新訳女神転生(仮)   作:混沌の魔法使い

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チャプター26

 

チャプター26 デパート捜索 その5

 

溜息を吐きながらベッドから身体を起こす、あの高さから落下したのでベッドの上と言っても身体は軋んでいるが、致命傷ではない。

 

「不幸中の幸いか」

 

私としてはまさかいきなりデパートの床が崩れるなんて想定してなかったが、楓君達には私にいつまでも甘えてもらっては困る、そんな様ではいずれ死んでしまう、だから自分達で考えて行動して欲しいと思っていた。そう考えれば負傷している訳でもなく、楓君達から距離を取れたのは幸運だ

 

「とは言え死なれても困る。適度な所で合流しなければな」

 

ベッドから身体を起こして移動を開始する。楓君達には休むと言っていたが、正直休むつもりは無かった。デパートの構造が判らない上に2階から3階に上がれるかも怪しい、ここは最悪の可能性も考えて行動しなければ

 

「……人間と悪魔の気配は無いが……この感じは」

 

通路のに身を隠し、手にしているベレッタに弾を装填する。これで残りの弾数は1カートリッジ分か……

 

(道具が無いのが悔やまれるな)

 

楓君と雄一郎君が持っていた鞄に道具が全て入っている。換えの弾もナイフや懐中電灯と言った物が無いのが辛いな……周囲を警戒しながら進む。人間の気配も無いが、悪魔の気配も無い。これは何かあるそう考えて暗い通路を進んでいると何処かから女の声が聞こえてくる

 

【邪悪なる者よ。消えうせろ!】

 

【ぎ、ギギャアアアアアアッ!!!】

 

凛とした声と強烈なまでの光の気配……間違いない女神だ。気配を殺しながらデパートの中を進むとエントランスの近くに女神がいた

 

【ここが怪しいと言っていたが、見事なまでに何も無いな。パワーの奴め、ガセネタか?】

 

白い鎧とレオタードのような衣装……そしてあの剣を携えた姿には見覚えがあった。確かアリアンロッド……女神としての格はそれほど高い訳ではないが、今この周辺に巣食っている悪魔のレベルを考えれば十分すぎる……それに戦ったとしても負けるとは思えない

 

(都合の良い獲物だ)

 

にやりと笑い立ち上がると同時に銃口を向ける。アリアンロッドは私に気付いたようだが、嘲笑うかのような笑みを浮かべる。人間が自分に傷をつけれるとは思っていない慢心しきった顔……これだから女神は御しやすいと内面でほくそ笑みながら、顔だけは恐怖の色を浮かべる

 

【何者……いや、人間か。ちょうど良い……ここらへん……】

 

人間だと侮り、腰の鞘に剣を収めたアリアンロッドが私に近づき、暗がりから明るい所へと出た事で私の顔を確認したアリアンロッドがその顔色を変える

 

【馬鹿な!?なぜ「遅い!」……っぐう!?】

 

剣を抜こうとしたタイミングでベレッタの引き金を引き、その手を弾くと同時にアリアンロッドの懐に飛び込み

 

「ではな、おろかな女神よ。今度は少しはまともになれ」

 

【ぐっふっ……】

 

手刀をその心臓に突き立て、握りこんでいた魔石をアリアンロッドの核と混ぜ合わせる。魔石がアリアンロッドに定着したのを確認してから手を引き抜く。血反吐を吐くアリアンロッドの顔が徐々に黒く染まり、その身体を小さく丸め繭の様になり脈動を始める

 

「良し、これで戦力は確保した。後は楓君達がこのデパートの悪魔使いと遭遇するまでに新生が終わるかだな」

 

離れれば別の悪魔に所持権を取られかねない。幸い休めと指示を出しておいたので今日中に3階に行くことは無いだろう……私はそう考え近くの瓦礫に腰掛てアリアンロッドが変化した繭を見つめるのだった

 

 

 

久遠教授と分断されてしまったが、楓のスマホでちょくちょく連絡があるので久遠教授が無事だと判った。それだけで俺達は精神的に救われた……一晩バックヤードで過ごしMAGと体力を回復させ俺達は4階の捜索および3階の悪魔の討伐の為に動き出していた

 

【静かにね?騒いだり大きな音は駄目だよ?】

 

シーっと言うジェスチャーをするノームに頷く、4階はコカトリスの巣なので他の悪魔の姿は無い。ノームだけを召喚し俺達は急いで3階へ続く階段を探していた。いくら大丈夫だという連絡が合っても心配だし、なによりも2階から3階に上がれる保障も無いと久遠教授は言っていた。俺達にも久遠教授にも時間的余裕は存在していないのだから……

 

【ここまでくれば大丈夫だよ】

 

ノームの言葉の言うとおり、目の前に階段が見え安堵の溜息を吐きながら踊り場へ足を踏み入れる。コカトリスの匂いが充満していたフロアと異なり階段の方が空気が澄んでいた

 

「ふーやっと一息つきましたね。美雪先輩、桃大丈夫か?」

 

階段に座り鞄から水を取り出している楓が久遠先輩と桃子にそう声を掛けるのを見ながら、俺は懐からチャクラドロップを取り出して

 

「お疲れ様ノーム。少し休んでくれ」

 

【ありがと♪契約者さん!】

 

チャクラドロップを頬張り、階段に座って足を動かしているノームに背中を向けて水分補給や今まで拾った道具の確認をしている楓達のほうに足を向ける

 

「これから3階に向かうがピクシーは偵察に出さないのか?」

 

今までは先に偵察に出して情報を得ていたが、それをしていないのでその理由を尋ねると久遠先輩が暗い顔で

 

「先ほど頼んだのですが、3階の悪魔は強いので見つかる可能性が高いとの事で」

 

「ピクシーを失ったら美雪先輩は一時的に無防備になる。そのリスクを考えて偵察はしなかった」

 

正論だな。出来れば偵察して情報が欲しかったが、その為にピクシーを失い、10時間近く美雪先輩が無防備になるのなら、リスクはあってもこのまま進むしかないだろう

 

「人数的には5人。お互いをお互いがフォローすればよっぽどの事が無ければ大丈夫でしょう」

 

楽観的な意見ではないですよ?今までの行動を見てきて、大丈夫だと確信しているからこその言葉ですわと言うイザベラさんにわかっていますよと返事を返す

 

「悪魔との遭遇は無かったから、俺達のMAGの消耗は少ない、体力も回復している。準備さえ出来ているなら、このまま3階に向かおうと思う。皆大丈夫か?」

 

楓の問いかけに俺達全員が頷き、悪魔を召喚してから俺達は3階へ向かって階段を下りていくのだった……

 

3階のフロアに足を踏み入れた瞬間。鼻を突く、何とも言えない悪臭が嗅覚に突き刺さった。生臭く汗臭いその臭いに全員が顔を歪める

 

「こ、これ……どうぞ」

 

久遠先輩が顔を歪めながら差し出してきた、4階を通り過ぎるときに見つけたマスクをつける事でやっと落ち着いて呼吸が出来た

 

「……楓、これ」

 

「言うな。言わないほうが良い」

 

言わなくても全員が理解していた、これは性交の後の臭いなのではと……不快感しか感じないその臭いに顔を歪めながら奥へと進む

 

「「ひっ!」」

 

美雪先輩と桃子の引きつった悲鳴が重なる。それは、異様な光景だった……フロアの大半に一糸纏わず倒れ伏している女性達は全員、身体の表面全てを、薄黄色い粘液で覆われ、ヌラヌラとしている。その全員が何処かで見たようなそんな気がした……俺も楓も男で確かに女性には興味がある、女性の裸に興味はあるし、触れてみたいと思う。だが俺と楓が感じていた事はそれではなかった……酷いただそれだけだった……意識も混濁している為か、声すらその口からは漏れ出てこない。胸はかすかに動いているのだが、その眼に光は無く、生きているのか死んでいるのかも判らなかった

 

「た、助けないと」

 

「お止めなさい」

 

桃子が助けないと呟き、駆け寄ろうとしたがイザベラさんがその腕を掴んで動きを制する

 

「今はそんな事をしている場合ではありませんわ。気付かれました」

 

イザベラさんの言葉の後、部屋の奥から、その巨体付いた脂肪を揺らしながら、俺達の目の前に現れたそいつは目を白く濁らせていて、顔を左右に揺らすと顎の下に付いている異様な量の贅肉がブルブルとゆれ、辺りの床に何やら飛び散っていた。飛び散った肉は腐敗しているのか凄まじい悪臭を放っている。だが俺達の視線を集めていたその男から伸びた触手の先だった……

 

「あ……あっ……いぎい……」

 

そこには、やはり一糸纏わぬ身体を触手により、持ち上げられ、好き勝手に動かされながら僅かにくぐもった声を洩らしている女性と

 

「ここは僕の家なんだ~し、死にたくないなら……僕に従うんだよおおお……」

 

その女性を触手を使い好き勝手に扱っている……異様な人間が居た。3メートル近い巨体に腹や背中から何本も触手を出しているとても人間とは思えないが、悪魔にも見えない。ただただ嫌悪感を煽る腐臭を放つそんな醜悪な存在が俺達の目の前にいた

 

「だーかーらー」

 

ぐりんっとその男の首が360度回転し、俺達をにらみつける。白く濁ったその瞳には既に知性の色は無く

 

「男は死ねえ!女は僕を楽しませろおおおおおッ!!!」

 

口から血の混じった唾を吐き散らし、地響きを上げて襲ってくる男……いや悪魔に一瞬。ほんの数秒呆けたが……

 

「スパルトイッ!!」

 

【オオオオオオオッ!!!】

 

楓の怒声とスパルトイの雄叫びで正気に戻り、背中に背負っていた斧を手にする

 

「ノーム!ジオンガッ!!!」

 

【OKッ!!ジオンガッ!!!】

 

目の前で巨大な肉塊を受け止めているスパルトイを避けてノームのジオンガが悪魔の身体を貫く

 

「げ、げばああああああ!?」

 

口から泡を吹いて、数歩後ずさる悪魔。その巨大な足が意識の無い女性を踏み潰すのが見え、思わず目を背けた……悪魔に犯されて、踏み潰されて死ぬ。悲惨すぎる死に方だ……だけどそれは一歩間違えば俺達も同じ末路を辿るとそれを今目の前で見た事で初めてしっかりと理解した。俺達だっていつ死ぬかも判らないのだと

 

「桃子!久遠先輩!イザベラさん!伸びてくる触手は俺と楓とスパルトイで何とかします!皆は魔法石や魔法で攻撃してくださいッ!!!」

 

そう叫びイザベラさんへと伸びた触手を斧で切り落とす。びくんびくんと痙攣するそれにさらに斧を振り下ろすとやっと動きが止った……恐ろしい生命力だ

 

「どけえよおお!!こうのがいこつごああああああ!?」

 

奇声を発しながら向かってくる悪魔にスパルトイが立ち塞がり、盾で突進を受け止め顔面を殴りつけるがぶよんと脈打つだけでダメージが通っているようには思えない

 

【こいつはブツリはコウカがうすい!マホウヲつづけてつかえッ!!】

 

「くっ!こっのやろう!!!」

 

スパルトイが盾で悪魔の突進を受け止め、剣で触手を切り払う。それに続くように俺と楓も執拗に久遠先輩達を狙う触手に向かってそれぞれの獲物を振るうのだった……

 

 

 

 

何度これを繰り返したか判らない。何度も何度も伸びてくる触手を切り払い、切り落とし続けているが、悪魔は一向に弱った素振りを見せない。むしろこっちが体力もMAGも相当消耗している、最初は臭いが気になりマスクをしていたが動き回っているうちに邪魔になり、マスクは投げ捨てていた

 

「くそ、あいつの身体はどうなっているんだ!!!」

 

横殴りに伸びてきた触手を防いで回避した雄一郎が忌々しそうに叫ぶ。打撃が効果が薄いのは判っていた、だから美雪先輩やイザベラさんは徹底して魔法で攻撃してくれていた。それは確かにダメージとして蓄積している筈だ……

 

(やっぱりかよ!畜生がッ!!!)

 

一瞬視界の先で触手が動いた。その先には全裸の女性がいて……触手は目から光を失い、正気を失っている女性の下腹部に喰らいつく

 

「あ……あああああ……あん……あひ、ひうくううおおおおおッ」

 

それはとても小さな声だった。普通ならば聞こえるはずも無い小さな声……だが俺は女性が飲み込まれる瞬間を見たからか、その声がやけにはっきりと聞こえた。微かな艶めいた声と痙攣する白い手足、そして苦痛に歪んだ顔ではない、安堵しきった顔を浮かべてその女性は触手に吸い込まれて消えた。その女性の表情はこの呪われた世界から脱出できた事を喜んでいるような……そんな笑顔のような気がした

 

「くそ!またか!また触手が増えやがった!!!」

 

左右から襲ってくる触手に雄一郎がそう怒鳴る……間違いない、あの悪魔は女性を喰らって体力をMAGを回復している。そしてそれを見て理解してしまった、今の俺達には決め手が足りない。倒れていた女性の姿が減っているが、まだ部屋の奥からは微かだが艶めいた声と、4本の触手の姿がある。今こうしている間もあの悪魔は体力とMAGを回復させているのだ。恐らく悪魔は最初から強力な自己回復能力を持っているだろうが、それに加えて女性を喰らって体力とMAGを回復している。だからダメージを与えても直ぐ回復する

 

「はぁ……はぁ……くそ……まだかよ」

 

雄一郎がついに肩で息をし始めた。俺も酸欠と疲労で考えがまとまらない

 

「……はぁ………はっ……はっ……た、タルカジャ……を」

 

【桃!これ以上無茶をしたら】

 

「お……お願い……だから……」

 

桃とナジャの疲労が濃い。ずっと俺達に支援魔法を使っている、その頻度は美雪先輩やイザベラさんの魔法のペースよりも早い、顔が青を通り越して白くなっているのを見て、このままだと不味いと理解した

 

「おどごはじねえよおおおおお!?」

 

奇声を発しながらその肥大化した手足を振るう悪魔憑き。既にまともな理性は無いようだが……体力は有り余っているのかまだ激しく動き回っている、その姿を見てこのままだと全滅すると悟った。この状況を打破できる劇的な1手が必要だ……

 

「カハク!アギラオ!」

 

【いっくよー!アギラオ!!!】

 

まだ動く事ができ、魔法を連発出来ているのはイザベラさんだけだ。雄一郎は既に魔法を使わせるだけのMAGが残ってないのか

 

【どっこいしょッ!!!】

 

「げぼお!き、ぎがないよおおおお!?」

 

【ひーん!気持ち悪いよぉッ!!】

 

「我慢してくれノーム!」

 

ノームも雄一郎と共に斧を振るっている。桃はさっきも言ったが、限界を通り越している。美雪先輩はチャクラドロップを舐めながら

 

「ピクシー!ザンとジオを続けてください」

 

【うん!判ってる!でも無理をしないでよ】

 

ピクシーにザンとジオを続けるように指示を出しているが、いつまでもこれも持つとは思えない

 

(考えろ、考えるんだ)

 

何かある、何かあるはずなんだ……向かってくる触手を必死に弾きながら、必死に頭を働かせる。何かある、何かあるはずなんだ……物理は効果が薄く、魔法はダメージを与えることが出来るが回復力に対してダメージが間に合っていない。何とかしてあの回復力を……

 

「来てくれ!カソッ!!!」

 

「楓!?」

 

この状況を何とかする方法を思いつくと同時にカソを召喚する。スパルトイとカソの2体の悪魔を使役する、その強烈な負担が身体に圧し掛かってくる。雄一郎が俺の名前を呼ぶが俺は返事を返さず、チャクラドロップを2個纏めて口の中にいれる

 

「スパルトイ!カソ!協力してあの悪魔を抑えろ!雄一郎!10分だ!10分だけ耐えてくれッ!!!」

 

俺はそう叫び雄一郎達の制止する声を無視し走り出すのだった。考えに考えた、そしてこれしかないと俺は決めたのだ。リスクしかない、そして失敗すれば俺も死ぬし、桃達も死ぬ。だがこの危険な賭けに出るしかないと判断したのだ

 

【ココココ】

 

「この馬鹿鳥がぁッ!!!」

 

眠っているコカトリス目掛けて足元の瓦礫を投げつける。それはまっすぐにコカトリスの頭に命中し、ゆっくりと開いた目が俺の姿を捕らえる

 

【コケエエエエエエッ!!!!】

 

恐ろしい叫び声を上げて起き上がるコカトリスに背を向けて全力で走り出す。コカトリスは毒を持っていて、縄張り意識が強い。俺達では勝てないのなら悪魔を利用する、それが俺の考えた作戦だった……地響きを立ててコカトリスが追いかけてくるのを確認し階段に向かって走る

 

(ぐっ……くっ苦しい……)

 

スパルトイとカソの二重召喚は容赦なく俺のMAGと体力を吸い上げていく、走っているのか歩いているのかさえも判らない、それでも必死に前へ前と進み続ける

 

「っぐっ!?うあ、うわあああああ!?」

 

階段から足を滑らせ、転がり落ちていく、全身に走る激痛に顔を歪めながらも必死に立ち上がる。階段の上の方からコカトリスの怒りに満ちた鳴き声が聞こえてくる、やつはちゃんとついてきている。後はこのまま3階にあいつを誘導するだけだ……

 

「足が……」

 

階段から転げ落ちた時にくじいたのか足が動かない、それでも足を引きずりながら必死に前へ進む……そして3階に辿り付くと同時に

 

「皆!ごほっ!げほっ!!早く隠れろ!!!!うっ!げほ!ごほごほっ!!!早くッ!!!!」

 

悪魔と対峙している皆に咳き込みながら隠れろと叫ぶ、そしてそれと同時にコカトリスが3階に飛び込んできて

 

【コケ?コケエエエエエエッ!!!!!】

 

凄まじい叫び声を上げながら、目の前にいる俺を無視してデパートの奥にいる悪魔へと駆け出していく。それを見た雄一郎達が慌てて逃げるのを見て、俺の考えは当たっていたとほくそ笑んだ。コカトリスが俺達を追いかけたのは自分の住処にいる虫を駆除しようとしただけに過ぎない。縄張りを荒らしに来た存在とも認識されなかったのだ、汚い虫か何かだと認識していたのだろう。だから姿が見えなくなると同時に追いかけるのを止めた、だがあの悪魔は違う、自分の住処であるこのデパートを荒らしに来た悪魔と認識した。だからこそ翼を坂立て悪魔に襲い掛かっている……あの毒の爪や吐息はあの悪魔の力を蝕むだろう。問題はコカトリスに勝てるかだが、隠れていればきっと3階に戻っていくだろう……駆け寄ってくる雄一郎達を見ながら、体力とMAGを限界まで消耗した事による凄まじい睡魔に襲われ、俺の意識は急速に沈んで行くのだった……

 

 

 

良くやったと私は心の中で呟いた。あの悪魔は今の楓君達で倒せる相手ではなかったが、悪魔を上手く利用し倒すとまでは行かないが、弱らせた。それも自分達で考え、そして被害が出た訳でもない。十分合格点だ、気絶している楓君を護るように陣取っている美雪達を見て小さく呟く。やはり楓君の存在は大きい。確かに独断専行は褒められた物ではないが、コカトリスを誘導すると聞けば止めに入っていただろう。だがあの思い切りが無ければ全員ここで死んでいた、悪魔と戦いながらもしっかりと作戦を考えていた点は正直驚いた

 

「げば!?おぎょろろろろおろおを!?」

 

コカトリスの毒が利いているのか意味の判らない言葉を繰り返し、泡を吹いている悪魔憑き。もうあいつは死ぬな、しかしコカトリスも無傷ではなく

 

【こ、コケ……】

 

羽が片方もがれ、夥しい血液を流している。これならば一瞬で倒すことが出来ると笑みを浮かべながら、スマホを操作し契約した悪魔を呼び出す

 

「行け、ブラックヴァルキリー」

 

【は!お任せください!!】

 

アリアンロッドの属性が反転したブラックヴァルキリーはアリアンロッドと違い刺々しい漆黒の鎧と顔の右半分を隠す仮面。そして黒いマンとを翻し恐ろしいスピードで3階へ飛び込み

 

【コケ!?】

 

【遅い!】

 

通り抜け様にコカトリスの首を跳ね飛ばし、手の平を悪魔に向け

 

【光の中へ消えるが良い。ハマオン!】

 

放たれた光の波動が悪魔憑きを飲み込み消し飛ばす。流石は女神が反転したブラックヴァルキリーだ、破邪と呪殺その両方に強い適性を持って転生した。想定通りの強さを発揮するブラックヴァルキリーに笑みを溢しながら雄一郎君達に声を掛ける

 

「大丈夫か!」

 

「久遠教授!」

 

「母さん!」

 

美雪や雄一郎君達が駆け寄ってくる。1日と少し離れただけだが、顔つきが大分変わっている。これならばきっとこれからも生き残っていけるだろう

 

【討伐完了しました】

 

悪魔憑きを倒したブラックヴァルキリーが私の横で膝を着く、それを見たイザベラが怪訝そうな顔をして

 

「久遠様。その悪魔は?」

 

天使や女神嫌いのイザベラが嫌そうな顔をしているが、戦力としては十分だし、アリアンロッドとしての記憶もあるので情報収集にも役立つ

 

「説明は後だ。楓君の容態が良くない」

 

浅い呼吸と額に大粒の汗を流している。MAGの枯渇と体力の限界でそうとう負荷が掛かっている。楓君のスマホを操作しカソとスパルトイを帰還させる

 

「4階で休んでいたと言っていたな?まずはそこに引き返そう、ヴァルキリー。楓君を頼むぞ」

 

【お任せください】

 

全員体力もMAGも限界まで消耗している。まずは1度休むぞと指示を出し、楓君をブラックヴァルキリーに運ぶように指示を出し、私達は4階へと引き返していくのだった……

 

 

 




チャプター27 脱出へ続く

悪魔憑きを撃退し、街を出る準備が出来ました。次回は街を脱出し、ウロボロスがある黒龍塾へと向かいます。そこで共通ルートは終わりでチャプター28から「ロウルート」「カオスルート」のルート分岐で書いて行こうと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします

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