魔に犯されるかもしれないと恐れていたのに、今は楓に下着姿を見られるのが恥かしいなんて……これも無事だから考える事が出来る事で、そうで無ければこんな事を考える事は無理だっただろう

 

「スパルトイ!そのまま他の触手もぶった斬って美雪先輩も助けるんだ!」

 

【ココロエタ!】

 

『ギロチンカット』

 

【ぎ、ギアアアアアアア!?】

 

着地と同時に再び飛び上がったスパルトイの剣が再び光り、久遠先輩の足を掴んでいた触手が粉微塵に斬り刻まれ吹き飛び悪魔の苦悶の叫びが喫茶店に響く

 

「美雪先輩ッ!」

 

「え、きゃあ!あ、ありがとうございます!で、でもあんまり……見ないでください」

 

落ちてきた久遠先輩を楓が抱き止める。久遠先輩の顔はこの暗がりの中でも判るほどに赤くなっていて、そして楓は気づいていないが、お尻を鷲掴みにしていて久遠先輩もそれに気付いているがそれを言い出せる雰囲気ではないのであんまり見ないでくださいと呟いた楓が顔を赤くして喫茶店の床に久遠先輩を降ろすがその素肌を包んでいるのは黒い下着で思わず何でと思ってしまった。私達がそんなやり取りをしている中、スパルトイは久遠教授を拘束していた触手も切り払う

 

「久遠教授!?ぐえ!」

 

「すまん!大丈夫か!」

 

楓が慌てて受け止めようとするが、間に合わず背中の上に久遠教授が落ちる。その衝撃で胸が大きく揺れるのを見て、思わず理不尽だと思ったが、そんな事を考えている場合じゃないと喫茶店の机に敷かれていたテーブルクロスを掴んで引き寄せてそれを身体に巻きつけながら、後2枚のテーブルクロスも掴んで久遠先輩と久遠教授に手渡しながら

 

「楓!こっちを振り向かないでね!」

 

助けてくれた楓にそんな事を言うのは間違っていると思うが、それでもそう叫ぶと楓は耳まで真っ赤にしたまま悪魔のほうを向いて隣のスパルトイに声を掛ける

 

「わ、判ってるよ!スパルトイ!行くぞ!あの悪魔をぶっ潰す!」

 

【カカ!ワガケイヤクシャはトモニセンジョウニたつか!これはアタリにデアッタナ!ユクゾ!ケイヤクシャよ!!】

 

楓は顔を赤くしたまま悪魔を睨みつけて、鉈を手にしスパルトイと共に走り出す。私はその背中を見て胸が痛いほどに脈打つのを感じながら、テーブルクロスを身体にしっかりと巻きつけ下着が見えないか何度も確認し大丈夫だと確認した所で立ち上がり、ナジャに楓を助けてくれるように指示を出すのだった……

 

 

 

 

目の前の悪魔を殺意を込めて睨みつける。喫茶店の方から桃達の悲鳴が聞こえて来たその時、運が悪い事に悪魔がこのビルに向かって来ていて、雄一郎と共にそれを押さえていたのだが悲鳴が聞こえて来た事で只事ではないと判ったのだが、こっちも凄い勢いで向かってくる悪魔が居て動くに動けないでいた

 

【楓!早く!こっちに!このままだと桃子達が悪魔の餌になっちゃうよ!】

 

ピクシーのその言葉を聞いた雄一郎が俺に任せろと言ってくれたが、1人で残すのは心配でカソとピクシーを残して喫茶店に駆け上がって来た俺が見たのは下着姿で逆さ吊りになっている桃達の姿。あまりに刺激的過ぎる光景に顔を背けそうになったが久遠教授の叫びで桃達の方を良く見ると太い触手から枝分かれした細い触手が桃達の下着に伸びているのを見て、ピクシーの口にしていた餌と言うのが、性的な物だと悟る。それを理解した瞬間、凄まじい殺意が胸の中に生まれた。それは墨汁のように俺の心を埋め尽くしていく

 

(泣いていた……桃が……美雪先輩が……)

 

誰が泣かせた?そんなの考えるまでも無い。悪魔だ……悪魔に犯されるという恐怖で半狂乱で叫ぶ2人の声を聞いた……2人を泣かせて怯えさせた……目の前が赤く染まっていくと同時にポケットに入れていたスマホが震えだす

 

【悪魔召喚開始……】

 

「お前ええええええッ!!!!よくも桃達を泣かせたなぁッ!!!!」

 

怒りのままそう叫ぶと同時に目の前に魔法陣が浮かび上がり、そこから新しい悪魔が姿を見せる。

 

【ワガナはトウキスパルトイッ!!ナンジノテキをすべてウチクダカン!!!】

 

姿形としては人型だったが、それは人間ではなかった。肉も皮もない、骨だけの姿をした悪魔。巨大な丸い盾と錆付いた剣……そして鎧兜を見につけた悪魔……スパルトイと名乗った悪魔を見て、俺は即座に殆ど叫びながら指示を出した

 

「スパルトイ!!あの触手を切り刻めッ!!」

 

俺の指示に頷いたスパルトイは骨だけの身体とは思えない機敏な動きで触手に向かって走り出す

 

【!!】

 

そのスパルトイの突進に気付いた悪魔が触手をスパルトイに向けるが、スパルトイは骨とは思えない力強い動きで、自身に向かってくる触手を盾で弾き、剣で切り裂く。触手など障害にならないと言う事を如実に示していた

 

【おおおおおおッ!!!】

 

勇ましい咆哮と共に飛び上がったスパルトイが手にした剣が光ったと思った瞬間。桃達の足を掴んでいた丸太のような触手が細切れになって吹き飛ぶ、不気味な液体が飛び散る中俺は殆ど反射的に走り出し、床に叩きつけられそうになっている桃の下に滑り込み、その細い身体を抱き止める。よほど恐ろしかったのか、震えている桃を見てあの悪魔に対する殺意が強くなる。抱き止めた桃が下着姿とかそう言うのを考えるよりも俺が感じたのは、あの悪魔に対する圧倒的なまでの憎悪と殺意だった。桃を喫茶店の床に下ろし、俺達に向かっていた触手を切り払っていたスパルトイに更に指示を出す

 

「スパルトイ!そのまま美雪先輩と久遠教授も助けるんだ!」

 

【ココロエタ!】

 

『ギロチンカット』

 

【ぎ、ギアアアアアアア!?】

 

スパルトイの妨害をしようとした触手だが、スパルトイは鮮やかな動きでその触手を交わし、桃を助けた時のように美雪先輩の方へ飛び上がる。再び錆付いた剣が光ったと思った瞬間、その錆付いた姿からは想像も出来ない切れ味でまるでバターにナイフを通すかの様に切り裂いた

 

「美雪先輩ッ!」

 

「え、きゃあ!あ、あんまり見ないでください!」

 

落ちてきた美雪先輩を抱きとめるが、小さい悲鳴と恥かしそうに身を小さくする姿に恥かしくなってしまい、すいませんと謝りながら美雪先輩を喫茶店の床に下ろすとスパルトイが久遠教授を捕まえていた触手を切り落とす。受け止める体勢が出来ていなかったが走り出しても間に合わす、押し潰される形で久遠教授が地面に叩きつけられるのを防いだが、潰された蛙のような無様な声が口から零れた。

 

「すまん!大丈夫か!」

 

心配そうにこっちを見る久遠教授だが、その豊満な肢体を覆っているのは僅かな面積しかない下着で、目の前で揺れる双丘に顔を背けながら立ち上がると、桃が机に敷かれているテーブルクロスを引き寄せながら

 

「楓!こっちを振り向かないでね!」

 

それで身体を隠そうとしているのが判り、桃達から視線を外して悪魔に視線を向ける。触手を斬られて悶えているが、背中や後頭部から顔を出している悪魔は俺とスパルトイを睨みつけていて、見た目ほどダメージが大きくない事が判った。それになによりも、このままだとまた桃達が襲われるかもしれない。だから早くあの悪魔を倒す!鞘に納めていた鉈を抜き放ちながらスパルトイに声を掛ける

 

「わ、判ってるよ!スパルトイ!行くぞ!あの悪魔をぶっ潰す!」

 

【カカ!ワガケイヤクシャはトモニセンジョウニたつか!これはアタリにデアッタナ!ユクゾ!ケイヤクシャよ!!】

 

カソのように片言だが、その喋りには強い理性を感じてこっちこそ当りの悪魔を召喚出来たと思いながらスパルトイと共に悪魔に向かって走り出す

 

【オオオオオ】

 

スパルトイが俺の前を走り、向かってくる触手を盾で弾きながら悪魔へと走って行く。俺はその後を付いて走りながらスパルトイが弾いた触手を斬りつけるのだが、その手応えに驚いた

 

(なんだ!?これは!)

 

今までは鉈の重さを利用しての叩き潰すような斬り方だったのだが、今は違う。スパルトイの様にとまでは言わないが、叩き潰すのではなく、ちゃんと斬っていると言える一撃だった。もしかしてこれがスパルトイと契約した効果なのだろうか

「ナジャ!タルカジャ!」

 

「リリム、ジオンガ!間違えても楓君とスパルトイに当てるなよ!」

 

テーブルクロスを身体に巻きつけた久遠教授と桃がナジャとリリムに指示を出す。稲妻の光が触手を焼き払い、ナジャの放った光が俺とスパルトイに当ると身体に力が満ちてくる。これならばあの悪魔に後れを取る事はないだろう

 

【ぬおおおおおおッ!!!!】

 

【!?】

 

スパルトイが走った勢いを利用し、盾を構えて突進する。凄まじい音が響いたと思ったと同時に喫茶店の壁に悪魔が叩きつけられる。タルカジャで強化されているとは言え凄まじい力だ、スパルトイはそれで止まる事無く、突進した勢いを利用して連撃を壁に叩きつけられている悪魔に放つ。カソやコロポックルとは違う高い白兵戦能力を持つ悪魔だ

 

【ヌン!オオオ!!でやああああッ!!】

 

盾で殴り、剣で切り裂き、柄で殴りつける。こうして見ているだけでも判る、圧倒的なまでの戦闘能力だ……これ俺がいる意味があるのか?と思った瞬間スパルトイが俺を呼ぶ

 

【ケイヤクシャッ!!】

 

スパルトイがそう叫ぶとボロボロの悪魔がこっちに弾き飛ばされてくる。見た当初はあちこちから顔を出していたスライムのような悪魔も殆ど残っておらず、足はあらぬ方向で曲がっている男性の遺体に思わず目を背けかけたが、この人も悪魔に襲われて、今も悪魔に利用されている。そう思うと不憫に思えてくる

 

「おりゃあああッ!!」

 

投げつけられた悪魔の胴体に剣を叩き付けると同時にスパルトイが飛び上がり

 

【じゅうッ!もんッ!じッ!!!ぎりいッ!!!!】

 

俺が振りぬいた鉈と時間差でスパルトイが跳躍した勢いで振り下ろした剣が悪魔を十文字に切り裂いた。斬られた肉片は灰のように消滅して行き……遺体に寄生していた悪魔も苦しそうな呻き声を上げながら消えて行く

 

【うむ、マズマズ……ではアラタメテケイヤクをかわそう。ワガナはトウキスパルトイ、コンゴトモヨロシク】

 

剣を床に突き立てて手を差し出してくるスパルトイの手を握り返すと、スパルトイは満足げに頷きながら消えて行く。スマホを見るとMAGの残りが4分の1を切っていて、俺への負担を考えてくれたのだと判り。骸骨の悪魔だが、理性的で頼りになる悪魔だと判った。俺は大きく深呼吸をして、桃達の方を見る。テーブルクロスを身体に巻きつけている姿を見て、思わずさっきの下着姿で抱き止めた時の感触を思い出し

 

(馬鹿馬鹿馬鹿!何考えているんだよ!!!俺は!!)

 

悪魔を倒して直ぐだと言うのに何で、あの時の下着姿の桃と美雪先輩の事を思い出してしまったのか!軽い自己嫌悪に陥りながら

 

「車から着替えの入った鞄を取ってきます!ナジャ、リリム!久遠教授達を頼んだ!」

 

とりあえずこのまま一緒に居るのは得策じゃないと判断し、ナジャとリリムに桃達の事を頼み3人の着替えを取ってくる為に喫茶店を後にし、階段を駆け下りた。

 

「おう、楓。こっちは大丈夫だ、カソとコロポックルのおかげで何とかなった」

 

ガレージの所に巨大な氷の壁が出来ており、その外側では炎が上がっていて、悪魔を近づけないようにしていた。雄一郎に負担を掛けてしまったことを申し訳なく思いながら、車のトランクを開けてそこから女性用と書かれたタグのついた鞄を取り出す

 

「上はどうだった?全員無事か?」

 

心配そうに尋ねて来る雄一郎に大丈夫だったと返事を返しながら

 

「ただ喫茶店に上がったら、全員下着姿で悪魔に捕まってた……」

 

くらがりだったが、しっかりと焼きついている3人の艶姿に顔を赤めていると雄一郎は小さく羨ましいと呟く。確かに健全な男子高校生としては眼福だったのだが、この極限状態でのあの光景はどう考えても眼福ではなく、凄まじい毒だ。しかもお互いの関係を壊しかねないほどに強力な……雄一郎もその事に気付いたのか、羨ましくはないかと自身の発言を訂正し

 

「着替えの鞄を取りに来たのか……早く届けてやれよ」

 

雄一郎の言葉に判ってると返事を返し、カソを連れて俺は再び喫茶店へ続く、階段を上り始めるのだった……

 

 

 

楓君が着替えを取りに行ってくれている間。私達は喫茶店のテーブルクロスを身体に巻きつけて素肌を隠していたのだが

 

「あうあう……」

 

「……み、見られた……」

 

桃子と美雪は下着を見られた事を助かってから意識してしまったのか、自分の身体を抱きしめるようにしてぶつぶつ呟いている。悪魔に犯され無くて良かったと思うべきなんだが、それでもやはり年頃の乙女としては意中の男の子に素肌を見られたのは恥かしかったのだろう。ナジャとリリムは悪魔だけあってそう言う心の機微は理解出来ないようで

 

【桃子も美雪も楓が好きなら抱いて貰えば良いのに】

 

【うん。恥かしがる意味が判らないね?】

 

だ、抱いてもらう!?ナジャの言葉に目を白黒させている桃と美雪に溜息を吐きながらナジャとリリムに

 

「お前達の価値観を桃子と美雪に押し付けるな。お前達はちょっと離れててくれ」

 

ナジャとリリムに調理場のほうを指差し、移動するように言ってから桃子と美雪に声を掛ける

 

「下着姿を見られたのは恥かしいと思うのは仕方ない事だが、あんまり意識をするな。楓君も困るからな」

 

この様な状況で異性として認識してしまうとお互いにギクシャクしてしまう。そうなると何かの拍子でお互いの空気が険悪くな物になりかねない事を説明する

 

「で、でも母さん。は、恥かしくて」

 

「わ、私もです」

 

顔を真っ赤にしている桃子と美雪に仕方ないと笑いながら

 

「まぁそれは当然の反応だと思う。だけどあんまり意識をしてしまうと、それこそ楓君や雄一郎君が外に居る暴徒と同じになってしまうかもしれないぞ?」

 

私の言葉に顔を上げる2人の頭を撫でながら

 

「桃子も美雪も可愛い、それは間違いない。楓君や雄一郎君だって男だ、女性の身体に興味もあるだろう。でもそれは意識をしてはいけない事だと判っているから無意識にそれらに触れないように気を使っているだろう。それなのに2人がそんな反応をしていては、楓君も雄一郎君も意識をしてしまう。意識をしてしまえば、もう抑える事は出来ない」

 

この様な極限状態では子孫を残そうとする本能が強くなる。でもそれをする訳にはいかないと理性で押さえているのを刺激すれば、それこそ楓君達も我慢を出来ずに2人を犯そうとするかもしれない。もしそうなれば楓君達は良心の呵責に耐え切れず、姿を消すかもしれない。私の言葉を聞いてはっとなった表情をする桃子と美雪。丁度そのタイミングで喫茶店の扉が開き鞄が置かれる

 

「久遠教授、えっと着替えの鞄もって来ました。扉の前で悪魔が来ないか警戒しておくんで、着替え終わったら声を掛けてください」

 

楓君はそう言って扉を閉める。私は扉の方を1度見つめてから、桃子と美雪の方を見て

 

「な?私達が恥かしがると思って、楓君は姿を見せないだろう?私達の事を相当気遣ってくれているんだ。だから変に意識をするのは止めるんだ」

 

私の言葉に判りましたと返事を返す桃子と美雪を見ながら立ち上がり、楓君が持ってきてくれた鞄を手にとって

 

「ガスが生きていたらお湯を沸かして、タオルを温めよう。流石に気持ち悪いからな」

 

触手が切られた事で、噴出した悪魔の体液が身体に掛かっていて正直気持ち悪い。テーブルクロスを巻き付ける前に拭きはしたが、それでもべとべととしているし生臭い匂いが残っていて、それらが性行為を連想させて気分が悪くなってくる

 

「た、確かに気持ち悪いし、臭いですね」

 

「うう……そう言われると匂いが気になってきます」

 

嫌そうな顔をしている2人を見ながら調理場に向かい、ライフラインが生きている事を確認し、鍋に水を入れて丁度いい温度まで暖めてからタオルを入れて絞り、悪魔の体液でべとべとになった身体を綺麗にしてから楓君が持ってきてくれた着替えの鞄から着替えを取り出し、着替え始めるのだった……

 

 

 




チャプター18 Lとの再会へ続く

今回は前回と続き微エロとなりました、まぁこれくらいならばR-15の範囲でしょう。R-18は書きませんよ、ええ、書きませんとも、それに近くても書きませんよ。ここは重要です、次回はタイトル通りLの再登場です。2回目のLとの会談で何が起きるのかを楽しみにしていてください。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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