新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター18

 

 

チャプター18 Lとの再会

 

暖かいタオルで身体を綺麗に拭いて下着を取替え、メルコムの店で買った服を見つめていると身体を拭き終わった久遠教授が私が手にしているスカートを取り上げて

 

「スカートは止めておけ、もし暴徒に組み敷かれた場合簡単に服を脱がされる。ジーンズとかのズボンにした方がいい」

 

簡単に脱がされると聞いて、ここに来るまでに見た暴徒と、先ほど悪魔に犯され掛けたことを思い出し、慌てて服の入っている鞄からジーンズを取り出す

 

「では母さん。上着とかは?」

 

久遠教授に服のアドバイスを求める久遠先輩。私も服を選ぶとなるとどうしても自分の趣味を優先してしまいがちになるので、どうすればいいですか?と尋ねると久遠教授は服の山から自分のサイズに合うジーンズとブラウス、そして上から羽織るジャケットを選び、素早く着替えながら私と久遠先輩に選ぶ服について助言をしてくれた

 

「上に何か羽織る服を選んだほうがいいな。出来ればボタンよりもチャックの方が良い、ボタンでは引き千切られたらそれで終わりだ。ジャケットを選ぶなら生地は厚めの物が良い、手で破かれるような物は良くないな」

 

久遠教授のアドバイスに頷き、服の山からジーンズとブラウス、それとアドバイス通りに上に着るジャケットを選んで、それを着込む。実際あんまりジーンズを穿く事は少なく違和感をどうしても感じるが、久遠教授の言う通りスカートを穿くのは危険だと理解したので、早くジーンズに慣れようと思った

 

「着替え終わったなら楓君と雄一郎君を呼ぶぞ?一応このビルの内部を調べたほうが良い、もしかすると遺体に寄生していたスライムのような悪魔が居たら眠る事も出来ないからな」

 

「そうですね、あの形状でしたら何処かの隙間に隠れていてもおかしくないですしね」

 

あの悪魔が居るかもしれないと聞いて、思わず身震いしているとナジャとリリムが笑いながら

 

【大丈夫だよ、今度は私が守るから】

 

【不意打ちだったから反応出来なかったけど、次はあんな無様な事はしませんから】

 

今度こそ守りますと言ってくれたリリムとナジャにありがとうと返事を返し、喫茶店の扉を開くと楓と雄一郎君が心配そうな顔で喫茶店の中に入ってくる。楓の顔を見て、恥かしさが込み上げて来るがそれを耐えて普段通りに振舞う

 

「楓。助けてくれてありがとう」

 

「あ、ああ。桃も久遠教授も美雪先輩も無事で良かった」

 

ほっとした表情で笑う楓を見ていると、久遠教授が手を叩きながら

 

「まだ安心するには早い、あの男の死体に寄生していた悪魔だが、スライムのような形状から考えると何処かの隙間とかに隠れていても困る。食事や休憩をとる前にこのビルの中を調べる、楓君も雄一郎君も疲れていると思うが捜索を手伝ってくれ」

 

久遠教授の言葉に判りましたと返事を返す、楓と雄一郎君を先頭にして最初に喫茶店の内部から調べ始めるのだった……

 

 

 

久遠教授の懸念したとおり、喫茶店の中に2体、3階の派遣会社に3体のスライムが隠れていた。そして今はピクシーがまだ喫茶店にスライムが隠れていると教えてくれ、その隠れていたスライムを見つけた所だ

 

「コロポックル!ブフ!」

 

「カソ!アギ!」

 

【う、うぼああああああ!?!?】

 

俺と楓の言葉が重なり、カソとコロポックルの放った火球と氷の礫がスライムを砕く。殴りつけるや、切るという攻撃はダメージは与えるが、効果は薄く最終的にカソの炎とコロポックルの氷が有効だと判明し、そこからは楽にスライムを倒せるようになったが、狭い隙間とかに素早く隠れるので鬱陶しい悪魔だった。やっと倒した所で安堵の溜息を吐くと、楓がダクトを指差して

 

「雄一郎。隙間を封じてくれ」

 

「ああ、コロポックル。頼む」

 

【うむ!しかし雄一郎。お前のMAGもそろそろやばい、チャクラドロップを舐めるんじゃぞ?】

 

【オマエモダ、ケイヤクシャ。MAGがツキルまえにほじゅうシロ】

 

コロポックルがブフで隙間を氷で凍結させたのを確認してから、チャクラドロップを頬張る。口の中に広がる濃厚な血の味に楓と共に眉を顰める。だがMAGが尽きればコロポックルが消えてしまうので血の味を我慢して舐め続けながら、ピクシーやナジャが隙間を調べ、スライムが隠れているのを見つけ、それをアギとブフで倒し続けるのだった……

 

「つ、疲れたぁ……」

 

「ほ、本当だな……」

 

楓と共に派遣会社のソファーに深く腰掛ける。リリムのジオンガや、ピクシーのジオ、ザンはスライムに対して効果が薄く、魔法を使い続けた俺と楓の疲労は濃く、そして舐め続けていたチャクラドロップのせいで胸もむかむかして気持ち悪い

 

「お、お疲れ様。ジュース飲む?」

 

楓の話では悪魔に襲われて下着姿になっていたと言う桃子と久遠先輩はジーンズにジャケット姿で、制服の時よりも動きやすそうな格好をしている。桃子がクーラーの蓋を開けてジュースを飲む?と尋ねてくる。桃子の言葉に返事を返そうとした時。俺達の声よりも先に第3者の声が部屋の中に響き渡った

 

「私はジュースよりも冷たい水を頼むよ」

 

「「「「ルイさん!?」」」」

 

「お前……ルイ……何時の間に……」

 

高校で出会ったルイさんが椅子に腰掛け。やあっと手を振る姿に俺達の動揺した叫び声と、頭痛を感じているのか久遠教授が額に手を置きながらその名前を口にするのだった

 

「あれから私も色々と街の中を歩いて、生存者とかを探していたんだけどまともな人が居なくてね。MAGが底をついてしまって悪魔を召喚出来なくなってね。どうした物かと歩き回っているとこのビルを見つけてね、隠れ場所にしたんだ、あそこから天井裏に上って隠れてたんだが、水もあるし、缶詰とかもあって隠れ場所としては最適だったよ。暗いのと、狭いのは難点だったが、1人なら十分だったしね」

 

にこにこと楽しそうに笑いながらどうしてここに居たのか?と言うことを説明してくれるルイさん。だがそれは笑いながら言える事ではなく、かなりギリギリの所で生き延びて来たのが判った。そしてルイさんの視線の先を見ると天上裏に続く階段があって、そこから降りて来たのだと直ぐに判った。多分俺達の話し声を聞いて知り合いだと判って降りて来たようだ。

 

「それで?態々出て来たんだ。何か用事でもあるのか?」

 

久遠教授のドライな言葉にルイさんはそれでこそだよと笑いながら、ノートPCを鞄から取り出して

 

「勿論、悪魔召喚プログラムを改良してね。それを渡そうと思っていたんだけど、偶然同じビルに来てくれて良かった」

 

そうだよな、俺達がこのビルに来たのは偶然だ。そしてそこにルイさんが隠れているなんてそんな偶然があるなんてな……もしかすると神様って言う奴が、俺達をこのビルに導いてくれたのだろうか?

 

「と言う訳で、スマホを預けてくれるかい?悪魔召喚プログラムをアップデートするから」

 

ルイさんの言葉に判りましたと返事を返し、俺達はスマホをルイさんに預ける。楓の話では新しい悪魔を召喚し、契約する事で桃子達を助ける事が出来たと聞いた。だからこの悪魔召喚プログラムはこれからも役に立つ、もっと悪魔が強くなる事を考えれば、ルイさんに悪魔召喚プログラムを更新して貰うことは正しい事だ

 

「ではアップデートが終わるまでの時間を利用して、夕食の準備をしよう。ルイ、お前が食べていたと言う非常用食料を使うぞ」

 

「構わないよ。その変わり私も夕食を頼むよ、缶詰と乾パンとかで正直飽き飽きしていたからね」

 

「判っている。楓君、雄一郎君、疲れている所悪いが天井裏から保存用の食料を見てきてくれるか?」

 

久遠教授に言われなくても俺と楓は天井裏を見に行くつもりだったので、判りましたと返事を返し、2人で天井裏に向かったのだが……

 

「なぁ?楓、あの人本当にここに隠れていたのか?」

 

「そう言ってただろ?おかしいとは思うけど……」

 

言っていた通り天井裏に長期保存水や缶詰に乾パンと言った災害時の備えと思われる物が備蓄されていたが、手をつけられた痕跡が無い。数日前から隠れていた割りには綺麗過ぎる

 

「ここで隠れてたんだ。綺麗にしていないと、気分が悪くなるとかで綺麗にしていたんじゃないか?水も飲まず物も食べないで生きてられる訳が無いんだからさ。ま、考えるのは後にして運び出そうぜ」

 

楓もどこか納得していないようだが、今はルイさんの事を考えるよりも先に備蓄されていた物を運び出す事が先だ。俺は楓の言葉に頷き、2人で協力して天井裏に備蓄されていた物を運び始めるのだった……

 

 

 

料理こそ喫茶店で作ったが、悪魔が巣食っていた場所で食事をする気にはなれず、派遣会社のオフィスで夕食にした。メニューとしては備蓄されていた水で炊けるご飯と肉や魚の缶詰をフライパンで温めた物。それとカップの味噌汁……こんな状況で暖かい食事を取れる事に感謝しながらの食事となったのだが

 

(おかしいよな、あの人)

 

話では、ここの天井裏で隠れて暮らしていたという割には、天井裏に生活感が無く。食料や水も減った痕跡が無かった……雄一郎には処分したんじゃないか?と言いはしたが、このような状況でそこまで気にしている余裕は無いだろうし……考えられるのは嘘をついている事ともう1つ。3日前ほどにこのビルに逃げ込んできて、天井裏に隠れると同時に疲労で意識を失った……だけどそれでも違和感が残る

 

(そこまで疲れるか?)

 

高校で見たあの骸骨の悪魔。同じ骸骨の悪魔だが、スパルトイよりも遥かに強いだろう、そんな悪魔を使役しているルイさんがそんな状況

 

に追い込まれるだろうか?俺達よりももっと楽にここまで来る事が出来たのではないか?そう思うと怪しいという疑念が強くなるが、久遠教授の知り合いだと言うので疑う訳にも行かない

 

「楓?どうしたの?美味しくない?」

 

俺の箸が止まっている事に気付いた桃が美味しくない?と尋ねて来るので俺は慌てて

 

「いや、美味いよ。めちゃくちゃ美味い」

 

考え事をするのは後にするべきだったと反省しながら桃と久遠教授が用意してくれた夕食に箸を伸ばすのだった

 

「いや、ありがとう。やはり大勢で食事をするのは楽しいね、それに暖かい物と言うだけで心が休まるよ」

 

「だったら自分で保管用の味噌汁くらい温めろ」

 

「いや、ははは……日本語は話せるけど、文字はあんまり読めなくてね。作り方が判らなかったんだよ」

 

話すだけじゃなくて、読む事も大事だねと笑うルイさん。外国人だから日本語が読めなかったのか、でもそれだと悪魔召喚プログラムは全部日本語だし……やっぱり嘘をついている?俺の疑いの視線に気付いたのかルイさんは少しだけ慌てた素振りで教えてくれた

 

「ああ。悪魔召喚プログラムは翻訳しているけど、もしかしたら文法がおかしい物もあるかもしれないけど。そこは許して欲しい。日本語は複雑でとても難しいんだ」

 

プログラムで翻訳してくれていたのか……日常会話には支障はないけど、文字を読み書きするのは苦手と言う外人は多い。ルイさんもその口なのだと思い。疑って悪い事をしたなと反省しているとルイさんが俺のほうを見て

 

「悪魔召喚プログラムを立ち上げてくれるかい?新しい機能を説明するから」

 

新しい機能……?その言葉に首を傾げながらスマホの悪魔召喚プログラムを起動させると新しく、「ラーニング」と言う項目が追加されていた。ラーニングって学ぶって意味だよな?俺達が首を傾げているとルイさんがその機能についての説明を始めてくれた

 

「スキルラーニング機能。まだ実験段階の機能だが、契約している悪魔と悪魔召喚プログラムを利用して、悪魔のスキルを覚える機能だ」

 

悪魔のスキルを覚える!?さらりと言われた言葉に思わず目を見開く、確かに使えたら便利かもしれないが、それは俺達が悪魔に近づくと言う事ではないのか?と言う不安を感じているとルイさんは俺達のそんな不安を見抜いたのか笑いながら

 

「悪魔のスキルを覚えると言っても擬似的に再現するだけだ。悪魔が使うものよりも効果は数段劣るし、持続性がある訳でもないよ。それに覚えると言っても、君達と悪魔の相性も大きく関係している。試しにラーニングをタッチして見ると良い」

 

言われた通りラーニングの画面をタッチすると、ラーニング中の文字とその下にいくつかスキルが表示されていた

 

カソ

 

アギ ラーニング中 

 

マハラギ ラーニング不能

 

ひっかき ラーニング不能

 

スパルトイ

 

ギロチンカット ラーニング不能

 

両腕落し ラーニング不能

 

絶妙剣 ラーニング不能

 

タルカジャ ラーニング不能

 

剣の心得 ラーニング中

 

殆どラーニング不能になってるな……試しに桃のスマホを覗き込んでみると桃も同様で、ラーニング中になっているのはディアとポズムデ

 

イの2つだけだった

 

「おい、殆どラーニング不能じゃないか」

 

「あはははは、すまないね、言っただろう?実験段階だって、もう少し研究を進めればラーニングが出来るようになると思うよ」

 

俺としてはラーニング中の文字が少なくて安堵していた。これでラーニングしている項目が多いとなると、悪魔と契約しているうちに人間じゃなくなってしまうのではないか?と言う不安を抱く事になるからだ。美雪先輩も安堵の溜息を吐いているのを見て、俺と同じ考えなのだと判った

 

「これで何か変わればいいな」

 

「そうだな……魔法を使えるって言うのは少し怖いけどな」

 

魔法を使えるって事で悪魔と勘違いされるのではないか?と言う不安が頭を過ぎるが、今の所遭遇しているのは、殆ど狂っているような暴徒だけ、まともな生存者にはルイさん以外に出会っていない。もし今後まともな生存者と遭遇して、悪魔を使役し、魔法を使っている所を見られて恐怖の目で見られるかもしれないと思うと、少しそれが怖かった

 

「ルイさん。まともな生存者とかって見ませんでしたか?」

 

「まともな生存者か……私が見てきた限りでは殆ど暴力でその場所を治めているような連中ばかりだったよ。弱い女性達は男達に玩具同然に扱われる。生存者と合流したいと言う気持ちは判る、だがこの街の生存者と合流する事は諦めた方が良いな」

 

玩具同然に扱われる。それが性欲の発散を意味すると気付いた、美雪先輩や桃が顔を青くする。ならその話はさっさと切り上げて、俺はルイさんが口にしたこの街の生存者とはと言う言葉が気になった

 

「どうも私も噂に聞いただけなんだが、君達と同じ様に悪魔と契約して生存者を助けて回っている集団がいるらしい。ヤタガラスとか言う高圧的な人間達じゃなく、殆どが君達と同年代や少し年上の人間が集まって行動していると聞いている」

 

ヤタガラスではない、悪魔使い。一瞬驚いたが、それはありえない話ではない。守護霊様は普通にネットで調べる事も出来る都市伝説だ……だけどそれは

 

「だけど味方とは言い切れないですよね?襲われる可能性もあるって事じゃないんですか?」

 

桃が怯えた表情でそう呟く、守護霊様は余りに知られすぎている。もし悪魔の力を自分の欲望の為に使うような相手に接触する危険性を考えるとルイさんが持って来てくれた情報も余り役に立たない

 

「まぁ確かにその通りだろうね。一応そう噂もある程度に思っておいたほうが良い、どうせこの街はもう駄目だ。悪魔がどんどん出現し、その瘴気に当てられて人間も正気を失っている。早い内に街を出たほうが良いというのは間違いない」

 

それほど長い間住んでいた街ではないが、それでも街を捨てなければ生きる事が出来ないと言うのは少し寂しいと思った。このまま残っていても危険だと言うのなら街を出るしかないと無理に納得する。感傷では生きていけない、生存率を少しでも高める為に最も安全な選択をしなければならないのだから……

 

「忠告感謝する。私達も神無市を出るつもりだ、お前はどうする?なんなら一緒に行動するか?」

 

久遠教授がルイさんにそう問いかける。確かに折角出会えたまともな生存者だ、バラバラに行動するよりも固まって行動した方が良い、俺はそう思ったんだがルイさんはその申し出はありがたいがと言いながら首を振る

 

「ルイさん。貴方の契約している悪魔は強い。でも一緒に行動した方が安全なんじゃないか?」

 

「心配してくれてありがとう、雄一郎君。それに楓君達もだ、私を心配してくれてありがとう。とても嬉しいよ、でも私にはやらないといけないことがある。だから一緒には行けないよ」

 

やらないといけない事、それが何か問いただしたかったが、聞いてくれるなと言う拒絶の意思をルイさんから感じて黙り込む。だがこの危険な状況で、1人で動いて何をやらないといけないのだろうか?やっぱりルイさんは悪魔が現れた理由を知っているのではないだろうか?と言う考えが頭を過ぎる。その時部屋の中にぱんぱんっと手を叩く音が響く、振り返ると久遠教授が手を叩いていて

 

「色々と考えたい事もあると思うが、今日はもう休もう。街から出るにも、悪魔とは嫌でも戦わないといけない。それに早く街を出たいと

 

言っても思い通りに行かない可能性もある、今日は早めに休んでおこう」

 

確かにその通りだな、それにルイさんは俺達の事を考えて色々と準備をしてくれている。そんな人を疑っても意味が無い、もし敵ならばこんな事をする意味が無いからだ。

 

(駄目だな、疑心暗鬼になってる)

 

この街の異様な雰囲気に呑まれて疑心暗鬼になっていることに気付いた。これは良くない傾向だなと反省する

 

「では楓君と雄一郎君とルイはそっちの応接間で休んでくれ、私達はこっちの従業員用の仮眠室で眠る。ゆっくりと身体を休めてくれ」

 

久遠教授の言葉に判りましたと返事を返し、俺達は3つ置かれていた応接間のソファーに1人ずつ横になった。満腹になった事に加え疲労もあったからか、寝転んで毛布を被っただけで凄まじい睡魔に襲われ、5分と経たず俺は深い眠りに落ちていくのだった……

 

 

 

日付が変わる頃に美雪や桃子を起さないように気をつけ、私は仮眠室を後にして喫茶店に下りた。そこではルイが待っていて、ウィスキーのグラスを呷っていた

 

「飲むかい?」

 

「いや、結構だ」

 

酒はあまり好きではないのでいらないと断ると付き合いが悪いと溜息を吐くルイの前に座り

 

「それで、お前までこの街を出るというのはどういう理由だ?」

 

街を出ると言うルイ。最初は嘘だと思ったが、真剣な顔をしていたので何か他に理由がある筈と思い。本当の理由は何だ?と尋ねるとルイはグラスを机の上において

 

「門が大きくなっている。ここまで大きくなると魔界の重鎮クラスも動き出すだろう。今見つかると面倒なんだよ」

 

「……お前また逃げ回っているのか?」

 

どうせお前の所の部下連中だろう……いつもふらっと居なくなるので部下連中が門が大きくなったタイミングでこっちに来ようとしている事に気付き、その前に逃げると言うルイに軽い頭痛を感じているとルイはそれだけじゃないと付け加え

 

「天使も何かを探すように降りて来ている。高位天使が来ると面倒なことになる、いずれ戻るにしろ今は離れるべきだろう」

 

悪魔はともかく天使は厄介だな。あいつらにとって救うべき人間と言うのは、自分達には向かわない従順な家畜のような存在の事を指す。楓君達は間違いなく、天使の基準では粛清対象に入る。天使に見つかる前にこの街を出るのはやはり必要な事だろう

 

「ただ街を出るにもいくつか問題がある。守護霊様だ」

 

「あれか……お前ではないんだな?」

 

守護霊様と言っておきながら、あれはその実悪魔召喚の儀式だ。ルイがばら撒いたのではないのなら、いったい誰が守護霊様なんて物をばら撒いているのか?私やルイが知らない、高位の悪魔がどこかに潜んでいるのかもしれない

 

「守護霊様で悪魔を呼び出し、悪魔憑きとなった人間が増えている。このような状況だ、少しでも救われたいと思い守護霊様を行う人間は増えてくるだろう。それらの存在には気をつけたほうがいい」

 

守護霊様を行い、睦月のように変異種の悪魔になられても困る。それらは間違いなく警戒した方がいいだろう、決して強いと言えない筈のコボルトがあそこまで変異したのだ、上位悪魔で同じ事が起きたらなんて考えるだけでも恐ろしい

 

「忠告はありがたく聞いておくよ」

 

まだ門が小さく、そこまで強力な悪魔は出てきて居ないが、悪魔憑きとなり変質した人間の存在は厄介だな。何よりも楓君達が対峙して戦えるか?と言う問題も出て来る、今はまだ遭遇していないが、その内遭遇する事も考えておかないと不味いな……私が悩みこんでいるとルイの笑い声が聞こえて思わず睨みつけるとルイは楽しそうに笑いながら

 

「いや、微笑ましい物を見せてもらったと思ってね、母親らしい良い笑顔だったよ」

 

ルイにそう言われて一瞬呆けたが、馬鹿にされていると理解しべレッタの銃口を向けながら

 

「殺すぞ」

 

私が本気で睨みつけると、ルイは怖い怖いと笑いながら立ち上がり

 

「ではね、これから更に大変になってくると思うが頑張って生き延びてくれ」

 

「もう行くのか?」

 

その言葉にもう、このビルに残るつもりは無く、また移動するつもりだと判り。思わずそう尋ねるとルイは困ったように笑いながら

 

「ああ。彼らは気持ちの良い人間だ、あんまり馴れ合うと情が沸いてしまう。また縁があれば会おうと伝えておいてくれ」

 

そう笑って溶ける様に消えていくルイを見送り、べレッタを太ももにホルスターに戻し喫茶店の椅子に深く腰掛け

 

「さてと……これからどうするかな」

 

街を出るまでに楓君達にはもっと心構えをして貰わないといけない。桃子と美雪にしろ、死ぬかもしれないと言う恐怖よりも、楓君に下着姿を見られたと言う羞恥心が上回ってしまうようでは駄目だ。これから生き延びていく事は出来ない……もっと危機感を感じて貰わなければならない。そうで無ければ、全員の命に危険が及ぶ

 

「どうしたものか……」

 

楓君達を危険に晒したくないが、そうしなければこれから生き延びていく事は出来ない……私はその難題に頭を悩ませながら、喫茶店を照

 

らしている月を見て深く溜息を吐くのだった……

 

チャプター19 悪魔使い

 

 




ルイ様の再登場。スキルラーニングをスマホに追加、しかしそれが良い物か、悪い物なのかは判りませんね。次回は悪魔使いと言う事で、楓達とは違う悪魔使いを出して行こうと思います。勿論、ヤタガラスでもありません。楓達同様守護霊様で悪魔と契約した人達になります、それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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