新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター1

チャプター1 悪魔

 

いつもと変わらない日常だった。それがずっと続くと思っていたし、それが急に無くなってしまうなんて誰も想像もしてなかった

 

(ああ、頼む……夢で、夢であってくれよ)

 

停止した思考の中で夢であってくれと思うが、そんな都合の良い話は無い。大学の研究室に俺達は閉じ込められ、そして目の前には伝説や民謡の中だけで存在するはずだった異形達……そして睦月が喰われる音。それがあるからこれが現実だと嫌でも思い知らされる……

 

【グルルル、テイコウスルイシモナイカナラバシネ!オロカナケイヤクシャヨ!】

 

牙を剥き出しにして飛び掛ってくる燃える鼠。それが自分に向かって来ている。どこか他人事のようにそれを見つめていると

 

「こっのおっ!!!」

 

【ギャンッ!?】

 

雄一郎が何時の間に手にしたのか金属バットを振りかざし、向かって来た燃える鼠を殴り飛ばす

 

「馬鹿野郎!何を呆けてるんだ!!楓ッ!!!」

 

【はっは、威勢が良いの、じゃがお前さんに他人を気遣っている余裕があるのかの?】

 

雄一郎の怒声と、穏やかな声だが殺意が込められた老人の声が響いたと思った瞬間。氷の塊が凄まじいスピードで雄一郎に迫っていくあんなのが当れば、人間の手足なんて簡単に千切れ飛ぶ……それを理解した瞬間。止まっていた思考が一気に動き出す

 

「雄一郎!!!」

 

友人を死なせる訳には行かない、それだけを考えて研究室の机を掴んで投げ飛ばす。それは氷とぶつかり粉々に砕け散るが雄一郎を助ける事は出来た。だが時間がない、今はあの狼男は睦月を食っているので俺達に興味を示してないが、喰い終われば俺達を襲ってくるだろう。その前に何とかしてこの研究室から逃げなければ……必死にどうやってこの状況から逃げれば良いのかを考えるていると、先輩の悲鳴で思考の海から引き上げられる……

 

「っきゃあああッ!!」

 

【あははは♪逃げ回ってないで遊ぼうよ?ねえ?私はねー弱い契約者に従うつもりなんて無いんだからッ!!」

 

先輩を助けなければと思ったのだが、ピクシーの口にした契約者という言葉。俺達が契約者……燃える鼠とピクシーの言葉を聞いて。俺の頭の中に1つの仮説が浮かび上がる

 

(俺達が呼んだのは守護霊なんかじゃない、全く別の何かだ。ただ呼び出した段階で俺達は契約者で……あいつらは俺達を殺すことで自由になろうとしている……?)

 

だから睦月は殺された?……いやだけど……そんなファンタジーじゃないんだからと一瞬脳裏に浮かんだ考えを馬鹿馬鹿しいと思ったが久遠教授が透明な壁のような物を叩きながら

 

「何をしてるの!ぼんやりしない!あれを何とかしないと貴方達が死ぬのよ!何とかしてこの場を切り抜けるのよ!!」

 

「っはい!!!」

 

今は考えている場合じゃない、美雪先輩を襲っているピクシーはそれほど敵意は無いのか、笑いながら追い回している。だが俺達は自分達で書いたこの血の魔法陣の中から出る事が出来ない、だからいつかは体力切れで捕まる事になるだろう……そして弱い契約者に従うつもりはないと言う言葉。今は遊んでいるが、いつかはピクシーは先輩を殺しに入る。その前に助けに入りたいのだが、俺自身も燃える鼠に狙われているので、先輩を助けに入る余裕がない。まずはこいつをなんとかしなければ

 

【ガルルルルルッ!!!】

 

「おわっとお!?」

 

牙を剥き出しにして噛み付いてきた燃える鼠。頭を抱えて咄嗟に転がって避ける

 

(これは!?)

 

転がった先にある物を見て、これならっと思い手を伸ばすが、机の足に引っかかってそれを引き寄せることが出来ない

 

「くそっ!あと少しなの【ガアアアアアア!!】っぎゃッ、がああああ!!」

 

燃える鼠が足に噛み付き、凄まじい激痛と熱さが襲ってくる。あまりの痛みに意識が飛びかけたが、その痛みのおかげか手を伸ばし続けていた物を取ることが出来た。その後はもう無我夢中だった、殺さなければ殺される。それしか考える事が出来なかった、死にたくない。その思いだけに突き動かされ足元に噛み付いている鼠を手にした消火器で殴りつける

 

【ぐうっ!?】

 

肉の裂ける嫌な音がしたが、そのくらいどうって事は無い。だってここでこいつを殺さないと俺が殺される。だから足の痛みなんかで立ち止まってはいられない

 

「てめえ!これでもくらええ!!!」

 

消火器の安全弁を引き抜き、思いっきり噴射する。燃えてるなら消してやれば良い、そんな単純な考えだった。もしかしたら消えない可能性もあったが、俺に出来る抵抗はこれしかなかった

 

【っギ、ギギイイッ!!!】

 

苦悶の悲鳴を上げてのた打ち回る鼠。それを追いかけながら消火器の中身を全て噴射する、消火器の中身が空になる頃には鼠が全身から噴出している炎が消えていた……今がチャンス、そう思った瞬間俺は痛む脚を引きずりながら鼠の前に立ち

 

「うおおおおおおおおッ!!!!」

 

中身を全て噴射した消火器を全力で振りかぶり、鼠の頭に叩き付けた。肉を砕く嫌な感触が手に伝わって来て、その感触に顔を歪める。消火器の下で痙攣する足を見て死んだと確信し、自分が殺したんだと言うことを今実感し、自分の対する嫌悪感と、助かったという安心感が同時に胸の中を過ぎる……全身から力が抜けて、思わずその場にへたり込んでしまう

 

(どうしてこんな事に)

 

いつものように久遠教授にリポートを見てもらい、そして講義を聞いて。久遠教授や美雪先輩と一緒に学食で昼食を取りながら自分の考えを話す。そんな当たり前を過ごすはずだったのに……どうしてこんな事に……何がなんだか判らなくなって、頭の中がぐしゃぐしゃになっている。誰か、誰でも良いから教えてくれよ。俺はどうしたら良いんだよ……

 

「来ないで!こっちに来ないで!!楓君!母さん!助けて!」

 

【きゃはっ!ほらほら!もっと早く逃げないと死んじゃうよー?】

 

美雪先輩の助けを求める悲痛な叫びに我に帰る。雄一郎や美雪先輩も危ないって言うのに、俺は何を考え込んでいたんだと自らを叱責する。考えるのは後でも出来る。今やるべきことはそうじゃない、今やるべき事はこの状況を切り抜ける事だ。考えるのはその後で皆で考えれば良い

 

「美雪先輩!直ぐ行きます!!!」

 

電撃を放ち美雪先輩を追いかけているピクシーを見て、消火器を手に走り出そうとしたのだが、噛まれた右足が痛み、足に力が入らない。たった数mなのに、その数mが果てしなく遠い物に思える。それでも先輩を助けたい、それだけを考えて歩き出そうとした瞬間

 

【グルルル、ナルホドオマエノチカラヲミトメヨウ。汝はワガケイヤクシャ。イマコノトキヨリ、ナンジノキバトナロウゾ】

 

死んだはずの鼠は起き上がってくる。完全に頭を砕いた感触があったのに、まだ死んでないのか!?と怯えるのだが、俺を見つめているのだがその目にさっきまでの敵意は無かった。だから俺は思わずその鼠に駆け寄り

 

「契約者……いや、でもじゃあ!なあお前!あの妖精を何とかできるか!?」

 

契約者?鼠の言っている言葉が俺には全然理解出来ないが、俺の牙となると言う言葉にもしかして手助けをしてくれるのか?藁にも縋る思いで鼠の側に駆け寄り、都合のいい話だと思った。だけど俺の今の足では走ることが出来ない、だから俺が今殺したばかりの鼠に助けを求めた

 

「先輩を助けたいんだ。お前……何とか出来るか?」

 

俺がそう尋ねると鼠は馬鹿にするなと言いたげに鼻を鳴らし、その新緑色の瞳を俺に向ける。さっきまで怖いと思っていたのに、今は不思議とその目に恐怖を感じることは無かった。

 

【ゾウサモナイ、ナンジガソレヲノゾムナラメイジロ。ワレニナニヲサセタイノカヲ】

 

さっきまでお互いに殺し合っていたのに、今は違うこの鼠は俺の味方だと、俺を助けてくれるのだと本能的にそれを感じた。逃げ回っていた美雪先輩がピクシーに髪を掴まれているのを見て、俺は間に合わないと思い足元のカソに視線を向けた、カソは任せろと言わんばかりに俺を見つめ返してくる

 

【ふっふー追い詰めたよ?じゃあ、これまでだね?さよなら】

 

「い、いや……いやあああああああッ!!!助けて!楓君!母さん!助けてええッ!!!」

 

、ピクシーに髪を掴まれた美雪先輩が泣きながら助けを求める、ピクシーの手に光が集まっているのを見て、俺は慌ててピクシーを指差し

 

「あのピクシーを攻撃しろッ!!」

 

【リョウカイシタ!ケイヤクシャヨッ!!!】

 

俺の言葉に鼠は嬉しそうに返事を返し、その新緑の目をピクシーに向ける。するとさっきまで弱かった炎の勢いが増し、今俺の目の前には鼠ではなく、巨大な炎の塊が存在していた。その炎を見つめていると急に力が抜ける

 

(なんだこれ……貧血か)

 

興奮しているから気付かなかったが、もしかすると噛まれた傷は相当深いのかもしれない。血を流しすぎての貧血の可能性に気付いたが、今は自分の止血をするよりも美雪先輩を助けることを優先した。もし傷を見てしまえば、ショックで気絶したり痛みを認識してしまい動けなくなると思ったから

 

【オオオオンッ!!!!】

 

炎の塊となった鼠がまるで狼のような雄たけびを上げる、すると巨大な火の玉が現れピクシーに襲い掛かる

 

【え!?っきゃああああ!熱い!熱い熱いッ!!!!】

 

突然の炎に驚愕し、火達磨のまま暴れるピクシー目掛け、痛む足を顔を歪めながら消火器を手に走り出し

 

「でやああああッ!!!!」

 

【え?ぎゃんっ!?】

 

バットを振るように消火器を振るう。それだけでピクシーは野球ボールのように吹っ飛び動かなくなる。少女の悲鳴と目の前の鮮血に殺してしまったという罪悪感を感じるが、そうしなければ美雪先輩が殺されていたんだ。だから仕方ないと誰に聞かせるわけでもなく、言い訳のように心の中で数回呟き、美雪先輩の方を振り返る

 

「美雪先輩!大丈夫ですか!?」

 

「か、楓君……え、ええ。だ、大丈夫です」

 

綺麗な顔にある涙の痕。俺も怖かったが、美雪先輩はそれ以上に怖かっただろう。もっと早く助けに入れば良かったと後悔しながら、倒れている美雪先輩に手を貸し立ち上がらせる。と吹き飛んだピクシーが戻ってきて、俺を品定めするような目で見つめたと思ったら急に楽しそうに笑い出し

 

【うーん、お兄さん強いね?私を呼んだ契約者じゃないけど、負けは負け、私の力を貸してあげるよ♪】

 

今までの敵意に満ちた表情ではなく、愛らしい表情を浮かべるピクシーに驚いていると、くいくいっとズボンが引かれる。足元を見るとズボンの裾を火鼠が咥えて引っ張っていた

 

【オイ、ケイヤクシャ。あのニンゲンハタスケナクテイイノカ?】

 

「おおおおっ!舐めんなあッ!!!!」

 

【カッカッ!!!面白いの!!それどんどん行くぞ!!!】

 

そうだ雄一郎!鼠の言葉に雄一郎の事を思い出し、慌てて振り返ると雄一郎はバットでコロポックルの打ち出す氷を必死で打ち返し続けていた。だが徐々に姿勢を崩しているので長くは持たないだろう、と言うか良くあそこまで反応できているなと正直歓心と雄一郎の身体能力の高さに驚きながら

 

「雄一郎!今行く!!!あと少し我慢しろ」

 

今まともな精神状態じゃないと思われる美雪先輩を1人にすることは出来ない。だがこの場所に残しては睦月を喰い終えた狼男に直ぐ襲われる。そう判断し、俺は透明な壁に遮られているが久遠教授の近くに連れて行ってあげようと思い。痛む足を気取れないように歯を食いしばり、その痛みに耐えながら美雪先輩に手をかして久遠教授の前まで移動する

 

「先輩はここに居てください、久遠教授!美雪先輩をお願いします!」

 

「あ、ああ任された。楓君、君も無茶をするなよ」

 

「楓君……その、ありがとうございました!」

 

久遠教授の俺を心配する声と美雪先輩の感謝の言葉に、ほんの少しだけ殺してしまったという罪悪感が薄れる。その言葉に救われたような気持ちになりながら、2人にここで待っていてくださいと叫び、俺は消火器を片手に雄一郎の元へと走るのだった……

 

 

 

 

どうしてこんな事に……私はそればかりを考えていた。いつものように邪魔をする睦月君に困りながら、楓君と民俗学の話をする。それが私の楽しみだったのに、それが急にこんな事になってしまった。もう訳が判らない……視界の隅で貪り食われている睦月君のほうに視線を向けないようにし、自分を抱き締めるように何度も深呼吸を繰り返す

 

「美雪。落ち着くんだ、この状態でパニックになるな。判るな」

 

「か、母さん……は、はい……わかっています」

 

透明な壁に遮られ、本当に目と鼻の先に居る母に触れる事が出来ない。もし母に触れる事が出来れば、人肌の温もりに触れる事が出来れば……そう思っていると

 

「ひっ!?」

 

さっきまで私を襲っていた妖精が、私の胴に手を回し抱き付いてくる。恐怖で声が上擦るが、妖精はにこりと笑い

 

【ちょっとは落ち着いた?ごめんね?私はね、ううん、カソもコロポックルも同じ。弱い契約者に従うのが嫌だったの】

 

契約者?妖精の言葉に驚いていると妖精は更に説明してくれた

 

【あのね?私達はここと別の場所の境目に暮らしてるの、呼ばれたら来れるけどその時点で契約者と私達は一蓮托生。契約者が死ねば私達も死ぬ。だから弱い契約者には従いたくないの】

 

貴女は弱いけど、あのお兄さんが強いし、格好良いから特別に貴方と契約してあげるんだからと笑う妖精

 

「ではお前達は何だ?守護霊様は悪魔召喚の儀式では無い筈だ」

 

母さんがそう尋ねると妖精は首を傾げながら

 

【魔法陣があって、マナが満ちていれば私達は現れるよ?】

 

魔法陣……足元のこれですよね?じゃあマナとは……妖精の言っている事はよく判らないが、今目の前に居る現実の存在だと言うのは嫌でも判った

 

「鼠!頼む!!」

 

【マカセロ!!】

 

楓君の指示で鼠。妖精の言葉ではカソがコロポックルに体当たりを仕掛ける

 

【うっぐう!?やはりハグレと契約者付きでは差が出る】

 

契約者とハグレ?また聞こえてきた新たなキーワードに、どうなっているのか?と混乱ばかりが強くなっていく

 

「雄一郎!一気に行くぞ!!」

 

「おうっ!!!」

 

吹き飛んだコロポックルに雄一郎君と楓君が突進しそれぞれが手にした獲物を大きく振りかぶり

 

「「でやあッ!!」」

 

【がぼおっ!?】

 

消火器と金属バットを同時に振るわれる。凄まじい勢いで吹き飛んだコロポックルはそのまま倒れ……暫くすると胡坐をかいて座り頭を数回振りながら

 

【かーっ!痛いのう……じゃがお前達の力は判った!契約しようぞ!】

 

蕗を振り回しながら笑うコロポックル。また現れた契約という単語……その言葉の意味を考えているとガラスの割れるような音が響く

 

「っと!美雪!大丈夫か!?」

 

「ああ、母さん」

 

壁が消えると同時に母さんが抱き締めてくれる。その暖かさにやっと安心出来た……

 

「楓君!雄一郎君!今のうちに逃げるぞ!!」

 

そうだ、この教室にはまだ化け物が居る。今のうちに逃げようと全員で出口のほうに視線を向け絶望した

 

【ガルルルルル】

 

睦月君を食べ終えたのか、口元を真っ赤に染めた狼男が立ち塞がる……2M近いその巨体に、一度は収まりかけた恐怖と震えが再び私を襲うのだった……

 

 

 

透明な壁が消えてやっと脱出できると思った。だが……今俺達の目の前には巨大な狼男の姿……準備室から逃げる事も出来るが、逃げれば間違いなく追ってくる。だからここで迎撃するしかない……再び死ぬかもしれないという恐怖を感じる。獣に貪り食われながら死ぬ。そんなのは絶対に嫌だ……こんな所で死にたくない、絶対に生き残ると心の中で繰り返し呟き自分を鼓舞する。そうしなければ恐怖でおかしくなってしまうと思ったから……どれだけ怖くても気持ちだけでは負けない!震える己の体に拳を叩きつけしっかりしろと激を入れる

 

(くそ……神様って言うのはよっぽど俺達が嫌いなんだな)

 

後少しで脱出できると思ったのによ……そう思った瞬間。ふと違和感を感じた、これだけ騒いでいるのに、何故誰も来ない?どうして警察や救急車も来ない?まさか……

 

(いや、そんな筈無い。そんな筈は無いんだ)

 

一瞬頭を過ぎった最悪の予想を頭を振って飛ばす。そんな事ありえないだろう、他の教室にもこんな化け物が現れている……そんな事はありえないと自分に言い聞かせるように呟く

 

「楓。無理をするなよ、お前は足を怪我してるんだからな」

 

俺が足を引きずっていることに気付いた雄一郎が無理をするなと声を掛けてくる。こんな状況でも俺を心配してくれる雄一郎。こいつと友達になれて良かったと思いながら、目の前の狼男から視線を逸らさずに

 

「んな事言っても駄目だろうが」

 

唸り声を上げて、こっちを睨み付けている狼男。足を庇う素振りを見せたら間違いなく俺を襲ってくるだろう。となれば痛くても応戦しなければ……でなければ、美雪先輩と久遠教授が危ない。ここはなんとしても、俺と雄一郎で対処しなければ……

 

【ワレノケイヤクシャダ。ムザムザコロサセハシナイ】

 

【そうじゃな、どーれ!ワシらが手伝うぞ!】

 

【あ、ごめんね?私力弱いから遠くから電撃とかしか出来ないよ】

 

俺達を庇うように前に出る鼠達に驚いていると久遠教授が

 

「恐らくそいつらを1度倒した君達を自分の契約者として認めたんだろう!彼らと協力してそいつを退けるんだ!」

 

協力って言ったって……これだけ身体の大きさが違うんだぞ!?どう考えても勝てないだろう

 

【ガアッ!!】

 

【サセンッ!!!】

 

先手必勝と言わんばかりに突進してきた狼男。狙いは当然俺だ、そうはさせないと鼠が体当たりするが

 

【ぐぬう!?】

 

手にしている盾で弾き飛ばされる。ほらみろ!?やっぱり駄目じゃねえか!狼男が俺目掛けて棍棒を振り下ろそうとする、反射的に消火器で受け止める体勢に入るが、

 

「馬鹿野郎!無理するんじゃねぇッ!!!」

 

雄一郎が俺を突き飛ばし、バットを水平にし振り下ろされた棍棒を受け止める

 

「うっぐう……てめえの思い通りにさせるかよおッ!!!」

 

雄一郎が振り下ろされた棍棒を金属バットで受け止めるが、衝撃が凄まじいのかその顔を苦しそうに歪める

 

「おい!鼠!ピクシーでも、コロポックルでも良い!なんか無いのか!?」

 

このままでは雄一郎が死ぬ。何か出来ないのか!!と叫ぶとコロポックルが前に出て

 

【ワシはむざむざ契約者を失いはせんわ!!くらえいっ!!!】

 

コロポックルが蕗を振るうと、凄まじい勢いで氷塊が飛び出し狼男の胴にめり込む

 

【ゲガア!?】

 

激痛に後ずさる狼男目掛け、雄一郎が思いっきり振りかぶり

 

「おっらあああああ!!!」

 

金属バットを顔面に叩きつける。だが狼男は数歩よろめくだけで大した効いた素振りを見せない

 

「えっと!何が出来るの!?教えて!」

 

美雪先輩がピクシーに近づき、何が出来るか?と尋ねるとピクシーは指を折りながら

 

【翼を羽ばたかせて風を起すのと、電撃。後簡単な治癒術】

 

「じゃあ電撃をあの棍棒に!」

 

【オッケー!任せて!!!】

 

美雪先輩の指示にしたがい、ピクシーが右手を向けると電撃が棍棒に直撃する。それは運良く、金属の部位に命中したのか狼男が大きく目を見開き暴れだす

 

【ゴッガアアアアア!?!?】

 

感電しているのか、微妙に痙攣し苦しそうに暴れる姿を見て今がチャンスだと思い。痛む右足に眉を歪めながら吹き飛んだ鼠の方に向かい

 

「おい!生きてるか!?お前は何が出来るんだ!!」

 

ぐったりしている鼠を消火器で揺さぶり、何が出来るか?と尋ねると

 

【カエンヲツカウクライダ】

 

火炎……相手は狼男だ。どう考えても効果は大きいだろう。なんせあの毛皮だ、燃え移れば暫く消えることは無い筈だ

 

「それで頼む!!今よろめいている内にぶちかませてくれ!!!」

 

【ワカッタ】

 

ふらふらと立ち上がった鼠が尻尾を突き上げると、巨大な火球が発生し狼男の顔面を包み込む。肉と毛が燃える匂いに思わず眉を顰めるが、狼男は息が出来ないのか苦しそうに暴れ始める。

 

【ギッグガアアアアアア!?!?!?】

 

手にしている棍棒を振り回し暴れ回る狼男を見て雄一郎が駆け出し

 

「うっおおおおおッ!!!!」

 

金属バットを大きく振りかぶり、狼男の頭に叩きつける。頭が割れたのか、凄まじい血が狼男の頭から噴出し、狼人間はその場で数歩よろめき

 

【ギャオオオオンンッ!!!】

 

凄まじい雄たけびを上げて倒れる狼男を見て、やっと助かったのだと判った俺達は思わずその場にへたり込むのだった……

 

 

 

 

ぴくりとも動かない狼男。これで安全だと思ったら、今度は研究室の血の匂いが気になってくる。我ながら現金なものだと思わず苦笑してしまいながら

 

「久遠教授。窓を開けますよ?」

 

「あ、ああ。そうしてくれ」

 

痛む足を引きずりながら、窓を開ける。これで時間をかければ、この血生臭い匂いは薄れていくだろう。振り返ると右足に激痛が走り、バランスを崩し倒れかけると美雪先輩が駆け寄ってきて俺の身体を支えてくれる

 

「楓君!無理をしないで、座ってください!」

 

「……ありがとうございます」

 

肩を貸して貰いながら、研究室の椅子に腰掛ける。するとじわじわと火傷の痛みと噛まれた痛みを感じ始める、その痛みにに顔を歪める。骨は折れたりしてないようだが、これでは禄に歩く事が出来ない。もし逃げるなら俺は完全に足手纏いになるな……見捨てられる可能性が頭を過ぎるが、生き残るためには仕方ない事だと俺の冷静な部分が告げる。どうせ置いていかれるなら飛び降りて自殺した方がいいだろうか?思わずそんな悲観的なことを考えてしまう辺り、そうとい追い詰められているなと苦笑する

 

「えっと治癒術出来るんだよね!楓君の傷を治してくれる?」

 

飛んでいるピクシーに美雪先輩が頼むと、ピクシーはうんっと頷いてくれたが、俺の傷跡を見て申し訳無さそうな顔をして

 

【これだけ深いと完全には無理だよ?】

 

「少しでも良い、頼む」

 

このままでは歩くこともままならない。少しでも良いから治療を頼むとピクシーの両手から淡い光が零れだし、ゆっくりと痛みが引いていく

 

【ん、ごめん。私じゃここまでが限界】

 

「いや、これでも凄く楽だ。ありがとう」

 

傷からの出血は収まり、傷も少しだが塞がっている。これなら後は止血をし傷跡を縛れば走ることは無理そうだが、歩く事が出来るだろう。いつまでも死体のある部屋に居たくないので少し休んだら移動したいしな……

 

「なあ。楓、おかしいと思わないか?」

 

雄一郎が着ていた制服を睦月の肉片に掛けながら尋ねて来る。雄一郎も気付いたのだろう、学校の異様な雰囲気に……

 

「もしかすると他の教室も同じような生き物が現れているのかもしれない」

 

久遠教授の呟きにそんな馬鹿なと言いたかったが、これだけ大騒ぎをしているのに誰も来ないのは明らかにおかしい。違っていて欲しいと思っていたが……もしかするともしかするかもしれない。

 

【キヲツケロ。アラワレタノハワレラダケデハナイゾ?】

 

鼠の言葉にぎょっとしていると窓の外を見ていた美雪先輩が悲鳴にも似た声で叫ぶ

 

「雄一郎君!窓を閉めてください!!」

 

「っ!わ、判りましたっ!!」

 

雄一郎が慌てて窓を閉める。まだ完全に血の匂いが抜け切っていないのにどうしたんだろうか?と思い窓の外を見て

 

「嘘だろ……」

 

空を埋め尽くさんばかりの大量の異形の姿。遠くに見える神無市のビルにも炎が上がっているのが見える。それに風に乗って人の悲鳴まで聞こえてくる……それは他にも化け物が現れて人間を襲っていると言う証拠で血の気が引くのを感じた……

 

「マジかよ……どうなってるんだよ、これはぁ!!!」

 

雄一郎がそう叫ぶ。俺だって叫びたいし、泣き出したい。だけど美雪先輩……美雪先輩の方を振り返った瞬間。強い焦りと共に幼馴染の事を思い出した

 

「桃!桃は!?あいつを探さないと!!!」

 

桃の事を思い出し、慌てて立ち上がろうとするが足に力が入らず、再びバランスを崩す

 

「楓君!今は無理をしないで休んで「休んでいる場合じゃないんです!桃が!俺の、俺の幼馴染が死んでしまうッ!!!」

 

もし桃の前にも化け物が現れていたら、桃が死んでしまう。俺を心配して、俺と一緒に住み慣れた田舎から都会に出てきた俺の幼馴染が死んでしまう。嫌だ、今朝桃と喧嘩別れをしてしまった、それで2度と言葉をかわすことが出来なくなるなんて嫌だ

 

「っ!それでも!今は動ける状態じゃ無いでしょう!!」

 

「でもっ!!」

 

俺を押し留めようとする美雪先輩と口論していると、フラスコで何かを作っていた久遠教授が顔を上げ

 

「紅桃子は確か、今日保健室で薬品などの受け取りをしていたはずだ。これから何が起きるか判らない、保健室で薬品を入手する必要があるのではないか?」

 

確かにその通りだ。こんな状態では何が起きるか判らない、今のうちに食料にしろ、薬品にしろ、入手しておく物は幾らでもある。もしもこの研究室のように他の教室にも化け物が現れていると仮定するならば、今後の事を考え動ける内に物資を集めておくのは必要なことだ

 

「保健室に向かうのは確定だ。楓君、今は少し休みたまえ。興奮しているから疲れを感じていないが、疲れている筈だ。そんな状態で化け物と遭遇したら逃げる事も出来ないだろう?」

 

「わ。判りました」

 

出来ることなら今すぐにでも保健室に向かいたいが、足を怪我している事もあり、思うように動けない。教授の諭すように言う言葉に頷き再び椅子に腰掛け休む事にする

 

【む!行かん!こやつまだ生きている!!!】

 

コロポックルの声に振り返ると、狼男が顔の半分を焼き爛れた状態で立ち上がる。凄まじい殺意を込めた視線に身体が竦む

 

【オオオオオオオオッ!!!】

 

雄たけびを上げて俺に突進してきた狼男だが。それよりも先に久遠教授がフラスコを投げつける、それは狼男の顔面に当ると砕け中の液体が狼男の顔面に掛かる。すると狼男は突然苦しそうに暴れ始めた

 

【ギャン!?ガッガアアアアアア!?!?】

 

鼻を押さえてのた打ち回る狼男は、壁を突き破り研究室を出て行った。俺達の視線が集まっているのに気付いた久遠教授は笑いながら

 

「フィールドワークで野犬に襲われた時に使う犬避けだよ。他にもあんなのが居るかもしれないと思って準備したけど、早速1個使ってしまったな」

 

肩を竦める久遠教授。だけど助かった、今襲われていたら対処出来なかった。

 

「だけどこれで私達はあの狼男にターゲットにされたな。今は逃げてもいいが、いつかは倒さないといけないだろうね」

 

それは間違いない、あの狼男は俺達に凄まじい憎悪を向けていた。きっと逃げても、逃げてもどこまでも追いかけて来て俺達を殺そうとするだろう。そうなると頼みの綱はピクシー達になるのだが、正直に言うとあの狼男と比べるとどうしても見劣りしてしまう。俺は溜息を吐きながら足元で丸くなっている鼠。ピクシーが言うにはカソと話をしてみようと思い、少しだけ怖いと思いながら声を掛けるのだった……

 

「おい、カソ。大丈夫か?」

 

【モンダイナイ。スコしヤスメバカイフクスル、キケンヲカンジタラヨベ】

 

カソはそう言うと弾けて消えた。え?消えた?もしかして死んだ!?俺が混乱しているとピクシーが教えてくれた

 

【ずっと具現化していると疲れるからね。私も少し休むよ、じゃ何かあったら呼んでね♪】

 

俺にウィンクして消えて行くピクシー。確かに可愛いのだが、人形サイズの少女にウィンクされても反応に困るんだが

 

【ワシもさっき消火器で殴られた腰が痛くてなあ。また何かあれば呼んでくれ】

 

そう笑って消えて行くコロポックル。さっきまで目の前に居たのに、今は影も形も存在しない。また夢だったのでは?と思うが、足の痛みに、壁に空いた大穴を見れば夢だと現実逃避することも出来ない。しかし本当に呼ぶだけで来てくれるのだろうか?

 

「じゃあ楓君、雄一郎君、美雪。少し休んでから保健室を目指して出発、そこからどうするかは桃子君を見つけてから考えよう」

 

幸い準備室はフィールドワークに備えて色々備蓄してある。そこで準備と休憩をしてから保健室に向かおうと言う久遠教授の言葉に頷き、雄一郎に肩を借りながら隣の準備室へ移動する

 

(これからどうなるんだ……?)

 

夢であってくれと思ったが、この痛みが現実だと俺に訴える。これから先の見えない不安と、もしかしたら誰も生き残っていないのでは?というそんな不安を抱きながら

 

(桃無事で居てくれ……)

 

朝喧嘩別れした幼馴染の無事を祈らずには居られないのだった……

 

 

チャプター2 合流へ続く

 

 




主人公の楓君がカソ、美雪先輩がピクシー、雄一郎がコロポックルと契約しました。レベルで言うとお互いに1レベルですね。美雪先輩は恐怖、主人公は火傷と負傷。万全なのは雄一郎だけと言う割とハードモードスタートです

手探りで書いているので、ご意見やアドバイスお待ちしております


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