新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター19

チャプター19 悪魔使い

 

ビルで一晩を過ごしたのだが、朝起きるとルイさんの姿が無く。綺麗に畳まれた毛布を見て慌てて応接間を出ると、久遠教授が紙コップから湯気の出る何かを口にしながら、地図と睨めっこしていた

 

「おはようございます。久遠教授」

 

「ん?ああ、おはよう。楓君……随分慌てた様子だが、ルイの事か?」

 

「はい。ルイさんはもしかしてもうビルを出発したんですか?」

 

俺の様子を見てルイの事か?と尋ねる久遠教授に頷くと久遠教授は手にしていた紙コップを机の上に置いて

 

「MAGが回復したからかと早朝にビルを出て行ったよ。また生きていれば会おうと伝えてくれと言っていたよ」

 

俺としてはてっきり早朝一緒にビルを出る物だと思っていたので、久遠教授の話を聞いて水臭い人だと思ったのだが、久遠教授は穏やかに笑いながら

 

「ルイはそう言う奴さ。ただあいつは殺しても死ぬような奴じゃない、また無事に会えるさ。楓君も何か飲むか?インスタントコーヒーとココアがあるが?」

 

「あ、じゃあココアで」

 

甘いものが飲みたいと思いココアでお願いしますと言うと、久遠教授はくすりと笑う。子供っぽいって思われたかな?と思っていると湯気の出るココアが目の前に置かれる

 

「あっつ……あーでも暖かい飲み物はほっとしますね」

 

こんな状況だから暖かい飲み物や食べ物と言うのは凄くホッとする。今はまだライフラインが使えるから、こうして水もガスも使える状況だから備蓄している水やガスボンベを使わないで済んでいるがライフラインが止まってしまえば、こうして温かい飲み物を口にする事も出来なくなる。いつまでライフラインが使えるのか、それが本当に心配になる

 

【む?ケイヤクシャ……オキタカ……ならばスコシヤスム……ぞ】

 

【そうじゃなー、少しは休まんといざと言うとき困るからの】

 

【ふあー、だね。じゃ、出発する前に起してね~】

 

【オヤスミー】

 

口々に休むと言って消えていくカソ達だが、リリムの姿が見えず首を傾げていると久遠教授はそうだったと呟き

 

「周辺の偵察を頼んでいる。出来れば今日中に市街を出たいんだが……地図を見るとな、少し引っかかる所があってな」

 

そう言われ、差し出された地図を見る。このビルから進むと大型デパートが2つ、それと緊急時の避難場所として指定されている集会所……

 

「デパートは食料や水なども大量に蓄えているから生存者が多いのは十分に考えられる。そしてここの避難所も同様だが……今までの生存者の傾向を考えるとな……」

 

桃や久遠教授に性的暴行を加えようとしていた連中しか俺達は見ていない。そういう暴徒が集まっている可能性が高いとなると通るのは危険だが、ここまで来て迂回するとなると時間の無駄になりかねない。

 

「日に日に状況は悪くなっている、流石にこんな状況でも自分の性欲を満たすことしか考えていない馬鹿はいないと思うが……な」

 

重い口調で呟く久遠教授。悪魔も強力な者が増えて来て、横転した車や崩壊した建物が目立つようになって来た。流石に幾らなんでもこの状況でいつまでも自分の性欲を満たす事を考えているだけの馬鹿が居るとは思いたくない

 

「まぁ不安はあっても進むしかない。皆が起きて、朝食を済ませたら出発する。今日こそ市街を出るぞ」

 

久遠教授の強い言葉に判りましたと返事を返し、飲み終えた紙コップを机の上に置いて

 

「車からカップラーメン取ってきます。それを朝食にして、早く出発しましょう」

 

「ああ、それが良いな。頼んだよ、楓君」

 

俺はそのまま久遠教授に背を向けて、車からカップラーメンを取りに行く為1階の車庫に向かって歩き出すのだった……そしてそんな楓の背中を見つめている久遠教授は冷めかけたコーヒーを飲み干し

 

「さてと……ここらへんで最初の試練だ……君達は知るべきだ。人の浅ましさと醜悪さをね……」

 

ここに楓や美雪が居れば今の久遠教授の笑みを見て、恐れを抱いただろう。それは見る物全てを魅了し、惹きつけ、そして殺す……どこまでも妖艶でそして邪悪な微笑みだったのだから……

 

 

 

一方楓達が出発の為にビルで朝食をしている頃。楓達が進む方角ではある事件が起きていた

 

「ゆ、許してくれ!もうしない!もうこんな事をしないから許してくれえ!!」

 

刀を手にした少年に土下座をして謝る男性。その周囲には血と肉片がばら撒かれていて、その少年の頬と手にした刀には夥しい血液が付着しており。この惨劇を起したのがこの少年だと一目で判った、その少年は穏やかな笑みを浮かべながら

 

「ええ良いですよ、これに懲りたらもう女性を攫って暴行を加えるなんて真似はしてはいけないですよ」

 

そう笑い、刀を鞘に納め男に背を向ける少年。それを見た男性は立ち上がり、懐に隠していたナイフを振りかぶり

 

「……なんて言うとでも思いました?お前は……死ねよ、ま、聞こえてないと思いますけど?」

 

振り返ると同時に放たれた神速の抜刀術がその男の首を切り飛ばし、その部屋を真紅に染める中少年はその笑みを深くする

 

【んーいいねー、蒼汰は。私凄く気に入ってるよ】

 

蒼汰と呼ばれた少年の影から声が響き、それから遅れる様に水が溢れ出し、その水が半裸の女性の姿を作り上げていく。蒼汰はその女性に柔らかく微笑みながら

 

「ありがとうウンディーネ。私も貴女を気に入っていますよ。だって、貴女のおかげで魔法なんて物を使えるようになったのですから」

 

ウンディーネ。水の精霊と言われる上位存在だが、彼女もまた悪魔であり、そしてこの少年はウンディーネの契約者であった

 

【うふふ、どういたしまして。貴方がどう進むのか楽しみにしてるわ】

 

蒼汰の頬に口付けを落としたウンディーネは現れた時と同じ様に水になって消えていく……蒼汰は刀を振り、血を飛ばしてから鞘に納めその部屋を後にする。そして他の仲間と合流し、眉を顰めた

 

「拓郎。貴方はまだそんな無駄な事をするのですか?」

 

「無駄じゃない、生きてるうちはやり直しが出来るんだ、だから彼らは反省させ、更生させる」

 

蒼汰と同じく漆黒の制服に身を包んだ大柄の少年……拓郎の後ろには手足を拘束された男達が転がっているが、反省や更生なんてする気も無いと言わんばかりに憎悪を込めた目で彼らを睨みつけていた

 

「そう言うな蒼汰。私達は殺戮に来たのではない、この場所から逃げ出して来た女性の救援を求めてこの場に来たのだ。だから拓郎の行いは間違いではない……まぁ次は無いがな」

 

蒼汰を窘める少年の背後には破かれた服を隠すように頭からタオルを被った女性達の姿と、泣きじゃくる子供の姿があった。彼らが暴徒によって虐げられている人達を助けに来たのは間違いないのだが、その先頭を歩く悪魔の言葉は酷く物騒だった

 

【にゃはははー♪おいら達正義の味方ー♪だから悪い奴は殺戮だー♪】

 

血で濡れた剣を振りながら先頭を歩く猫の悪魔「ケットシー」に斧を背負った少年は

 

「ケットシー、己を律する事を忘れるな、そして己を磨く事を忘れるな。さもなくば、その先に待つのは堕落だ」

 

【むー?勝巳の話は難しくて、おいらわかんない】

 

勝巳と言われた少年はケットシーに仕方ないと笑いながら、その内教えてやると声を掛ける

 

「勝巳。何故貴方は斧なんて無粋な物を使っているんですか?剣はどうしました?」

 

「……仕方ないだろう?良い刀が無いのだから、それまでの変わりだ。お前みたいに悪魔を倒して直ぐ刀を手にするなんて言う事は稀だろうよ」

 

勝巳と呼ばれた少年も揃いの黒い制服に身を包んでいた。だがそれは学園の制服と言うよりかは、警察や軍隊の制服を連想させる重苦しいデザインの制服だった

 

【オオオオオオオッ!!!】

 

勝巳達がそんな話をしていると、凄まじい雄たけびが周囲に響き、トラックよりも遥かに巨大な蜘蛛の悪魔が地響きを立てて現れる。その姿に助けられた女性達が引き攣った叫び声を上げるが

 

「おーい、生存者のみなさーん。俺とこいつはあんた達の味方だ、こいつで安全な所まで運ぶから怖がらないでツチグモの上に乗ってくれー」

 

【オレ、みがだああああああ!?】

 

ツチグモの頭の上からこれまた黒い制服に身を包んだ青年が声を掛ける。それに遅れて数秒ツチグモが地響きを伴った叫び声を上げる。勝巳はうるさい奴だと肩を竦め、自ら救助して来た女性達の方へ振り返り

 

「彼の言う通りだ。さ、早く避難すると良い」

 

「は、はい!ありがとうございました!」

 

頭を下げてツチグモの背中の上に移って行く女性達を見ていた勝巳は拓郎に向かって

 

「お前も1度戻れ。後は私と蒼汰で行う」

 

「判った、お前達もあんまり殺しすぎるなよ」

 

拓郎の言葉に勝巳は善処しようと返事を返し、ツチグモに乗って遠ざかる拓郎達の姿を見送り、蒼汰と共に廃墟の中へと消えて行くのだった……

 

 

 

朝食の席でルイさんが早朝1人で出発したと聞いて、見送り位したかったなと思いながらカップラーメンを食べる。今までは普通だったが、この状況でのカップラーメンの暖かさに思わず安堵の溜息を吐く

 

「さてと朝食が終わった所で出発しよう。今日中に出来れば街を出てしまいたい、焦らせるようで申し訳ないが出発の準備を整えてくれ」

 

久遠教授の言葉に判りましたと全員で返事を返し、荷物を纏めてビル出発する

 

「悪魔も近づいてこないな」

 

「まだヤタガラスとやらの悪魔避けが効果を発揮しているのかもしれないな。今の内に距離を稼ごう」

 

こっちを見つめているが、襲ってこない悪魔。何時襲われるかと言う恐怖を感じるが、戦わずに移動出来る内に距離を稼いでおきたいな……そんな事を考えながら窓の外から荒廃した街を見つめる。逃げるのに使ったのであろう、車は横転し、血痕の後があちこちにある地獄としか言いようの無い光景。桃子や久遠先輩が目を閉じて外の光景を見ないようにしているのも納得だ。何時悪魔が襲ってくるかもしれないと言う事で俺と楓は前の座席に座り、それぞれ鉈を手にし廃墟の中を警戒していると

 

「むっ!?」

 

「「うおっ!?」」

 

「「きゃっ!?」」

 

久遠教授が慌てた様子でハンドルを切る。その時の凄まじい衝撃で俺達の悲鳴が重なる、身体の中が動いた感触がして気持ち悪い。

 

「お前何をしている!死ぬつもりか!」

 

久遠教授が運転席でそう叫ぶ、その声で誰かが飛び出して来たのだと判る。頭を数回振ってから顔を上げると車の進行方向に飛び出して来た何者かの姿が見えた

 

「すまねえが手を貸してくれねえか? こうなってから身を潜めていたねぐらに続く道が馬鹿共が騒いだせいで崩れちまって……ねぐらは別に移せばいいわけだが、被災してから一緒に住んでるガキが閉じ込められちまってよ……瓦礫を退けるのを助けて欲しいんだ。頼むよ」

 

両手を合わせて頼むと繰り返し呟くボロボロの服装をした男。確かにその状況なら助けた方が良いだろう、久遠教授に視線を向けると久遠教授は険しい顔をしてる

 

「直ぐに済むから、後ろの兄ちゃん達と姉ちゃん達に手伝ってくれれば良いからさ……頼むよ助けてくれ」

 

俺達を見て助けてくれと繰り返し言う男に久遠教授は固い声色で

 

「あそこの倒壊している建物だな。判った、そっちへ向かう。先に行っていろ」

 

「た、助けてくれるのか!あ、ありがてえ!!じゃあ待ってるぜ!」

 

喜々とした表情で崩れている建物の方に走って行く男を見て、早く助けに行きましょうと言うと久遠教授は運転席から俺達の方へ振り返り

 

「美雪、あのピクシーを出して偵察に出せ、楓君達もカソ達をすぐ召喚できる状況にするんだ。私も丁度、リリムが戻って来た」

 

窓の外を見ると、リリムが瓦礫の山に腰掛けて隠れるようにしているのが見えた

 

「あの男、恐らく嘘をついている。手が綺麗過ぎる……ただ無視もできる状況じゃない」

 

久遠教授が車のサイドミラーを見てみろと言うので視線だけそちらに向けると、斧を手にした男の姿が見えた。それも1人や2人じゃない……何十人もだ。瓦礫や、横転している車が多く思うように進めないこの状況ではどうやっても追いつかれてしまうだろう……

 

「こ、怖い」

 

「だ、大丈夫ですよ、桃子さん」

 

怖いという桃子と自分も怖いだろうに大丈夫だと励ましている久遠先輩。状況はかなり悪いと言わざるを得ない

 

「この所やけに横転した車が多いと思っていたが、意図的に横転させている。こっちの動きを制限する為にな……楓君はスパルといもいただろう?カソを残しておいて欲しい。リリムとカソでこっちは何とかする、楓君達はもし本当に瓦礫で子供が閉じ込められていたらそれを助けるのを手伝ってやって欲しい。もしそうじゃないのなら……悪魔じゃなく、人間と戦う事になると覚悟しておいて欲しい」

 

久遠教授の言葉に息を呑む、悪魔と戦うのは慣れたつもりだが、まさか人間と戦う事になるなんて……

 

「私の考えすぎと言う事も考えられるが、警戒して行ってくれ。こっちは私が何とかする」

 

悪魔ではなく、人間と戦うことになるも知れない。その言葉が重く俺達に圧し掛かってくるが、車を破壊されるわけにも行かず、そして本当に助けを求めている可能性もあると言う事もあり、俺達は車を降りて倒壊している建物の方へと歩き出すのだった……

 

 

 

 

「こっちだ」

 

俺達を先導する男は迷う事無く暗い道を進んでいく。それはくらいと言うのに全く淀みが無く、この道を何度も歩いていたと言う事を証明していた。そして久遠教授の指示で偵察に出てきたピクシーが暗がりを利用して俺の肩に止まる

 

(この建物の中酷いよ、女の人が沢山鎖に繋がれてずっと犯されてる)

 

その言葉に俺達の前を歩きながら、子供の事を話す男に凄まじい殺意を感じる。こんな状況なのに、まだこんな事をするのかと、どうして自分達の事しか考えないのかと叫びたくなった

 

(やっぱりか?)

 

俺とピクシーの話を聞いていた雄一郎が小声で尋ねて来るので小さく頷く

 

「まだ10歳くらいのガキでよ。親とはぐれたって言うのに無理して元気に笑ってな。なんとしても助けてやりたいんだ、こっちだ。ここの扉の先なんだ、先に言って準備してるからな」

 

そう言って笑う男の視線の先は桃と美雪先輩に向けられていて、暗がりでよく見えないが、下卑た笑みを浮かべているように見えた。そう言って男が歩いて行き、扉が開く音がすると同時に立ち止り

 

「桃、美雪先輩。ピクシーが偵察してくれました……罠です。この建物の中で沢山の女性が……その……」

 

とてもレイプされているとは言えず黙り込む、その反応で桃達は何が起きているのか悟り震えながら頷く、人の情に訴え捕らえ男は殺し、女は犯す……最低だ。同じ人間とは思えない……

 

「ゆっくり引き返しましょう、バレないように……」

 

そう声を掛けて、ゆっくり引き返し始めて数分で背後から扉が開く音と男達の怒声が響く

 

「くそが!逃げられた!おい!追いかけろ!!あんな上玉の女子高生を逃がすんじゃねぇ!!」

 

「へへ!判ってるぜ!大将!2番目にやらしてくれよ!!」

 

「逃がすかよお、最近捕まえている女達も反応しなくなってつまんねえんだよ!」

 

「だよなあ!泣き叫ぶなり、喘いでくれないと詰まらないよなあ!」

 

下卑た話し声と走ってくる足音、そして前の方からも扉の開く音がしたと思ったら、数人の男が俺達の前に立ち塞がり、咄嗟に足を止める

 

「へっへ、こっちに来たぜ!」

 

「うひょお!こいつはいい女だぜ!」

 

斧や木刀を手にしている男達が桃と美雪先輩を見て舌なめずりをする。桃と美雪先輩が俺の服を掴んでひっと息を呑むのが判る。そんな2人を庇う様に俺と雄一郎が前に立つと男達は笑いながら

 

「へへ、お兄ちゃん達も死にたくないだろ?その2人を差し出してくれれば、仲間に入れてやるぜ?」

 

「ここにはいーい女が沢山居るぞ~逃げて来たアイドルに女優、好きな女を抱かせてやるよ」

 

「そうだぜえ?こんな時にカッコつけても同じだぜ?どうせその2人をずっと抱いてるんだろ?俺達にも回してくれよ?な?」

 

その言葉にプッツンした俺はスマホを取り出し、召喚ボタンをタップする。それと同時に目の前に魔法陣が描かれ、そこからゆっくりとスパルトイが姿を現す

 

「「「ひ、ひい!お、お前ら、う、ウロボロスか!?」」」

 

ウロボロス?聞き覚えの無い名前に一瞬困惑したが、そんな事はどうでもいい。今は目の前のこの馬鹿達が目障りで仕方ない

 

「スパルトイ!なぎ払えッ!!!」

 

【オオオオオオオッ!!!】

 

俺の指示に従い、盾を構えて走って行くスパルトイが男達を吹き飛ばしていく、俺はそれを確認すると桃と美雪先輩の手を掴んで建物の出口に向かって走る

 

「邪魔だ!オラア!!!」

 

扉が開いて出て来ようとした男は雄一郎の回し蹴りで逆再生のように部屋の中に叩き込まれる。そして雄一郎はスマホを取り出しコロポックルを呼び出すと

 

「ここら辺を氷で封鎖してくれ!」

 

【心得た!ブフッ!】

 

一瞬で現れた氷の壁が通路を塞ぐのを確認し、スパルトイが待ち伏せしている男達を吹き飛ばす後を追って建物を出るとそこには揃いの黒い制服を着た2人組みの少年が居た

 

「楓君!雄一郎君!桃子!美雪!良かった!無事だったんだなッ!!」

 

駆け寄ってきて俺達を抱きしめる久遠教授。良かった、良かったと俺達を抱きしめる久遠教授。気恥ずかしい物を感じていると、腰に刀を下げた少年がスパルトイとコロポックルを見てその糸目を少しだけ開いて

 

「へー……本当にウロボロス以外に悪魔使いが居たんだ」

 

ウロボロス?さっきの男達が言っていた名前だ。そして糸目の後ろの少年を見て雄一郎が叫ぶ

 

「お前!門脇勝巳か!?」

 

「……話は後だ。しかしそうか……生きていたか、笹野ならば良い。蒼汰」

 

「うん、わかってるよ勝巳」

 

2人が腕に付けた機械を操作すると魔法陣が展開され、そこから悪魔が姿を見せる。1体は水を纏った半裸の女性、もう1体は鎧兜姿の翼人の女性だった。その視線の先が俺達が出てきた廃墟に向けられた瞬間

 

「モリーアン。マハザンダイン」

 

「ウンディーネ、マハブフーラ」

 

勝巳と蒼汰の2人組みは躊躇い無く悪魔に指示を出し、止めろと叫ぶ間もなく凄まじい暴風と氷柱の嵐がその廃墟を完全に破壊する。そして氷柱で串刺しにされた男達が暴風に巻き上げられ、疾風の刃で切り裂かれる。瞬く間に鮮血に染まっていくその嵐を見て、俺はこの惨劇を作り出した2人を睨みながら詰め寄るのだった……

 

 

 

目の前で倒壊していく建物を見ていると、建物から出てきた同年代の少年が私に駆け寄って来る

 

「お前!あそこまでする必要があったのか!」

 

私にそう怒鳴りつけてくる。私はその少年を睨みつけながら、モリーアンをCOMPに戻しながら

 

「私達はあいつらの元から逃げて来た女性達の願いを聞き届け、審議の結果排除する事を決定した」

 

「審議!?排除!?どんな理由があったら人を殺しても良いってなるんだ!それにあの建物の中に居た女の人達はどうなるんだ」

 

そう怒鳴りつける少年に溜息を吐きながら蒼汰に

 

「蒼汰。生存者は?」

 

「ん?ああ、ちゃんとウンディーネで回収して、黒龍塾に送り届けたよ。まぁあそこまで犯され続けてたら正気に戻るか五分五分だと思うけどさ、一応は助けてるよ」

 

「と言う訳だ。あの建物の中に居た女性はちゃんと保護している」

 

それなのに私を怒鳴りつけるのか?と尋ねるとうぐっと呻く少年を見て、心の中で甘いと評価をつける。今のこの状況を見て殺した事で私を攻めるのはお門違いと言う物だ

 

「じゃあ逆に聞こう、彼氏を息子をあの連中に殺され、自身も犯されて助けてくれと来た人達を見捨てれば良かったのか?彼女をあの連中に攫われ、取り返そうとして腕を失った男の無念を叶えて悪いのか?それとも……」

 

この少年の後ろの少女2人を見つめながら

 

「それともお前はあの2人を目の前で犯されて、それでもその相手を憎まずに居られるのか?」

 

私の言葉に息を呑んでしゃがみ込み、ぶつぶつと呟いている少年から視線を逸らし、その後ろに居る笹野を見て

 

「無事だったんだな。肘はどうだ?」

 

「……門脇……お前も生きてたんだな、肘は……正直あんまり良くないさ」

 

「そうか……残念だ。あの程度では死にはしない、お前こそ良く生きていたよ。しかも悪魔使いになっているとは驚きだ」

 

肘を故障し会う事の無くなった笹野とこんな形とは言え、再会できたのは正直嬉しく思う。しかし出来る事ならば、こんな形ではなく、再びグラウンドで選手として出会いたかった物だ

 

「勝巳?知り合いなのか?」

 

「ああ。去年の地区大会で私を最終打席まで三振に追い込んだ凄い投手さ」

 

私が部活を兼任している事を面白くないと言っていた蒼汰が面白く無さそうにしているが、私にとっての本命は野球部なので、どちらかと言うと剣道部がおまけなんだがなと苦笑しながら

 

「では改めて、黒龍塾2年、門脇勝巳だ。今はウロボロスの悪魔使いとして民間人の救助及び殲滅を行っている」

 

「原蒼汰。勝巳と同じく黒龍塾2年だよ。よろしく」

 

私達が自己紹介をすると白衣の女性が丁寧にどうもと頭を下げながら

 

「神無私立高等学校の客賓教授の久遠玲奈だ。こっちは娘の美雪だ」

 

「久遠美雪です」

 

久遠教授……噂には聞いていたが、とても40台には見えんな。娘と言っているが、姉妹でも十分に通用すると思う、しかし女性だと言うのに凄まじい覇気だ。彼女が居るから、笹野達が今まで生き延びる事が出来たのだと一目で理解した

 

「新藤楓……です」

 

「紅桃子です」

 

硬い表情で自己紹介をして来る新藤達。余計なお節介だとは判っているが、笹野の友人と言う事もあり、ここで会ったのも何かの縁だと思い忠告しておく

 

「ここから先は甘い考えは捨てた方が良い、子供を殺された母、妻を殺された夫、恋人を犯された男。悪魔の被害よりも人間の被害の方が遥かに多い、他人は信用するな。身を滅ぼす結果になるぞ、もし私の話が嘘だと思うのなら、黒龍塾へ来い。そこには生存者が集まり、悪魔と暴徒と化した人間と戦う為に助け合って暮らしている。そしてそこにはウロボロスと言う悪魔使いの組織がある。悪魔使いならば協力してくれると助かるよ、行こう、蒼汰皆待っている」

 

「ああ。そうだね。じゃあね、生きてたらまた会おう」

 

私の話を聞いて思案顔になっている笹野達に背を向け、私達は黒龍塾へ向かって歩き出すのだった……

 

 

 

ウロボロスの勝巳と蒼汰と楓達が出会っている頃。楓達の進路にある大型デパートでは想定外の事件が起きようとしていた

 

「……」

 

「ンだよ? まだ撃たれたりねえのかよ?」

 

「オイオイこいつ、まさか新しい扉を開いてマゾっちまったんじゃねえの?」

 

「「ぎゃははは! ヤベえ! ソイツは想定外だ!」」

 

遠くから歩いてくる太った男を見てこのデパートで暴虐の限りを尽くしていた男達は楽しそうに笑いながら、エアガンを構える。しかし男達にとって1つ想定外の事があった

 

「つか、デカくね?アイツ」

 

「何処かで食料をくすねたとか?」

 

「焼き入れるか」

 

そう、自分達が3日前にエアガンで追い回した時よりも、その男の身体が肥大化していたのだ。正常な思考ならば、3日ほどでそれほどまでに身体が大きくなるなんて事はありえないと思い警戒心を強めただろう……だが幸か不幸か、このデパートには悪魔の襲撃は無く、そして男達は今まで力で何もかも思い通りにしてきた。本来は高嶺の花であるアイドルだって自分達の思い通りになった。だから今までもずっと、これからも自分達の思い通りになる……そう思って勝手に食料を口にした男に向けてモデルガンを向ける先頭の男。だが、その手の中のモデルガンからBB弾が発射されることは無かった。

 

「げばあ」

 

「う、うぎゃああああ!、腕!俺の腕があああああ!!」

 

男が大きく口を開き吐き出された唾が男の腕に当ると、凄まじい音を立ててモデルガンを手にしていた左腕が凄まじい音を立てて溶けて行く……腕を押さえ蹲る男を見て、一緒に居た2人がナイフを構える

 

「よくもやりやがったな!!」

 

「死ねええッ!!!」

 

そんな異常な光景を見ても、彼らの心は麻痺していた、自分達は強者なのだ。負ける訳が無い、自分達は死ぬ訳が無い。そんな思い込みを持って男へと駆け出す男達だったが……

 

「死ねぇ……」

 

巨大な男の服が内側から弾けとび、そこから触手が飛び出て、男達の胴体や頭を絞め、一瞬で潰し、締めて両断してしまう

 

「へへ……守護霊様のおかげでこんなに強くなったぁ……」

 

男は自分の異常さに気付かない、守護霊様のおかげで強くなったと壊れたように呟き、デパートの床をその体重で陥没させながら進む。このデパートを支配している男を殺し、自分こそがこのデパートの支配者となるんだと

 

「見返してやるう……」

 

自分を馬鹿にした女達も見返してやると呟きながら男は進む、その姿は最早人間ではなく、悪魔その物へと変貌している。それに気付かない男は不気味に笑いながら、デパートの中を上へ、上へと進み続けるのだった……

 

チャプター20 悪魔憑きへ続く

 

 




楓達よりも強い悪魔使いが登場し、進路のデパートでは悪魔憑きとなった男が待ち構えて居ます。次回は本格的な戦闘を書いていきたいなと思っております。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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